第1140話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その27】「仕上がったで!!」「陛下、皇宮に敵が侵入し、さらに分散すると思われます」 ~仕上がったんや!! 勝手に入って来て分散する敵が悪いんや!!~

 もう戦場になってしまったバルリテロリ皇宮からお送りしております。

 奥座敷は文字通り奥の方にあるので、まだ敵襲までの時間はありそう。


 抜け殻になっていたテレホマンの身体が淡く光ると、彼の目が開かれた。


「陛下。宸襟を騒がせ奉り恐縮でございますが、いくつかご報告がございます」

「おお! お帰り、テレホマン! 聞いて!!」


「はっ。では、陛下の御言葉を先に賜ります」


 17歳になった喜三太陛下が満面の笑みでわずかになった部下たちへ宣言する。



「ぶーっはははははは!! 仕上がった! 仕上がったぞ! ワシ!!」

「はっ。左様でございますか」


 温度差があった。皇帝陛下と総参謀長の間に冷たい雨が降る。



「ちょ、待てよ!!」

「陛下。令和に同期されるのを諦めてキムタク全盛期のモノマネはお控えください。似ておられません。あと、木村拓哉さんはドラマの主演が続いておられますので、全盛期という表現はどうかと私は愚考します」


「ええ……。全盛期って言ったのテレホマンやんけ。ワシ、仕上がったんやで?」

「はっ。よろしゅうございました」


「なんでそんなリアクションなんや!! あー! 分かったぞ! 煌気オーラ解放してないから、凄さが伝わってないんだな? 言えよー!! ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「陛下!! おヤメください! くっ! オタマ様!!」

「はい。テレホマン様。陛下、失礼いたします。……失礼いたしました」


 陛下が後頭部からご出血あそばされた。


「なんでなん?」

「陛下。既に敵の部隊が皇宮内へと突入した由にございますれば。お仕上がりになられるのが数分遅かったかと思われます。そして煌気オーラの解放をされますと、一瞬で奥座敷の場所が把握されます。おヤメください」


「なんでなん?」

「はっ。仮に陛下がお仕上がりになられておられた場合ですと、敵を城門でチンクエ様が食い止めておられた際に全力をもって一網打尽に屠ることも叶いました。が、既に敵は皇宮の中。さらに分散の気配がございます。これでは陛下がいくらお仕上がりになられたとて、お相手できる数は全隊から減りましてございます」


「長文でマジレスはヤメろやー」

「では陛下。皇宮ごと灰燼に帰す覚悟はおありですか?」


「えっ!? ワシのコレクションとかあるのに!? よしんば何もなくてもやで! ここはワシがこっちに来てからずっと住んどる家やで!? 思い出がいっぱい!!」

「つまり、些か遅きに失した感がございます」


 六宇が気まずそうに手を挙げた。


「あの。ごめんね。テレホン。あたし、パンチラ問題でさ。ものすごくワガママ言ったから……。反省してる……」


 テレホマンは首を横に振った。

 四角い頭が取れちゃうと心配になるほどの勢いで。



「それは違います! 六宇様! あなた様のこだわりがつい先刻!! バルリテロリを1度救っておられます!!」

「え゛。よく分かんないけど、あたしのパンツが国を救ったみたいですっごいヤダ」


 短パンの山がなければバルリテロリは消滅していたかもしれない。

 総参謀長と電脳ラボの全会一致で可決された総意である。



 チンクエも奥座敷に戻ってくる。

 服が粉塵とか出血とかで汚れていたので着替えて来た、意外にもTPОにきっちりしている弟者。

 こういうところがモテるか否かの分水嶺になりがち。


 戦争中に身なりも何もあるかよとか言ってはいけない。


「おいぃぃぃ! チンクエぇぇぇ!? おめぇぇぇ! 腕どこにやった!?」

「心配してくれる兄者は良い……。はぁぁ! 今、生えた」


「オレそっくりの腕が!!」

「陛下。申し訳ない。私の力が及ばず、敵の侵入をまるっと許してしまった」


「え゛。チンクエが忠臣みたいになっとるやん。ええんやで? 頑張ったもんな。あともう5分くらい頑張ってくれたら良かったのにと思わんでもないけど」

「はい。陛下。動かれますと顔面が御破損いたします」


 ガッと音がした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 頭を押さえて止血あそばされながら喜三太陛下が下知られる。

 最後の御言葉にならなければ良いが。


「いいか。よく聞け。敵はワシらのいる奥座敷の場所を知らん。城門までは一本道だけど城の中は複雑にしてあるからな! ワシも調べた! 鬼滅の刃の無限城みたいな感じや!! 劇場版になるのかね?」

「陛下。その頃にはバルリテロリがなくなっているか、帝政が終わっているかだと思われますので。未来の晩餐を美味しいヤツにしようとするよりも今、何を口にするかについてお考え下さい。我ら、餓死寸前です」


「テレホマンがなんか厳しくなった……。よし。みんな、聞け! これからワシが転移スキルで敵の真ん前にみんなを運ぶから! 各個撃破じゃ! 分散してくれたおかげで総力戦が回避できたと前向きにいこうぜ!! オタマ! 待って! メリケンサックをおろして!! まだワシ、途中やで! 下知っとる途中!!」

