第1145話 【小鳩お姉さん、破壊活動中・その2】お排泄物カミングスーンですわ。最悪ですわ。 ~きたねぇ敵の接近を感知したと仰っています~

 まずは戦局見つめる奥座敷から。


「陛下。ご説明の必要がございましたら何なりとお申しつけください」

「ないで? どんどこ揺れとるもん。うちの皇宮。中途半端にぶっ壊されとるで。えー。そう来るかー。一瞬で皇宮木端微塵パターンはないっぽいけどなー。地味に嫌だわー。しかも入口の辺でやってんな、これ」


「はっ。陛下の御推察通りでございます。追手門を突破されてすぐのところで敵が分散。片方は完全に反応が消えましたので、隠匿スキルを発現しているかと想定されます。対して、我々が把握している部隊は」


 テレホマンの報告を遮って陛下がお考えを述べられる。

 上司に報告するのが仕事なのにそれを遮られるとモニョっとするので、管理職の皆様におかれましては「それ知ってる」ではなく「ワシもそう思ってた。君、すごいなー」と部下には返事をしてあげて欲しい。


「明らかに陽動だな。というか、誘ってるな。ほんで、あれやろ? こっちから鎮圧部隊出したら、そのスキルの反応を辿ってワシらの居場所を把握する気やろ? えー。意外といやらしい事もしてくるやんか、ひ孫。相当な戦巧者やで」

「はっ。陛下の血を引いておられるだけの事はあるかと」



「なっ! イケメンだし!! いやー! ワシのひ孫、児童じゃなかったね! じゃあ、やべぇ児童は何なんだって疑問がもう怖いけど! あの子はなんやったん? 教えて? テレホマン?」

「はっ。陛下。私に総参謀長の職を辞する御許しを頂戴したく。このテレホマン、過分な地位を頂いてなおこの体たらく。皆目見当もつきません」


 喜三太陛下は「ねー。怖いね。絶対に辞めんでくれ」と優しい顔で同調された。



 分からない事ばかりだが、この世では明日死ぬかもしれんという縛りプレイを全人類が喰らっている訳であり、にも関わらず「えー。やだー。分かんないー。どうしよー。困るー」とかモジモジしている最中にガチで死んだら悔いしか残らない。

 明日死ぬなら今日を全力で、今に死力を尽くすのが吉。


「クイント! 行けるか?」

「へへへへっ! おうよ、じじい様! 六宇がよぉ! おっぱい揉んで成長させてって言うんだわ!! なんかもう、感無量だよな……」


 行く前に逝っちまってるが、メンタル勝負のスキル使いとしてはある意味最上の状態で出撃はいつでもウェルカムな逆神クイント太郎。


「…………。いや、行くよ? あたしも。学校の友達とか死んじゃったら嫌だし。煌気オーラは小さい頃から出せたし。暇だったからたまに鍛えたりもしてたし。戦えるから。キサンタに見せパン創ってもらったし。その時間がなかったらもう勝ってたかもって言われたら、あたしも責任感じるし」

「六宇様……!!!! ご立派になられて……!!!!! 数時間前までドラクエ6でヤメておいた方がよろしゅうございますと進言したにも関わらず主人公を魔法戦士に転職させて涙目になっておられましたのに……!!!!!」


 オタマが六宇の覚醒に感動してちょっとテンション上昇中。

 冷徹に陛下をお諫めしていた彼女がこれほどまでに感嘆符を使うのは異例の事。


「オタマぁ……! 一緒に来てくんないの……?」

「はい。六宇様」


「言い切った……!!」

「はい。六宇様。ドラクエ6において主人公は上級職の1つをマスターすれば勇者になれますが、何故か魔法戦士は上級職なのにカウントされません。攻略本では主人公が魔法戦士の紹介ページでキメ顔をしているのにです。そして魔法戦士は単体の職業として見ても微妙です。弱いです。そこまで説明させて頂いたにもかかわらず、だって剣と魔法ってエモいじゃん! と歩を進められた六宇様には、もうなにもお伝えする事はございません」


 秘書官のドラクエ6のアドバイスを無視した事がこれほど重罪だったとは。


「行くぜ! 六宇! オレにくっ付きな!!」

「ヤダ!!」


「ならオレが肩を抱くぜ!!」

「ヤダぁぁぁ!! ちょ、キサンタぁ!? もうなんかスキル使う感じになってない!? 待ってよ! あたしのタイミングで行かせて、せめて! お、おじいちゃん! 聞い」



「ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『気付いたら出社してる人シークレット・ワープ』!!!」

「へ、陛下……。それはあんまりかと……」


 喜三太陛下は仰られた。

 「だって見てたら気の毒になって来て。ワシの決意も鈍りそうなんやもん」と。



 ひいおじいちゃんが可愛い方のひ孫を戦地に転移させた。

 「戦争ってマジでひどいな」と金言も吐かれる。


 喜三太陛下は戦後復興期世代なので、日本が敗戦でどうなったかもよくご存じ。

 じゃあ、どうして自身も現世に戦争を吹っ掛けたのか。


 人は実に度し難いですな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほんの少しだけ時計の針が戻り、破壊活動中のお姉さん率いる小鳩隊。

 もう壁がボロボロになっていた。


「小鳩さんが荒ぶっとるぞなー」

「ぽこ。ご主人マスターが怖いです」


「うにゃー。瑠香にゃんはまだまだ子供だぞなー。小鳩さんは本気で怒るともっと怖いぞなー? あたしが大学の前期試験の前の日にミンスティラリアで麻雀してた時とか、この世の終わりかと思ったもんだにゃー」

