第1190話 【ピュグリバーより愛をこめて・その4】男爵最後の大仕事「綿、詰めましょう」

 川端さんが事情を聴いて絶句した。

 何かを絞り出すように口をパクパクさせた後、ナディアさんに「頑張ってくださーい」と応援されて、おっぱいのエールでどうにかその何かを絞り出す事に成功する。



「今の私が持ち得る育乳技術ではどうにもなりません」


 男爵でもお手上げとは、万策尽きたか。



 おさらいピュアドレスの時間。

 しつこくとも、聞き飽きていようとも、何度だって繰り返す。

 大事な事なのだ。


 ピュアドレスはSМLのサイズ展開で、在庫はМのみ。

 身長的に莉子ちゃんはSサイズだが、そこはミニスカート丈のドレスなので割と融通が利く。


 肩は全て出る仕様で、背中の露出も多い。

 これは瑠香にゃんの競泳水着装備と同じ理由で、煌気オーラを用いた戦闘を前提として製作しているからだと思われる。


 上下は分離しているタイプであり、スカートとトップスの2パーツで構成されている。

 そうなると賢明なる探索員の諸君が物申したい懸念点が増えるだろう。

 先に答えを出してから、異議を受け付ける事とする。


 もうスカートのウエストは処置が済んでいる。

 バーバラおばあ様が拗ねながらもやってくれました。



 ウエスト部分をゴムにしたので、伸縮自在になった。



 どうか諸君、雄弁は銀、沈黙は金を順守して頂きたい。

 英語圏のことわざでは最もポピュラーとされるが、「静かに流れる川は深い」でも「空の入れ物に大きな音を立てる」でも良い。

 英語圏のことわざは和訳するとオシャンティーだがよく意味が分からん。

 CV大滝秀治さんで脳内変換を願う。


 分かりやすく和訳すると「その点、沈黙ってすげぇよな。最後まで黙ってりゃ死なねぇもん」くらいで良い。


 残っている問題は「バスト周りをいじると爆発する」という莉子ちゃんがピュグリバーの血族と遠縁の親戚になる未来を製作者が見越して、予見した上で意地悪したみたいな仕様をどうにかするだけ。

 それだけで、バルリテロリで戦っている強襲部隊の命を救える手立てとなるのだ。


「どうにかなりませんか! 川端男爵!! 順平様の古きご友人と伺っております!! 順平様のお力になれないエヴァンジェリンは! 川端男爵にすがるしかもうできる事がないのです!!」

「ああ……。どうぞ、姫。お気を鎮めてください。では、ひとつだけ伺ってもよろしいですかな?」


 川端さんが紳士らしく頭を下げる。


「はい! もちろんです!!」

「エヴァンジェリン姫はおいくつでございますか? 女性に年齢を尋ねる不躾さをこの川端一真、恥じておりますが。どうしても伺わなければならぬ事でして」


「いいえ! そのようなお気遣いは無用です! エヴァンジェリン・ピュグリバー! この間19歳になりました!!」

「……じゅっ!? ひゅっ!? ……ああ。ありがとうございました。姫君。少しだけ旦那様とお話をさせてください」


 もう1度丁寧に頭を下げた川端さんが雨宮さんと一緒に少し離れた場所へと移動した。

 続けて、言った。


「あなたって人は!! 雨宮さん!! なにを!! 随分とご立派なおっぱいだけどもお若いな、何なら幼いなと思っていましたけれど!! なーにをしとるんですか!! ちょっと前に19歳になった子と結婚!? あなた!! 私とジェニファーちゃんの活きの良いおっぱいを楽しんでいる時にはもうお付き合いしていたんですか!?」

「あららー。落ち着いて、川端さん。エヴァちゃんと知り合ったのはほんの数か月前よー。ほらー。ストウェアで私、草まみれになって飛ばされた事があったじゃない? それで飛んできた先がこのピュグリバーだったの。なんやかんや、懐かれちゃってねー? スキル使いの師匠として指導してたらー? うん、こっちも情が湧いたって言うかー? 慕ってくれてると可愛いもんねー。好きになっちゃってー。まあ、そろそろ所帯を持つのも良いかなーとか思ったりー!」



「ジェニファーちゃんのおっぱいを私から奪った後に!? あなたぁ!! おっぱいは遊びじゃないんですよ!!」

「あらららー。川端さん? ナディアちゃんとなんだか親し気じゃありません? あらららららー? これ、あららしてませんかー? ねぇー? ジェニファーちゃんのおっぱいがこの事を知ったら、どんなおっぱいするのかなー?」


 川端さんが「くっ!! おっぱいじちとは卑劣な!!」と膝から崩れ落ちた。

 ちなみにジェニファーちゃんにはイギリス駐在監察官のみんなで家が建つくらい課金したので、おっぱいも喜んで祝福してくれているかと思われる。



 最終的に「痛み分けですね。雨宮さん」「そうだねー。お互いにもう『OPPAI』には軽々と行けなくなったねー」と分かり合うおっぱい同盟。

 このおっぱい同盟、かつては三者同盟だったのだが1名ダークサイドに堕ちてしまったので今後は2名の識者が先導していく事となる。


 お問い合わせはピュグリバーまで。

 異界の穴は呉の公民館を出てすぐのところ。

 必要なのはパスポートとガイドばあちゃんのレンタル費用、あとは命とほんの少し踏み出す勇気だけとなってございます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 再会したおっぱい同盟によって、1つの答えが導き出された。

