第1137話 【芽衣が頑張るです・その4】男だって股間のチャックが開いていたら狼狽える。乙女の狼狽はいかほどか。 ~【悲報】新たな敵の気配だったかもしれない【莉子ちゃん、気付いた】~

 チンクエの腕をすっ飛ばした芽衣ちゃんの一撃。

 すっ飛んだ腕はまた生やすだろうが、再生スキルは煌気オーラ消費量が多く気軽に連発すると枯渇状態に陥る。


 現世では結局最後まで敗北らしい敗北は喫することなく、負けたのはピュグリバーの活きの良いおっぱいと本部のSランクオペレーターだけでお馴染み、雨宮順平おじさんもかつてはアトミルカ殲滅戦で過再生を繰り返した結果、煌気オーラ供給器官がちょっとアレした経験がある。

 時代の変化と共にネガティブな意味で使われる機会が増えたの本来持つ「ちょうどよい度合で」適当な事を適当に言いながら戦うおじさんですら、ちょっと塩梅をミスると煌気オーラ枯渇に追い込まれる扱い注意な再生属性。


 あと何回かチンクエの四肢をすっ飛ばせば、持久戦にはなるものの勝ち筋が見えるか。

 持久戦になった時点で負けみたいなものだが。


「……みみっ。ごめんなさいです。サービスさん。ダズモンガーさん。芽衣、これ何発も使えないです。バッツさんのアドバイス、バッチリ正解だったです。ニーハイソックス脱いだらスキルの威力が上がったけど、その分煌気オーラがたっぷりなくなるです。芽衣、煌気オーラ総量もダメダメな子だったです。みみみみっ」


 芽衣ちゃま生足魅惑のマーメイド仕様は諸刃の剣だった。


 よく考えれば分かるような気もする理由がちゃんとある。

 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』は芽衣ちゃんが「おじ様と同じ名前のスキルなんて使いたくないです!!!」と凄まじい嫌悪感を抱いたために名付けられたものであり、その実態は『ダイナマイト』を纏った拳撃。


 その威力向上のために、両脚からもちょっとした『ダイナマイト』を後方に噴射しているので、これはもう燃費が悪い。

 GT‐Rとかいう見るからに速そうな車の燃費が「リッターでだいたい8キロやで」とか聞かされた時と同等の衝撃である。



 このガソリン高騰が続く時期に。

 車に興味のないド素人はうっかり「その車は売ってリコバイク買えば良いのに」とか思いそう。



「みぃぃ! でも芽衣、頑張るです!! みみみっ!」

「ふん。芽衣ちゃま。前にも言ったが、子供が使命を全て背負う必要はない。大人を頼れ。俺はもう何歳か分からんが、多分芽衣ちゃまの10倍は生きている。トラ。お前は?」


「ぐーっはっは!! 20倍と少し生きてございまする!!」

「ふん。つまり俺はトラを頼っても良いという事か。悪くない」


「えっ」

「ふん。サービス・ジョークだ」


 こんなしょうもないやり取りをしていると、戦いに集中していた全ての戦士が気取る。

 凄まじい煌気オーラが接近している事を。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子ちゃんのスキルおさらいのコーナー。


 彼女は煌気オーラコントロールがガバガバ過ぎたので、風属性しかまともに習得できておらず、最近はそれすらも使用頻度がガンガン下がり専ら苺色のスキル使いになっている。

 『苺光閃いちごこうせん』は無属性。

 六駆くんが「もう莉子にスキル覚えさせるより、無属性のスキル作った方が早いや」と産み出された特注のものなので、現存する属性のどれにも当てはまらない。


 兄者リスペクト属性よりも稀有と言えば伝わるだろうか。


 煌気オーラ感知によほど長けているか、1度でも苺色の悪夢を見ている者ならば気付けるかもしれないが、此度の戦場で該当者は芽衣ちゃんだけ。

 彼女は極大スキルを発現していたのでそれどころではなかった。


 そして気付く。

 全員がほとんど同時に。


「ふん……。なんだ。この禍々しい煌気オーラは」

「みっ! 莉子さんです!!」

「左様でございまするな! 莉子殿が来てくださいましたか!!」


「莉子とは、逆神のつがいか。……ふん。禍々しいのだが?」


 サービスさんはピースの首領時代に一瞬だけ莉子ちゃんと接敵したタイミングがあったものの、彼女が『太刀風たちかぜ』ですらまともに発現できないほどの体たらくっぷりを披露していた時期であり、『万物無乳の極み』に覚醒した際には被害者がライアンさんに代わっていたため、莉子ちゃんのガチった苺色の悪夢は初体験。


「……俺が本気を出す時が来たか」



 味方なのに本気で迎撃する必要に迫られる男。サービス氏。

 とりあえずメンタルを維持すべく練乳をダブルでチュッチュした。



 穏やかではない心中はこちらの方がずっと深刻。


「これは…………。テレホマン。良くない」


 チンクエが「良くない」って言った。

 浮遊霊しているテレホマンが応じる。


『はっ。こちらは観測された際にデータだけ採取しております。ひ孫様の擬態化した子供のお姿です』

「テレホマン。報告は正確なものが良い……。では、先ほど我々が取り逃がしたひ孫は何だった?」


『…………。ちょっと分かりかねます』

「ひ孫は増えるのか。それは良い……。羨ましい……」


 バルリテロリは莉子ちゃんが何なのか未だにきっちり把握できておらず、何なら「あれがひ孫様か! 思ったよりも小柄で幼い!!」と考えていた頃の方がまだ答えとして求めるには正常値だった。


