第1149話 【国を護るミニスカ・その3】バニングさん最期の決意「あれを相手に死んで堪るか」 ~本当にそれ~

 逆神クイント太郎、煌気暴走オーラランペイジに至る。

 暴走しているのは理性や道徳心や倫理観とかの社会通念上における常識だろうと言われることなかれ。



 だいたい合ってるので特に反論がない。



「ふっ、ふふふふ、ふーっはははは!! オレは気付いた! 心の中でこれはナマモノだと思いこむ事で!! もはやスカートの中は全部ボーナスアイテムになるという事になァ!! いい気分だぜ……? なぁ? バニングぅ? おめぇの嫁は女子大生って言ったか? オレの嫁はよォ! 女子高生なんだわ!! ふーっははははははははは!!」


 遠くの異空間で「どうやらまた1人、真理の扉を開いたようですよ。仁香すわぁん」と目を細めている男がいた。

 そういえば彼も真理の扉を連チャンさせて開きまくった結果、坂を転がるどころの勢いではなくヘリコプターから鉄球を落としたくらいの速さで堕ち切った。


 そう考えるとクイントはまだ手順を踏んでいる気がして来るのだから質が悪い。

 あれは日本に8人しかいない監察官の一角なのである。


 あれでも。


 荒ぶるクイントの隣ではプルプルしながらも気丈に口を真一文字に結び、ローファーに煌気オーラを蓄える六宇。

 ローファーで蹴り技を繰り出していたのか。


 見た目はパパ活おじさんにかどわかされた女子高生だが、合意の上なのでこれはセーフ。

 合意の上だろうがアウトになるケースの方が圧倒的多数、しかしここはバルリテロリ。

 現世の法律では裁けない、独裁国家なのである。


「いかん。皆、もう一度だ。一斉にスキルを撃て!」

「バニングさん……。わたくしのために指揮を執ってくださっていますのね……。いいえ! わたくしも日本探索員協会所属! お師匠様の教えを受けた、塚地小鳩Aランク探索員ですわ!! 外部協力者のバニングさんに責任を背負ってもらうのはナンセンスですわよ!!」


 小鳩隊長も取って置いたとっておきを発動させる覚悟を決めた。


「……瑠香にゃんさん。出番ですわ」

「はい。ご主人マスター」


「瑠香にゃん砲の準備ですわよ」

「ご主人マスター。周囲が割と凄惨な感じになる確率、81%です。それでもよろしいですか?」


「よろしいですわ!! クララさん!」

「うにゃー! 頑張ってにゃー!!」



「瑠香にゃんさんに指示してくださいまし!!」

「にゃん……だと……。それ、結局あたしの胸三寸で瑠香にゃんの攻撃が決まるって事だぞな……? 責任の比率、あたしが1番マシマシじゃないかにゃ……?」


 「急げ! クイントが胸三寸という言葉に反応した!!」と叫ぶアトミルカの雄。

 ものすごく緊迫している事だけは分かった。



 バニングさんはぷらんぷらんじゃなくなった利き手に煌気オーラを、小鳩さんは瑠香にゃんランスに『銀華ぎんか』を纏わせて、瑠香にゃんが右手首を外して動力炉からエネルギーを集約し始める。


「……瑠香にゃん、瑠香にゃん? そんな、サイボーグ桃白白のスーパーどどん波みたいな感じでこれまで瑠香にゃん砲は撃ってなかったよにゃー?」

「ぽこ、気付きましたか。セーフティを解除しました。身を守る時に出し惜しみをする事ほど愚かなものはありません。ちなみに両手首を外すヘルズフラッシュタイプもあります」


「瑠香にゃん、瑠香にゃん? それ撃ったらどうなるぞな?」

「分かりません。撃ったことがないため、データが存在しません」


「小鳩さん、小鳩さん? これ、あたしの合図で発射されるぞな?」

「そうですわよ! お急ぎになられるんですわよ!! もうお排泄物の方が手を気持ち悪い感じで動かしておられますわ!!」


「バニングさん、バニングさん? 指揮官経験豊富なバニングさんのご意見を聞きたいにゃー。これで仮に死者とか出たら、それってあたしの責任ぞな?」

「クララ。これは戦争だ。私たちも、そして敵も。命はとうに捨てている。気に病む必要は……。いや、なに、嫌な気分になるのはほんの数か月だ。ああ、お前の場合は責任の所在についてだったか。……ミンスティラリアで農業をするか?」


 よく分からない間にパイセンが追い詰められていた。


「ふーっははははははごふごふごふっ!! じじいみてぇに上手く高笑いできねぇな。よし! 景気づけにオレが最初に狙ったどらねこおっぱいゲットして、チュッチュするかァ!!」

「に゛ゃ゛。………………」


 どら猫脳がフル回転した。


「瑠香にゃん。やっちゃえにゃー」

「はい。瑠香にゃんはやっちゃいます。超瑠香にゃん砲、照準合わせ完了。対象は性犯罪者。巻き添えが無辜の女子高生です」


「ふっ。民間人の被害も厭わんか。クララ、立派な戦士猫になったな……! ぬぅぅぅりゃあ!! 『一陣の拳ブラストナックル』!!!」

「ええ! クララさん! この土壇場でとんでもない決断をしましたわね! ウォーロストに収監されることになっても大学の後期試験だけは受けさせてもらえるようにわたくし、南雲さんにお願いいたしますわ! 『桃色投擲槍ピンキーストライク花盛りブルーム』!!」


