第1151話 【肌着ではなく服をください・その1】みみみ部隊、今回もやっぱり乱入させられる ~「みっ。莉子さんを止められるはずないです」~

 覚醒クイントがさらに荒ぶる構えを見せている。

 視点は戦闘中の小鳩隊へと戻って来た。


「ふっ、ふーっはははははは!! 六宇がァ! オレにィ! 尻を好きなだけ見て良いって言ってくれたからァ!! 今日はデカメロン記念日なんだわ!!」

「……死にたくなかったけど、なんか死にたい」


 ちょっと前に今わの際を経験した六宇がうっかり「尻くらい見たけりゃ見ろや! どうにかせぇ! 死んだら尻もただの肉塊じゃ!!」と心の叫びをキメてしまった結果、クイントがさらに覚醒を重ねる。

 遠くの異空間では「ふふ。あなたはまだまだ、欲望の満たし方がへたっぴですよ。あなたが本当に欲しいのは、視覚的な興奮ですか? 違いますよね? さては、童貞ですか? 触ってごらんなさい。とても……柔らかいんですよ?」と穢れた魂が囁いている。



 君、敵の心にまで語り掛けて来るようになったのか。



「さ、触って良いのか……? たかが命を助けたくらいで……? い、いいのか?」

「何言ってんの、こいつぅ!! ……ん? いや、でもそうだね。命助けてもらったのに、お尻見られるだけってすっごく安い気がしてきた」


 バルリテロリの方がいっそピュアまである。


「よし。皇敵を片付けて、戻って。とりあえず六宇の尻に触る許可を求めるところから始めよう。尻と対話じゃ!!」

「あたしに問いかけろよ!! あたしのお尻は喋んないから!!」


「い、良いのか……? お前にそんなハレンチな事を口走って……?」

「あー。もうさ、なにこれ。ドラクエ6の続きやりたい」


 このまま放置して置いたら時間稼ぎはできそうだが、小鳩隊の目的は敵を可能な限り引き付ける事なので2人だけに時間を稼がれるのはまずい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バニングさんが心臓に両手を添えたまま会話を続けていた。

 銃口をこめかみに押し当てて交渉をするテロリストみたい。


 氏は元々テロリストだったので、巡り巡って行き着くべき場所に到達したような気もするが、それやるのはここじゃない感もすごい。


「では、私が先陣を務める。いいか。小鳩。クララ。そして瑠香にゃん。私が突っ込んだら迷わず全力でスキルを放て」

「うにゃー。バニングさん、バニングさん。さっきそれやって防がれたぞなー? モミモミされたぞなー? 唐揚げ美味しく作るならーだったぞな? モミモミーされたにゃー」


 これは話の腰を折る事でバニングさんの命脈を繋ぎとめるどら猫の慈愛か。

 それともただにゃーにゃー鳴いているだけか。


「ぽこ。瑠香にゃんのエネルギーがそろそろ足りないので、後は自前の煌気オーラで撃ってください。瑠香にゃん、行動不能になるのは構いません。でも、ここで動かなくなると道具として回収されて、色々とやられそうなので嫌です」

「だもんにゃー! つまりだぞなー! さっきのモミモミにかき消された一斉攻撃よりもずっと威力が落ちますにゃー!! ダメ、絶対! 失敗するぞなー!!」



 現実を鳴いているだけだった。



 バニングさんが「ふっ。それもまた報い!」と煌気オーラ供給器官に手をぶっ刺そうとした瞬間、後ろの壁が吹き飛んだ。


「たぁぁぁぁぁぁぁ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!」

「ぐっ……はぁ……」


「に゛ゃ゛ー!! バニングさんがなんか撃たれたぞなー!! あたしの太ももに顔が埋まったにゃー!! バニングさんの性格的にこれ、ガチのヤツだにゃー!! しっかりするにゃー!!」

「ぽこ。チア衣装がついに活躍しましたね。ステータス『そのまま太ももで死体を安置しとけ』を付与します。どうぞ」


 猫たちの中でバニングさんが殉職した。

 ご存命です。まだ。


「ほえ? あー! みんな!! 良かったぁー! ちゃんとみんながいる方に出られたよー!! さすが芽衣ちゃん!! ナイス索敵だよぉ!!」


 ヤったのがこちらの乙女。

 肌着じゃなくて服寄越せモードの莉子ちゃんである。


「み゛っ」


 パイセンの太ももに力なく埋まっているバニングさんを見て全てを察し、絶句したのが莉子ちゃんの指示で「どっちが小鳩さんたちかなぁ?」という疑問を解消した芽衣ちゃん。


「……み゛。芽衣、責任取って装備を脱ぐです。莉子さんに渡して、芽衣もクララ先輩の太ももで眠るように息を引き取るです。みっ……」


 莉子ちゃんはリーダーである前に生粋のアタッカーなので。

 芽衣ちゃんは後方司令官を経て、オールラウンダーに近づいたので。


 責任の果たし方がちょっとだけ違う、もうほんのちょっとした些細な誤差。



「あの! 小鳩さん! クララ先輩! 瑠香にゃんちゃん! どなたかすぐに服を脱いでわたしに貸してくれませんか!?」


 誤差をモーゼが海を割るがごとく凄まじい幅に広げていくスタイルの莉子氏。

 モーゼパイセンの見せ場はノアの大洪水なので、ノアちゃんも早くこっちに来るべきかと思われる。



 莉子ちゃんの姿を見て、まず瑠香にゃんが悟る。

 「危険を察知しました。スリープモードに移行します。ぽこ。太ももは片方空いていますね。瑠香にゃん、そこ使います」と自分から電源を落としにかかった。


「わたくし! これから敵に吶喊いたしますわ!! この鎧は粉々になりますわよ!!」


 「ご無事で良かったですわ」をすっ飛ばして「自爆するので服はなくなりますわ」と心臓を捧げる代わりに鎧はあげない構えの小鳩お姉さん。


「……にゃー。あたし、動けんぞなー! あと! このチア衣装のスカート短いからにゃー!! 莉子ちゃんがワカメちゃんになるのは忍びねぇぞなー!! ショートジャケットも短いからにゃー! キャミソール隠れんぞな!! にゃー!! にゃー!! にゃはー!!」


