第1153話 【肌着ではなく服をください・その3】『ダンディ・サービス・タイム』

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 やっぱり1度くらいは『苺光閃いちごこうせん』の最大出力を浴びせてみたいという良くない知的好奇心を掻き立てられる、耐久力極振りタイガーの絶叫が響く。

 ダズモンガーくんはまだ死んだ事はないものの、恐らく本当に死ぬ時は絶叫が断末魔の叫びに変わるはずであり、イントロこそ「ぐあああ」なのは疑いようもないがアウトロに向かって少しずつデクレッシェンドになっていくはず。


 悲痛なはずの叫びを1つの音楽に昇華させる、エンターテイナーなトラさん。


 そんなダズモンガーくんによってクイントの放った童貞砲が少しばかり押し留められる。

 押し戻せはしないが、元々の弾速がかなり鈍いのでダズモンガーくんがる事の意味は大きい。


 みんなが辞世の句を詠む時間ができる。


「私が代わろう。ダズモンガー殿。不甲斐ない事、この上なし。身をもって仲間を救うそのお姿、感服した。このバニング・ミンガイル。最期の戦いの時間を稼いでいただいた事、感謝する」

「バニング殿。お言葉ではございまするが、傷ついたあなた様ではとても耐えられませぬぞ。吾輩がもうしばらくっておきまするゆえ!!」


 死にかけているはずなのに呼ばれたら「あ、はい。なんでしょうか?」と普通に応対する、さらには「あなたにはちょっと荷が重いので、吾輩が代わりにもうしばらく死にまする」と代替案まで出せる、自己犠牲トラの鑑。

 しかしなんかピカピカしているバニングさんを見て、考えを改めた。


「ぐーっははは! これは吾輩、無粋でございましたな! 戦士の決意を不意にするは武人にあるまじき愚行でございまする!!」



 念のために付言しておきますが、ダズモンガーくんは武人です。



「何から何まで、痛み入る。ぬぅぅぅりゃ!!」


 童貞砲を真正面から受けて、バニングさんがきたねぇ光の中に消えて行った。


「みみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみっ!!」


 芽衣ちゃまアラートも出ようというもの。

 彼女の前で人死は不敬な気もするが、サービスさんはそれで良いのか。


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 良さそうである。


「ふん。芽衣ちゃま、驚かせてしまいチュッチュ。チュッチュチュッ。アトミルカの雄には『ピンポイント・サービス・タイム』を発現してある。つまりチュッチュだ」

「みっ! さっき、お外でダズモンガーさんがやってたヤツです! ……みっ? でもあれ、ダメージがなくなる訳じゃないです?」


「ふん。芽衣ちゃまの聡明さには頭がフットーしそうになる。チュッチュ。いかにも。俺は継続してスキルを発現し続けている」

「みっ? みみみみっ? でも、それならバニングさんが動いてるのはなんでです? みー?」


「チュッチュ。チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ」


 頭がフットーしたのだろうか。

 やって来たのはこちらの乙女たち。


「にゃはー!! あたしの出番が来てしまったぞなー!! 何もしなかったら後で怒られるし、目立ったらおっぱい狙われるし、困っとったぞなー!! そこに飛び込んで来たミッション!! バニングさんの身体は今! 瑠香にゃんのおっぱい成分でコーティングされとるのだにゃー!!」

「ぽこ。どうしてぽこが偉そうなのですか。そのエネルギー、瑠香にゃんのヤツ。端的モード。おっぱい成分って言うな。プリンセスマスターがあっちにおるんやぞ。このポコ野郎」


 説明しよう。


 まず瑠香にゃんの生体エネルギーをクララパイセンが瑠香にゃんのおっぱいから抽出。

 これはぽこますたぁにしかできない。


 抽出した生体エネルギーでバニングさんをコーティングする。

 これで氏は死にかけた状態から再度ギリギリ死んでない状態まで回復。

 同時に、瑠香にゃん成分で作った膜はどら猫を異空間宙域という、人類が到達していないので宇宙空間よりもなんか怖そうな場所でも活動させられる万能な薄いパイロットスーツ的なナニか。


 その薄い膜にサービスさんが『ピンポイント・サービス・タイム』を発現する。

 すると、バニングさんの時間は動いているのに身体を覆っている瑠香にゃん生体エネルギーは時間停止しているので、それに触れたものも同じく時が凍りつく。


 一時的にスターを拾った配管工が如き無敵タイムをゲットするに至る。


 が、先のダズモンガーくんがそうであったように、サービスさんのスキルが解除された瞬間が全ての終わり。

 凍りついていた時間とダメージ、全てが動き始める。

 その被害は甚大。


 これがバニング・ミンガイルの到達した最終決戦フォーム。



 ダンディ・サービス・タイムである。



「みー? みーみーみーみー? ……み゛っ! じゃあバニングさんの危険が危ないです!! み゛み゛み゛!!」

「ふん。芽衣ちゃま。男は命を賭けてでも守らねばならんものもある。矜持だ。あれは高みに立つ者だった。チュッチュチュッチュ」


「にゃー。サービスさんが練乳吸いまくってるからシリアスも吸い取られて行くぞなー」

「ふん。猫。俺ほどの高みに立つ者でも煌気オーラは底なしではない。練乳を吸わねばやってられん。それに。逆神(嫁)を見ろ。あれも既に動いている」


 そういえば莉子ちゃんが何も喋らなくなって久しかった。

 なんか食ってるかなんか飲んでるかどちらかだと思っていた諸君にはアツアツの猛省を求めたい。


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! …………ぁ。やっぱり走るの厳しいかも。キャミソールまで破けたらわたし、もうほんとにダメだよ。うん。ネクター飲もっ」


