第1135話 【莉子ちゃん敵国独り旅・その5】「……………………ふぇぇ」 ~ショートパンツちゃん以外も絶命の声を上げる、滅びの時。あと、皇宮に着きました。ネクター飲んだら行きます。~

 日本本部から「敵さん、攻撃する気がまったくないみたいっす。どうにか芽衣さんたちで一気呵成の猛攻で撃破できないっすかね」と、有益な情報なのか切実な願いなのか、とりあえず突破口のようなヤツがもたらされる。


 芽衣ちゃんが答えた。


「みみみみみっ。……みみっ? 芽衣たちさっきから割と一気呵成してるです? みーみーみー? あと、攻撃する気がない敵さんに結構防御させられてるです。み゛っ」


 あまりにも相性の悪いマッチアップをもう一度再確認させられたご様子。

 これには右腕が黙っていない。


「ふん。司令部というのは常に現場に無理を言う。高みに立つ事は叶わずとも、せめて現場と同じ高さで物を見ろ。芽衣ちゃまはとても頑張っている。頑張っている芽衣ちゃまにさらなる頑張りを強いるのならば、俺は。再び日本本部を落としにかかるぞ」


 繰り返しご説明しております。

 サービスさんは別に改心した訳でも、正義の心に目覚めた訳でもありません。



 ただ芽衣ちゃまに心酔した結果、優先順位が変わっただけ。



 みみみと鳴く可愛い頑張り屋さんに「もっと頑張れ」とか命令して来たらば、『神聖・芽衣ちゃまダブルピース』とかを組織して世界を相手にまた暴れる可能性が高い。

 とはいえ、99%の確率であったとしてもこの可能性は一瞬で消し去ることが可能。


「み゛っ! サービスさん! みみっ! ラッキーさん! めっ! です! み゛み゛っ!!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


「ふん。救われたな。日本本部」

「ぐああああああああああああああああああああああああああ!」


「しかし。このトラはよく働く。ネコ科に立つか。トラ」

「ぐあああ……。吾輩、獣魔人ですゆえ。種族としてはトンボとかもおりまする。全部まとめて獣魔人でございまする。……確かにネコ科っぽい者が多い気もいたしまするが」


 ついにりながら世間話まで可能になった、耐久性極振りタイガー。


「良い……。理想的と言っても良い……。これならば私は兄者がラブコメを成就するまでこの場を担当する事もできて良い……。相性が良いというのは、とても良い……」


 チンクエは兄者がラブコメをキメるまで門番を続ける宣言。



 悠久の時を生きるつもりか。



「みみみっ。困ったです。こっちは全然消耗してないのに、敵さんも全然消耗してないです。芽衣のスキルが弱っちいのが悪いです。みぃぃ……」


 サービスさんの瞳が憤怒の色に染まる。


「ふん。トラ」

「はっ。なんでございまするか?」


「砲弾になる気はあるか」

「ございませんが!?」


 もう確実に「ダズモンガーくんを時間凍結させた弾丸にして、チンクエに突っ込ませたのちにその空間ごと時間停止」という非人道的、いやさ非トラ動的な攻撃に移行する気しかないラッキー・サービス氏。

 さすがは武力オンリーで平等を作ろうとしただけあって、発想が過激そのもの。


「みみみっ。莉子さんがいてくれたらです。六駆師匠の近くに莉子さん、いなかったです。つまり、どこかにいるです? 別の任務してるなら、早く来てくれると助かるです。みみみみみみみっ」


 芽衣ちゃまが莉子ちゃんをご所望と申された。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 莉子ちゃんはついにリコバイクから解放される時が訪れる。

