第1144話 【小鳩お姉さん、破壊活動中・その1】バーニングお排泄物ですわ ~ヤケクソと仰っています~

 やっぱり先に出番が来たのは小鳩さん隊。

 お仕事は陽動のために破壊活動をしながら皇宮の中を駆け回る、初心者でも簡単な業務内容。


「いいですわね。瑠香にゃんさんはステイですわ」

「はい。ご主人マスター。瑠香にゃん、何もしません」


 大量破壊兵器型メカ猫をまず制した小鳩お姉さん。

 さすが賢い。


 瑠香にゃんの兵装は基本的に魔力と煌気オーラの融合されたエネルギーを用いる。

 だったら敵に気付かれないのではないかと言えば、むしろ逆。

 モニタリング班が「よく分からん反応や」と思ったら、次の瞬間には皇宮が内側からぶっ壊されるのである。


 むしろ「あ。これ敵だ。バルリテロリの民じゃないもん」とすぐに気付かれて、そのまま皆で仲良くテレホマンに集団同期をキメて、総参謀長の頭がパーンってなる。

 陽動ではあるが、敵にすぐおいでませするので仕事の質としてはやや低い。


 大学生の単位で言うと、不可ではないが可以上にもならない。

 かなりモニョっとするので、こんな事なら履修するんじゃなかったと腹ふくくるパターン。


 必修科目ならば仕方がないと諦めもつくが、興味本位で良く調べもせずに履修した講義で担当する教授が「はい。この授業では何をしていても良いですが、単位はみんな一律可とします」とか訳の分からん事を言い出した結果、周りを見るとヒャッハーな学生が多いことに気付き「やられたっ!! 道理で人が多いはずだ!!」となるまでがワンセット。


「にゃはー。そんな講義受けたらダメだにゃー。人多すぎとか無理無理カタツムリなのに、それで最低限の評価されるとか最悪だぞなー。だったらあたしは! 価値あるボイコットを選ぶぞなー! にゃーっははー!!」


 話が逸れたが、本質は逸れていない。



 作戦も履修科目も周囲を見る事で性質はだいたい分かるというお話。

 どら猫が「うにゃー」と鳴いた。



「小鳩。私が請け負おう。まだスキルは充分に使える」

「ぐぬぬぬですわ! 瑠香にゃんさんは動いて欲しくないですし、クララさんはどうせ働きませんもの! バニングさんをこの状態で働かせるとか、わたくし! 子供がデキた後に、お母さんはどんな任務してたの? って聞かれましたら! なんて答えるんですの!? 昔の敵組織のリーダー格の殿方を死ぬの分かってたけど酷使無双しましたわ! なんて言えませんわよ!!」


 小鳩さんが煌気オーラ爆発バーストした。

 ちなみに小鳩さんは全身から放出するタイプの爆発バーストなので、足元からぶわーってならない。


 胸部装甲はたわわなのに、本来の意味での胸部装甲が全ての戦う乙女中で最も硬いという誰得仕様なのである。


「命を守るためですわよね!? わたくし得ですわよ!?」


 鎧の乙女はもちろん良い。

 古くからビキニアーマーという有形および無形文化財も存在している。


 ただ、鎧の魔剣くらいキッチリした鎧を着られると、男子はちょっとモニョっとする。

 日本本部で五十鈴ランドの迎撃をしていたタイミングだったら、佳純さんに影響されて鎧をパージしていたというのに。


 こちらのお姉さんは根が真面目なのであっくんから離すと常識人になってしまう。

 チーム莉子において、常識人は最弱。


 このメンバーでは「はわわわですわ! お姉ちゃん、困りますわ!!」と興奮もしてくれない。

 メンズが死にかけの老兵だけでは、慈愛の方が強く出てきてしまうのだ。


「……やぁ!! 『衛星サテライ銀華ぎんか』!! 八千百九十二咲ですわ!!」


 想い人がいないので、せめてスキルだけは似せてラブコメを試みた小鳩さん。

 2のn乗もついにとんでもない数字になったものである。


 銀色の衛星がわんさか発現されて、おびただしい量の花が咲いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! 小鳩さん、小鳩さん!! やり過ぎじゃないですかにゃー!!」

「良いんですわよ! どうせ派手に破壊工作しないと陽動の意味はないんですもの! ですけれど、瑠香にゃんさんはやり過ぎますし! バニングさんはやって頂いたら天にお召しになられますわよね!! ……クララさんは言ってもやりませんし!!」


「確かにそうかもしれんぞな!!」

「ほらご覧なさいですわよ!! だったらもう! バーニングお排泄物ですわ!! わたくしだってむしゃくしゃしてやる事もあるんですわよ!! こんなのスキルでもなんでもないですわ! ただの煌気オーラの乱射ですわよ!!」


 小鳩さんが理性的にヤケクソモードへ。

 久坂剣友の教えは理屈の積み重ねによるロジカルな戦法。

 ロジカルとか、チーム莉子でやってらんない思考の最たるものである。


 小鳩さんも成長して、パワーアップイベントをこなしていたのだ。

 ずっと前から。

 これを成長と呼んで良いのかは有識者の判断に任せるが、とりあえず杓子定規な任務遂行スタイルはとっくに捨てた。


「こば、小鳩さ! 危なに゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!! せめて狙いを付けて撃つぞなぁ!!」

