第1141話 【六駆と南雲の組み分け帽子・その1】おじさんたちが「突入したから部隊を分けるね」ってよ! ~またしても死期を悟るバニング氏~

 こちらはバルリテロリ皇宮、つまり敵の大本営に突入した現世チームの本隊。

 南雲傀儡部隊である。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『薄くて丈夫で破れにくい膜グレート・キャン・ドゥーム』!!!」


 突入したらばまずは安全確保。

 探索員の基本であり、最強の男の基本でもある。


 敵に気取られているのは大前提。

 突撃隣の晩ごはんすらも凌駕するぶっこみ。

 かの番組は完全アポなしで行われており、かつては家主にガチギレされたり、ヤの付く自由業の組長宅へ突撃というか特攻してしまったり、高級住宅地で警察を呼ばれたりと多くの伝説を残しており、多分ヨネスケ氏は特務探索員かと思われる。


 晩飯食わせろでも警察沙汰になる事を考えると、皇帝の首寄越せは全軍をもって応対されるのは必定。

 とりあえずもうどこから何が飛んで来てもおかしくないので、六駆くんが全力で防御膜を発現。


「これで大丈夫です! 少なくとも僕が即死するレベルの不意打ちを喰らわない限り、初撃だけは完璧に防ぎますから!」


 頼もしいお墨付きが出た。


「さて。逆神くん。とりあえず君の意見を聞いてもいいかな?」

「南雲さん!!」


「あ。分かった。言わなくて良いよ」

「南雲さんが全責任を取る形になってから僕は喋りますね! うふふふふふ!!」


 喋れと言えば黙るし、黙れと言えば喋る。

 これはおじさんの持つ108ある必殺技の1つである。

 子供にやられても腹が立つのに、いい年こいたおっさんにやられると怒髪冠を衝く事もあるので、使いどころは良く見極めなければいけない。



 失礼しました。全探索員の皆様がおっさんの前提になっておりました。

 若年探索員の皆様にお願いいたします。

 おっさんは嫌いになって良いので、この世界は嫌いにならないでください。


 滅せよ。厄介系おじさん。



「うん。我々は部隊を分けようと思う。はい。逆神くん。言ったよ、私」


 南雲さんが先に部隊の行動指針をガッツリ指示したので、六駆くんがお喋りになる。


「僕も賛成ですね! 具体的には、情報収集担当の班と敵の注意を引き付ける陽動班の2つに分けたいです! だって、ひいじいちゃんがどこにいるのか分かんないんですもん! 非効率過ぎますよね! 敵の大将の首を落としたら終わりなので! それを探しましょう!」

「生き生きしてるなぁ。一応聞くけど、逆神くんは分からないんだよね」


「南雲さん! 僕の煌気オーラ感知能力を舐めてますか?」

「違うよ? なんかこう、一族の共鳴的な何かで分かったりしないのかなって確認したんだよ?」



「分かってたらとっくに僕が単騎で殺しに行ってますよ!!」

「確かに! それもそうだね!!」


 サイコパス指数が高いかどうかの違いはあれど、この2人の指揮官としての思考は似ているのである。



 一同は固唾を飲んで事態を見守る。

 ハリーくんが組み分け帽子を被るちょっと前の心境で。


 「狙われるのは嫌だ。分隊長は嫌だ。六駆くんに巻き込まれるのは嫌だ」と。


 彼は恐らく情報収集班に属するであろうことは明白。

 新鮮な皇帝の所在地をゲットしたら何を置いても吶喊する事は間違いなく、であればその後に狙われるのは残存部隊。


 とりあえず数を減らすには最強のカードが消えた部隊が手っ取り早いし、人質として交渉材料にも使えるかもしれないし、狙わない理由はない。

 現世チームとバルリテロリサイド、お互いがお互いの事情は知らないものの、現世チームは「六駆くんがタイマンするんやろな」を決定事項としているし、「だったらバルリテロリは皇帝がタイマンさせられるんやろな」と線を引っ張って結びつける事も容易。


 これまで六駆くんが相対して来た強敵も、最初は彼と衝突して倒そうと奮戦するものの、最終的には「これはダメだ」と気付いて周囲の友軍を狙う傾向がかなり高い。

 命が掛かっている状況で正々堂々を謳える者は希少。


 人間が皆、鎌倉武士ではないのだ。

 そして人間が皆、薩摩隼人でもない。


 「金が無くて食うのに困る? じゃあ戦争行って死ねばええやん!」と笑顔で提案して来るのは御恩と奉公時代の人たち。

 チェストと叫んでイギリスの軍艦に特攻キメるのは島津さんちの人たちだけ。


 普通の人は命が惜しい。

 世の中、普通の人が1番多い。


 大多数を占める者を普通と呼ぶのである。

 チェスト軍団が普通になったらとりあえず首都を北海道に移そう。


「どうします? 南雲さん。やっぱり南雲さんは情報収集の方ですよね?」

「そうだねぇ。私、チャオってもどこまで役に立てるか微妙だから。そっちかなぁ。逆神くんは囮して暴れたいんじゃないの?」


「分かります? うふふふ! 実はフラストレーション溜まってまして! ただ、残念! 敵幹部討ち取っても報奨金出ないですよね? 有益な情報をゲットしたら逆に出ますよね?」

