第1170話 【きっと最後の日常回・その6】塚地小鳩の「ここは地獄ですわ……」 ~バルリテロリに来てから良いことなんかひとつもない世話焼きお姉さん~

 塚地小鳩お姉さん。

 もはやチーム莉子にはいてもらわないと困るというか、そこにいてくれるのが基本設定になっており、彼女がいなくなるだけで機能不全を起こすようになって久しい。

 真面目で勤勉、お世話焼きのお姉さんである。


 バルリテロリ強襲作戦においてはしばらく彼女の姿がなく、それでもどうにかなっていたじゃないかとお思いの方はよーく御覧じて頂きたい。



 南雲さんがワンオペで頑張った結果、なんかひどいことになった。



 六駆くんに大福とセットで現世から拉致られて来た小鳩さん。

 現着したのは孫六ランドで移動中の強襲部隊だったが、そこから日常回時空を何度かこなしており、何やら仰りたいことがあるご様子。


「ここって地獄ですわよね? 本編時空も日常回時空もどっちも割と控えめな地獄ですわよ? 控えめと申しているのはわたくしが地獄を存じ上げないからですわ。寿命を迎えて仮に地獄の観光をする機会があれば、多分評価は変わると思いますの。……凄惨な地獄に」


 ちょっと心が曇り始めておられる。


 小鳩さんは本編時空で平時の際にはあっくんとイチャコラできるのだが、もうずーっと有事の状態が続いており、ちょっと前にクリスマスでイチャコラしたはずなので彼女にとってほんの2週間前のはずなのだが、何故か1年くらい地獄なので本当にそういうところがありますわとお冠であらせられる。


 これまでは日常回であっくんとお電話させてあげることでどうにか帳尻を合わせて来たが、今回はそれも叶いそうにない。

 なにせ小鳩さんはメタ空間に行けない。


 行ったところでそこにいるあっくんは偶像なのである。

 ピュアピュア恋愛乙女の小鳩さんにそのような偶像で満足させるような、恋の横着をさせる訳にはいかない。



「わたくし、一向に構いませんのですけれど。もう、あっくんさんのふりしてくださるだけで良いですわ。わたくし、脳内補完というヤツを覚えましたの。クララさんが教えてくださいましたわ。どなたかモシャス使ってくださいまし。これはあっくんさんとダイの大冒険を視聴した際にお勉強させて頂きましたわ。ザボエラさんはお排泄物でしたけれど、今ならモシャスも可ですわ。わたくし、抱きしめられたら全て許すまでありますわ」


 ご覧の通りである。

 こちらのお姉さん、催眠ものの薄い本だと2ページ目にはもうガンギマリ。



 とてもじゃないが日常回でキメさせる訳にはいかない。

 とはいえ、あまり辛い日常回を与えてしまうと本編の作戦行動に支障が出る。


 隔絶されているはずのこの時空なのだが、いつの頃からかリンクするようになってしまい、急にこっちの影響をあっちで発症する事がある。

 これは全員に該当する事象ではなく、例えば六駆くんや莉子ちゃんは特に日常回時空に干渉されない。


 多分、あの子たちはどっちの時空でも好き放題しているからだと思われる。


 逆に干渉されてしまいがちなのは、小鳩さんや仁香さん、たまに芽衣ちゃん。

 実直な性格の乙女が喰らいがち。


「穴はまだですの!? ノアさんはどこですの!! 穴ですわよ、あーな!! 穴を広げてくださいまし!! わたくし、他の方がバカなことやってらっしゃる間、ずっとあっくんさんとラブラブ穴開通の儀を繰り広げておりますので!! 穴ですわ! 穴はどこですの!!」



 これはいけない。



 誰か手の空いている者を小鳩さんにアテンドして、彼女の心をほぐして差し上げなければ。

 今の彼女は陽動班、小鳩隊を率いる指揮官。


 このテンションを本編時空に持って行かれると大変によろしくない。

 まともな人員がただでさえ少ないのに、小鳩さんがキマってしまうと間違いなく芽衣ちゃんのワンオペが始まり、彼女だけは「……みみっ」と静かに鳴いて粛々と仕事をこなすだろう。


 ダメだ。いけない。


 日常回にて小鳩さんと絡みの少ない者、なおかつ本編時空でも仲の良い者など都合よくいるだろうか。

 小鳩さん回ではメタ空間が使えないので、よそから連れて来る訳にもいかない。


 いや、適任者がいた。

 早速お呼びしよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぐーっはははは! 小鳩殿! なにやらお疲れのご様子!! 吾輩、先ほど皇宮の外で深海魚のフライを揚げましてございまする!! こちら、お召し上がりになられまするか!!」


 遅れてやって来た日常回のルーキー。

 もう最後の最後なのに個別回を持たないスーパーサブタイガー。


 ダズモンガーくんが小鳩隊に帯同していた。

 これで勝つる。


「小鳩さーん! これ美味しいですよ! もぐもぐもぐもぐ……。ダズモンガーさんのお料理って小鳩さんの作ってくれるヤツより味が濃くて好きです! もぐもぐもぐもぐ……」



