第1152話 【肌着ではなく服をください・その2】「ダメだよ! できないっ! あの子を撃ったら服が燃えちゃう!!」 ~獲物を捉えた瞬間にもうそれが自分のものになるのはハンターの基本~

 小鳩隊の陽動作戦に動きアリ。

 劣勢を極めてもはや撤退もままならぬところまで来ていたところに、思わぬ援軍が到着。


 以下、イカした仲間の紹介である。


 開幕でるのがついに常態化したダズモンガーくん。

 覚醒クイントのビームを喰らって、ちゃんとって、そして会話に復帰する。

 確かにクイントも相手がニューおっぱいだったのでかなり手加減はしていた。


 だが、バニングさんが辞世の句を詠み過ぎて廃人どころか俳人にさせられそうなほどの進化を遂げた覚醒クイントの一撃すらもクッキングタイガーのモフモフした冬毛は貫けず。


 ダズモンガーくんに「ふん。芽衣ちゃまを守れ」と言って、ちゃんと守ったらみみみと鳴く可愛い生き物に心配されているのが羨ましくなり「殺すぞ」とか言い出した、情緒不安定な男、ラッキー・サービス氏。

 基本的に改心していないが、それ以上に芽衣ちゃまへ心酔したので「芽衣ちゃまの友達はだいたい友達」という意識を獲得。


 とりあえず今はダズモンガーくんの尻尾が憎い。


 遊撃隊にさせられたみみみ部隊の主、木原芽衣ちゃん。

 未だに「みみっ。芽衣は1番弱っちいです。みみみっ」という評価は誰にも譲らないが、自身が未熟だと思える事それ即ち成長の伸びしろしかない、キュートな可能性の獣。


 「み゛。うぜーです」と鳴くだけで最強格のゴリラさえも即死させる力を保持してなお、高みを目指すなんか可愛い生き物。


 そして真打。


 肌着で最終決戦には挑みたくないけど、クライマックスでは旦那の隣で一緒に『ラブラブいちご大竜砲ドラグーン』をキメるのは絶対譲れないよぉとリコシックレコードに刻んでいる、小坂莉子ちゃん。

 そんな夫婦になる前に作る大事な思い出に、キャミソールとオレンジの見せパンでは出席でない。

 乙女の思い出のドレスコードに引っ掛かる。


 目標は「これは限りなく絶対なんだけど多分わたしと同じ体型だから絶対に服を借りたらわたしも女子高生に戻れると思うの絶対。多分だけど絶対」と信じて疑わない、名前も知らない女子高生六宇ちゃん

 ちなみに六宇は喜三太陛下の直系のひ孫なので、今は呉の人と交流中の孫六と同じく莉子ちゃんにとってはガチで親戚になるであろう乙女。

 女子高生で女子高生を洗う、非情な戦いが幕を開ける。



「無理だよぉ!! わたし、全力なんて出せないっ!! だって!! もしあの子が予備の制服持ってなかったら!! あの子の制服をわたし、貰わないとだもんっ!! 無事にゲットするためには何もできないよぉぉ!!」


 幕を開ける前に獲物の皮を剥ぎ取る想定が邪魔して幕が下りそう。



 だがしかし、さっきまで公立校が大阪桐蔭高校と試合をしてる様相を呈していたのに、急にオールスターチームになって、大阪桐蔭高校がロサンゼルス・ドジャースと仕合う感じに様変わり。

 大谷翔平選手、ご結婚おめでとうございます。


「バニングさん、バニングさん! 希望と絶望の種がいっぺんに来たぞなー! 元気出すぞなー!! 出せー! 出せにゃー!!」

「ぽこ。揺らさないでください。ぽこの太ももはどうして程よいムチムチなのですか。もっとむっっっちりしていてください。端的モード。おっぱいとバランス取れ。ギャルゲーヒロインのスタイルみたいになるな。リアル路線で太れ」


 今のところ現世チームの纏めはこうなる。


 小鳩隊は半壊。

 健在なのは鎧によって着替えと身体をまだ守れている塚地小鳩Aランク探索員。


 以上。


 バニング・ミンガイル氏は後背から急に苺色の砲撃を喰らったので意識不明。

 跡見瑠香にゃん特務探索員は「スリープモードです」と言いながら口は動いて、身体は動かない。


 その2名に太ももを1つずつ貸し与えているのが椎名クララどら猫探索員。

 ほどよい肉付きで枕としてもなかなか有用だが、莉子ちゃんのムチムチムチムチ加減に比べると所詮は人の子。

 一時的な枕にするのが関の山である。


 バニングさんは仕方がないとして、瑠香にゃんとクララパイセンは戦えるはずなのだが、猫の危機意識がそうさせるのか、自主的に戦力外になっている。

 どっちもこの戦局なら活躍の場の方が多いのに。


「ふん。俺がやろう。チュッチュチュッチュチュッチュ」

「みみっ! 芽衣も頑張るです!」

「ぐーっははは! では吾輩は盾となりましょうぞ!!」


「ふん。トラ。下がってろ」

「みみみっ! 3人一緒が良いです! みみみみみっ!」



「ふん。トラ。お前はトラ。人じゃない。獣魔人だ。つまり、人間の方が偉い。分かるな。高みに立つネコ科」


 思い出したように選民思想を始めたサービスさん。

 練乳が足りていないのか。



 時に、戦場ではお喋りしている間をきっちり待ってくれる者と、お喋りしている間を利用されてデカい一撃のチャージに使っちゃう者の2種類の戦士が存在することをご存じか。


「ふははははははっ!! たんまり煌気オーラが込められたァ!! オレの愛の塊をォ! 喰らうんだよォ!! 特に清潔感のない白髪野郎とマスコットォ!! おめぇらはいらん!!」