「……戦争ってクソだにゃー」


 小鳩隊の一斉攻撃がクイントと六宇に襲い掛かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぎゃあー!! 嘘でしょ!? キサンタのスキルくらいすごいのが来た……。あたし、恋愛もしないまま死ぬんだ……」


 六宇はスキル使いではないが、非凡な才能によって相手の力量はかなり正確に推し量ることができる。

 バニングさんの飛んで行くタイプ『一陣の拳ブラストナックル』が最も低威力という、ついにインフレが発生した小鳩隊。


 次いで小鳩さんの8000以上咲かせていた『銀華ぎんか』が一本の槍の周りで舞い散りながらゴウッと音を残して飛来する。

 何とかインパクトが起きそう。


 最後に瑠香にゃん砲、いやさ超瑠香にゃん砲が迫る。

 説明不要の超弩級砲であり、『苺光閃いちごこうせん』をモチーフにミンスティラリアの魔技とペヒペヒエスの科学が共同開発する事で顕現した、人に産み出せる悪夢の限界点。


「六宇……」

「は? なに!?」


「おめぇには感謝してもし切れねぇな。オレ、お前に散々クソガキってよォ。ひでぇ事ばっかり言ったのに。六宇はそんなオレのために、スカートの中を見せてくれた……」

「いや、見せてないから! あんたが勝手に見たんだっての!!」


「脚、閉じんかったやんけ」

「ば、ばばば、バカじゃん!? あまりにもキモかったから閉じるの忘れただけだし!! ぎゃー!? もうまぢ最悪……。最期の会話がこれって……」


 クイントが両足を煌気オーラで覆い床を踏みしめる。

 普通に床が抜けた。

 イドクロア製の皇宮の床、これまで多くのダメージを受けても頑張って存在していた床。


 よりにもよって住んでもいないクイントの足によって貫かれる。


「これで踏ん張りが効くぜ!! おっしゃらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

「あたし、クイントのお尻見ながら死ぬんだ……」


「えっ? 尻、見せてくれんのか?」

「ねー!! なんなん、マジで!? 男ってバカなん!? 死ぬ寸前なんだけど!! 生きてたらいくらでも見たらいいじゃん!!」


 クイントの目が見開かれた。

 真っ赤に染まった瞳からは狂気を感じる。



「しゃおらぁぁぁぁ!! 『愛深き故の愛の形の揉みしだきラブラブ・フォーリンラブ・ハンドォ』!!!!」


 クイントの掌が超巨大化して飛んで来る全てのスキルを揉みしだいた。

 これはイナズマイレブンで見た事がある。



 握りしめた煌気オーラは念入りに揉まれ少しずつ小さくなっていき、最後には何もなかったように消えてなくなった。

 かつて愛の力で覚醒した者は何人か存在している。


 おっぱいへの高潔な愛。川端一真男爵。

 特定のおっぱい(仁香すわぁん)への偏愛。水戸信介監察官。


 六駆くん好き好き大暴走。小坂莉子ちゃん。


 この流れで莉子ちゃんの名を連ねなければならぬ悲しみよ。

 そしてそこに新しく名前が刻まれる。


 とりあえず女と付き合いたい。逆神クイント太郎。



 いくらなんでも莉子ちゃんが不憫すぎやしないだろうか。



「へっ。大したことねぇなぁ!! 相手を殺すためのスキルなんてもんはよォ!! 時代は愛! これから抱く女を守るためのスキルだろうがァ!!」

「え。ヤダ。えっ。……えっ?」


 莉子ちゃんが気の毒すぎやしないだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バニングさんが完全に吹っ切れた顔で両腕を心臓に添えた。

 これはいけない。


「皆。撤退しろ。私とて、かつてはアトミルカを率いて現世に甚大な被害を与えたナンバー2。この忌み名を持って、冥府へと往く。私の向かう先は地獄、アリナ様にはもうお会いできんだろう。悔いがないと言えば嘘になる。だが!!」


 砕かれ続けた『魔斧ベルテ』を発現させたかつての修羅もクイントと同じく目を見開いた。

 まだ煌気オーラ供給器官は暴走していません。



「あれを相手に死んでたまるか!! それこそが悔い!! それこそが汚点!! 生涯を終えるのであれば!! あれに殺されて堪るか!! 何をもってしてでも差し違える。お前たちは退避しろ。敵は残っているのだからな。アリナ様に伝えてくれ。愛しております、と」


 人生のエンドロールでこれまで相対した数々の強敵の名が流れて行って、最後にスペシャルサンクスとして「逆神クイント太郎(友情出演)」で幕を閉じるのだけは絶対に嫌だったバニングさん。



「いいえ! わたくし、退きませんわよ!!」

「小鳩! 聞き分けろ!!」


「冗談ではありませんわ! ここで逃げて、わたくし!! あっくんさんと致す度に! このシーンを思い出して後悔するんですわよ!? 初夜が始まりませんわよ!!」

「ふっ……。55番、いや。今は五十五と立派な名をもらっていたか。ヤツの言葉を借りよう。……確かにそうかもしれん!!」


 バニング・ミンガイル氏と塚地小鳩お姉さんがかつてないほど死亡フラグと仲良くしていた。

 その後ろでは猫たちが別の気配を察知している。


「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛。どうなるんだぞなぁぁぁ……」

「瑠香にゃんはもう人工知能をスリープモードに移行させます。おやすみなさい」


 最強の男、早々に来るか。

 あるいは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る