第1188話 【ピュグリバーより愛をこめて・その2】「Мサイズしかありませんでした!!」 ~SМLでサイズ展開するピュグリバーの国宝~

 前回のあらすじ。


 莉子ちゃんのためにピュグリバーの国宝である『ピュアドレス』を転移ならぬ転送でバルリテロリに送ろうと頑張る雨宮おじさん。

 だが、おふざけなしで頑張るといつもこのおじさんの前には大きな壁が立ちふさがる。


 莉子ちゃんの絶壁が、火曜サスペンス劇場で犯人が追い詰められるのにいい感じの崖が、雨宮順平おじさん最後の戦いで薄いのにぶ厚い壁となり、集大成の邪魔をする。

 果たして雨宮おじさんはこの絶壁に打ち勝つことはできるのか。


 今回。

 多分無理。


 デュエルスタンバイ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 近衛兵のお姉さんが申し訳なさそうにエヴァちゃんの耳元でひそひそと告げた。

 デカい声では言えない事なのか。


「順平様! 今、ピュグリバーにはМサイズしか置いてないそうです!」

「あ、あららー。困ったねー。これー。国宝ってそういうサイズ展開してるの? 伝説の女王様が身に纏ったものを代々受け継いでいるとかじゃないんだねー」


「はい! 定期的に造っています! だいたいМサイズが一番だとおばあ様も言っておりました!! スカート丈とウエスト、袖の調整も可能です!!」


 ピュグリバーの国宝は割と融通が利く。


「なーるほど! じゃあ、胸の周りもキュッとね! キュキュキュキュキューっと! かなり絞ってあげちゃったりできるわけだー!!」

「……順平様。すみません。ピュアドレスはバスト周りに触れるとたちまち爆発して、塵と化す取扱注意の装備なんです」



「あらららー。そんなピンポイントで莉子ちゃん狙った装備なんてあるかなー?」


 あるんです。



 ピュアドレスのおさらい。

 使用者の煌気オーラをギュンギュン吸い取る事で防御力と耐久性を得る事ができる、近接向きの装備。

 また遠距離になれば吸い上げた煌気オーラを展開して自動で防壁まで発現できる、究極の着る盾。


 サイズ展開はSМLと揃っており、スカート丈や袖のフリル等の調整は細かく対応可能。


 ただし、胸の周りだけはいじると効果が失われる。

 というか、ピュアドレスが爆発して存在そのものが失われる。


 伝説の武具というものは絶大な効果の代償として何かしらの制約があるのはもう当然、常識であり、例えば独立国家・呉などでは幼稚園児でも知っている。

 思い出して頂きたい。


 ピュグリバーの女子は皆、胸がたわわでいらっしゃる。

 これは種族的な特徴なのか、それともアナスタシア母ちゃんの系譜なのか、それは分からないが、どうやらそのたわわな胸にこそピュアドレスの秘密が隠されているらしい。


 その秘密は置いておこう。



 どうせ莉子ちゃんが着たら理屈とか無視して無双するから。



 それよりも、今はどうやって莉子ちゃんに着せるか。

 それだけを解決できれば、準備万端の福田さんが転送スキルを使って大ピンチのバルリテロリ皇宮、甲冑部屋の戦いに強めの光明をぶっ刺す事も叶う。


「福田くん、どう思うー? このピュアドレス、莉子ちゃん着れるかなー?」

「端的に申し上げて、無理でしょう。小坂Aランクの体型を鑑みるに。……ストンと脱げます。ピュアドレスは肩紐などの命綱もないようですし。端的に申し上げて、ストンと落ちるでしょう」


「あららららー。良くないゾ!! 福田くん!! きっと私がダメージ喰らうヤツだゾ! この流れ!! ストンとか女子に使っていいオノマトペじゃないんだゾ!! なんで端的って同じこと2回言ったのかなー。……肩紐付けよう!! おじさん、縫うよ! 家庭科の成績3だったからね! 私! 10段階評価だったけどー!!」


 エヴァちゃんが哀しそうに首を横に振った。

 もう何を言うのか分かる諸君は多分未来視のスキルに覚醒しかけている。


「順平様。ピュアドレスに肩紐を付けてしまうと……爆発してしまいます!!」

「あららー。もうこれ爆発するために生まれて来たまであるねー。ピュアドレスちゃん。気の毒になって来たよー。他に国宝ってないのかなー?」


 王の間の端っこで干し肉をかじっていたバーバラおばあ様がちょっとだけこちらを振り返って言う。


「国王陛下。国宝がいくつもあって堪りますか。管理する身にもなってください。……ふん」

「おばあ様! ご機嫌を直してくださいよー! 今こそおばあちゃんの知恵袋が欲しい時なんですよー!!」



「国王陛下。私も女です。人です。正体を失くしたので火葬ちりょうしようと言われて、それを訂正されたとて。ああ、そうでしたかと割り切れませぬ!!」


 それはそう。



 ピュグリバーの国宝。

 清き乙女にのみ纏うこと叶う、莉子ちゃん待望のミニスカート丈のドレス型装備。


 ただし、胸囲はМサイズのみで展開されている。

 ピュグリバーのМサイズはだいたいDランクとなっており、莉子ちゃんのランクはこちらに資料がないため判然としないが多分ほんのちょっと、わずかに小さいか大きいか、多分大きい方でサイズが合わないのだと思われ、せっかく莉子ちゃんのためにあるような装備が現れたのに、着せてあげられない。