 今はもう謎の煌気オーラを発しながら高速で接近して来るよく分からん、とりあえず味方ではないナニか。



 なにそれこわい。である。



 バシュッと音がして、地上に降臨した乙女が1人。


「芽衣ちゃん! 来るの待ってたよー!! わたしの方が遅れちゃったけど! えへへへへへへへへへへへ!!」

「みみっ! 莉子さん! …………みっ!?」


「あのね! お洋服を……あれ!? なにその服!! 可愛い!! ……ん? なんだか見覚えがあるような気がする。これ、わたしがデザインしたヤツに似てる?」

「み゛っ」


 超強力な援軍がやって来てくれた。

 これで勝つる。


 そう思っていたところに、「わたしの服だよね?」と首をかしげる莉子ちゃんが出現。

 厄介なのは、今回に限りリコリコ脳の認識が正しい。


 芽衣ちゃんのお召しになった新装備は莉子ちゃんが企画、デザインを担当し、シミリート技師が製作したもの。

 サイズ感の差異があったためお蔵入りになっていたが、目の前で「自分と同じ体型の」芽衣ちゃんが着ているとなれば話は変わって来る。


「芽衣ちゃん! その服、いいなぁ!!」

「み゛っ。み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛み゛っ」


 芽衣ちゃまアラートが鳴り響く。

 味方と思ったら敵だったり、敵と思ったら手を取り合ったり。


 マクロスFのトライアングラーでそんな感じのことを歌ってた。


「莉子殿?」

「わぁ! ダズモンガーさんもいる!! こんにちはー!!」


「こ、こんにちはでございまする。あの。装備はどうなさいましたか? それは肌着では?」

「うぅ……。わたしの装備、不良品だったんですよぉ……。でもでも! キャミソールって見えても良いヤツなので!! ちょっと激しく動けないですけど! 平気です!」


「あ。いえ。……パンツが見えておられまするように吾輩は思えるのですが」

「ふぇ? …………? ……………………………ふぁっ」


 手を伸ばしてショートパンツちゃんの死骸に触れた莉子ちゃん。

 そうである。


 視認できずとも、手を伸ばせば感触でどんな惨劇が起きているのかは把握できたのだ。

 乙女の防衛本能がそれをさせなかったのか、自分のお尻に対する過信か。


 何はともあれ、ダズモンガーくんに指摘されて莉子ちゃんは自身を正確に把握した。



「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 見ないでくださいっ!!」

「ぐああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


 今日一番のぐああが出てしまいました。



 莉子ちゃんが恥ずかしさのあまり、噴射して来た『苺光閃いちごこうせん』の残留煌気オーラを付与した手で照れ隠しタッチを行使。

 ダズモンガーくんが皇宮の追手門跡地に高速落下して行った。


 諸君に勘違いして欲しくないのは、女子の「もぉぉぉ!」と照れ隠しから繰り出される肩にペシッは思春期男子からおじさんに至るまで、我々の業界ではご褒美とされている。

 莉子ちゃんは女子高生。


 これはもう、ダズモンガーくんも本懐を遂げたと言って良いのではないだろうか。

 ダメなのだろうか。


「もゅつょぬをれぅ!! 『ピンポイント・サービス・ジャック』!!」

「ふぇ!?」


 とりあえずサービスさんが莉子ちゃんに対してスキルを発現した。

 緊急的な自衛手段としての措置なので、これを悪手と断じるには少しばかり情状酌量の余地があるかもしれない。


 多分、サービスさんも照れる乙女にペシッてやられたかったのだ。

 違うだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 地上では、チンクエが静かに決断を下そうとしていた。


「テレホマン」

『はっ。私もチンクエ様と同じことを愚考しております』


「あれはまずい。良いところがない。トラが飛んできた。皇宮に入れると非常にまずい」

『はっ。まったくもっていちいち御尤もかと』


「分析してくれ。あれを釣るために何か餌があるのか。なければ私が特攻して時間を稼ぐ」

『お待ちを! 電脳ラボ!! 総員であたれ!! 識別コード・ひ孫様男児バージョン! 足止めのために貴官らの知恵を振り絞れ!! 皇国存亡の危機は今ぞ! 急に来た!!』



 チャリで来ました。



 バルリテロリサイドからすればずっと敵だったのだが、認識されたのがこの瞬間。

 現世一斉侵攻だったり、宙域戦だったりと立て込んでいて観測するタイミングを逸し続けた莉子ちゃんが恥ずか死ふぇぇぇに瀕した状態で出現。


 対応を誤れば何かが消える。


 そして装填できる弾は恐らく1発。

 外せない。しかし、手をこまねいてもいられない。


「もぉぉぉぉぉ!! わたし! わたし!! いつからこうなってたの!?」

「みみみみみみみみみみみっ! 莉子さん! 落ち着いてです!! ……みー? 時間停まってるのに莉子さん、普通にお喋りしてるです……。みっ……」


「芽衣ちゃん! ちょっとスカート貸してくれる!? 下ってパンツじゃないよね!?」

「み゛ぃ!!」


 風雲急を告げる攻城戦。


 彼らは何と戦っているのだろうか。

 今回は答えが出ている。


 それを口にする者は勇者か、それとも蛮勇を履き違えた自殺志願者か。


 次回。

 誰でも良い。なんか着るもの寄越せ。


 戦場に流れるは乙女の涙。

 あるいは大量の鮮血。

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