 鳴いて誤魔化すどら猫。


「ふぇぇ。みんな予備の装備は持ってないんですかぁ? 小鳩さんとか、絶対に準備してますよね……?」

「よ、よよよよよ、鎧の予備なんて持てませんもの!! くぅぅ! くぅぅぅですわ!! 悔しいですわ! 莉子さんのピンチですのに!!」


 なお、誰も莉子ちゃんに「どうしてこの子は肌着で活動しているのだろう」という疑問は抱かない。

 チーム莉子のチームワークを舐めてはいけない。


 彼女たちはいくつもの死線を皆の協力でかいくぐって来た、百戦錬磨の乙女たち。



「装備の寿命が来たんですわね。上下セットで……」

「にゃはー。ショートパンツちゃんが見せパンちゃんになっとるにゃー」

「ルベルバックの司令室で見た駄猫ぽことの類似率82%。危険水域です」


 分からいでか。

 過去の惨事と未来の惨劇、どっちも視えてこそチーム莉子の乙女である。



 実は小鳩さん、予備のインナースーツは持っている。

 潜伏機動隊が使う全身タイツみたいなヤツの簡易版である。

 鎧の下に着るヤツである。


 しかし、これはサイズ展開がかなりシビア。基本的にオーダーメイド。

 考えてもみてほしい。

 全身を覆うスーツなのに、胸部がブカブカだったら、太もも周りがパツパツだったら、ウエストがキッツキツだったら。


 莉子ちゃんの手に渡してなるものか。


 小鳩さんサイズのインナースーツを渡す事は必然的にガルルルルル化を引き起こす事になり、昔はそれで済んだものの最近の莉子ちゃん暴走モードは多岐にわたるため引きが悪いと敵味方問わず全滅する。


 さすがは小鳩さん。この中で1番のお姉さん。

 聡明である。


 ところで、乙女が戦場に増えたのだが。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!!」

「あんた、子供でもいいんだ?」


 クイントのストライクゾーンは広かった。

 ワンバウンドする低めから顔面に向かって来る剛速球、そしてど真ん中のストレート。


 全部が好球。全てを必打。

 30代後半童貞を侮るべからず。


「子供ォ? お前なァ。おっぱいのデカさが大人か子供かの区分じゃねぇって教えてくれたのはよォ! 六宇! おめぇだぜ!!」

「……ちっ。あたし、子供にカテゴライズされてんじゃん!!」


「ただなぁ。男児はない。いくら中性的でも、オレ同性は興味ねぇんだわ」

「は? あっち、女子しかいないじゃん?」



「いるだろ!! ランニングにパンツの戦災孤児みたいなのが!!」


 遠くの異空間で「残念ですよ。あなたは禁忌に足を踏み入れてしまった。おっぱいを、太ももを、お尻を愛するためにはね。触れちゃいけないモノもあるんです」と穢れた魂がため息をついた気がした。



 クイントは考え直した。

 確かにニューおっぱいには興味がある。

 成長過程である。成長を見守れるという事は多大なる付加価値。


 誰を見ての評価なのかは判然としないが、判然としたら信徒が武装蜂起しそう。


「仕方ねぇなァ!! やっちまうかァ!! おっほぉ!! 『突っつく人差し指トラストビーム』!!」


 バルリテロリのスキル使いではお馴染み、いわゆるデスビームである。

 人差し指から放たれる光線、その貫通力は絶大。


 なぜおっぱいという柔らかくも儚い、大事に触れるべきものに対して貫通力がバカ高いビームが発現されたのかと言えば、スキルはイメージの力。



 クイントは未だにノータッチなので、全力で突かないと失礼だと考えているのである。



 そんなビームが芽衣ちゃまに向かって放たれた。

 狙う相手はそれで良いのか。


 確かに急に出て来た新勢力を先に落とすのは戦いのセオリーではあるが。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふん。俺を怒らせるか。下賤な者。……トラ」

「かしこまりましてございまぐあああああああああああああああああああああっ!!」


 親衛隊を忘れてもらっては困る。


「み゛ー!! ダズモンガーさん!! みみみみみみみっ!!」

「ふん。トラ。またしても芽衣ちゃまの気を引いたか。……次にやったら殺すぞ」

「あんまりなお言葉でございまする、サービス殿」


 貫通力に特化したビームごときでダズモンガーくんは貫けず。

 サービスさんに火をつけた。


「あー!! あの子!! 制服着てるっ!! 制服って1着しか買わない子、いないよね? お洗濯の時に困るもん! そだ! ……貸してもらっちゃお!! おー!!」


 あと、莉子ちゃんに目を付けられた被害者が1人。


 戦局が変わるタイミングはいつも突然である。

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