第1134話 【芽衣が頑張るです・その2】初めて組む3人の大問題 ~運命と言う名のディスティニーのいたずら、あるいは戯れにも似た勝利の女神の気まぐれでピンチ~

 師匠を先に行かせて、よく知らない人の対戦相手に名乗り出た芽衣ちゃま。

 彼女が「みっ。やるです!」と言えば、右腕と盾もつき従う。


「ぐああああああああああああああああああああっ!!」


 開幕ったダズモンガーくんが横からすっ飛んできた。


「恐ろしく丈夫な着ぐるみは良い……。デパートで子供に背中を蹴られても問題ないのが良い……」


 チンクエがトリッキーと呼べばいいのか、変態的と評するべきか、多分ギリギリ兄者リスペクト属性はトリッキー判定。

 極めて変則的な戦い方で立ちはだかる門番に芽衣ちゃま隊は苦戦を強いられていた。


「みみぃ! 芽衣、もう1発撃つです!! みみみみみみみっ!」

「お待ちくだされ、芽衣殿ぉ!! 芽衣殿のパンチは回数制限がございまする!! 機を誤ると吾輩たちは詰みまするぞ!!」



「ふん。トラ。お前はネコ科に立つトラか。致命傷を喰らってなお、芽衣ちゃまに具申するその姿。悪くない。チュッチュチュッチュチュッチュ」


 ちょっと詰みの気配を出すのが早すぎる。



 だが、この苦戦は半ば想定の範囲内。

 芽衣ちゃんも出征を決めた瞬間に理解していた。


 皇帝の前に現れて、すぐにラスボス戦。

 そんな覚悟をキメていたからこそのチョイスだった随員。


 まず芽衣ちゃん。

 彼女は小技を多く使えるし、体術も身につけた。

 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』の威力も向上した事でフィニッシャーも担当できるようになったが、それはあくまでも一般レベルの戦い。


 相手が六駆くんと同格と目されている皇帝である以上、最初から勝ちは考えていなかったみみみと鳴く可愛い上に賢い生き物。


 彼女の本来得意とする戦型は『幻想身ファンタミオル』と『分体身アバタミオル』を組み合わせた攪乱。

 相手をおちょくりながら煌気オーラや体力を削る支援タイプ。


 皇帝のスキルをいくつか確認して、あとは六駆くんたちの現着まで時間を稼げればと思い、芽衣ちゃんはバルリテロリへやって来たのだ。


「ふん。トラ。お前、スキルは何が使える」

「このタイミングでお聞きになられまするか!! 逆神流の基礎スキルは一通り使えまするが、基本的に『猛虎奮迅ダズクラッシュ』による一撃必殺が吾輩の勝ち筋でございまする!!」


「トラ。さっきからお前がやっているネコ科の盾はなんだ」

「これは体が自然と動いているだけでございまするが! 日常的にファニコラ様よりスキルを撃たれるようになって早1年と10カ月ほど! スキルが発現されると吾輩は喰らうものと脳が判断するのでしょうな!! ぐーっははは!!」



