第1143話 【莉子ちゃん敵国、旅は道連れ・その1】「モグモグモグ……」 ~服を求めて皇宮突入! 今はとりあえず皇帝とか戦争とかどうでも良い~

 攻城戦を制した芽衣ちゃま隊。

 その芽衣ちゃまが打診する。


「みみみっ。莉子さんに指揮権をお渡しするです! 芽衣、いつものポジションに戻るです! みみみみっ!」


 このみみみと鳴く年功序列まで履修済みの可愛い生き物は本来チーム莉子の隊員であり、そこにいるオレンジ色の短パンはゲットしたものの未だに割とあられもねぇ恰好の乙女は本来の隊長。

 指揮権は正しい運用をされるべきとは、後方司令官まで務めた芽衣ちゃんの意志。


 この子、16歳です。


「ほえ? わたし、今回は単独行動したいなって思うんだけど。ダメかな?」

「みっ? 芽衣は構わないです。けど、莉子さんさっきまで単独行動してたです? 今度はどんな作戦なのか知りたいです! みみみっ!」


「うん。あのね、わたしが今、一番欲しい物は服なの。もう可愛いとかそういうのは良いの。スウェットとかで良いの。とにかく、服が欲しいの。それでね、しばらくは芽衣ちゃんたちと一緒に行動するけど、わたし……。服を見つけたら、自分を抑えられる自信がないんだよ。だって! さっきまでは興奮してたからアレだったけど!! ねぇ! 今のわたしも結構……際どいよねっ!?」


 まず、莉子ちゃんの上パーツ。

 キャミソールである。


 キャミソールとはそもそも肌着。

 本来の役割は洋服の汗透けを回避したり、同じく汗による肌へのまとわりを防いだり、おブラのレースや紐なんかが洋服の表面に浮くのを抑えるためのもの。



 あとは腋とかのお肉による肉感ぷにぷにを誤魔化したりするのだが、その話は今、必要ないと思われる。



 莉子ちゃんは優等生。

 制服の着こなしだって校則を順守して、ソックスの色は白、ブラウスのボタンは1番上まで留めるしリボンはきっちり結ぶ。

 そんな彼女が本来は見えるべきでない肌着で作戦行動をしている事実。


「ふぇぇ……。恥ずかしいんだよぉ……」


 恥ずかしいのであった。


 さらにチンクエからゲットしたオレンジの短パン。

 ショートパンツちゃんの死骸よりは安心感があり、お尻にジャストフィットしているので包容力も確保したが、思い出して欲しい。

 これは六宇がスカートの下に穿いてパンチラ防止のために喜三太陛下を酷使して創り出させたインナー。


 またの名を見せパン。


 見せパンは見せても良いんや。いや、見られても良いだけであって見せても良いわけやないんや。そもそも予防措置であるからして、見られてええわけないやろ。

 そんな議論は出し尽くしたので、莉子ちゃんのお気持ちだけ聞いておこう。


「……この短パンね? 薄いんだよぉ。なんか、あの、ね? 気持ち的には全然違うよ? さっきまでの、その。ぱ、パンツが見えてた状況よりは、うん。でもね!? これもほとんどパンツだと思うの!! わたしの求めてる短パンは、せめて寝る時に穿くヤツくらいの厚手の! そう、丈夫さが欲しいの! これ、通気性が凄いもん! 絶対にパンツの亜種だよ!!」


 一時期は勝負下着にご執心だった莉子ちゃん。

 おブラに関しては自身に必要のないものゆえ造詣が浅くなりがちだが、腰回りと尻回りは乙女である以上とっても気になる。


「だからね! 芽衣ちゃん! わたし、勝手な事すると思う!! 許してとは言わない!! 戦争が終わったら、ちゃんと処分を受ける!! わたし隊長なのに、良くないもんね……。でも! 今は見て見ぬふりして欲しいの! スカートをわたしに譲って!!」


 芽衣ちゃんが綺麗な敬礼をした。

 ブラウスのフリルが揺れて、緑のスカートもふわりと裾が翻る。


 とてもよく似合っていた。


「みみみみみっ! 木原芽衣Bランク探索員! 莉子さんの意志を尊重するです! 芽衣も探索員憲章を無視するです! 莉子さんは芽衣の憧れの先輩です! 芽衣は一蓮托生です! みみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみみっ!!」

「ふぇぇぇ……。芽衣ちゃん……!!」


 芽衣ちゃまアラートが響いていた事に関しては他言無用である。

 莉子ちゃんは芽衣ちゃんのスカートを諦めていない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは芽衣ちゃま親衛隊の2人。

 縦横無尽にってすっ飛び散らかったダズモンガーくんと、かなりのスキルを発現したサービスさん。


 どちらも消耗は激しいか。


「ふん。チュッチュチュッチュチュッチュ。トラ。何をしてチュッチュ」

「吾輩の持参した鍋で深海魚を揚げておりまする! グアル草のソースをディップすると絶品でございまするぞ!!」


「このトラ。あれほどの戦いを経て、飯を作るか。ネコ科に立つトラ……チュッチュチュッチュチュッチュ。チュッチュ。チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ」

「南極海で新鮮な深海魚を多く仕入れましてございまする! ミンスティラリアでは見かけぬ食材でして! 遠征するならば食料は必需品!! 腹が減っては戦もできますまい!! ぐーっははは! サービス殿もいかがですかな! 揚がりましてございまするぞ!!」