「はい。陛下」


 オタマが拳をおろした。

 握りしめたまま。


「もう絶対に話が終わったら殴られる流れやん……」

「陛下……!! ご立派になられて……!!!」

「あ。キサンター。これね、あたしとかキサンタをバカにしてる時のオタマだよ」


「可愛いからええんや!!」

「分かるー。オタマって可愛いよねー。クール系って美人が多いのにさー。これでボボボーン・キュッ・ボーボボンとかすごい!!」


 オタマが無表情に戻ってから確認した。



「陛下。お話は終わられましたか」

「マジかよ、六宇ちゃんだけ許されとる!! そういうの良くないで? なんやったっけ? 令和ではそういうのアレやろ? なっ? あのー、オタハラ? あ゛」


 お話が終わったとオタマに判断されたご様子。



 テレホマンがけろけろけろっぴのタオルを献上したので、可愛いカエルが血に染まる。

 陛下が続けられた。


「どこまで話したっけ。あ゛! ヤメて、オタマぁ!! 思い出したからぁ!! ……いいか、よく聞け。1番やべぇのは、うちのひ孫の指示。皇宮ごと消し飛ばそうとする可能性がむっちゃ高い。ワシはそんな事しないけど、これまでのひ孫のムーブ見てたら、絶対にする。むしろ、なんでまだされてないのか分からん」


 簡単な事である。

 六駆くんはこの戦争で退役し、隠居する気満々マン。


 皇宮には宮って付くし、見た目は城だし。

 説明不要である。


 絶対に金目の物があるので、それを回収不能にするような一撃必殺による拠点爆破などチョイスしない。

 お金なんかいくらあっても良いのである。


 彼は隠居して家族が不自由なく暮らせる額があればそれで良い。

 矛盾しているかもしれない。

 ただ、繰り返す事になるが。


 お金なんかいくらあっても良いのである。

 報奨金が充分貰えても、そこにお金があればとりあえず拾う。

 特に現金同等物とかは高ポイント。



 これから先の未来、日本円が暴落しないなんて一体誰に保証できるだろうか。



 ひ孫がやべぇのは知ったとてひ孫がお金大好きなのはまだ知らない喜三太陛下。

 「今はひ孫も攻めあぐねとるんやな!!」と好意的に解釈なされた。


 総司令官の士気が下がるといよいよアレなので、ここに至れば好意的だろうが独善的だろうが、自分が気持ちよくなる考えで無理やりご自身を納得される戦法は有効。

 もう冷静な判断とかよりも圧倒的な武力の方が欲しい段階まで来たのである。


 本土決戦どころか、大本営に敵が攻め込んでいるのだ。

 降伏するタイミングすら逸している。


 面倒な講和するよりスパッと皇帝の首を獲った方が早いもの。


「と言う訳で、ワシらは戦力を小出しにしていく。奥座敷の防衛も強化する。テレホマンなら分かってくれるよね?」

「はっ。奥座敷に陛下がおられる以上、転移で城内に人員を出したり引っ込めたりが自在かと愚考いたしますれば。傷ついた者を下げ、回復した者を出す形が人員不足の我らにとって最上の策。……と申しますか、もはやそれしか手はございません」


「なんでや! もっと色々あるやろ!!」

「はっ。では、意見具申しても?」


「ええで!」


 テレホマンが膝をついて首を垂れた。



「陛下の首級をもって敵を謀り、一時撤退させる手がございます」

「ワシにまた死ねと? 首刎ねられた事ないんやけど、それでもワシ生き返ることできるかな?」


 もしかしたらダメかもしれないので、テレホマンの策は却下された。



「よし! 第一陣を発表するぞ!!」

「私が出よう。兄者にはラブコメしてもらわなければ。そちらの方が良い……」


「ええ……。チンクエはしばらく休んどって? もうボロボロやんけ。なんでそんなことになったん?」

「謎の……トラと白髪を従える、みみみと鳴く……なんか可愛いのと。あとは破壊の権化みたいなのに出くわした。良い経験をしたが、もういい……」


 ひ孫の嫁です。


「じゃあ……。オタマは傍にいて欲しいし。テレホマンは幽体離脱で戦局の把握してくれるし」

「陛下。『ダイヤルアップ』でございます」


「うん。それそれ。じゃあ! クイント! 君に決めた!!」

「じじい様よぉ! 人に死ねって言うんだったらぁ? なんかあんだるぉ?」


「こいつぅ! ちょっと忠誠心上げ過ぎたって気付いて、調整して来やがった!! 何が望みなの? 言ってみ! だいたい叶えてやるよ! やべぇもんね、現状!!」

「ふ、ふふふ、ふへへへへへ! オタマがダメなら! 六宇と一緒に行かせてくれ! 皇敵、全滅させて見せるぜ?」


「六宇ちゃんか。そうかー。……………………………………………」

「え゛。なんで長考してんの!? キサンタ!? お、おじーいちゃん!! 肩揉む!?」



「六宇ちゃん。ごめんやで」

「ヤダぁ!! ねー! ヤなんだけどぉ!! 戦うって言ったけどさ!! 組む相手くらい選びたい!! ほら! もうクイント、あたしのミニスカしか見てないんだけど!!」


 喜三太陛下が六宇の肩を優しく叩かれた。



 数が減っていく皇宮回の人々。

 だが、最初は陛下とテレホマンとオタマの3人体制だった。


 まだイケるんや。

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