第1183話 【互いにバッドエンカウント・その1】合体戦士・チンクイント、陛下の「ひ孫以外で! あとはもう切り裂き魔だけ避けてくれれば良いから!」な相手と遭遇する ~「ふぇぇ」~

 バルリテロリサイドが動く。

 奥座敷で『テレホーダイ・フォーエバー』による現世サイドの注視に徹しておられた陛下が瞬時に下知を取られた。


「今や! なんか知らんが、敵がさらに分散した! バカだな、あいつら!! これを待ってた!! 各個撃破の大チャンスやぞ!! チンクイント、行けるな!! イケたら六宇ちゃんがベロチューしてくれるで!!」



「……はぁ? 愚問ってヤツだな、じじい様よ。オレぁいつでもフルスロットルよ。皇国のため。勝つぜ? なんか知らんけど、チューの上位互換のためにもよ。へへっ! イイ!!」


 完全にキマっているチンクイント。

 これで勝つる。



「陛下。恐れながら」

「分かっとるで、テレホマン! どこにチンクイントを出すか、やろ? ぶーっはははははは!! そんなもん決まっとるわ!! ひ孫は絶対に避ける!! もうワシだって気付いた! あいつ、煌気オーラ感知がザコだ!! 全然把握できてない!!」


 陛下がお気づきになられた。

 そこに気付くと割と戦局が優位になるヤツ。


 六駆くんは平常モードからガチギレモードのどの段階でも煌気オーラ総量や煌気オーラ練度、その他スキルの威力などが劇的に向上したりはしない。

 ただ、加減がなくなるだけ。

 悪魔的な一撃で敵を屠るというシンプルな目標のみに行動が絞られる。


 よって、どんなに仕上がっても煌気オーラ感知がザーコザーコなのは変わらない。

 いかに迷宮組曲しているとはいえ同じ施設の中でバニングさんが死にかけるほどの煌気オーラ爆発バーストをしたり、サービスさんがもう意味の分からない異質なスキルを使ったり、当代逆神家で一番弟子のダズモンガーくんがったとて、ガチのマジで何も気付いていない事実が答え合わせも済ませてくれる。


 対してバルリテロリサイド。皇宮はホーム、文字通りホーム。

 陛下の家である。


 煌気オーラ力場は常に発現されている状態をもう50年以上維持しているし、テレホーダイシリーズはお金持ちの友達の家に遊びに行ったら自動で玄関の電気がつくヤツくらいの感度で各所に山ほど設置してある。

 もはや何度申し上げたか分からないが、これを地の利と呼んで良いのか。

 それはもう分からない。


 だが、とりあえず最優先目標から六駆くんを除外できる。

 これは大きい。


 キレると奥座敷まですっ飛んできて陛下が首チョンパされる恐れはあるものの、繰り返すが煌気オーラ感知能力に乏しいひ孫、なおかつチンクエが合体前にプルプルした防壁で奥座敷を囲んでいるためよほどのミスを犯さない限りはまだラストダンジョンの優位性はバルリテロリに。


 じゃあ遊撃班を叩こうぜといったところそれが2つに分かれた。

 大チャンスも大チャンスである。

 1‐11で迎えた7回裏、無死満塁で打席にはクラッチヒッターのチンクイント。


 コールド負けの大ピンチと申されることなかれ。



 皇帝陛下の御前ですぞ。



 絶対に1点欲しいとか言ってる局面ではない。

 狙うはホームランのみ。

 内野ゴロで1点返してる場合ではないのだ。


 であれば、待つ球種は小鳩さんたちがプルプル震えるストレートか。

 莉子ちゃんがモフモフに潜んでいる甘めに入ったスライダーか。


「どちらを選ばれますか。陛下。このテレホマン。陛下と共にどこまでも向かう所存にてございますれば。陛下の御采配を伺いたく」

「ぶーっはははははは!! ワシの煌気オーラ感知を舐めるなよ!! まるっとお見通しだわ!! 煌気オーラ反応が弱い方を狙う! これが強者のセオリーよ!! そっちの速く動いとる方じゃ!! もうこれ絶対に遮二無二逃げ惑ってるやんな!! チンクイント! 転移させるで!! このちょこまかしてるネズミをがぶっとやって来い!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 陛下が煌気オーラを放出され始めた。

 テレホマンに一抹の不安が去来したのはほぼ同タイミング。


 「おや。今日だけで一体何度味わっただろう。この既視感」と、エンドレスエイトをリアタイ視聴していた者にしか分からぬ終わりの見えない既視感の繰り返し、そんな既視感の既視感を覚えていた。


「まずは一勝じゃ!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『簡単な配置転換フロア・ワープ』!!」


 チンクイントの姿が奥座敷から消える。

 テレホマンの嫌な予感は消えなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは目的地を決めずに敵国どころか敵本拠地でぶらり旅道中の莉子ちゃん・オン・ザ・ダズモンガーくん。


