異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第1175話 【きっと最後の日常回・その11】雨宮・ピュグリバー・順平元上級監察官の戴冠式 ~たった数十分の間にもう籍入っとるで、これ~
第1175話 【きっと最後の日常回・その11】雨宮・ピュグリバー・順平元上級監察官の戴冠式 ~たった数十分の間にもう籍入っとるで、これ~
前回の雨宮さん回。
なんか亡命を決意した。
今回の雨宮さん回。
ミドルネームが増えてる。
厳密には前回の日常回時空でエヴァちゃん回になっていたのだが、雨宮さん回に戻ってみたらミドルネームが増えていた。
前々回とか何か月前だよ、そんなに長い期間があれば何かしらのファンタジーも起きるだろ。
かような幻想に囚われる低ランク探索員はここにいないのである。
前々回だって数時間前という時空の歪みの奇跡。
とりあえず、数十分前には日本本部の1号館屋上にいたはずの雨宮さんとエヴァンジェリン姫。
ならばさすがにまだ日本本部の敷地内にはいるはずである。
そんな風に下手くそなミスリードで誘導されてくれる低ランク探索員もこんな階層にはいないのである。
既に福田さんが「今、私はピュグリバーにおります」からの仁香さんに対して「あなたは仕事を続けるんですよ」とフリーザ様ばりに冷徹なオーダーをキメている都合上、ゴリラの副官を歴任して今は上級監察官のお目付け役をしていた彼が、なにゆえ単身でピュグリバー観光をキメるのか。
お忘れかもしれないが、今は戦時下である。
つまり、ここはどこかと尋ねたらば。
「あららー! こんな、ふぁさふぁさのマントなんかをおじさん貰っちゃっていいのかしらー? ねー。すっごいよ、これ。すっごい。アレルギー持ってる人だったらくしゃみ止まらなくなりそうなくらい羽が付いてるー。見てー! 福田くん! 写真撮ってー!!」
異世界ピュグリバーであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「順平国王様!! 戴冠式の用意がつつがなく整いました!! と申しますか、とっくに整っておりました!! さぁ、このバーバラの背中でお靴の汚れを拭ってくださいませ!!」
「あらららー。おばあ様、おばあ様? クララちゃん口調になっちゃうよ、私ー。どうして急にそんな卑屈になられるんですかー。悪政王ムーブを初手でおじさんがキメるメリットってありますー?」
「はい。ございますとも! 長い歴史を持つピュグリバーで初めての男系国王でございます! 私、バーバラはこれまでいやしくも摂政のような事をしておりました! ここでババアを踏みつけて威厳をお示しくださいませ!! この国の者は皆、心がぽよんぽよんでございますから!! これで順平国王は側室3桁まで余裕でございます!!」
「おばあ様はおクスリをキメちゃったんですかね。私、そんなダメなおじさんに見えますかー? あらららー。福田くんがさっきは写真撮ってくれなかったのに、今はサーベイランスで記録してるねー。……踏まないよ?」
雨宮さん、国王になるってよ。
福田さんが帯同している時点で、恐らくおじさんによる「もうアレだと思うのよ、私。王様になってね? ほら、外部顧問ってあるじゃない? 探索員憲章に! 逆神くんちのおじいさんがやってるヤツ! そこら辺に退くのが落としどころとしても1番だと思うの。ね? それだったら私も呼ばれた時に3の1くらいで仕事するし? 3の1ってすごいの、知ってる福田くん? イチロー選手の生涯打率が.322だもん。ねー? すごいよねー? そのイチロー選手よりも私、出て来るんだよー?」みたいな土俵際での粘りがあったはずである。
そして「では。私も同行します。ピュグリバーの駐在官を新設しましょう。人事が定まるまでは私が勤めます」というシンプルな回答があったのかと思われる。
福田さんはもちろんとして、雨宮さんもこの世界で相当な切れ者。
切れ味が良くなるタイミングが少ないだけで、良くなるとそれはもうよく切れる。
南雲さんが監察官一の知恵者をずっとやらされているが、雨宮さんが上級監察官に逃げており、福田さんはSランクまでしか昇進するつもりがないからという理由が存在する。
「私、別にその二つ名もういらないから! 誰か受け取ってもらえない!?」と遠くの戦地で緑色になっている知恵者の叫びも聞こえる。
雨宮おじさんが不承不承で首を縦にやって、それでもってやって来たのがピュグリバー。
綺麗なお姉さんの近衛兵が雨宮さんの前で、敬礼した。
「ピュグリバーの王族さんがあつらえた装備って胸元が結構緩いんだよねー。バルリテロリってみんな跪くんだっけー? そうだー! 良いこと考えたよ、おじさん!」
「雨宮順平外部顧問」
もう上級監察官がどっか行ってる。
「やだやだ。冗談だってばー。福田くんもさ、ここでお嫁さん見つけなさいよー。君も30代なんだからさー? 私、大臣のポストを用意するよー?」
バーバラおばあ様が順平国王の肩をトントンと叩いて耳打ちした。
「国王様。この老いぼれは死するまで国王様が変わられるシーンを何度も目撃したくはございません。老婆心で申します。福田様は順平国王を陥れる手段を80くらいお持ちではないかと」
