第1147話 【国を護るミニスカ・その1】逆神六宇の初陣 ~クイントもいるよ!~

 逆神六宇。

 気付けば最後まで残ったバルリテロリ皇族逆神家。


 20歳の女子高生。

 喜三太陛下記念高等学校は年齢制限も留年制限もないため、その気になれば80歳の女子高生だって可能という鷹揚な校風。


 ただ、多くの学生は普通に3年で卒業していく。

 六宇はなぜ留年しているのかと言えば、どら猫が「仲間だにゃー」と鳴く前に宣言しておく必要がある。


 普通に単位が足りずに留年しているだけで、高校生というモラトリアムに少しでも長く居座るためとかではない。

 単純にちょっとおバカなので高校5年生になっただけなのだ。



 モラトリアムのために学費払って登校拒否しているどら猫とは違う。

 バカと怠惰のどっちが深刻かを考えると頭痛が痛くなりそうなのでお勧めはできない。



 そんな成人高校生の六宇。

 現世では18歳成人が施行されたので高校生諸君が卒業する時には基本的に成人しているが、18歳と20歳で「ええで」と「あかん」の区別が異なるため、「大人やからええやろ」と悪意なく飲酒や喫煙をキメてしまう問題がチラホラと散見される。


 過去にも少し触れたが、競馬、競艇、競輪、オートレースなどの公営ギャンブルは20歳まで禁止されているにもかかわらず、パチンコは18歳からウェルカム。

 叡智なものはだいたい18歳がご新規様いらっしゃいませ。

 ホワイ、ジャパニーズピープルである。


 その点、六宇ちゃんは何でもできる。

 あと女子高生。


 極めて謎の存在であり、お巡りさんに職質されたら学生証を出すか保険証を出すか迷うし、学生証を出したら「……はたち?」とツッコミが来るだろうし、保険証を出したら「お仕事は?」と聞かれ、「……こうこうせい?」とやっぱりツッコミが来る。


 そんな六宇は高校生活をエンジョイしているただの皇族。

 幼年学校には興味ない、スキル使いとしての修業もたまに皇族の他の連中と付き合いで参加する程度。


 スキル使いは努力型でコツコツと成長していくタイプが最も多い。

 次いで才能型の最初から素養に恵まれているエリートタイプがたまに出て来る。

 ものすごく少数なのが本人にも自覚のない潜在能力内包型。


 このタイプは何かのきっかけでスキルに接する事がなければ、そのまま生涯を終えるまで潜在能力を秘密にしたままゴールテープを切る事がある。

 我々の知っている例だと、みつ子ばあちゃんをはじめとする呉老人会のメンバーたち。


 非凡なものを持っていたが、覚醒したのは皆が50代という遅れて来た青春乙女の殺戮集団ゆかいなおともだち

 ただ、あのお嬢様たちはアナスタシア母ちゃんというアンタッチャブルな存在との遭遇がきっかけだったのであまり良い実例とは言い難い。


 そこでお出しするのがこちら。もっと分かりやすい乙女がいる。



 小坂莉子ちゃん。



 彼女は煌気オーラ総量を生まれつき頭おかしいほど内包していたが、コントロール技術がハナクソだったので探索員試験を受けるという才能開花イベントに恵まれたにもかかわらずノアちゃんでもギリギリ使えた『ライトカッター』すら発現できなかった。

 しかも当初は補助具まで貸与していたのに、である。


 そこで出会った六駆くんによって才能を見出された結果、今では戦場に降臨した瞬間に惨劇を起こすドジで女子へと成長した。



 なにか異論のある方は魔王城のなのじゃお客様センターへご連絡ください。

 今はファニちゃん魔王様が応対しております。



 莉子ちゃんと同じく潜在能力内包型だったのが逆神六宇。

 こちらの成人女子高生はたまに修業をしていたので、スキル発現ができるというスタートラインに立っており、ガチると絶対に強くなるだろうなと喜三太陛下をはじめ幾人もの猛者から認められていた。


 ただ、皇族逆神家というやんごとない身分だった上に、いつまで経っても高校生のまま。

 卒業してくれないので就職に関する話もできず「スキル使いの修業をきっちりしようぜ」と勧められる前に戦争勃発。

 それでも喜三太陛下が呼んだ「うちのイカした一族を紹介するぜ」のメンバーには選ばれており、秘めたる能力の高さは初登場時からしっかりと傑出していたのだ。


 「ひ孫やで? しかも訓練もしてないんやで? 戦わせたくないやん?」とひ孫想いな皇帝によって出し惜しみされ続けていた。


 なら呼ぶな。


 結果、最終盤で出番が来てしまう。


「あ゛ー!! ヤダ! きっつい!! 隣にいるのが無職のおっさんで! 敵もダンディなおじさん!! なんであたし、おっさんでサンドイッチされてるの!?」


 このスタイルの戦争では戦局が煮詰まれば煮詰まるほどマッチアップする相手も強くなり、求められる戦闘力も比例して高くなるのが通例。

 そういう風になっているのだからこれは仕方がない。


「マジで無理! もう帰る!! クイント、こっち見んな!! 『六宇蹴りムーキック』!!!」

「おっひょぉぉぉぉぉぉ!! おいおいおいおい!! ……見せパンってマジで見せパンという概念を自身の脳から消すことによって、得も言われねぇ興奮をお手軽にゲットできるな!!」