「ぐーっはは! 莉子殿!! 曲がり角がございまする!!」

「ふぇぇ。お部屋があると良いんですけど……。さっきからずっと廊下ですよね……」


「ふむ。では、こうするのはいかがですかな?」

「ほえ? 何かいいアイデアがあるんですか!?」



「吾輩の『猛虎奮迅ダズクラッシュ』にて! 壁をぶち破りまする!! さすればどこかしらの部屋に必ず到着するのではないかと思い付いたのでござりまする!!」

「……ダズモンガーしゃん!! ……天才の発想だよぉ!!」


 この子たちは六駆くんの一番弟子と二番弟子です。



 ダズモンガーくんは莉子ちゃんのゴーサインで『猛虎奮迅ダズクラッシュ』を発現。

 これは全身を煌気オーラで硬化させたのち、『瞬動しゅんどう』による加速力を破壊力に変換して敵にぶちかましをキメるダズモンガーくんのワンオフスキル。

 既に『瞬動しゅんどう』で充分に加速している状況はスキル発現にジャストフィット。


 こんなにダズモンガーくんの必殺技が輝く舞台の整っているシチュエーションはかつてあっただろうか。

 ゆえにトラさんも張り切る。


「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 張り切る時に掛け声を300と何十年で1度も使ったことがなかったダズモンガーくん。

 最終的にやられる時と同じ種類の咆哮しかなかったので、って壁に突入。

 壁に跳ね返されたみたいにも聞こえるが、無事にぶち破ってどこかの部屋の中に消えて行った。


「みみみみみみみみっ。ダズモンガーさん、速いです! 芽衣はまだまだ、弱っちいです! みみみみみみみみみみみっ!! 『瞬動しゅんどう二重ダブル』です!! みぃぃぃぃぃ!!」


 危機管理シミュレーション能力に極振りしていたのは過去の話。

 今はとりあえず兄弟子と姉弟子が壁をぶち破ったので、それに続く。

 芽衣ちゃんは当代逆神流の三番弟子。


 気付けば六駆くんの遺伝子を受け継ぐ、特攻スタイルまで受け継いでしまっている弟子たちのぶっこみが無辜の壁に繰り出される。


「……ふん。…………チュッチュチュッチュチュッチュ」


 何か感想めいたものを述べようと思ったものの、誰も聞いてくれる人がいないと気付いた最後尾を行くサービスさん。

 殿を務めるでもなく、ただ最後尾になっただけの白髪長髪練乳チュッチュマンは「巨大な煌気オーラが転移して来たな」と思いながらもやっぱり伝える相手がいないので「……ふん。ちゅっちゅ」と練乳の吸い方にバリエーションを増やして壁の中に入って行った。


 危機意識が皆無な芽衣ちゃま遊撃隊。

 遊撃は遊びでやってるんじゃないのだが、この判断は吉と出るのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 入った先の部屋には確かに着るものがあった。

 あったが、莉子ちゃんはしょんぼりしている。


 「何でも良いです!」と言ったが何でも良い訳ではない。

 例えば初デートで「何食べたい?」と彼女に聞くと「えー。何でも良いよぉ? 私ぃ、そういうの気にしないからぁ!」と答えが返って来る。


 「むっちゃ美味い店連れてってやるわ!」と言って、向かった先がモスバーガーだったら多分次のデートはない。

 マックじゃなくてモスやぞ。とか、そういうアレではない。

 最初のデートは彼女だってオシャレしている可能性が極めて高く、ここでまずオシャレしてくれてなかったらもうその時点で脈はないのでノーエプロンでマヨネーズぶっかけたお好み焼きとか食べればいいのだが、オシャレ服には汁が散る食べ物は基本的にNGとされている。



 ただし焼肉は可とされる。

 肉汁なんてなんぼ飛び散っても良いですからね。



 ハンバーガーは素手で食べる性質上、相当な親密度になるまでは避けるべし。

 これは大学生デートの年齢くらいから適応される。

 今では高校生デートでもアウトらしい。


 では、何を食えというのか。


 選択肢が多く用意されている、そんなちょっと高めのレストランがベター。

 乙女の何でも良いを額面通り受け取ってはならぬのだ。


 めんどくせぇとか思ってもいけない。

 関白宣言の時代は終わり、トリセツの時代なのだ。



 しかし、気付けばうっせぇわの時代な気がしないでもない。

 これらの情報は「初デートに着ていく服がないのに服屋に行く服もない学」の権威ネット・デ・ミタ氏が提唱したかなり古い文献によるものであると付言しておく。



「ふぇぇぇ。ダズモンガーしゃん……。これはわたし、着るの無理です……」

「ぐーっははは! 吾輩には向いていそうですがな!!」


 その部屋にあったのは西洋甲冑。

 鋼の錬金術師ではアルフォンス・エルリックくんでお馴染み、なんに使うのか分からないけど部屋に置いてある鎧である。


 本当に何に使うのか分からない状態で置いてあることが多く、古くはRPGのグラフィックで多用されていた。

 特に敵ダンジョンなどでは「絶対にこんな数の兵士おらんやろ」な量の甲冑が進行方向にずらっと陳列されていたものである。


「……ここは違いますね。次に行きましょう」

「かしこまりましてございまぐああああああああああああああああああああああ」


 ダズモンガーくんの叫び声が轟いた。


 突如出現した光るシルエットが、とりあえず近くにいたデカい対象に向かって煌気オーラ砲を放ったのである。


「へへっ! やったぜ、おらっしゃぁぁぁい!! ……兄者。……良い。……私は良いが、兄者は良くないかもしれないから良い」


 支離滅裂な独り言を呟く男がそこに立っていた。


「ふぇぇぇ。なんでこのタイミングで敵さんが来るの!?」

「やっべぇぇぇぇ!! このトラ! ついさっき見た!! これ、やべぇ方だ!! ……良い」


 お互いにバッドエンカウントをキメてしまった様子。

 いたずら盛りのディスティニーちゃんがやってくれました。

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