「わたくし、そもそも遠距離攻撃は専門外ですわ! 『銀華ぎんか』は周囲に展開して臨機応変に扱うスキルですのよ! こんな、遮二無二撃ち散らかすものではありませんわ! ですので! うふふふ! 狙いなんて付けるの無理ですわよ! むーり!! だって8000の花を咲かせてますのよ! いちいちコントロールなんてしてられませんわ!!」


 小鳩さんが破壊活動を生き生きとこなし始める。

 瑠香にゃんの肩を借りているバニングさんが呟いた。


「いかんな」

「はい。バニング様。バイタルサイン測定を行います。……測定完了。まだギリギリ、逝かんで済むレベルは維持できていると瑠香にゃんは判断しました」


「いや、そうではない。考えてみてくれ。瑠香にゃん。お前は私の老いた脳よりもずっと優れたものを持っているはずだ」

「瑠香にゃんの人工知能には、グランドマスター、プリンセスマスター、ぽこの思考パターンも組み込まれています」



「すまなかった」

「ステータス『謝られるのがやっぱ一番辛ぇわ』を獲得しました。バニング様に差し上げます」



 バルリテロリ強襲作戦決行からこっち、色々なステータスをご査収させられて来たバニングさんは今回もきっちりと受け取ってから続ける。


「小鳩のやり様は正しい。が、それだけにまずい。接敵は時間の問題と考えて良いだろう。では、それ以降の話だ。ここはもう敵の本拠地の最奥に近い。数の不利、地形の不利、兵装の不利。敵が現れた瞬間にこちらがビハインドを抱えている状態なのは必然」

「バニング様のお考えを瑠香にゃんは肯定します。端的モード。ぽこ。話を聞け」


「いや。構わん。クララには先の戦いで世話になった。そのおっぱいの余力は得難きものだ。小難しい話は瑠香にゃんに任せておけ」

「あたしのおっぱいがお世話しましたにゃー!!」


 ついに楽するためなら自身のでけぇ乳にも依存し始めたどら猫。

 お腹空いたら自分の足を食べるタコみたい。


「瑠香にゃん、頑張って無法を呑み込みます。続きをどうぞ。バニング様」

「ああ。現状、小鳩が最も効率良くこの拠点を破壊できるだろう。しかしだ。どのような敵が現れたとて柔軟に対応できる。それもまた小鳩。私は近接か斧投げるか、死にかけてブーストするしか能のない老いぼれ」


「ステータス『元気出して』を付与します」

「痛み入る。そして瑠香にゃんは攻防に優れた戦士だ。私よりもずっと強い」


「瑠香にゃんはバニング様に『瑠香にゃんおっぱいチャージ券』を差し上げます。回数制限はありますが、死にかけたらご利用ください。ステータス『ちやほやされると嬉しい』を獲得。これは間違いなくぽこから受け継いだ特性です」

「だが、瑠香にゃんは単騎では行動できない。クララのマスター権限が必要になるだろう。要するにクララとセットで戦う必要がある。そしてクララは遠距離特化。ここは屋内で城の中。フィールドが非常に狭い」


 瑠香にゃんの表情筋が硬くなった。



「バニング様。瑠香にゃんは兵器ですが、言われて傷つくセリフもわずかながら保持しています。もうアトミルカ所属に戻ることはできないのですか? 瑠香にゃん、今は名前も跡見瑠香にゃんですが」


 現実が瑠香にゃんの胸を傷つけた。



 つまりは単純。

 小鳩さんが現状だと指揮官でメインアタッカーでオールラウンダー。


 なのに、真っ先に煌気オーラを消費して破壊活動に精を出している。

 それが正しいのが哀しい。


 抗えない運命の中にいる、小鳩さん隊。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そうとなれば穢れた運命は仕事を始める。


「おいおいおいおい! 六宇! オレによーく、密着してくっ付いて密着しとけよ! でぇじょうぶだ! おっぱいは小せぇが、ないことはない!! オレ、慣れるからよ!! 夢に見たデカいおっぱいは夢のまま! 現実的な手の届くおっぱいが1番良いってハッキリ分かったんだ!!」

「…………ひどいよ。あたしだって選ぶ権利くらいあるじゃん?」


「選ばれるって事もあるんたぜ!!」

「…………この戦いが終わったら、あたし。婚活っていうのするから!! もう結婚する!」


「マジかよ!! キタコレぇ!!」

「クイントとじゃないから!! テレホンに作ってもらうの! マッチングアプリ!!」


「六宇? バルリテロリでマッチングアプリとかいうの、機能すんのか? オレ知らんけど、バルリテロリの民。あいつら同期するからよ? 出会いとかもうフィーリングでキマってんじゃね?」

「…………あれ。あたしってもしかして、頭悪い?」


「つまり、オレらは相性抜群って訳だな!! 安心しろ! 乳は引っ張ってデカくする!」

「揉めよ!! なんで引っ張るの! 伸びるじゃん!!」



「い、良いのか……? 揉んで……? おめぇの……? 揉んで……? 良いのか……?」

「もうヤダ。あたしバカなんだ……」



 迎撃部隊の第一陣がそろそろ奥座敷から出撃しようとしていた。

 クイントは因縁のバニングさんと再戦を果たすのか。


 六宇に関しては文句を言いながらも国のために頑張る姿勢を見せており、再評価の時が迫っているのかもしれない。

 ちょっとバカなくらいが女子は可愛いのだ。

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