第1182話 【莉子ちゃん敵国、旅は道連れ・その3】「服、欲しい」 ~意訳(なんかこうして、みんなの顔見てたらさ、悪い、わたしだけ服ねぇの、やっぱつれぇわ)~

 再びバルリテロリによる迎撃攻勢が始まろうとしている。


 迎撃と攻勢を同居させている時点で何やら不和が生じてすぐに破局しそうなカップリングだが、現実問題として迎撃しないと皇帝の家が奪われるし、奪われるだけならもう御の字。お金トラップに引っ掛かった最強の男にぶっ壊されるカウントダウンに入ったし、だったらこれはもう攻勢と呼ぶほかなく、本土決戦でも劣勢に立たされている今これを守勢や防衛と呼び始めたらギリギリ残っているシャーペン芯くらい心許ない臣下たちの士気がへし折れるため、改めてお伝えしようと思う。


 バルリテロリによる迎撃攻勢が始まる。


 問題はどちらへ向かうのか、あるいは両方を同時に攻めるのか。


 現在、現世サイドは部隊を二分しており、片方は陽動班の小鳩隊。

 セオリーで行けばせっかく皇宮を迷宮組曲にしたのだから各個撃破すべきであり、なおかつヤベーひ孫はまさに荒ぶっている最中なので先ほど皇帝陛下が御身で確認した小鳩隊を殲滅にかかるのが良い。


 ただし懸念点も大いにある。

 まず小鳩隊は構成人員の数が多い。

 的が多いと一網打尽系スキルが使えない都合上、無力化するのに時間と手間がかかり、うっかりすると戦闘中の紛れでジャイアントキリングが起きる可能性だってある。


 超威力のスキルを使えば一瞬で片付くが、同時に喜三太陛下の何十年と慣れ親しんだお宅も片付いてしまうので選択肢としてそもそも存在しない。

 本土も大本営まで攻められて何を今さらてめぇの住処を惜しむのかと思われるかもしれないが、やっぱり自分の家は愛おしいものである。



 一体、陛下が何人の女をお抱きあそばされたとお思いか。

 思い出がいっぱい。

 子孫もいっぱい。いたはずなのに、もう僅か。


 ならば思い出だけでも残したいと考えるのが人情。



 人情に流されるから敗戦直前まで追い込まれたのだという議論はとっくに済んでいるので、割愛する。


 よって、数の多い小鳩隊を相手にするには準備が必要。

 特にこの部隊には先ほど陛下の御背中を切り裂いた、リコ・ザ・リッパーの存在も確認されている。


 もう誰かが背中を切り裂かれるのは嫌なのだ。

 だったら先に情報を探っていたはずなのに気付いたら皇宮と一緒にバルリテロリを消滅させそうな南雲隊、もといナグモ隊を攻めるか。


 これもまた難しい。

 六駆くんさえヤっちまえば勝ったようなものである。

 と、言い切れない事は喜三太陛下も重々承知の上であり、仮に六駆くんを真っ先にヤっちまったとして、反対の部隊にはリコ・ザ・リッパーがやっぱりいるし、六駆くんがまかり間違ってヤっちまわれたらリッパーがさらに立派ーりっぱーになる事が必定。


 あと、皇宮の外には煌気オーラが消失したはずなのに砲弾とダンスしているばあちゃんと自分の息子もいる。



 割と詰んでるバルリテロリ。

 だが、投了しなければ勝負は続くのだ。


 勝てばええんや。



 そんな状況下なので、もう小鳩隊かナグモ隊のどっちかで不慮の事故的なナニかが起きたらそっちの方から攻めよう。

 ふんわりとした方針が奥座敷で決定された頃、小鳩隊に動きがあった。


「……あの。わたし、ここでみんなと一旦別れようと思うんです」


 莉子ちゃんが言った。

 ダズモンガーくんの背中に乗った莉子ちゃんが、トラさんの冬毛に埋まったまま。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 セルゲームが終わった後の天津飯みたいに吹っ切れた顔で別れを告げる莉子ちゃん。



 戦争中である。



 だが、きっとやむにやまれぬ事情があるのだろう。

 あるいは、莉子ちゃんは優等生で頭脳プレーもデキる女子高生であるからして、何かしらのとてもすごく良い手をすごく良いタイミングで良い感じに思い付いたのかもしれない。


 天津飯はなんでそんな寂しい事を言ったのか。

 彼らは舞空術を使えば地球を数十分で一周できるほどの移動力を保持しており、「ちょっとドラゴンボール集めて来るわ」と言ってその日のうちに、この世はでっかい宝島と呼んで今こそアドベンチャーしていたのも昔、数コマ後には神龍が呼び出されている時分である。


 まだベジータさんが憎いのだろうか。

 確かに天さんはカプセルコーポレーションでベジータさんと同居しているヤムチャに対して「お前は正気か」的な事を渋い顔で言っていたが、いやまあ天さんは餃子共々ぶち殺された過去があるが、少し待って欲しい。



 君らを殺したの、ナッパじゃないのか。

 そしてそのロジックでいくとヤムチャは真っ先にぶち殺されてる。



 心情的には分からないでもないが、息子のトランクスがいなかったらそもそも2度目の死を迎えていた事が分からない天さんでもあるまいに。

 どんな気持ちでオープニングのラストシーンの全員集合場面に参加していたのだろうか。


 オッケーでーすと声がかかったら唾吐いて餃子抱えて帰っていたのだろうか。


「ダズモンガーしゃん……」

「ぐーっははは!! 吾輩も莉子殿と共に参りまするぞ!! 莉子殿に今必要なのは、何よりも服でございまするゆえ!! 吾輩、莉子殿とは兄弟弟子!! 兄弟子として、莉子殿が吾輩の冬毛に包まってプルプルしておるのを看過できませぬ!!」