 こうしている間にも、練乳チュッチュマンが赤い練乳をチュッチュしながら血戦に臨んでいる。

 人の命がかかっているのだ。


 ならば、知恵くらい絞って絞って、もう無理と思ったところがスタートくらいの気概でフルパワー絞りを見せるのが大人の役割。

 そうであろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔王城では相変わらず水着姿でお仕事中の後方司令官代理お姉さんが各所との連絡に汗を流していた。


 掃除機みたいなカプセルの中で悪辣な魂が「汗を!! 水着なのに汗をですか!! では自分が拭いて差し上げると言っているのに!! 出すんですよ、ここから自分を!!」と暴れているが、君の出番は今じゃない。

 もう終わった可能性が高い。


「仁香先輩!!」

「……あ。リャンの元気な笑顔で中和されるんだけどね。私、副官になってからも手抜きはしたことないんだよ。だから、雰囲気でね、分かるんだ。……どこからの連絡!?」



「ピュグリバーの雨宮国王からです!」

「くぅぅぅ! これが水着じゃなかったら! ビキニのトップス床に投げつけてるよ!! シミリートさん! 音声通信でお願いします!! エヴァちゃんが近くにいるんだったら、なんか! 水着姿で敬礼するの悔しいので!!」


 シミリート技師が「くくっ。仁香殿の適応能力、ダズに匹敵するかもしれんのだよ」と興味深そうに頷いてミンスティラリア製の通信設備をすぐに整えた。



『はろはろー。雨宮です! 順平です! 全部私でパフュームでっす!!』

「もう切りますよ。退役された元上級監察官さん。これ、普通に業務妨害ですから」


『あららー。みんな私に対する当たりが強いの嫌になっちゃうなー。仁香ちゃんにね、おじさん質問があるんだけどー』

「……はい。失礼しました。私も雨宮さんは宿六の師匠だというだけでちょっと嫌悪感が生まれてますけど、大事な時にふざけるような人ではないと存じていますので。ご用件を伺います」



『あのねー? 女の子のМサイズのドレスってだいたい何おっぱいくらいかなー?』

「……………………宿六の師匠だったんですよね。雨宮さん。斬りますね」


 撫で斬りされそうな言葉足らずおじさん。



 それから雨宮さんが「掴みのジョークだよー。ほら、上官から連絡が来たら緊迫感も出て来ちゃうじゃん?」と言って、事情を伝えた。

 「莉子ちゃんに国宝届けたいんだけど、ワンチャンМサイズでもイケるかな?」と。


 仁香さんがプルプルし始める。

 宿六がいなくて本当に良かった。


「皆さま!! 仁香様がお疲れです!! バッツ様! 照り焼きを!! アリナ様!! お話相手を!! シミリート様! ダズモンガー様の冬毛の追加を!! 速やかにお願いいたします!!」

「ザールさん! 私は何をしましょうか!!」


「リャンさんは私の傍にいてくだされば結構です」

「了! ザールさんのお傍にくっ付いています!!」


 バッツくんにアリナさんが小声で尋ねた。


「ザールの思い切りの良さは我が夫、バニングに似て来たと思わぬか?」

「そうですね! その思い切りの良さで仁香様が凄まじくプルプルしておられますね!!」


 遠くの方で「ほーらご覧なさいだにゃー。恋愛ってクソなんだにゃー」とどら猫の鳴き声がした。

 一概にクソと言い切れない2人なので、ここは優しくしてあげて欲しい。


 魔王城が一丸となって仁香さんのメンタルを支える。

 ファニちゃん様はミンスティラリア全土に「お静かに! なのじゃ!!」とゴルフの大会とかで見かけるプラカードを持って「仁香を刺激してはダメなのじゃ」と下知を取る。


「はあ……。事情は分かりました。あのですね。メーカーによってМサイズでもかなり差がある事はご存じだと思います。その上で申し上げますよ?」

『なーにー?』


「今度、そちらへご結婚のお祝いに伺いますね。私の極大スキルを見て頂きたいので。的になってください」

『あらららー。結論が先に延びて行ってるねー。もうふざけないから、教えてー?』


「体重以外は全部アウトです」

『ええ……。さすがの私も上手く茶化して誤魔化せないよ? 仁香ちゃんの手腕でどうにかならない? ほら、莉子ちゃんを痩せさせてたでしょ?』


「まったく。そういう理由がきちんとあるから私を指名されているっていうのが……ホント。トップに立つ資質がご健在でなんだかイラっとします」

『水戸くんの性根を鍛え直してあげるからー。許してー』


「言いましたね? では、ハッキリと申し上げます!! 無理ですよ!! 仕立て屋さんにそのドレス? を持って行ったら、私なら怒ります! 店員さんがボブサップだったらビリビリにされてますよ!! 仕立て屋さんは錬金術師じゃないんですから! そんなの、根本から作り直さ……な……。あー!!」


 仁香さん、気付く。

 すぐにリャンちゃんに頼んでスマホを操作してもらった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 静謐な海を漂う人工島。


 そこには、おっぱいの問題ならこの世界で誰よりも詳しく、誰よりも真摯に向き合い、絶対におっぱいを見捨てない高潔な男爵がいる。


 諸君は彼の名をご存じだろうか。

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