「ぽこの評価をアップグレードしました。ステータス『なぜその恐怖を教訓にしないのか』を獲得。ぽこ、あげます」


 小鳩さんも日本本部の戦いでお役御免だと思っていたのに、六駆くんによって大福と一緒に拉致られて来たのだ。

 むしゃくしゃくらいしようというもの。


「わたくしも掛け声みたいなのを決めておけば良かったですわ! 無言で衛星レーザーを撃ち散らかすとか、エレガントじゃないですもの! ヒステリックに見えてしまいますわ!!」

「エレガントな乱射とかそれはもう新しい事件だにゃー」


 そうは言うけども、小鳩さんが単騎で行っている破壊活動は結構エレガント。

 戦争におけるエレガントの定義が不明瞭なので言い換えると、かなりスマートである。


 『銀華ぎんか』はそもそも煌気オーラ消費量の少ないスキルであり、それにあっくんラブラブ要素の『結晶衛星シルヴィスサテライト』の特性を付与した結果、ターゲットは無差別になったというデメリットこそあるものの、労力は少なめ、被害は甚大というテロリスト的には花丸をあげても良い成果をあげていた。


 調度品とか絵画とか、喜三太陛下の写真とかはもうレーザーで焼き尽くされている。


「まあ、あたしたちは後ろで見学しとるぞ……な……?」

「ぽこ? お腹痛いのですか?」


 珍しくクララパイセンが言い淀んだ。もとい、鳴き淀んだ。

 隣ではバニングさんも眉間にしわを寄せて「……よもや、あれが来るか」と苦い表情。


 瑠香にゃんは戦闘能力こそ小鳩隊の中でも傑出しているが、いかんせん0歳児。

 経験値が圧倒的に足りておらず、それを補うためのマスターシステムなのだが、ぽこますたぁは滅多な事ではマスターをしてくれない。


「瑠香にゃん、瑠香にゃん。煌気オーラ感知してみるぞなー」

「ぽこ。お言葉ですが、ご主人マスターの乱射により煌気オーラが入り乱れている状況での感知はあまり意味がないと瑠香にゃんは進言します」


「うにゃー。これは哀しき経験則だにゃー。嫌な思いをした相手の煌気オーラって、なんか目立つんだにゃー。苺色のヤツとかにゃー」

「…………? ぽこの言動が意味不明です。しかし瑠香にゃんはぽこますたぁの指示を実行します。瑠香にゃんサーチを開始。……完了しました。端的モード。ぽこ。分かってるなら結果だけ教えて欲しかった。瑠香にゃんにサーチさせた意味を知りたいです」



「瑠香にゃんだけなんも知らんのはズルいと思ったからだにゃー!! これ、さっき戦ったばっかりのおっぱいモンスターさんの煌気オーラだぞなー!!」

「瑠香にゃんが無為におっぱいを揉みしだかれたとても凄惨な記録が作成されて、まだ1時間ですが。この世界のサイクルシステムはどうなっているのかと苦言を呈したい」


 猫たちとバニングさんが気付いた。



「小鳩!!」

「はい? なんですの?」


 そしてチーム莉子で活動する際、敵の接近には割と真っ先に気付く小鳩さんが1人だけ仲間外れ。

 それもそのはず。


 喜三太陛下の転移スキルは逆神流の『ゲート』ほど便利ではないが、代わりに煌気オーラ反応を完全に消した状態で発現できるため、急に出て来る。

 現世を襲った3つの喜三太ランドも急に来たので各国の探索員協会が対応できなかった。


 ならば、なぜ猫たちとバニングさんは気付けたのか。


「邪悪な魂が来るぞ! 構えろ!! もう陽動は充分だ!!」

「そうなんですの!?」



「ああ! 気を付けろ! この敵はおっぱいに惹かれる!! クララが随分と苦労した! 小鳩! お前のおっぱいも余力は充分だ!! 真っ先に狙われるかもしれん! 私の後ろに回れ! 初見でアレは耐え難い!!」


 煌気オーラ反応とおっぱいジャンキー反応は恐らく別勘定なのである。



 南極海で良い顔をしているおっぱい男爵の意見を拝聴したいが、その暇もなく、空間が歪んだ。


「おっしゃあ!! 熱々カップルが皇敵をぶち殺しに来たぞ! こらぁぁぁ!!」

「やはりこいつか……。クイント!!」


「あ゛! てめぇ、この野郎!! オレのファーストおっぱいをガチムチの胸板で奪いやがった! バニングじゃねぇか!! リベンジの機会がすぐに来……おいおいおいおい!! 立派なおっぱいが増えてんなぁぁぁ!!!」


 小鳩さんがクイントの視線を浴びる。

 彼女はすぐに察した。


 聡明な乙女であり、しかもかつては男嫌いだった乙女でもある。



「お排泄物ですわ……」


 お排泄物です。



 惨劇が起きた瞬間に「セーフです! ふんすっ!!」と遠くの方でボクッ子の鳴き声が聞こえた。

 あの子、本当に致命傷は負わないのである。


 これまでで最も致命的なダメージを与えられたのは、味方の莉子先輩から。


 こうして乙女を集めた部隊の方にきっちり出て来たクイント。

 風は再びバルリテロリに吹き始めているのか。


 濃厚なお排泄物との戦いが始まる。

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