第1181話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その30】「行けるな! チンクイント!!」「陛下。ご自身は仕上がられるまでにあれほどの尺を……」 ~仕方ないんや! ラスボスと中ボスの違いや!!~

 いつも日常回の直後のご様子がバルリテロリ日常回みたいになっているものの、1度として日常回などやったことはない、高貴なるバルリテロリ皇宮からお送りします。


「ダイエットコーラが令和でなくなっててビビったけどさ。よく考えたらあれの霊圧消えたのっていつだっけ? テレホマン? ところでワシ、霊圧消えたとか言っとるけど、これってセーフ? ワシのキャラクター性が崩れたりせんかな? だってなんか口に出したくなるもんな。霊圧って。すげぇわ。久保帯人先生。霊圧ってなかなか思いつかんと思うで、ワシ。やっぱパワーには気を付けたくなるやん? ドラゴンボールが偉大やからさ。あ。を付けるとるでダブルミーニングがキマった。ところで、ダイエットコーラの話なんやけど、あれって2000年に販売終了しとるやんって思ってたんよ、ワシ。そうしたらよ? 販売終了しとったの、コカ・コーラライトやったんよ。分かる? コカ・コーラライト。テレホマン? 缶が白いヤツ。よく安売りしとったやんけ。そんで、よ。怖いのはここから。なんとな。驚くなよ? ダイエットコーラも2007年に販売終了してんの。今はコカ・コーラゼロなんやって。……そんで、よ! ダイエットコーラとゼロの違いってなんなん?」


 陛下のありがたい日常トークを拝聴したところで、立てよ臣民。



「陛下。始まってございます」

「えっ。…………………………ぶーっはははは!! ひ孫も仕上がって来たみたいやけども!! 敢えて手を出さん! これが皇帝の威光よ!! 変身するヒーローに手ぇ出さんルールは守る!! これが皇帝の威光よぉ!! ぶーっはははははは!!」


 喜三太陛下がマントを翻して高笑いされておられた。



 御前に控えるは総参謀長テレホマン。

 隣には皇宮秘書官オタマ。

 その隣でスマホをいじり始めた逆神六宇。


 各々が最終決戦に挑むべく、各々に合った方法で仕上がり始めていた。


 そして奥座敷の端っこにはついさっき合体した、新たなる戦士。

 名を逆神チンクイント太郎次郎。


 もうフルネームでは呼ばれないであろう事が一目で分かる、複雑な名前になった合体戦士である。

 チンクイントは肉体のベースがチンクエ。

 思考のベースがチンクエ。

 煌気オーラ総量、煌気オーラ練度のベースがチンクエで構成されている。



 クイントは主に欲望をカバーする事で煌気暴走オーラランペイジと情緒不安定な言動を担当。

 五分五分の合体など幻想。適材適所キメたらだいたい8:2くらいになる。



「よし! チンクイント! 仕上がったな!!」

「陛下。私は合体して1分しか経っていない。無茶を言われるのも良い……。てめぇボケてんのかよ、じじい様よォ!!」


「ええ……。クイントが最後に出てくんのヤメて? 寡黙にテンション抑え目で割とイケボなチンクエのセリフから急にヒャッハーされたらワシ、胸がキュッとなるわ」

「それもまた良い……。時に陛下。良い……事ねぇよなぁ! あんたは仕上がるのに何十日かけてんだって話じゃねぇかよぉ! オレらにだけ無茶言うなや!!」


 陛下がテレホマンを見る。

 テレホマンが静かに頷いた。


「陛下。宸襟を騒がせ奉ることお許しくださいませ」

「あ。ワシの味方してくれんパターンや。これ」


「はっ。チンクエ様の仰ること、いちいち御尤も。あ゛。……チンクイント様の仰ること、いちいち御尤も!!」

「テレホマンよぉ! 今、オレの存在忘れてなかったか!? ……良い」


 テレホマンが陛下を見上げた。

 陛下が頷かれる。



「な?」

「はっ」


 胸がキュッとなる感覚は共有できた、皇帝と側近。



 スマホをいじって高校で流行っている擬人化男子のサイトを見ていた六宇がオタマに尋ねた。


「ねー。オタマー? ゾルフ・J・キンブリーって刀剣男子じゃなくない? キャラ一覧のとこ探しても出てこないんだけど」

「はい。六宇様。キンブリーは隠しキャラですので。ご存じであらせられるだけで同級生の女子から知識人マウントをお取りあそばされる事、可能かと存じます」


「マジ!? ……じゃあどこで見れるの?」

「はい。六宇様。鋼の錬金術師の公式サイトをご覧ください」


「おっけ。…………………………。ねー。オタマ? なんかコスプレしてる人出て来たんだけど?」

「はい。六宇様。それは実写版です。漫画原作の実写映画は基本的にコスプレになりますので、覚えて頂くほかございません。ですが、一概に悪とは言い切れません。ゴールデンカムイにおける鶴見中尉と舘ひろしさんの再現度が高く解釈も一致。オタマも驚きでした」


「舘ひろしさんって漫画のキャラだったの?」

「はい。六宇様。違います」


「どっち!?」

「はい。六宇様。違います。舘ひろしさんは土方歳三です」


「土方歳三が舘ひろしって人を演じてるの?」

「はい。六宇様。違います」



「どっち!?」

「六宇様はやはりバカになっておられる方が煌気オーラの出力が安定するように見受けられます。どうぞ、そのままおバカを維持されてください。キンブリーはこちらの白いスーツに白いコートに白い帽子の御方です」