「ふん。俺は練乳以外いらん」

「そう申されると思いまして! 練乳で作ったタルタルソースがござまするが!!」



 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。



 全然消耗していなかったクッキングタイガーと練乳チュッチュマン。

 よく考えたらダズモンガーくんは戦力外にされる事はあっても戦線離脱する事はほとんどないし、サービスさんに至っては敗戦がVS六駆くんだけというサンプルが少なすぎて判断できない男。


 そこに引き寄せられてくる乙女が1人。


「……じゅるり」


 彼女に先んじて、莉子ちゃん弁護団が物申す。

 被告はリコバイクを漕いできたので煌気オーラを消費しており、さらに皇宮への突入に際して『苺光閃いちごこうせん』を太ももから噴射して飛んできており、さらにさらにサービスさんの凍った時間の世界から自力のやべぇ煌気オーラで戻って来ている。


 煌気オーラを消費するとお腹が空くのだ。

 お腹が空くとパフォーマンスが低下する。

 突き詰めると超強力なアタッカーが本来の力を発揮できない悲劇へと繋がるため、これはもう必然的な「……じゅるり」であり、不可欠なモグモグタイム。


「莉子殿! こちらをお召し上がりになられまするか!! 深海……げふんげふん。お魚のフライでございまする! グアル草……げふんげふん。緑色のソースをかけるとおいしゅうござまするぞ!!」


 ダズモンガーくんは莉子ちゃんたちが魔王城に下宿し始めてから厨房に立つ機会が最も多かったトラさん。

 次点がみつ子ばあちゃん、そして小鳩さんと続く。


 山盛り食べさせるのが主戦法のみつ子ばあちゃん。

 バランスの良い食事を強いるのが小鳩お姉さん。


 ダズモンガーくんは自分の作った料理を美味しく食べてくれる相手に寄り添う料理人、いやさ料理トラ。

 莉子ちゃんが見た目のキモい食材を敬遠することも、どんどん野菜を食わなくなっている事も熟知している。


「ほわあぁー! いい匂いですね!! すっごくいい匂いですね!! こんなにいい匂いなら、食べないと失礼ですもんねっ!! えへへへへへへへへへへへへ!!」


 彼女は食材を調べる事などしない。

 あくまで評価の基準は調理後の「美味そうか、より美味そうか」だけ。

 野菜嫌いな子供にピーマンとかをものっすごく細かく刻んでハンバーグに混入して与えるとモグモグしてくれるのと似ている。


「ささっ! お熱いうちにお召し上がりくださいませ!! 莉子殿の食べっぷりは拝見しておるだけで心が躍りまする!!」

「えへへへへへへ! そうですかぁ? ダズモンガーさんがそんなに言うんじゃ、仕方ないですね! いただきまーす!!」


 芽衣ちゃんが「みっ。莉子さんが小さいクララ先輩に見えてきたです。こうやって遠目で見ると……みみっ。すごい恰好です。みっ」と冷静に分析した。

 後方司令官を務めた経験が早速生きている。


 日本本部はチーム莉子の中でも芽衣ちゃんと小鳩さんだけは絶対に手放してはいけないと確信するに至る、実に有能で有望。

 おじ様さえこの世から消せばきっと監察官にもなってくれる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 3分でモグモグし終えた莉子ちゃん。

 同じ時間でチュッチュし終えたサービスさん。

 クッキングして心が晴れやかになったダズモンガーくん。


 特に回復アイテムを使ったわけでも治癒スキルを発現した訳でもないのに、全回復しているメンバー。

 バルリテロリはこの遊撃隊を最初に潰すべきだと思われるが、電脳ラボしか皇宮の外へ攻撃する部隊は残っておらず、彼らもテレホマンの補佐をこなしつつ、みつ子ばあちゃんに砲撃中のためこれ以上のタスクを割り振るのは酷が過ぎる。


「みみみっ。芽衣は気付いてしまったです。今、芽衣たちは多分やりたい放題できる立ち位置にいるです。でも立ち回りを間違えると集中砲火されるです。ここは慎重に行きたいです。みみみっ」


 芽衣ちゃんの願いは基本的に天に通ずる。

 しかし、芽衣ちゃま親衛隊からチーム莉子に所属が戻ってしまうと常識的な思考が最初にぶっ潰される。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『苺光閃いちごこうせん』!!!」

「ふん。逆神(嫁)は戦争が終わったらさっさと子供を作れ。2度と戦うな」

「ぐーっははは!! 壮観でございまするな!!」

「み゛っ」



 芽衣ちゃまが危惧した事はすぐに現実へ。



 これもまた、優れた戦略家の素養の1つ。

 運命がいじわるして来るので彼女も「みみっ。芽衣もこの戦争が終わったら辞めるです……」と心が折れる。


 人材流出とは、戦争が引き起こす二次被害の1つ。

 けれども戦争に優れた人材を出し惜しみするのは愚策。


 まったく、争いというものは実に無常ですな。


 芽衣ちゃま親衛隊with莉子ちゃん、歩きにくいという理由だけで城門の残骸を軽く消し飛ばし、進軍開始。

 莉子ちゃん敵国独り旅は仲間を見つけて、道連れ旅に進化した。

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