 ミニスカ制服のまま戦場に来てしまった六宇が、キーパーソンとして渦中のど真ん中に鎮座していた。

 彼女は安産型なので、ドスンと座ったら安定感がすごそう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 『六宇蹴りムーキック』はただの煌気オーラ脚。

 煌気オーラ拳の蹴り技バージョンで、思い切りキックした脚から煌気オーラを放出する。

 それだけのものであり、スキルと呼んで良いのかもグレーなもの。


 研鑽を重ねると例えば川端男爵の必殺技、高所から蹴り下ろす踵落としと共に無数の煌気オーラ弾が敵を襲う『断崖集気弾だんがいしゅうきだん乳房ちぶさ』になったりする。



 乳房は川端さんが付けたので、この世界の負う責任ではありません。

 クレームはおっはい男爵家にお願いします。


 具体例はリャンちゃんにすれば良かった。



 繰り返すが、ただの煌気オーラ脚。

 それがバニングさんの長年連れ添って来た、守るべきアリナ・クロイツェルさんのために振るい続けて来た『魔斧ベルテ』をバラバラに粉砕する。


「ふっ。……泣けてくるな。どう見てもスキル使いではない娘に。戦いだけが人生だった私のスキルがいとも容易く。……ふっ。次は全力でいくぞ!! 『魔斧ベルテ』!! ……あ゛」


 振り下ろす『魔斧ベルテ』を『六宇蹴りムーキック』が貫く。

 バニングさんの脳裏に走馬灯が流れ始めた。


「失礼いたしますわ!! 『銀華ぎんか』!! 三角形に展開いたします!! 『シルバートライアングル・ウォール』!! くぅぅぅ! ……はぁ!!」


 小鳩お姉さんがやっと参戦。

 おっぱい犠牲者押し付け合い会議で多数決の圧力に屈した小鳩さん、それに加えて「バニングさんは死にかけておられますのに。見捨てられませんわよ!!」と世話焼きお姉さん魂も燃え上がり、どうにかギリギリ間に合った。


「ふっ。小鳩」

「も、申し訳ありませんわ……! 早く駆けつける事もできましたのに、わたくしったら!! ……あ。バニングさん、泣いておられますの? 本当に申し訳ございませんわ……。62歳の声を殺したガチ泣きはわたくし、胸が痛みますわよ……」



「私は、膝をつき倒れた相手がお前たちで本当に良かったと痛感する。これで悔いはない。あとは私に任せろ」

「ほらご覧なさいですわよ! クララさん! 瑠香にゃんさん!! バニングさんのおハートがおへし折れてますわよ!! アリナさんになんと申し開きするんですの!!」


 よその旦那さんが妻のいない所でメンタルブレイクしたら、そして妻と自分が割と親しかったら、それはとても気まずい。



 怒られた猫たちは。


「にゃー。ここはマジメに援護射撃しとかないと後でもっと怒られるぞなー。うにゃにゃにゃー!! 『瑠香にゃん矢おっぱいアロー連射式ガトリング』だぞなー!!」

「怒りの端的モード。ぽこ。スキルの名前をどうにかしろ。確かに瑠香にゃん、おっぱいから煌気オーラを譲渡した。でも生産地を表示して撃てとは言ってない」


 お忘れの方のために送る、捕捉どら猫情報。

 クララパイセンは弓使いなのに、肝心の弓をルベルバックで紛失したままずっと戦争に参加しております。


 自前で『強弓・サジタリウス』は出せるものの、隙が大きくクイントが視界に入っている以上おっぱいの危険性も高いため、隣にいたメカ猫のおっぱいから煌気オーラを借りて矢に変換、そのままぶっ放すという横着かつ効率的かつ威力もある攻撃を思い付いた。

 楽するためには賢くなければならんにゃーとは、クララパイセンの語録でも有名な一節。


 ひとまず、乙女たちが参戦した事でバニングさんの寿命が延びる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 煌気オーラ脚が防がれて、反転攻撃される形でパイセンの矢がどんどこ連射される事となった六宇は当然のように狼狽える。


「え゛っ。なに、なになに!? すっごい量の矢が飛んできた!! これどうしたらいいの!? ……キックしてみる? ……でも、蹴り上げないとダメじゃん? え。脚、ちょー上げないとダメじゃん!! くぅぅぅぅ!! 辛い!!」


 とはいえ、見せパンをゲットしているので多少の恥ずかしさに耐えるだけで済む。

 矢に貫かれるよりはずっとマシである。


「おいおいおいおいおい!! 六宇! オレがいる事を忘れちまったのかぁ!? いくぜ! 『究極に荒ぶるクイントの構えウマレテキテー・ヨカッター』!! 見ろや!! 『揉みしだき砕く栄光の掌モミモミグローリークラッシュ』!!」


 クイントが両手をワキワキさせながら、『瑠香にゃん矢おっぱいアロー連射式ガトリング』を全て揉みしだいた。

 矢を揉んでどうにかできるのかどうかは分からないが、どうにかなったのだからもうこれは事実。


「へへへっ! なんだろうな! 今の矢からは、ほのかなおっぱいの感触がしたぜ!!」

「……ヤバい。クイントが頼りになるんですけど。え。ヤダ!! 早く敵を倒さないと!!」


 これは余談だが、六宇に初恋はまだ訪れていない。


 余談で済む事を祈るのは利敵行為になるのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る