 猛省はキャンセルと厨房に伝えておきます。

 失礼しました。


 こちら当店のサービス、練乳です。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 光るバニングさんが童貞砲の直撃を喰らってなお、姿を変えずに吶喊する。

 瑠香にゃんエネルギーで覆われている上から時間を停止しているので、姿どころか表情も変わらないし、喋っているのに口も動かない。


 しかし煌気オーラは放出されるし、動きは速いし、言葉を発する。


「ぎゃー!? 怖い、怖い怖い怖い!! クイント!! どうにかしなよ!!」

「ふははは!! オレも怖いわ!! バニングぅ!! おめぇ、どうなってんだそれぇ!!」


「ふっ。戦いの女神は私にとって常に1人。アリナ様。感謝いたします。私に最期の機会をくださったことに!! ぬぅぅぅぅぅりゃぁぁぁぁ!! …………? おいぃ!!」


 瑠香にゃんエネルギーで覆われているためバニングさんの中身が動いている事はギリギリ納得しよう。

 『時間停止もの』学の権威に怒られた場合は謝罪して訂正する。


 しかし、外側は凍った時間に干渉されているため、そもそも走る事すらも不可能なはず。

 莉子ちゃんみたいに無理やり動けばスキルがかき消されるので今度はダメージが大挙してご来店、バニング支店が倒産する。


「ふん。……距離が遠くなったのでよく見えん。おい。猫。今、アトミルカの雄は何をしようとしている」

「うにゃー。必殺拳を繰り出そうとしたのに腕が動かなかったから、なんか気まずい感じになっとりますにゃー」


「ふん。悪くない」

「いえ、最悪ですわよね? 莉子さんとバニングさんの2段構えで攻めるというからわたくし、了承しましたのよ? 莉子さんはジュース飲んでおられますし! バニングさんの操縦くらいちゃんとなさいませ!!」


 どら猫と練乳チュッチュマンの能力おさらいタイム。

 クララパイセンは視力強化ができるので、遠くのものでもくっきりハッキリ。

 バニングさんの求める行動はほんのり分析スキルでほんのり把握。


 サービスさんはどら猫情報に従って、「パンチですにゃー」と言われたら「ふん。右か左か言え」と応じて例えば右腕だけ『ピンポイント・サービス・タイム』を一時解除する。

 解除し過ぎるとバニングさんが凍っていたダメージで死ぬため、すぐスキル効果発動状態に戻す。


 綱渡り戦法の極み。


 ただしパイセンの伝達とサービスさんの聞く力は頼りにならない。

 早速伝達ミスが発生し、バニングさん最期の拳が飛び出さなかった。



「サービスさん! わたくしだって怒りますわよ!! いい加減になさいまし!! 練乳ばっかりお吸いになられて!! 栄養偏り過ぎですわ!!」

「み゛ー!! ラッキーさん! めっ! です!! み゛!!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。



 バニングさんの右腕が急に動いた。

 練乳チュッチュマンはもしかすると怒られる事で快楽を得るタイプなのかもしれないが、今はその話をする時ではない。


「ふっ。両腕を動かしたかったのだが。まあ、利き腕だっただけラッキーとしよう。……あの男を名前で呼ぶのは抵抗があるな。ライアン殿のように友誼を結べるだろうか……。ぬぅぅぅぅぅぅぅりゃぁぁぁぁ!」


 バニングさんの煌気オーラが全て、右の拳に集約される。

 その輝きは命を燃やすが如く。


「冗談ではない!! これを相手に命を燃やして堪るか!! 燃やすは憤怒!! なにゆえ、私はこれを相手に戦いの人生を終えねばならんかぁぁ!!」


 それはそう。


「これでお前が死ぬとは思わんが!! 退場してもらうぞ! クイントぉぉ!! 『一陣魔斧刃の極大拳ブラストナックル・フィニッシャー』!!!」

「ふーっははは!! 揉みしだいてやらァァァ! ぁぁぁ!? ……痛い」


「拳で放つは打突に限らず!! 私が何十年の間ァ! 斧を振り続けたと思っている!! 刻まれながら吹き飛べぇ!!」

「ひぃんっ!! あ゛あ゛あ゛あ゛!! ほぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 クイントがちゃんと吹き飛んで行った。


「……あの愚物を相手にこれが精いっぱいとは。老いたな、私も。だが! 次代の戦士が育っている事を忘れるな!! 莉子!! 後は任せる!!」


 バニング・ミンガイルの孤独な戦いの生涯は終わった。

 今は多くの仲間がいる。



「ふぇ!? ……コクコク。……ぁ。ネクター飲んでました」

「お前と六駆は似合いだ。たまには私も叫ぶくらい良かろう。……クソがっ!!!」



 バニングさん、死亡フラグをへし折る事に成功。

 あとは買掛金のダメージに襲われるのを待つだけ。


 追加で莉子ちゃんと連係ミス。


 これって死亡フラグが継続していることになりませんか。

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