第1142話 【六駆と南雲の組み分け帽子・その2】塚地小鳩お姉さんの「ほらご覧なさいですわ」 ~どうせわたくしが分隊長にさせられるって知ってましたわよ~

 チーム莉子の乙女たちはみんな賢い。

 賢さのベクトルこそ違えど、みんな聡明なのである。


 莉子ちゃんと芽衣ちゃんがいないので、この2人は割愛。

 決して最初に評価される莉子ちゃんがМ‐1のトップバッターみたいに基準点を付けられて、それから先どんどん後続に追い抜かれる事を避けた訳ではない。


 という事で、繰り上がり1番手のクララパイセン。

 彼女はやる気がないだけ。

 大学へまともに行っていないのに経済学部らしく日商簿記2級を取得しており、初期の頃はチーム莉子の報酬を彼女が分配していたりもする。


 今はライアンさんからほんのり分析スキルを習ったので、かなり賢いどら猫としてさっきからショートジャケットを引っ張って「これもう脱いでいいかにゃー?」とメカ猫に聞いている。

 頭は良いのに存在しないやる気に負けてどら猫しているだけで、頭は良いのだ。


 パイセンのせいで評価も頭の悪い感じになって日本語が最初に敗北した。


「だってにゃー。あたしそもそも攻撃受けとらんぞな? ついでに、攻撃を受けたら多分普通に死んじゃうにゃー。だったらこのラメとか装飾されててやたら重いショートジャケットはいらんぞな? タンクトップあるからヘーキヘーキにゃー」

「ぽこ。敵には先ほど交戦した、おっぱいジャンキー氏がいる事を忘れたのですか。なるほど。瑠香にゃんは理解しました。ぽこはおっぱいブルンブルンさせて囮になるのですね。高潔なぽこを見て、瑠香にゃんは久しぶりにぽこをピコにマスターランクを上方修正する事を決めました」



「やっぱりにゃー。チア衣装ってジャケットあって完成だもんにゃー!! ボタン留めるぞなー!! にゃはー!! 留まらんかったぞなー!! サイズ合ってないにゃー!!」


 瑠香にゃんの賢さはもう今のやり取りで説明完了した。



 アトミルカ製の人造兵器として元から保持していた戦闘データに加え、ミンスティラリアでチーム莉子の思考パターンまでぶち込まれた瑠香にゃん人工知能は完全無欠。

 ちょっと常識から外れる意味不明な事態に弱いだけ。


 それが割と起きるのは彼女にとって不幸でしかない。


「ふんすっすです! 穴ちゃんばら撒いて来ました! ボクの活躍シーンがまた来てしまいましたね! ノアちゃんファンがさらに増えます!!」


 平山ノア隊員。

 賢いとか賢くないとかそういう括りではない、ナニかが常に見えている乙女。

 その見据える未来は六駆くんですらちょいちょい出し抜くほど。


 今回も既に何かしらを視て、暗躍開始している様子。


「あの! 小鳩さん、良いですか!! お話あるんですけど! すみませーん!!」

「……え゛。ちょっとお待ちになってくださいまし! わたくし、まだ! 触れられておりませんわよ!? どうして六駆さんがお声がけしてくるんですの!?」


「いや、塚地くんには本当にお世話になりっぱなしで申し訳ない。久坂さんの監察官室に籍は残したままなのに、気付けばうちのエースだもんね。本当に助かるよ」

「南雲さんまで加わりましたわよ……。嫌ですわ!! ちょっとお待ちになってくださいまし!! ちょっとで良いんですの!! わたくしも言いたい事がありますわ!!」



「小鳩さん、陽動班のリーダーお願いします!」

「どう考えても塚地くんが適任なんだよね。他に選択肢がなくて。助かるなぁ」

「ほらご覧なさいですわよ。わたくし、もしかして恋愛乙女枠から外されたんですの?」


 小鳩さんは賢くて頼りになって周りを見渡す視野も持ってて、あと世話焼きお姉さんなので。



 組み分け帽子が当人に無許可で仕事をする。

 ただ、本家の組み分け帽子氏も被ったら最後、宿主の希望や信条は無視して「ぐ、ぐり、グリフィンド……やっぱスリザリン!!」と軽くおちょくりながら望まぬ配置を告げていた気もする。


 じゃあ、いいか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんと南雲さんの組み分けおじさんが意見を交換し終えた。


 繰り返すが、この2人は共に作戦行動を繰り返しすぎた結果、六駆くんは「南雲さんの考え方ってシステマチックで良いですよね!」と団体行動のいろはを学び、南雲さんも「逆神くんはさすがだなぁ。伊達に異世界を1人で滅亡させたり救ったりしてないよね」と悪魔的思考の有用性に理解を示すに至る。


 おじさんは共通の話題があると仲が深まる速度も上がる。

 例えばやきうのおじさんは贔屓のチームが違ってもやきうが好きなのでオフシーズンは特に仲良くなる。



 同一リーグに贔屓がいると開幕して2カ月くらいで険悪になる。



 こちら、戦うおじさんたち。

 異なった戦略的思考を持っていた2人が知らないうちに混じり合って、責任を取る人とむちゃくちゃする人が手を組んだ結果、有事の際には極めて迅速にむちゃくちゃな指示を飛ばすようになった。