 ピュアドレスのバスト周りをいじると爆発する。


 解釈によって「いじる」が変化する事に気付いたのは「魂はダイヤモンドよりも固く、思考はおっぱいよりも柔軟に」がモットーの川端男爵。

 ナディアさんを見て脳がプルプルしたらしい。


「失礼。お美しいご婦人。私は川端一真男爵と申します」

「……私にお声がけくださっているのでしょうか? 私は先ほど、長年支えて来た国の新国王夫婦にアレがナニしたから燃やそうと言われた年寄りですが? もはやバーバラという名もババアを見越して付けられたのではないかと過去を憎しみ始めた老いぼれですが?」


「とんでもございません。お年を召した事実は変えられませんが、時間が経つにつれて輝くものも多くございます。……そちらのおっぱい。ご妙齢にもかかわらずの張り。さぞや弾力もございましょう。ご婦人の努力が見て取れるようで、この川端一真、思わず敬服いたしました所存。失礼をお許しください」



 本当に失礼。

 日本では、いやさ現世の各国において高確率で処される物言いである。

 が、おっぱい爵位を持つ高貴な身分の間ではただの挨拶。


 誤解なきよう願いたい。



「順平国王様!! あなた様は良きご友人をお持ちです! これも国王様のお人柄でしょうか! 先ほどのジョークは水に流しましょう!!」

「あららー! 川端さーん!! しばらくゆっくりしていってくださいね!! ここ、異世界ですから! 誰もあなたを追い立てたりしませんよ!!」


 ピュアドレスが国宝だというのならば、国に長く携わっている者の意見を聞くのが一番である。

 そこでばば、失礼、おばあ様にお伺いを立てる。

 思い付いたはおっぱいのようにクリエイティブ、おっぱいのようにホッピング、おっぱいのようにアメージングな考え。


「はい。左様です。確かにピュアドレスのバスト周りは装備の根幹。そこをいじると爆発します」

「では、ご婦人。いじるのではなく、足したらどうでしょう?」


「…………!! なんと!! 川端卿……!! 発想の転換でございますね!! 確かに、差し引けば爆発すると言い伝えられておりますが、足して爆発するとはこのバーバラ! 聞いた事が終ぞござません!!」



「失礼。ルクレール上級監察官。福田と申します。いっそ雨宮さんに全ての方法を試させて、失敗する度にドレスも爆発に巻き込まれたおじさんボンバーマンも再生すれば良いかと愚考するのは間違いでしょうか?」

「んー。わたし個人としてはやりたいようにやらせてあげたらー? と思いますけどー。莉子さんと言う方もきっと大変なおっぱいなんでしょうしー」


 それはもう、大変です。



 2分ほどで処置が済んだ。

 川端さんがおっぱい専用構築スキルで綿を産み出し、雨宮さんがそれをピュアドレスのカップ部分に詰める。

 隣ではエヴァちゃんが真剣な表情でその作業を見守る。


 爆発するのだから、これはもう爆発物処理。

 男たちの頬を汗がつたった。


「いける……! いけるぞ……!! 綿も煌気オーラで創ったものだから、ピュアドレスがこの綿……おっぱいではない。が、おっぱいを害するものでもない! と判断してくれた!! 雨宮さん!!」

「さすがだねー、川端さん! さあ、どんどん綿を詰めましょう!!」


 現場で戦う若者たちのために既に一線を退いた男たちができるのは、おっぱいに優しい綿を詰めることくらい。

 流れる血は止められずとも、せめて愛をこめて。


「もうよろしいですか?」

「福田くん、そういうとこだゾ!!」


「緊急の要請を受けてからもう数分経っております。小坂Aランクが心配です」

「莉子ちゃんなら大丈夫だってばー。心配性だゾ、福田くん!!」


「小坂Aランク心配と申し上げました」

「……なるほどねー。早く送ってあげて!!」


 福田さんが煌気オーラを常に安定させていた甲斐あってすぐにスキル発現の体制へと移った。

 スキルはメンタル勝負。

 こんなにメンタルが安定してる使い手もなかなかいない。


 おっさんたちがおっぱいについて論争している間、眉一つ動かさずに見つめていたのだ。


「失礼します。はぁ!! 『次元間等価交換ディメンション・ロンダリング』!!」


 福田さんの転送スキルはこちらにあるものを目的地にある等価値のナニかと入れ替える。

 ピュアドレスが静かに姿を消した。



 直後、スッと練乳が出現した。



「雨宮おっぱい博識おじさん」

「ダメよー。ダメダメ。私だって練乳と国宝の価値を比べる事はできないもん。川端さんはー?」


「練乳……。どこか心惹かれるものはあります。恐らく、猛き気概を持つ練乳なのでしょう」

「あー! それだー!!」


 練乳の持ち主が誰なのかは分からない。

 ただ、善し悪しはともかく、猛き心の持ち主であることを我々は知っている。


 届いたか。

 起死回生の超装備。


 あるいはもう爆発しているのか。


 いきなり倉庫から引きずり出して来たかと思えばおっさんたちに魔改造され、最終的に血風舞う戦地へ転送されて行ったピュアドレスちゃんは今、何を想う。

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