第1162話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その29】「取り急ぎの仕事や! これが合体戦士・チンクイントや!!」「陛下……。あの……。割合が……」 ~合体できたんや!!~

 風雲急を告げるバルリテロリ皇宮からお送りします。

 もう戦場が皇宮になったので、正確には奥座敷からお送りしております。


「……あかん」

「はっ。仰る通りかと存じます」


「……あかんで。ひ孫、あかん」

「はっ。陛下の仰りよう、まったくもって御尤もでございます」


「……ワシの仕上がった状態でフルパワーになった状態で、スーパースキル使った状態のさらに限界を超えた状態といい勝負やで」

「は? ……はっ! 陛下、お待ちを! 今すぐ部下にマウンテンデューを持って来るよう命じますれば!! しばしのご辛抱、どうぞ、どうぞご自身を失くされませぬよう!」


 陛下の日本語がいささか危うい。


 六駆くんにいらん事した結果、なんかガチギレしてちょっと正視に耐えない感じの煌気オーラを大量に放出中。

 これはさすがに士気も下がろうというもの。


「お待ちください。陛下。オタマは思う事がございます」

「……抱いてもええんか?」


「ストッキングでしたらご自由にお使いください」

「……ちょっと脱ぎたてストッキングくらいじゃどうにもならんで。これ」


「はっはっはっはっはっはっはっはっ! くれよ、くれ!!」

「ねー。興奮してる野良犬みたいなクイントならいるけど」


 恐ろしいことにバルリテロリサイドで士気が低下したのは喜三太陛下のみ。

 ここまで残ったメンバーはいずれも一騎当千の猛者ばかりであるからして、六駆くんのやべぇ怒りの煌気オーラがなんのこっちゃ分からんというほんわかぱっぱした状態でもない。


「良い……」

「なにがだよ、チンクエ?」


「兄者。考えてもみてほしい。陛下がなんか落ち込んでいる今こそ、兄者が皇帝の座を掴む好機で良い……」

「えっ! オレ、まだ皇帝になれるチャンスある!?」


「良い……。私も兄者も皇族離脱しているため、皇位継承権がない……。それも良かったが、今はもっと良い……。六宇がいる。六宇は正当な皇位継承権を保持している。兄者と六宇が結婚すれば、兄者は自動的に皇族に戻る……。つまり……良い……」

「あ、あああー!! するってぇとあれか! 六宇とイチャイチャしながら、なんか! なぁ! 海とか遊びに行けるって、そういうアレか!!」


「兄者はピュアで良い……」

「あのさ。盛り上がってるとこ悪いんだけど」


 六宇ちゃんがここ数分で急速に賢くなっていく。

 恋愛乙女になると何かしらの素養にブーストがかかるのはこの世界の真理だが、もしかして彼女はバカから賢い女子高生に羽化してしまうのか。


 バカな子が時々核心を突くから良い。

 そう思うのはいけない事だろうか。


「クイントってチンクエと合体するんだよね。ってことはさ、もうそれクイントとあたし結婚無理じゃん?」

「兄者。六宇が兄者との結婚を意識している。これはとても良い……」

「おっしゃらぁぁぁぁぁい!! チンクエ! 意識は半分ずつだけどよ! 六宇とチョメチョメしてる時は寝ててくれっか!?」



「良い……」

「絶対に寝ないじゃん! や! 違う! そもそもクイントと寝ないから!! ……あ。やっぱあたしバカだ。自分でも何言ってんのか分かんなくなって来た」


 良い。



 オタマは思うところをずっと言わずにほんわか軍団を見つめており、テレホマンが「あの。そろそろお願いできますでしょうか」と進行役を買って出た。

 陛下以外はみんな通常運転である。


「はい。テレホマン様。この状況はむしろ我々の優位性が高まったと考える事もできるかと愚考いたします。ひ孫様がお強いのは元から承知のはずです。つまり、限界値を確認させて頂ける機会がある。それに合わせて陛下はさらに仕上がられれば、百戦百勝も夢ではないかと存じます」

「…………………………その手があったかぁ!! ぶーっははははは!! ワシの隣にはオタマがおるんや! 残念だったな! 現世の者ども!! ぶーっはははははははは!!」


 小声でテレホマンが尋ねた。


「百戦百勝ですか?」

「はい。テレホマン様。現実には一戦しかしませんので、これはオタマの想像です。そして私は皇宮秘書官でございます。愚考した事を具申するのも私の務めです。そして具申と表現している以上、私のようなただの新卒女子の戯言など信じるに値しません。それを仮に陛下が信じられたとして、責を負うのは私。しかし、その責が形となる頃には、もう果たすべきもの自体が存在していないかもしれません。そういう次第でございます」


 ぺこりと涼しい顔で頭を下げるオタマを見て「……今からでもオタマ様を皇帝に。いや。何を考えているのだ私は」と、数秒の間にクーデターを3度画策して、4度猛省したテレホマンであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ちょっと元気になられた陛下が急ぎ下知られる。