「そうだね。……君、探索員憲章を読み込んでるな!? 知恵を付けた逆神くんは本当に頼もしいけど怖いねぇ」


 探索員の情報取得ボーナスはむちゃくちゃ有益でも精々が100万円程度。


 今のお金大好き逆神六駆の1殺害は500万くらいが相場。

 だが、待って欲しい。


 それはあくまでも「貰えるお金を引き上げる余地がある」場合において、六駆くんが「ギリギリまで交渉する」事を覚えたからというお話。

 ミニマムもマキシマムも決まっている案件ならば無意味な値段交渉はしない。


 100万なんてはした金、今更この子は見向きもしないと思うのも早計。


「やっぱりね! お金が貰えるって分かった状況の作戦だと緊張感があってやりがいも違いますからね!!」

「そう言うと思ったよ。私、ポケットマネーはもうないからね? 京華さんに怒られるんだよ。子供生まれるしさ」


「良いんですよ! 南雲さんとはずっと仲良くしておきたいですから! うふふふふ!!」


 総資産が億を超えていたって、100万円は大金なのだ。

 最強の男にも将来は分からない。


 100万だろうが1万だろうが、3000円だろうが、貰えるものは絶対に貰う。

 これを徹底しないとお金持ちにはなれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「バニングさん? 大丈夫ですの? なんだかお顔の色が優れませんけれど」

「ふっ。気遣い感謝する、小鳩。私は基本的に顔色が悪い」


 組み分け帽子おじさんたちが相談している間、六駆くんの発現している絶対防御空間の中にいる以上やる事と言ったら雑談くらい。

 なんか具合悪そうなバニングさんを慮る小鳩さん。


「瑠香にゃんさん。ちょっと診て差し上げてくださいまし」

「はい。ご主人マスター。瑠香にゃんサーチを実行します。実行しました。ご家族の方を呼んで頂けますか」


「……何かあったんですのね?」

「ご主人マスターをご家族の代理人とします。バニング様の煌気オーラ供給器官が破損している事を確認。告知モード。ちょっとずつ、煌気オーラが漏れてます。放っておくと死にます」



 運命から逃れられないバニング・ミンガイル氏。



「うにゃー。瑠香にゃんのおっぱいエナジーの食い合わせが悪かったんだにゃー」

「ぽこに苦言を呈します。瑠香にゃん、別にノリノリで分けた訳ではありません」


「ライアンさんとノアちゃんがあっちで内緒話しとるからにゃー。あたしたちじゃサッパリ分からんぞなー。瑠香にゃんのおっぱいエナジー、もうちょっと入れてみるぞな?」

「端的モード。このポコ野郎。迎え酒感覚で瑠香にゃんの生体エネルギーはあげません」


 今回は瑠香にゃんの生体エネルギーが原因ではなく、バニングさんの肉体がそろそろ限界を迎えつつある、それだけであった。

 氏の歴史は戦いが人生の全て。


 アトミルカ殲滅戦で六駆くんと戦った際にはもう限界を超えており、そこからさらに究極スキルにまで手を出した結果、いよいよ体が「もうワシら働き過ぎましたわ」と悲鳴を上げていたのに、それを無視して頑張った結果が今の限界到達バニングさん。

 引退して畑に種をまきながらアリナさんにも種を仕込んでいれば日常生活には支障なく寿命を全うできるにもかかわらず、この男はあっくんに匹敵する責任感によって何か起きれば真っ先に死にに行く。


 よろしくない兆候である。


「じゃあ、バニングさんは……。陽動班のアタッカーにしましょうか!! 強いですし、指揮官できますし! ね! 後はチーム莉子で固めたいですから! 女の子ばっかりの班を敵の本拠地で活動させるのはねぇ? 僕としても南雲さん的にも、やっぱ困りますよね! イメージとか、後の報告とか!」

「逆神くんとこういう話が弾むようになるなんてねぇ。本当に時間ってすごいんだなって思い知らされるよ。確かに、ライアンさんが攻撃スキルを使えない今、バニングさんは貴重なオールラウンダーだもんねぇ」



「あの……。わたくしに何かできる事はございますか?」

「小鳩は良い嫁になるだろう。私の墓は必要ないとザールに伝えてくれ。死んだあとにまで慕われては敵わん。あれの人生の枷になる」


 もう「私のお墓の前で泣かへんでな」まで心が進んでいるバニングさん。



 悪魔的作戦会議が全部漏れ聞こえてくるので、最初に組み分け帽子の洗礼を受けたバニングさんを皆が追悼した。

 ただし、次は我が身という現状なので、献花まではいかない。


「ライアンさんはこっちに欲しいですよね。分析スキルってチートですもん」

「確かに。サーベイランスがいなくなってるから、そうしようか」


 ライアンさんが小さくガッツポーズしてから、バニングさんの方を叩いた。

 「ご安心ください。私があなたの悲願である、わんにゃん帝国を必ず建国して見せましょう」と言葉を添えて。


 バニングさんが否定せず「よろしくお願いいたします」とだけ答えた。


 現状、六駆くんと南雲さんが同じ班に組み分けられようとしている。

 つまり、誰かが陽動班のリーダーをさせられる恐怖はまだそこら辺を漂っている。

 可能性は誰にでもあるのだ。


 バニングさん、クララパイセン、小鳩さんはそれぞれ指揮官させられた経験がある。

 組み分け帽子が牙を剥く。


 敵の大本営に入ってすぐのところからお送りしております。

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