第1163話 【魔王城から水着のお姉さんがお送りします・その2】「あれ。もうこっちに来た……? あ。芽衣ちゃんの言ってた、章区切りが近いってヤツ……?」 ~この世界の不徳の致すところでございます~

 こちらは南極海を漂う人工島ストウェア。

 久坂さんがスマホを片手に通信中であった。


「いやー。すまんのぉ。ワシものぉ? 当然、そりゃもうすぐにでものぉ。そっちに行って責任者やりたい思うちょるんじゃ。しっかしのぉ。困ったことに、ストウェア。ここにゃあもう、探索員がワシ1人しかおらんのよのぉ。いやー。悔しいのぉ」

「久坂さん。私、そろそろお酒抜けて来ましたけど」


「楠木のは黙っちょれ!!」

「はい」


 誰からの通信なのかは分からないが、久坂さんが応答中。


「こがいな事を言うのは気が引けるんじゃ。これホントのマジのヤツじゃで。川端のもようけ頑張ってくれたしのぉ? ワシとしちゃあ、もうストウェアの保安に注力するのがこの老いぼれに残された最期の勤めじゃと思おい、ハゲぇ! なに乙っちょるんじゃ! へそ島くんはなんぼ支給の回復薬持って行くんじゃバカタレ! ワシの分がなかろうが! バンバンの! そがいな所に落とし穴置くな! ハゲぇ! じゃから! 支給の回復薬を持って行くな言うちょるじゃろが!! ……あ。なんぞ混線しよるみたいじゃのぉ」



 まだ何かと戦っている、伝説を背負う探索員の始祖。久坂のおじいちゃん。



「おお。川端の。どがいした? 水着? ワシらの分も作うてくれるんか? いや、ちぃと待たんか。ビキニはいらん。海パンだけくれりゃあええんじゃ。……ほぉ。ビキニしか作れん言う事か。ほいじゃったらワシらはいらんで? なんでお主ら全員で手ぇ挙げるんじゃ。ワシはいらん言うちょるじゃろうが! ああ! そこのまだ死んじょるワチエのにやってくれぇ! テンション上がったら生き返るじゃろ! ワシはいらん言うちょるのに聞こえんのか、川端の! 年寄りに白と黒のビキニを寄越すもんじゃなかろうが! ……おー。電波がようないみたいじゃ。なんぞ緊急の場合はまた電話してくれぇ」


 誰としていたのか分からない通信が終わった。

 南極海は平和そうである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それでは魔王城。

 こっちはとっくにビキニな仁香お姉さんが玉座に腰かけ、彼女にしては珍しく足まで組んで、持っていたスマホを強めにサイドテーブルに置いてから言った。


「もう!! 久坂さんってそういうところがある!! 副官にさせられて監察官会議に出たりするようになって! すっごく思ってた!! あの人はおじいちゃんだよ!!」

「仁香先輩! 久坂さんはおじいちゃんではないでしょうか!!」


「そうだよ、リャン! でもおじいちゃんである前に最初の探索員なんだよ!! おじいちゃんと兼務してもらわないと困るのに!!」



 おじいちゃんに無理言っちゃいけない。



「じゃあなんですか? 私は1日でチャイナ服からビキニまで着させられて? それでコスプレしながら気付いたら後方司令官代理までさせられて? 普段は宿六のお世話係ですよ? それは無理言ってるんじゃないって、そうおっしゃるんですか? どなたか知りませんけど」


 諸君には猛省を求めたい。


 短いスパンで視点がやって来たものだから、仕事中なのになんか邪魔された感があって少し苛立っていた仁香お姉さん。

 ただ、リャンちゃんに加えてザールくんが仁香さんの独断により後方指令代理の副官として採用されたので仕事の円滑化は進んでいる。


「仁香様。ルベルバックより電文が参りました」

「ゔ……。嫌なヤツが来ましたね。読んで頂けると助かります」


「よろしいのですか? 私はアトミルカ所属ですが」

「あ、いいんです。この戦争が終わったら絶対に一級戦功出ると思うので。それでアトミルカの皆さんを日本本部にねじ込みますから。リャンの旦那様になる人は地に足のついた仕事をしてもらわないとですし。事後報告になるので、報告書を適当にいじれば今の業務も承認させられます。絶対です。私、一体どんな宿六の下でワンオペしてたとお思いですか? ねじ込むのは随分と上手くなりました。あはは」


 ザールくんが「やはり仁香様の疲労が著しいな」と慮り、指示に従った。


「では。読み上げます。……こちらはルベルバック。代理総督キャンポム少佐。迅速な対応にまずは御礼申し上げる。委細承知いたしました。ルベルバック側では青山後方司令官代理の意を汲み、失礼。言いようが悪うございましたな。意を受け、情報を整理。戦争終結を確認し次第、第一報を日本本部へと伝達する所存。取り急ぎご連絡とさせて頂く。追伸。御身を大事になされよ。……との事です。……仁香様?」

「あ。ごめんなさい。ルベルバックの駐留部隊って今は空席なんですよね……。私、立候補しようかな。なんなんですかね。アトミルカもルベルバックも。私、どこに転属しても今より幸せになれそうな気がします」