 そんなファンファーレの直前にいた。


 リコバイクを漕いできた莉子ちゃんの現状リコ説明リコ。


 ショートパンツちゃんは逝った。

 ただ、ノースリーブジャケットちゃんが逝っていないと一体誰が言ったのか。


 逝ったとは言っていない。

 ならば逝っていないと考えるのは、我々人類が言葉を操れるというだけで想起するエゴであり、傲慢ではなかろうか。


 言葉は人と人を結び付けるホモサピエンスが生みだしたコミュニケーションツールであるが、都合の良いように操る事が可能な現実逃避ツールにもなり得る。

 悟空さが「でぇじょうぶだ」と言えば「あ。大丈夫なんですね」と思いがちだが、カカロット氏も結構やらかしている。


 莉子ちゃんが「もぉぉぉ! ビックリしたよー!!」と安堵の声をあげた時、もう亡くなっていたのだ。



 ノースリーブジャケットちゃんも。



 莉子ちゃんの装備の上のパーツ。

 イドクロア製のジャケットは服飾的にはサテン生地と呼ばれる感じの素材で構成されている。


 ちょっとお高いパジャマとかに使われている、つるつるしたヤツ。

 防弾防刃防熱防寒を兼ねている上に、スキルもある程度ならば弾くことが可能な高性能ジャケット。

 表面はつるつるしている必要がある。


 また、近接戦闘を想定した装備なので引っ掛かりが少なく、滑らかな動きのサポートもしてくれる。

 諸君の言いたい事は分かる。



 莉子ちゃんの装備が作られた時には、彼女だって動けたのだ。

 ちょこまか戦場を駆けて、時には剣まで使いこなしていた時期だってある。


 ハマチだって成長すればブリになる。

 ちょっとムチムチしたブリになっただけ。それだけの事。些細な変化。


 君の上半身、引っ掛かるとこないやんけって話は今していません。



 さて、サテン生地のデメリットと言えばそれはもう手芸を嗜む者の間では常識。

 摩擦、引っ張る力にむちゃくちゃ弱い。


 おわかりいただけただろうか。


 変なところにペダルがあって、ものすごく前の方にサドルが付いているリコバイク。

 これを漕ぐためには両脚をピンと伸ばさざるを得ないので、必然的に上半身も背筋が伸びるどころではない姿勢を強いられる。


 ショートパンツちゃんの「ビリッッッ!」という断末魔にかき消されて、ノースリーブジャケットちゃんも「バリッ……」と絶命していた。

 腋の下から逝ったので、少しの間は死体になったノースリーブジャケットちゃんがくっ付いていた。


「ふぃぃぃー! 着いたよぉー!! ここが皇宮で間違いないっ!! くぅぅぅ! 頑張った、わたしぃ!! ……ネクター飲もっと!」


 莉子ちゃん、皇宮に到着。

 ならば四郎じいちゃんとみつ子ばあちゃんに会うはずというのは、バルリテロリのエアプである。


 皇宮はミニ皇宮の消失によりサイズダウンしたものの、それでもかなり大きい。

 外周には高い壁が隙間なく構えており、入口も1つではない。


 莉子ちゃんが着いたのはアタック・オン・みつ子がいる正面玄関の東側。

 誰もいない道路を走って来て、誰もいない場所に現着。


 先に申し上げておくと、不幸中の幸いであった。


「ふぃぃー!! ネクターが胸にスッと入るよー!! もう1本飲んでおこうかな! だって、これから戦わなきゃだもん! えとえと、カゴにまだたくさん……ふぁっ!?」



 ノースリーブジャケットちゃんが力なくはらりと宙を舞って、静かに落ちた。



「……………………………………すぅぅ」


 莉子ちゃんも戦う乙女として随分成長して来たのだ。

 戦いの歴史を紐解くと、六駆くんより敵をやっちまってるかもしれない。


 アクシデントに可愛く悲鳴をあげたりはしない。


「………………………………帰ろうかな」


 悲鳴とか以前に戦意喪失した。

 ショートパンツのスリットは視認できないので、「ちょっとだけ破けてるんだよぉ!」という楽観的観測で済んでいたが、ノースリーブジャケットは観測が肉眼できっちり、くっきり、バッサリとできる。


 ただ、安心してください。

 ジャケットの下はちゃんとキャミソール、着てますよ。


 おブラじゃないのである。

 だったらまだ、戦える。


「これ!! 不良品だよぉ!! 南雲さんがミスしたんだ!! もぉぉぉ! サイテー!! わたし、こんな恥ずかしい恰好で戦えない!! 無理だよぉ!!」


 南雲さんはミスを押し付けられたようにも思えるが、実際のところ監察官一の知恵者として名を轟かせながら多くの装備製作を請け負って来た実績を考えると、責任はあるような気もして来る。



 莉子ちゃんの装備を何度もアップデートしているのだから、体型の変化にだって気付いていたはずなのだ。

 だったらそれってミスなんじゃありませんか。



 莉子ちゃんの装備を確認してみよう。

 頑張って80リコキロメートルの長旅を終えた彼女。


 上半身はキャミソール。

 探索員装備ではなく、イオンモールで買ったヤツ。

 色はパステルグリーン。

 在庫処分で安くなっていた。


 下半身はショートパンツちゃんがまだしがみついている。

 右のお尻と太ももの部分にはスリットが完成。

 凝視しなくても見えたらあかんものがチラチラしている。


 あとはネクターが残り4本。

 コンビニをリコバイクにする前にあるだけ購入した。


 そんな装備で大丈夫か。


「ふぇぇぇ……。ん!? 芽衣ちゃんの煌気オーラだ! 近い! あっ! やっぱり今日のわたし、冴えてる!!」


 冴えたやり方を思い付いたリコリコ脳。


「今の恰好ってちょっぴりはしたないけど、だよ。ここ、戦場だもん。学校じゃないし。現世でもないし。芽衣ちゃんの戦いを援護して、パパっと敵をやっつけて! 芽衣ちゃんの予備のお着替えをもらおう! 芽衣ちゃん、わたしと同じタイプの装備だもん! 体型も同じだし!! 完璧だよ!! じゃあ、すぐにいこー!! おー!!」


 もしも明日、地球に隕石が落下するとして。

 結果、人類が滅亡するとして。


 あなたは「明日、死にますよ」と伝えられたいだろうか。

 それとも「明日もきっといい1日ですよ」と、最期の時まで日常を生きたいだろうか。


 ご飯たくさん食べてお腹いっぱいな莉子ちゃんは前向きなメンタルを保持している。

 滅亡か、絶滅か、あるいはワンチャン延命か。

 存亡の分水嶺はねぇのか。


 全ての可能性があるのならば、まだ死という結論を甘んじて受け入れる時ではない。

 人は希望さえあれば生きていけるのだ。


 芽衣ちゃま隊に向かって、莉子ちゃんが飛んだ。


 この子、『苺光閃いちごこうせん』を太ももから発射して飛行可能になっていたのだ。

 これがホントの飛行少女ってね。


 ここまで飛んでこなかったのは索敵に警戒していたため。

 カロリーで満たされると賢くなるのがこちらの乙女。


 次回。非行少女。

 デュエルスタンバイ。

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