第1150話 【莉子ちゃん敵国、旅は道連れ・その2】「……ふぇ!!」 ~【莉子ちゃん】別に敵さんじゃなくても、服着てる人がいれば交渉の余地はあるよねっ!!【気付いた】~

 ほんのちょっと前。

 ここは皇宮にほんのちょっと入ったところ。


 繰り返し、再三お伝えしているが、分刻みで戦局が動いているため、もう「ちょっと前」か「ほんのちょっと前」か「ほんのわずかなちょっと前」くらいしか表現の幅が無く、例えば〇秒前や〇分前のような描写をしたら最期、なんかパラドックスで世界が苦しむ。


 つまり、ほんのちょっと前。

 具体的にはクイントが覚醒するちょっと前。



 やっすい粗悪なAIでももっと上手く時系列を描いてくれるだろう。



 莉子ちゃんと芽衣ちゃま親衛隊の4人、正確には3人と1トラが皇宮の入口に到達していた。

 すぐに気付いたチーム莉子のリーダーにして、今はあられもねぇ姿の莉子氏。


「これ、六駆くんのスキルだ!!」

「みみっ! 六駆師匠だったら、きっと莉子さんが呼んだら来てくれるです!!」


「ダメだよぉ! だって! 今のわたし、ちょっぴりはしたないもんっ!!」

「み゛っ。……ちょっぴり、です。みみみみみみみみみみみみみみみみみみみみっ」


 アラートが出た。


「芽衣ちゃんはまだ子供だから分かんないかもだけど。だけどぉ! プライベートとお仕事は違うんだよぉ! おうちデートと職場デートは違うんだよぉ!! わたし、こんな下着だか肌着だか分かんない恰好で戦場に出てる子って六駆くんに知られたくない!! まだこーゆうのはちょっぴり早いよぉ!!」


 芽衣ちゃんは「みっ。魔王城で暮らしてる時に師匠の部屋から出て来る莉子さん、だいたいこんな感じの格好してるです。……みみっ」と思ったが、聡明なみみみと鳴く可愛い生き物はそんな事を口にするはずもなく。



「みっ! 芽衣、子供だから分かんないです!! みみみっ!!」

「あはは! もう少し大人になったらきっと分かるから焦らなくても平気だよっ!!」


 一生分からない可能性も多分にある。



 とりあえず六駆くんたちがもう戦っている、あるいは作戦行動に入っているという事は認識した芽衣ちゃま親衛隊と服が欲しいソロ乙女。

 ならばどうしたものか。


「ふん。煌気オーラか。戦場が近いな」

「み゛っ! ラッキーさん! めっ!! めめめっ! ですっ! み゛ー!!」


「ふん。気のせいだった。チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュ」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 莉子ちゃんはスキル使いになってから1年半と少しのキャリア。

 そして、そのキャリアの中で役立たずになったりポンコツになったり、煌気オーラお漏らし乙女になったりしていた期間を除くと、実労働時間は1年に満たない計算。


 ちょっと注意力が散漫になると秀でている煌気オーラ感知すらも一緒に散漫になる。


 なら芽衣ちゃんだってキャリアは似たようなものではないか。

 そう思われるのは芽衣ちゃまへの崇拝がいささか足りない証拠であり、近くにいる白髪野郎に練乳ぶっかれられる前に思い出して欲しい。


 彼女はおじ様という諸悪の根源から幼少期の時点で既に煌気オーラを当てられ続けていたため、覚醒するどころかどんどん閉じこもっていたものの、感知能力、特に危機察知能力は天性のものが備わっていた。


 みみみアラート歴はもう10年を超えるでぇベテラン。


 とっくに小鳩さんたちが割と近くでドンパチやってる事には気付いている。

 当然、増援に向かうのはやぶさかでない。

 むしろ積極的に向かいたい。


「ほえ? ……あ! 本当だ!! なんか戦ってるね!!」


 莉子ちゃんにソロ活動を始めてもらった後で、可及的速やかに。


「みっ……。莉子さん、衣裳部屋みたいなのを探すです? お気を付けてです! みっ!!」

「うーん。そうだよね。この煌気オーラ、クララ先輩たちだもんね。ちょっと恥ずかしいかもだよ……。わたし、どこかで服を手に入れてからの方が良いよね。だってリーダーだもん。隊長だもん。公式記録に残るもん。嫌だもん」


 静かにしていたダズモンガーくんがついに口を開いた。


「ぐーっははは! 莉子殿もやはりまだまだお若い! お仲間がいるのであれば、服をお借りすればよろしゅうございましょうに!! 誰も何一つ持っておらぬという事はさすがにないかと思いまするが!」


 このトラさんは失言する事にも定評がある。



「み゛。……『一寸ミニミニ発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』です! みー!!」

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 芽衣ちゃまのお仕置きがついにダズモンガーくんにも牙を剥いた。



 その可能性だけは莉子ちゃんに与えてはいけないのである。

 彼女たちは敵が誰だかまだ分からない。

 確実に女子なのは全員が自軍。


 フレンドリーファイアしか起きない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「そっかぁ!! そうだよぉ!! 別に、敵さんから服を借りなくても! クララ先輩か小鳩先輩に借りたら良いんだよ!! 2人とも、頼りになるもん! あとあと! 瑠香にゃんちゃんは平均的な18歳女子のスタイルだから! わたしと一緒!! 最悪、瑠香にゃんの装備を借りよう! 水着ってちょっぴり恥ずかしいけど……。学校の水泳の時間にも着てたし! キャミソールと薄い短パンよりはマシだもんね! そうしよー! おー!!」