 天津飯の考察をしている間に悲劇が。

 ダズモンガーくんまで小鳩隊を抜けるとなると話が全然変わって来る。



 現に慌てる者が何人も見受けられた。


「み゛っ!!」


 癒しのモフモフ尻尾がなくなる芽衣ちゃま。


「……ふん」


 芽衣ちゃまがいなくなるとここにいる意味がなくなるサービスさん。


 これは芽衣ちゃま隊が再び遊撃部隊として第三の現世サイドに分離する流れか。

 戦略としては悪くない気もするが、最悪な想定がデキる優れた戦術家が2名声をあげる。


「お、お待ちになるんですわよ!! ちょっとそれは、あの、余りにもアレですわ!! ちょっとお待ちになるんですわ!!」


 芽衣ちゃま遊撃隊と莉子ちゃんが抜けると最初に編成された小鳩隊の陣容に戻る訳であり、思い出して頂きたい。

 クイント単騎にほぼ壊滅させられそうになってた。


 そしてクイントと六宇ちゃんと誰か知らんけど若い癖に年寄り感のある、莉子ちゃんによって刺殺されそうになった男。

 この3名を退けてしまっている現状、次はより戦力をアップさせた刺客が来ると考えるべき。



「ちょっと本当に少しだけお待ちになってくださいまし!!」


 分離する理由が「服、欲しい」なので、本当に待って欲しい小鳩さん。



 敵の本拠地で場所を確認してもらうべく衛星型の花びらからビーム撃ち散らかしていた陽動班なので、戦力の把握はとっくにされており、それを踏まえて先の戦闘で敵を苦戦させたメンバーの大半がいなくなれば普通に考えてサクッと殺される。

 久坂流の門弟である小鳩さんは用兵家としても高い教育を受けており、そこまでのシミュレーションはすぐに完了して「じゃあ死にますわよね!?」と、まだ致してないのに殉職してなるものかと躍起になる。


 高潔な彼女だが、仕事とあっくんどっちが大事ですのと考えたらば仕事なんかどうでもよくなるお年頃。

 それに追随する者がさらに1名。


「待て! 莉子!! それはいかん!! せめてダズモンガー殿を置いて行ってくれ! 現状、我々は防御力が低すぎる!!」


 62歳男性も食らいつく。

 お年頃なんか関係なかった。


 小鳩隊の陣容が、万能型お姉さん(さすがに単騎では厳しい)、猫(達観してる)、猫(達観してる猫の指示がないと動けない)、自分(もぉまぢ無理)になると瞬時に計算して、また辞世の句を1つ2つ詠まなくてはならなくなるところを飛び越え「戒名は私でも頂けるのだろうか」まで想定し終えた、バニングさん。

 出て行くなら莉子ちゃんと芽衣ちゃんは諦めるから、ダズモンガーくんだけは置いて行ってくれないと本当に死ぬという気持ちをオブラートに梱包して届ける。


「ふん。バニング。……これを使え」

「サービス。残った煌気オーラを込めた利き手で力いっぱいぶん殴るぞ?」


 このチュッチュマンなら交渉に応じて残ってくれるし戦力としても申し分ないが、なんか嫌だという気持ちが僅差で勝つ。

 命と同時に天秤へ乗っけてなんか嫌だで飛んで行くサービスさんもなかなかのもの。


「……あの。わたし、気付いたんです」

「そうか! 気付いてくれたか! やはり莉子は六駆の妻なだけあるな!」

「ええ! ええ! そうですわね!! 莉子さんはとっても賢い、あと可愛いですわよ!!」



「わたしの恰好、敵さんにずーっと監視されてるんだって! 気付いたら恥ずかしくて! ダズモンガーしゃんの背中から出られません!! だから、ダズモンガーしゃんと一緒に旅に出ます!!」


 小鳩さんとバニングさんが同時に装備の一部を手に取って皇宮の床に叩きつけた。

 「傍から見てりゃ最初からずっと恥ずかしかったわ!!」と。



「みみみみみっ。芽衣、莉子さんのお供するです。あと、囮もするです。芽衣はずっと魔王城でお休みしてたから、皆さんに比べて元気です。お任せです。みみみみっ」


 みみみと鳴く戦場に降り立った天使を崇め奉りそうなになるのを堪えて、バニングさんが言う。


「よし。ならば小鳩。私は具申する。我らも莉子と共に服を探しに向かおう。私の具申に唆されたことにしてくれて構わん」

「いいえ! とんでもありませんわ!! わたくしが独断で決定しますわよ! 莉子さんの服を探す事、これを最重要任務といたしますわ。これより、その方向で進めますわよ!!」


 莉子ちゃんが首を横に振った、のだと思われる。

 ダズモンガーくんの冬毛に埋まっているので、服装はもちろん顔も良く見えない。



「あ。大丈夫です。体のサイズとか知られるの恥ずかしいですし」

「ぐーっはははは! 参りますぞ!! 『瞬動しゅんどう』でございまする!!」



 莉子ちゃんがダズモンガーくんに搭乗にして離脱。

 慌てて芽衣ちゃんが「み゛っ。『瞬動しゅんどう』です!」と後に続く。


 サービスさんは周囲の時間を凍結させたのち飛ばしながらついて行くという異常なスキルをこんなところで使って随行。


「……逆神流の加速スキルは敵に回すと実に厄介だな」

「……バニングさん。味方でも充分に厄介ですわよ」


 『瞬動しゅんどう』は加速スキルとして異質。

 いきなりトップスピードで発現されるので、追い付くのは容易ではない。


 猫2匹は無言で敬礼していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る