長い時を経て、バーバラおばあ様が摂政っぽい仕事を再開した。
そこにやって来たのは、この異世界の姫君。
エヴァンジェリン・ピュグリバーである。
桃色のドレスに身を包み、ふわふわしたものでしか構成されていないかのような身体とふわふわしていると確信できる笑顔を振りまいて、トコトコと駆けて来た。
「順平様!! 戴冠式の準備が整っております!! エヴァンジェリンは嬉しいです!!」
「あららー。エヴァちゃん、おめかししてるねー。戴冠式って今の女王のエヴァちゃんから冠貰って、これから私が頑張るぞい! って決意表明するんじゃないのー? これじゃあ主役が食べられちゃうよー。あははは。おじさん困るぅー」
「私、19歳で結婚できるなんて感激です!」
「あららー?」
福田くんとバーバラおばあ様が続けて言う。
「婚姻は当然かと思われますが。どこのおっさんかも分からないおっさんの雨宮さんがいかにして異世界の王族になるのですか」
「私、東京の生まれなんだけどなー。東京のおっさんだよー」
「東京のおっさんがどうしてピュグリバーの王族になれましょう。バーバラ様。後はお願いいたします」
「はい。かしこまりました。ピュグリバーは排他的な国ではございませんが、歴史を紐解いても外界との接触が極めて少ない国家です。かつては逆神ほにゃららダ・ゴイーンなど自称するよく分からない御方に国を救って頂きましたし、それを妄信した結果アナスタシア様がどこかに連れ去られて滅びかけた事もございました」
そんな事もありましたね。
「通例ですと、王族に連なる者しか王位継承の権利は発生しません。アナスタシア様の直系の御子がおられるとの事ですが、お話を聞く限り王族に収まる器ではないかと存じます」
「いえ、おばあ様? 逆神くんなら美味しい食事と住みやすい家と定期的なお小遣いをあげれば普通に王位に就きますよ? 私、譲りましょうか?」
「順平国王様。このバーバラは冗談をあまり好みません」
バーバラおばあ様率いるバーバラ武闘団は日本本部で「ふぅぅぅん」した結果、建設中だった新館を消し飛ばした六駆くんを目撃しており、愛と平和が売りのピュグリバーの王族に破壊の権化はちょっと遠慮したかった。
今ならおまけでもう1つ
「あららー。まあ、私よりちょーっと気性は荒いかもですねー」
「国王様。ちょっとの概念がこちらと現世では違うようですので、すり合わせをお願いします」
話が途切れたので、福田さんが再度レシーブ。
「つまり、雨宮さんが王族に連なるために、エヴァンジェリン様と婚姻関係を結ぶ必要がある。そういう訳です。分からないあなたではないでしょう」
「おじさんになると頭の回転率がどんどん落ちていくんだよねー」
「これからよろしくお願いいたします! 順平様! 旦那様の方がお好みですか? それともあなたですか? あとは宿六という呼び方もあると聞きました!」
「……エヴァちゃんはお友達を選ぼうねー。誰から聞いたのかなー?」
「クララ様です!」
「じゃあ無理だねー。あの子は私も把握できない行動ルート持ってるもん。その宿六ね、ミンスティラリアに遊びに行った時には絶対言わないでねー。戦争が起きるからー」
バーバラおばあ様に連れられて向かった先は宮殿の宴会場。
既に絢爛豪華な装飾が施されており、イドクロアと思しき希少な鉱石がこれでもかと右から左へ、下から上へと光っているにもかかわらず、エヴァンジェリン姫が1番輝いているという、なんてステキな婚姻の儀式なのだろうと思わずうっとり。
「現世のやり方を学びました! 私! 順平様! 指輪を交換するんですよね!!」
「そうねー。おじさんはね、キラキラした宝石に混じって『呉』って血文字で書かれてる掛け軸とか提灯が気になって仕方がないよー」
同盟国ですので。
異界の穴を使うと徒歩15分で首都公民館に着きますので。
「お胸に指輪を挟みましたので! どうぞ! お手を突っ込んでその指にハメてください!! ムニムニされるのも私は一向に構いません!!」
「……違うのよー。福田くーん。撮るの一旦ストップしてー? これも誰かの罠だよー。あー。南雲くんの結婚式でふざけ倒しといてよかったねー。あれやってなかったら、私がこの戦争終わった後に尺使われて散々いじられる流れだったもんねー。エヴァちゃん、ピュグリバーのみんなー。これからよろしくねー」
なんか軽いノリで雨宮さんの籍が移った。
異世界人と婚姻関係になる事は審査こそ多いものの禁止されてはいないため、これにて正式に雨宮おじさんが既婚者に。
恋愛乙女ステークスほど盛り上がらないのは何故か。
「では、作戦に取り掛かりましょう」
「福田くんさー。ドライ過ぎると嫌われちゃうゾ!! 今、エヴァちゃんにホカホカの指輪を出してもらったところなのにー」
「今の言葉も査定に含めましょう。雨宮さん。あなたはもう上級監察官ではないのですよ?」
「あららー。あららららー。これ、やっちゃったかもしれないねー」
おじさんが権力をちょっとだけ失った瞬間である。
全ては福田さんの掌の上か。
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