 「へー。これが刀剣男子かー!! スクショしてラインしよ!!」と六宇がスマホをいじり始めた。



 現在、奥座敷ではバルリテロリの残った戦士たちが仕上がっている。

 最終調整中であった。


 もう六駆くんはほぼ仕上がっているのに。

 そんなスピードで大丈夫か。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 喜三太陛下が煌気オーラ感知をチンクイントに試みられて、すぐに渋いお顔をされた。

 聞かずとも答えが分かっているにも関わらず、「いかがされましたか」と尋ねなければならないのが総参謀長の仕事。

 渋い顔を総大将がキメた後で「あのな? 聞いて?」とその理由を滔々と語り始めたら士気が下がるどころの話ではなく「もうヤメますか?」と、ヤメられるはずもないのに無為な軍議に時間を割かなくてはならなくなってしまう。


「いかがされましたか。陛下」


 テレホマンは私人としての意思が公人としての義務に乗っ取られ始めていた。

 実直すぎる男を軍部の中枢に据えると忠義心が暴走して大局的な判断ができなくなり、結果として戦後処理までの道のりがものすごく遠回りになったりするが、「じゃったら戦争なんか始めなさんなや!!」という答えが最初から解答欄に記入されているので、この問答は出来損ないである。食べられないよ。


「まずいぞ。テレホマン。チンクイントが意外と……ワシが思ったよりなんか……」

「はっ。拝承いたしました。私にお任せください」


 テレホマンがチンクイントに向き直って直截に尋ねた。


「チンクイント様。それが全力でございますか?」

「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! テレホマン、どうしたんや!? 聞き方ぁ!! そんな聞き方したらさすがにかわいそうやろ!! チンクイント、もう戻られへんのやぞ!!」


 テレホマンが「はっ」とうやうやしく応じてから、やっぱり直截に申し上げた。



「もう戻れなくされたのは陛下でございます。ならば、せめて仕上げるための罵詈雑言を仕るのが私の役目と承知してございますれば」

「……………………………………………………ごめんやで」


 普段高圧的で独善的で我が道が覇道と言って憚らない人が急に「ごめんね」とガチのトーンで謝って来ると本当に堪える。



 チンクイントの欠陥はもう誰の目から見ても明らか。

 その肉体および精神の構成を8割担っているチンクエが兄者ガチ勢の特性をしっかりと保持しているため、8割の有能な資質が2割の眠れる性欲を慮っている。

 結果、8割がなくなって2割が全体になるので、もう計算できないけどとにかくそれはすごく損失がすごそうという、難しい数学と日本語が発生中。


「私はこれで良い……」

「ようございませんが!? チンクエ様!! それでは普通に戦ってかなりお強いお二人がバリューセットでお得になって一網打尽にされた挙句、我らの戦力が1度に2人失われるという! もう理外の合体戦士でございます!! 陛下!! これはさすがに何か対策を!! ……陛下!?」


 喜三太陛下が荘厳な様子で顎に手を当ててから、ゆっくりと疑問を呈された。


「チンクイントさ。ベジットみたいに声だけ2種類あるけど、意思は1種類にできんの?」

「今日も陛下が愚かでバルリテロリは良い……。デキてたらオレがメインでチンクエのイケボ使って六宇を口説いてんだろ!! バカかよ! じじい様!! ……良い」



「陛下! これではチンクイント様が! 人格が同時に出て来て機能不全を起こす仙水忍みたいになってございます!! いかがされますか!?」

「えっ」


 チンクイントから「良い……」と「潜水シノブってなんだよ!!」というセリフが同時に発せられて、テレホマンがストレスで爆発しそうになった。



 爆発しそうになったが踏みとどまったので、なんだかクールになれたテレホマン。

 妙案を閃く。


 が、それは非人道的というか、令和にコミットした今のバルリテロリでちょっと色々なコンプライアンスに引っ掛かりそうな策であるがゆえ、躊躇う。

 躊躇うが、躊躇いがちに口に出すことで自身を納得させるテレホマン。


「六宇様が……。チンクイント様のご活躍次第で……。その……。ほ、抱擁してくださる可能性が……あり得るかと……。この電脳を冠するテレホマン。察しましてございます!!」


 モノで人を釣る時点でかなりアレだが、モノと女子をイコールで結んでしまうとこれはもうアウト。

 バブル世代ですらギリギリアウト。金持ってればギリギリセーフな理論。


 陛下が玉座から勢いよく立ち上がられた。

 さすがは皇帝陛下。



「チンクイント!! いいとこ見せたら、六宇ちゃんがベロチューしてくれるってよ!!」

「ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!! よっしゃぁぁぁぁ! オレに任せとけぇ!! ……良い」


 主人格が交代した。

 さすがは皇帝陛下。



 なお、六宇ちゃんはスマホを片手にオタマとガールズトーク中なのでこの下劣な交渉は聞こえていない。

 それがさらにこの作戦の品格を低下させている。


「ええんや! なにが品格じゃ! どうせワシらが悪者なんじゃ! もう勝てばええんや! 勝って! 悪をスタンダードにすれば、悪者が多数派!! これが民主主義なんや! 多勢の暴力で勝つぞ!! ワシらは!!」


 一気に仕上がったチンクイント。

 独裁国家で民主主義とか仰せになられ始めた陛下。


 戦いが始まる。


 バルリテロリ臣民の諸君。

 復唱せよ。


 勝てばええんや。

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