 これは呉を発つ際に孫六ランドの人員、つまりバルリテロリ急襲部隊の選任ワクワクドラフト会議もこの2人が独断でキメた経緯を考えるともう確定ランプが灯っても良い時分。

 口では否定しながらも、南雲さんは六駆くんを認めている。


 監察官一の知恵者と悪魔的思考がタッグを組めば戦略の広がり方は無限大だが、巻き込まれる人員は堪ったものではない。

 戦争って本当にそういうところがある。


「はい! 皆さん! 索敵班はですね! 南雲さんがリーダーで! ライアンさんとノアを加えたメンバーです! 情報集めには最適解だと思うんですけど、戦力的に見ると不安しかないので僕もこっちに加わります!」


 索敵班。南雲隊。

 メンバーは南雲修一監察官。平山ノアDランク探索員。ライアン・ゲイブラム氏。

 そこに逆神六駆特務探索員が戦力を補う形で参戦。


「ただ、逆神くんは皇帝の居場所を発見し次第離脱するから。そうなると私たちは状況を見て皇宮から離脱する線もあると考えて欲しい。私たちの班は戦いを想定していないから。邪魔になるくらいなら外で待機して、逐次介入する形の方が効率的だ」


 呼ばれていないのが陽動班。


 小鳩隊。

 リーダーにされた塚地小鳩Aランク探索員。

 椎名クララAランク探索員。跡見瑠香にゃん特務探索員。

 バニング・ミンガイル氏。


 こちらは派手に暴れて敵の注意を引き付けるのが主目的なので、戦闘を想定されているというよりは戦闘を積極的に誘発させるのが任務。

 近接戦と守勢で活躍する小鳩さん。

 遠距離で嫌がらせなら任せとけなクララパイセン。

 威力をミスらなければ超弩級砲を無限に撃てる瑠香にゃん。


 死にかけると強いバニングさんがもう死にかけている。


「まあね! もうこれしかないって人選ですよね!! 多分ですけど、外に莉子が来てると思うので! 芽衣たちと一緒に入って来てくれるんじゃないかな?」

「逆神くん、煌気オーラ感知はこの中でも最低ランクなのに小坂くんの存在だけは確信して、断言するよね。多分って言ってるけど、君、外れる予測は口にしないじゃない」


「何なんですかね。謎のプレッシャーみたいなものを感じるんですよ」

「分かる。私も帰りが遅くなった時とか京華さんが怒ってるだろうなって気配で察知できる事あるから」


「南雲さんは人生の先輩だなぁ!」

「ヤメなさいよ! 君ぃ! 逆神くんの方が中身は年上でしょ!」


「うふふふふふふふふふふふふ!」

「はっはっはっは!!」


 軍議をすると楽しそうになる2人。

 お気づきだろうか。



 彼ら以外は誰ひとりとして何も発言していない事に。



「小鳩。本来ならば私が指揮官をすべきところなのに、すまんな。その分、この身を削ってでもお前たちの安全は死守して見せよう。ミンガイルの名に賭けて。私が死んでもこの名は残る。……アリナ様が遺してくださる」

「おヤメくださいまし!! バニングさんからシリアスなヤツが出てますわ!! 困りますわよ!! そういう空気を出されますと! いざ本当にピンチになった時、うちの猫たちがふざけたら、わたくし……! 槍で突かなくちゃいけなくなりましたわ!!」



「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。なんかあたしにもフラグ立ったぞなぁ……」

「ぽこは自業自得だと思います。瑠香にゃん、何も悪くないのにフラグ立ちました」


 陽動班の悲壮感がすごい。



 全員が役割を認識したらば、いざ散開。

 敵の大本営の入口でもたもたしていたら迎撃してくださいと言っているようなもの。


 RPGでダンジョンの入口にセーブポイントがあるのは侵入者を狙いやすいからだという説は昔から根強く存在している。

 「スーパーファミコンのRPG、セーブデータすぐ消える学」の権威シ・ランケ・ド氏がつい先ほど提唱した。


「とりあえず僕は南雲さんの方にいますけど、ダメだなって思ったら知らせてくださいね! 助けに行きますから! 僕か莉子が!」

「にゃー。当たり外れの判定が時と場合によってどっちにもなり得る、地獄ガチャだぞなー」


 小鳩さんが「六駆さんは煌気オーラ感知がガバガバですし、莉子さんはコントロールがガバガバですわよ……。ちゃんとわたくしたちが全滅するまでに来てくださるんですの?」と思ったが、口には出さなかった。


 嫌な予感はたわわな胸に留めておくのが良い。

 口に出すとその瞬間に予感が可能性になってしまうので、良くない。


「じゃあね! ここに防御膜は残しておきますので! 死にそうになったら駆け込んでくださいね! では! 行きましょうか! とりあえず僕がそこの壁、ぶっ壊しますね!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『豪拳ごうけん銅鑼衛門バトルゴング』!!!」


 六駆くんの音がデカいパンチを合図に、2つの部隊が作戦行動を開始。

 どっちが不運ハードラックダンスっちまうのだろうか。


 バルリテロリサイドが本当にクイントを出して来るとすれば、因縁のあるバニングさんとおっぱいが揃っている陽動班は早速仕事ができそうな気配もするが、果たして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る