「合体じゃ! クイント! チンクエ!! 究極の戦士になってくれ!!」

「おうよ! じじい様! 皇帝の椅子はオレが貰うぜ!!」


「なんでそうなるんや!? まあええわ。上手いこと色々行ったら、皇族に戻してやるから! その先は励んで次の皇帝に相応しい行いをガンバの大冒険やで!!」

「良い……。陛下は死なない。まったく皇位を譲る気がないのに焚きつけて来るその姿勢は良い……。兄者が燃えるなら何でも良い……」


 現実を見ているチームがオタマを筆頭にテレホマン、六宇。

 現実無視チームが喜三太陛下とクイント。

 現実とか知らんけど兄者が良いチーム(ソロ)はチンクエ。


 やはりここまで生き残っているだけあって、皆メンタルが強い。


「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あ。いきなり始められるのですか。クイント様。お心残りはございませんか? このテレホマン、可能な限りお力添えを」


「へへっ! 金ぴかに光ってる未来に向かうんだぜ? 心残りなんて荷物、持って行くと思うか? 逆神クイント太郎でやれなかった事はよぉ! チンクエとひとつになって全部やるんだわ!!」

「……その前向きさが私には既に金ぴか、いえ、眩しゅうございます。逝ってらっしゃいませ」


 喜三太陛下の両手が輝く。



「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『融合身フユージヨン』!!」


 陛下。そのルビはあまりよろしくありません。



 クイントとチンクエの体が陛下の創り出された光球に引き寄せられ、ピタリと密着する。

 そちらはそちらであまりよろしくない所作だが、もう始まったものは止められない。


 どこかで損切りするというブレーキが付いていれば、こんな事にはなっていないのだ。

 1度買ったらその株に全ツッパ。

 信用取引上等なので追証だってどんどんくべちゃう。


 光の中からガチムチで顔はシュッとした男が現れた。


「私の名はチンクイント。皇敵を滅ぼし、兄者の遺志を継ぐ者なり。良い……」


 合体戦士・チンクイントの誕生である。


「陛下?」

「これで勝つる!! やったで、テレホマン!!」


「はっ。それで、陛下。よろしゅうございますか?」

「よろしくはないから、何も聞かんで欲しいな!」



「チンクエ様の要素が極めて強く出ているように見えるのですが。いえ、私ごとき八鬼衆の一席がどうこう申し上げられる次元はとうに超えている事、重々に承知してございます。ござまいますがゆえに、客観的、いちオーディエンス視点で申し上げますと。……クイント様はどこに行かれましたか? 名前の段階でチンクエ様が頭を取っておられますが?」

「………………………………みんなの心の中、やで」


 失敗したのか、予定通りなのか。



「やばっ。なんかちょーカッコよくなったね! えーと。……チンクエ!!」

「おっほぉぉぉぉぉぉぉ!! 六宇にカッコいいって言われたぁぁぁ! よし! 新築の中古アパートを買おう! そして住もうぜ! 六宇!!」


 クイントが出て来た。


「陛下?」

「…………………………」


「陛下!!」

「いや、聞いてくれ。テレホマン。ワシ、このスキル使ったの初めてなんや。若い頃の十四男がすっげぇ使いこなしてたから。あいつすごいよな。分身もできるし、合体もできるし。それで、やで? 十四男は出した分身を合体させたりしてたんやけどさ。ワシ、分身出した事もないんよ。じゃあさ、スキルは覚えてても試す事ってできんやん?」


「つまり、ぶっつけ本番だったと仰っておられる。よろしゅうございますか?」

「せやな!!」



「貴重な人員を失敗上等で試されたのですか? 死に体の兵ならば、200000000歩譲って理解差し上げますが。クイント様もチンクエ様もまだ十二分に戦力としてカウントできましたが。陛下?」

「…………………………せやな!! でも成功したやんか!!」


 テレホマンが「シャモジ様を失った事がこれほどの痛手とは」と今はみみみ印の旗を仰いでいるかつての忠臣母さんの出奔を憂いた。



 とはいえ、なんか合体は完了した。

 取り急ぎの仕事なんてどこかしらにミスが出るものである。


 完璧な仕事ができる時、人は取り急いだりしない。


 これは小学生の頃の夏休みの宿題から脈々と受け継がれる、仕事の流儀。

 完璧な計画と立案を実行できる力。


 それさえあれば取り急がない。


 ただ、それを得る事が極めて難しい事もまた真理。


「勝てばええんや! 行けるな! チンクイント!!」

「陛下。無理だ。まだ調整できていない。それも良い……。ふぉぉぉぉぉぉ!!」


 取り急いだ結果、仕事が渋滞したとしても。

 勝てばええんや。


 バルリテロリサイド、まだまだ降伏するつもりは毛頭ない。


「オタマ様」

「はい。テレホマン様。降伏のタイミングなどとっくに逸していると私は愚考します」


「いえ。愚考などとは呼びますまい。賢人のそれでございます」

「はい。テレホマン様。恐縮です」


 毛根はあったけど、とっくにハゲていた。


 繰り返し愛国心高きバルリテロリ臣民に告ぐ。


 勝てばええんや。

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