 背中に莉子ちゃんが乗っているのを失念していた。



 この莉子氏、ちゃんと家事スキルも保持していたはずであり、かつては六駆くんを自宅アパートに招いて唐揚げ食べさせたりハンバーグ食べさせたりしていたはずなのだ。

 どうしてモグモグするばかりで料理を忘れ、ついでに野菜をまったく食わなくなってしまったのか。


 今はダズモンガーくんの背中で深海魚のフライをモグモグ中。

 トラさんの冬毛にから揚げの衣がこぼれる。


「んもぅ。ほらご覧なさいですわ! ……地獄じゃありませんの!! こんな地獄にいられませんわ!! わたくし、メタ空間に行かせて頂きますわよ!!」


 金田一少年の事件簿で朝になったら死体で発見されそうなムーブを始めてしまうお姉さん。

 これから尻上がりにテンションもアゲていくのか。


 もう6割くらい尺を消化してしまっているが。


「ささ、小鳩殿!! こちらを! 滋養強壮にも良いとされるグアル草のソースでござまする!!」

「食欲ないですわ……」


「ぐーっはは! 滋養強壮と言えばグアルボン! これはミンスティラリアにおいて常識!! 下世話な話題をお許しいただきたい! 現世にお戻り次第、あっくん殿とお召し上がられるとよろしゅうございまするぞ!! レシピも差し上げまする!!」

「…………!! ダズモンガーさんってば! んもぅ! そーゆうところですわよ! んもぅ!! では、頂きますわ! どうしましょう! わたくし、精力ついちゃいますわ! うふふふふふふふふ!! あっくんさんに夜戦で勝っちゃいますわ!! レスリングするんですわよね?」


 小鳩さんはピュアです。


「モグモグモグモグ……。ほえ? ダズモンガーさんってあっくんさんと面識ありましたっけ? もぐもぐ。ダメですよぉ。知らない人なのにそーゆう事言うの! あっくんさん、草のソースとか食べませんよ! タルタルソース一択だと思います! もぐもぐ」



 この莉子ちゃんは誰かがモシャスで化けているので、メインヒロイン莉子ちゃんとは別人かと思われる。



 ちなみにダズモンガーくんとあっくんは直接的な接触はないものの、トラさんとしてはルベルバック戦争に参陣しているので阿久津浄汰(悪)時代からちゃんと情報を取得しており、対して小鳩さんの婚約者サイドも「あぁ? 小鳩がよく言ってるトラ野郎だろぃ。そりゃ知ってるに決まってんだよなぁ。随分と世話になってるみてぇだしよぉ」と彼女が一緒に厨房で料理しているけものフレンズは熟知している。


 タイミングが合わないままここまで来た結果トークセッションパートが生まれなかっただけであり、お互いがお互いを「なんかいいヤツ」と認識しあっている。


「ぐーっははは! あっくん殿は奥ゆかしい御方と聞き及んでございますれば! 是非ともグアルボンをお持ち帰りいただいて! ゆくゆくはあっくん殿とのお住まいで養殖されるのはいかがですかな! グアルボンは環境適応に優れておりまするゆえ! 灼熱の大地から極寒の冬山、どこでもイケまする!!」

「そうなんですの!? お師匠様の家には池もありますわ! 鯉が泳いでおりますけれど。……イケますの!?」


「鯉というのはモンスターですかな?」

「お魚ですわ!」


「では、恐らくグアルボンが捕食いたしまする! グアルボンはモンスターとしての脅威こそ低いですが、紛いなりにも異獣でするゆえ! 魚は餌にするでしょうな!」

「そうなんですのね……。なら、お師匠様にごめんなさいしますわ!!」


 小鳩さんの常識は恋愛に負けるので、この瞬間に久坂家の鯉が全滅ルートに分岐した。


「もぐもぐもぐもぐ。あのあの、小鳩さん」

「なんですの、莉子さん! もう目を逸らしたくなるくらいフライを召し上がっておいでですけれど、今は特別に見なかったことにいたしますわよ! ここ、日常回ですもの! きっとノーカウントですわ!!」


 訂正しなければならなくなった。

 莉子ちゃんは時空干渉されない乙女だとほんの少し前にご説明したが、それは誤りである。


 日常回時空で飯食ったら、ちゃんと本編時空に反映される。

 1つ前の日常回では飯食ってるだけだった。


 そんな莉子ちゃんが首をとても可愛くキュートに傾げて、呟く。



「でも、小鳩さん? あっくんさんってイケメンでモテますよね? わたしの好みじゃないですけど。そんな人の精力を増強させて平気なんでしょうか? その辺の寄って来る泥棒猫さんをうっかり食べちゃうかもですよ! もぐもぐもぐもぐ……」


 この莉子ちゃんは誰かがモシャスで化けて、メインヒロインの地位を失墜させようとしている悪しき陰謀のナニかです。



「……もう帰りたいですわ」


 小鳩さんのメンタルがかなり低下した。


「ぐーっははは! 小鳩殿!! 獣魔人の吾輩から見ても小鳩殿は魅力的! 特にスタイルがよろしゅうございまする!! かような魅力をお持ちでありながら自信を持たずしてどうされまするか! 小鳩殿が幼児体型であれば、大人の女性が敵になるやもしれませぬが! 子供は大人と恋愛などいたしませぬぞ! ぐーっははぐあああああああああああああああ!!」


 最終的に小鳩さんが笑顔になって、誰かによって背中をぶっ叩かれたダズモンガーくんがった。

 このトラさん、やはり有能である。

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