「うっわ。不意打ちじゃん。ガチのヤツ。……ま。確かにねー。クイントがここで紳士ぶってもって感じだけどさー。……あたしの尻を見ながら叫ぶな!!」


 未だノータッチ、ガン見を貫く覚醒クイント。

 つまり、まだその上のステージを残している。


 「ふふふ。その意味が分かりますね?」と穢れた魂がのんきに囁く。


 君、もう戻って来られないかもしれないのに。



 亜種の方が戦場で割といい勝負してるから。



「おっほぉぉぉぉぉぉぉ!! 『桃が好きになった瞬間大砲ワンダフル・ピーチ・ビーム』!!!」


 何を見て、何を感じたのかとてもよく分かる大型煌気オーラ砲が放たれた。

 ちゃんと手から発射しているだけ、どこかの穢れた監察官とは違う。


 あれは全盛期ひどいときだと股間からなんか撃とうとしていた事すらある。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 太ももを貸しているので動けないと言い張るどら猫がしゅばばっと立ち上がった。


「ぐはっ」

「信じられない事が起きました。何かの間違いであって欲しいモード。ぽこ? 要救助者を太ももから叩き落としましたか?」

「にゃ……にゃはー」


 猫は咄嗟の時に立ち止まってしまう生物として知られている。

 驚いた時などは身体を硬直させて、数秒ほど動きが止まる。

 そのせいで悲しい交通事故が起きてしまう。


 このどら猫は普段から散々にゃーにゃー鳴いているのに、咄嗟の時の回避は人を余裕で凌駕する俊敏性を見せつける。

 自己弁護と自己正当化もお手の物。


「だってにゃー!! あのスキル! 六駆くんの『大竜砲ドラグーン』くらいの威力があるぞなー!! あたしがやられたら……えーと」

「ぽこ。今、言い訳を考えていますか。ぽこらしくもない。普通にバニング様とワタシを見捨てましたね? 瑠香にゃん、頭ぶつけました」


「あたしのおっぱいがなくなったら! 敵さんを引き付けられんぞなー!!」

「では今すぐその無駄な脂肪で死亡と隣り合わせになりながら引きつけてください」



「にゃー。瑠香にゃんが一休さんみたいな屁理屈言い出したぞなー。あたしが将軍様だったら、そんな舐めたこと言う坊主はパーンするぞな」

「よく分かりました。瑠香にゃん、ぽこをパーン。実行します」


 諸君も猫たちがじゃれている間に戦局が動くのはそろそろ見慣れたはずである。



 気付けば眼前に迫るクイントの童貞砲。

 名前が長かったので適切な略称に置換済み。


 既に小鳩さんが『銀華ぎんか』を展開してシールド構築しているが、やってる本人も「どうせ無理ですわよ。今、このメンバーでわたくしが最初に動いてですわよ? 仮に敵の攻撃をいなせてしまったら、そっちの方が事件ですわ」と捨て鉢になっている。


 長くチーム莉子に所属するとだいたいみんなこうなる。

 所属していない仁香さんですら、こんな感じになって久しい。


 銀色の花が次々と散っていく。

 「ほらご覧なさいですわ」と小鳩さんは言うが、それでもちゃんと『銀華ぎんか』の発現を続け、新しい花を展開させ続けているのはさすが世話焼きお姉さん。


「あたしは悪くないにゃー!!」

「ふっ。確かに、クララの判断も悪くなかった……。おかげで、私の意識が戻ったからな……。徒花を咲かせる機会を得たか……」


「ごめんなさいですにゃー」


 バニングさん、死地から舞い戻る。

 死地へ手向けたのは味方の乙女莉子氏なのだが、彼女にしては割とちゃんとした突入時の事故だったのでこれはセーフ。


 この世界のアウトとセーフの基準は主審によって変わるし、主審も感覚が麻痺して久しいのでハーフスイングくらいなら全部「アァァァイイイッッッすとらいく!!」とコールする。


「サービス。こうして話をするのは……クリスマスの前夜以来か」

「ふん。アトミルカの雄か。下がっていろ。死ぬぞ」


「貴様とは直接対峙した訳でもなければ、友という訳でもない。ただ、ミンスティラリアにデカいドームが出来て、なんか急に住み始めた。名前は知っているがそれ以外は普段何してるのかも知らない同じマンションの別の階の住民のような間柄。……恥を忍んで頼む」

「ふん。俺に頼み事とは。良いのか? 少なくともお前の友であるトラが先ほどから叫びながら盾になっている」



「ふっ。よく見る光景だ」

「ふん。確かに」


 そろそろ魔王軍も労働組合とかを立ち上げた方が良いかと思われる。



「お前のスキルは知っている。私に力を貸せ」

「ふん。俺に見返りがな」


「芽衣。後生だ……」

「……お前。いつから俺を無視して芽衣ちゃまと会話していた?」


「みみっ! サービスさん! 芽衣、子供だから分かんないです! でもバニングさんはいい人です! 助けてあげてです!!」

「ふん。ろくな死に方をせんぞ。アトミル」



「みみみぃ! ラッキーさん! みっ! ラッキーちゃん!! めっ! です! みみみみっ!!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。



「らゅねゃせょれぁ!!!」

「……感謝する!!」


 バニングさんの身体が光り始めた。

 童貞砲はすぐそこまで迫っており、ダズモンガーくんが頑張ってっているところ。

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