 補足事項として、監察官の副官はものすごく好待遇である。

 年収は余裕で4桁万円に到達する。

 仁香さんは25歳。


 こんな破格の待遇を捨てるというのか。


「お言葉ですけど。お給料だけが仕事のやりがいじゃないんですよ。それともなんですか? 転属をガチャのリセマラみたいなものとお考えですか? 別に転属したらレベル1に戻る訳じゃないんですよ? ダーマ神殿じゃないんですから」


 諸君には猛省を求めたい。


 機械音痴の仁香さんがちょっとゲームに詳しくなっている件に関しては触れても良いものなのだろうか。


「……宿六が!! ヤエノムテキちゃんって連呼するから!! ちょっとだけやってみただけですけど!? 本物は私なんかよりもずっと、すっごく可愛いですね!! 出てくれるまでリセマラとか言うのしましたよ!! あと、クララちゃんがドラクエ7を貸してくれたので! なんですか、石板って!! 全然見つからないじゃないですか!! 休みの日泥棒ですよ!!」


 遠くの方で「にゃはー。ドラクエ未プレイの人には7を最初にやらせとけば、次はどれやっても快適なんだにゃー」とどら猫の鳴き声がした。


「仁香先輩! スマホが震えてます! 私が出ましょうか!」

「あ。ううん。ありがとう、リャン。相手を見てからお願いするかも……福田さん!? 私が出る! もしもしもしもしもしもしもし!!!!」


 しばらく音信不通だった福田弘道Sランク探索員。

 オペレーターの長でもあり、後方司令官代理は絶対にこの人がやれば良いと仁香さんは思っている沈黙していたデキる男から入電。


『こちらは福田弘道Sランクです。お疲れ様です。青山後方指令代理』

「お疲れ様です。じゃないですよ!! 福田さん!! すぐにミンスティラリアへ来られますか!?」


『申し訳ございません。私は現在、ピュグリバーにおりますので少しばかり難しく存じます』

「……どういうことですか」


 福田さんが単身で彼の地に飛ぶとは考えにくいため、もうこれは雨宮さんが亡命をキメた可能性を100%に振ってから、それを前提に思考を再開するべきかと思われる。


『なにやら口調から怒気を感じますが?』

「さすがですね」


『では誤解を招く発言をした旨、訂正ののち謝罪を。現在、ピュグリバーの協力を得てバルリテロリの戦地へと装備を転送する用意を進めております。……ああ。失礼。そんなもの本部からやれば良いじゃないですか。と、お叱りを受けそうですので続けても?』

「……はい」


『この異世界は大気に煌気オーラが漂っている異質極まる地でして。その特性を活かして充填し切った状態の装備を戦地に直接転移させる計画が立案、そして実行される事となりました。1度きりしかチャンスはありませんので、私も同行して作戦に従事している次第です。ですので、大変申し訳ございませんが、青山後方指令代理には引き続き職責を果たして頂きたく』

「……ふぁい」



『青山後方指令代理? お疲れですか?』

「この状況でお疲れじゃないって言えるほど私は大人になれません!!」


 それでも投げ出さないのが偉い、放っておけないお姉さん。



 スマホを今度はそっとサイドテーブルに置いて、盛大にため息を吐いた仁香さん。


「はぁぁぁぁぁぁ……。私、戦争が終わるまで据え置かれるんだね。分かってたけど、確信するとまた胸が重い……。水着なのに汗かいてきたかも……」


 どこかの異空間で悪辣な魂が「汗をかいているですって? 仁香すわぁんが! 自分が今すぐ拭いてあげますよ!!」と煌気オーラを高め始めた。


「仁香先輩! タオルをファニちゃん様から頂戴しました!!」

「なんでもダズモンガー様の冬毛を使った逸品だそうです。シミリート様がお造りになられたとか。触っているだけでリラックス効果もあると。それからコーヒーを淹れて参りました。バニング様のお好みですのでお口にあえば良いのですが……」


 リャンちゃんとザールくんのフレッシュカップルが崩れ落ちそうな仁香さんを全力サポート。

 ダズモンガーくんの冬毛タオルと、バニングさんが南雲さんの影響で割と最近ハマったコーヒーを差し出されて「すみません……」と癒される仁香さん。


 心が回復した。


 どこかの異空間では「くそぉぉ!! ザールさん!! あなたはいつもぉ!!」と穢れた魂が憤慨する。

 ザールくんも虚空を見つめて「貴方の思い通りにはさせませんよ」と短く応えた。



 新しい戦いを始めてないで頂きたい。



 リャンちゃんが仁香さんに尋ねる。

 とてもシンプルだが、すごく大事なことであった。


「仁香先輩!」

「うん。どうしたの?」


「先ほどこっちに来たばかりなのに、どうしてもう来たのでしょうか!!」

「うぅ……。リャンまで見えない意思の存在に気付き始めちゃってる……」


「いえ! 私はよく分かりません! ザールさんが教えてくださいました!!」

「あ。良かった。それは簡単だよ。これはね、章区切りってヤツが来たの。芽衣ちゃんからの引継ぎにあったから」


「了! それが来ると、なにが起きるのでしょうか!!」

「ははっ。ちが個別でひどい目に遭わされるんだよ……。あ。ごめん。、だった……」


 予定通り事がに進む越したことはない。

 だが、戦争。


 こればっかりは描いた計画書プロット通りに進んではならないものなのである。


 血が。涙が。流れているのだ。

 予定通りになど進んで良いはずがない。


 そうであろう。諸君。




 ————第16章、完。

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