 良くないものほど足が速い。

 SNSの炎上、企業の不祥事、政治家のスキャンダル、その他たくさん。


 昼寝して起きたらもう見えないところまで走り抜けている。


「ふん。トラ」

「面目次第もございませぬ」


「ふん。お前。芽衣ちゃまにお仕置きされたとて、良い気になるなよ」

「サービス殿。若返りと加齢による強化というものは情緒がおかしくなるのでござまいするか?」


 ダズモンガーくんは平時で常識人、もとい常識タイガーなので有事でも常識を持ち出して来るが、それはチーム莉子にとって最も不必要なものである。

 「シンプルなルート」を用意するといけない。


 「次の交差点を右折、その後に左折、しばらく道なりです」とカーナビが教えてくれたら「ほえ? じゃあこの道を直進した方が早いよね?」と最短ルートを勝手に導き出し、一方通行でも大型貨物自動車ムチムチ通行禁止でも、信号が赤でも迷わずゴーゴゴーしてしまうのが六駆くんの戦闘思考を愛によって捻じれ履修した莉子ちゃんのジャスティス。


 正義は行使しなければならない。

 ただし、一方の正義が他方でも正義とは限らない。


「みーみーみーみーみーみー。芽衣はどうしたら良いです……?」


 芽衣ちゃんはもうルート変更をとっくに諦め、惨劇速度を落とす遅延行為も想定しておらず、今は「み。どうすれば被害が抑えられるです? クララ先輩か小鳩さん、瑠香にゃんさん。何人守れるです?」というトリアージに取り掛かっていた。


 全てを守れるならばそれが1番良い。

 けれども、それが叶わないのならば、せめて守れる命、いやさ、守れる乙女の羞恥心に優先順位をつけて選別する事も必要。


 残酷なのではない。

 可能な限り命を救うためには必要な措置なのだ。


「ふん。芽衣ちゃま。責任を背負い過ぎるなと言ったはずだ。俺が引き取ろう」

「みっ? サービスさん。芽衣、子供だから分かんないです。分かんないけど、なんだかヤメておいた方が良い気がするです。み゛っ」


 サービスさんがポケットから練乳チューブを取り出した。

 いくつ入っているのだろうか。


 それを莉子ちゃんに差し出す。


「ふん。逆神(嫁)。戦うならばエネルギーが必要だろう。これを使え」

「なるほど。考えましたな、サービス殿。確かに莉子殿は甘いものを見つけると、樹液にたかるブブリドンが如く引き寄せられまする……!」


 ブブリドンとはミンスティラリアに生息するカブトムシみたいなモンスター。

 ずんぐりと丸っこく愛らしいフォルムをしている。



「あ。大丈夫です。練乳ってなんだか。それ、わたしにお乳を吸えって事ですよね? ちょっとそういうの、女子として良くないかなって」


 莉子ちゃんの乳アレルギーに抵触したので、練乳は受取拒否された。



「ふん。やはり異次元に立つか、逆神(嫁)。チュッチュチュッチュチュッチュ。すまんな、芽衣ちゃまチュッチュ、俺はチュッチュだった」

「みっ。仕方ないです」


 お仕置き待ちだったのに、それすらもしてもらえなかったラッキーさん。

 アンラッキーさんになったので、ちょっと煌気オーラの質が低下した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 軍議のような、相談のような、雑談のような、とにかく何かの話し合いをしていた芽衣ちゃま親衛隊と服が欲しい莉子ちゃん。

 おおよそ2分くらいの時間だっただろうか。


 クイントが見せパンによって煌気暴走オーラランペイジをしたタイミングと時計の針が重なる。


「み゛っ」

「ふん。悪くない。……高みに立つ者はこの地にもいるか」


 高みには立っていないのだが、強力な煌気オーラを感知した3人と1トラ。


「ぐーっははははは! 吾輩、あまりの衝撃で尻尾がボワッとなりましてござまするぞ!!」

「みっ! みーっ!! みみみぃ!!」


 とりあえず芽衣ちゃんがダズモンガーくんの尻尾を握った。

 モフモフしていたらしい。



「ふん。ここで雌雄を決すか。トラぁ!!」

「サービス殿はそれだけ糖分を摂ってなおイライラされまするか!? 良くないでござまするな!!」



 この瞬間、芽衣ちゃんはダズモンガーくんの尻尾に注意が向き、ダズモンガーくんはサービスさんの殺意に反応し、サービスさんは芽衣ちゃんに握ってもらえる尻尾がない生き物としてこの世に存在した事を悔やんだ。

 おわかりいただけただろうか。


 莉子ちゃんがノーマークになっている。


 このストライカーをフリーにしてはいけない。

 自軍のゴール前でも構わずに敵陣へシュートを撃つのが莉子ちゃんスタイル。


 チラベルト氏だってゴールを放棄して前線へ出るのに。

 莉子ちゃんはまずシュートしてから動く。


「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!」

「み゛ー!!!!」


 莉子ちゃんが太ももから苺ジェットを出して、無限の彼方へさあ行くぞバズライトイヤーした。

 ショートパンツから短パン(肌着)になったので噴射する太もも面積も広くなっており、そのスピードは無類であった。

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