「高みに立つか。トラ」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。



 もはや説明も簡単に済むので助かるレベルな随員の構成。

 割と何されても死なない上に自己犠牲の精神も標準装備で敵の攻撃に身を挺すダズモンガーくん。


 時間停止というニッチなスキル使いのサービスさん。


 完全に時間稼ぎに来ていたのに、マッチアップさせられたのは同じく時間稼ぎが目的の門番を務める逆神チンクエ次郎。

 時間稼ぎ狙いの相手に対して、こちらは支援がメインのタイプしかいない。


「サービス殿はお強いと聞いておりまするが!? そのお力を振るわれるのでは!?」

「ふん。トラ、勘違いするな。俺は強い。だが、強さにも条件がチュッチュ。逆神のように天に立つ頭のおかしい者は省いて考えチュッチュ」


「結論をお教え頂いても?」

「ふん。臆することなく尋ねるか。悪くない。俺は単騎でこそ真価を発揮する。群れて戦う時点で大半のスキルは意味を成さん。分かるか。トラ」


「……時間停止に吾輩が巻き込まれるからでございまするか」

「30点だ、トラ。芽衣ちゃまの邪魔をしてしまう恐れが高い。これが正答。覚えておけ。俺は誰かと組んで戦う事を想定していない。チュッチュ」


 ピース侵攻時もサービスさんがいきなり出て来て六駆くんと戦っていたような気がする。

 時間停止の世界に味方を連れて行くには、サービスさんの身体に触れた状態でスキル発現させる条件がある事を諸君は覚えておいでだろうか。


 これは自軍が優勢なシチュエーションであればトドメの一撃のために後方で機を待つ事も可能だが、拮抗した戦闘になるとその好機を作り出すのが困難になり、現状の「相手に攻め気がないくせに、こちらが動くと攻撃して来る」という形はサービスさんにとって最悪のケース。


 時間を停めるにしても予備動作が大きいため、チンクエを狙えば気取られる。

 できるのは飛んで来るスキルに対して『サービス・ジャック』を使用した防御支援。



 あとはダズモンガーくんごと時間凍結させて盾にするくらい。



 つまり、芽衣ちゃんが攪乱タイプ。

 ダズモンガーくんは盾。

 サービスさんは単騎になれば無類の強さを発揮できるが、芽衣ちゃま親衛隊になってから単独行動という選択肢がなくなり、支援タイプにジョブチェンジ。


「これはとても良い……。本隊を通してしまったが、こいつらを相手している状況では退路を断ったとも言えて良い……。中には兄者がいる。生まれて初めてのラブコメ兄者は強い。とても良い……」


 チンクエが腕を伸ばしておざなりな牽制攻撃を繰り出しながら呟いた。


「みぃぃぃぃ!! 芽衣! お邪魔しに来たみたいなものです! み゛み゛!!」

「ふん。チュッチュ。芽衣ちゃま、そんな事はない。チュッチュでチュッチュ、チュ、チュッチュチュッチュチュッチュ」


 何言ってんのか分からねぇが、戦局がかなり悪い事はよく分かった。

 運命と言う名のディスティニーは今、バルリテロリに味方している。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日本本部ではオペレーター室にてサーベイランスから得た情報を解析中。


「いや、まずいっすね。これ。敵さんの煌気オーラ反応が認識できないっす。本部にある発足以来ガンガン溜めて来たデータでも照合できないってどうなってんすか」


 兄者リスペクト属性の情報があったらそれはそれで嫌である。


「健斗さん。雨宮上級監察官を援軍に向かわせるのはどうですか?」

「それもきついっすねー。こっちに出してた『ゲート』はティラミスに全部壊されてるっすから。呉に出てる『ゲート』はミンスティラリアとの連絡通路っす。現状、こっちからバルリテロリに向かう方法がないんすよ」


 要するに情報支援しかできないのに、今のところ得た情報の全てが意味不明。

 手助けする前に頭がフットーしそうなオペレーター室。

 そこに入室して来たのはこの人。


 ビシッと綺麗な敬礼をキメた。

 彼女は「女子探索員の会主催。綺麗な敬礼できるかな? 大会」において2年連続優勝のキャリアを持つ。


「土門佳純Aランク探索員、出頭しました!!」

「…………確認なんすけど」


 山根くんが腰を押さえて顔を青くした。

 狼狽える彼は珍しい。

 恐る恐る、思い浮かんだ最悪の想定を口にする。



「和泉監察官、殉職されたりしてないっすよね?」


 佳純さんが和泉さんを放置して出頭して来るという時点で、「和泉さん死んじゃったんすか?」となるのは敏腕オペレーターの証。



「私がお呼びしたんですよ! 和泉監察官は監察官室で医療班が救命措置を行っていますので、問題ありません」

「……大問題じゃないっすか。瀕死って事っすよね」


「あ! いえ!! 和泉さんはメンタルに不調をきたしたとの事ですので、自前の治癒スキルでお体の健康を保てなくなった末に医療班を頼ったところです! 私の手が空いていたため、春香さんに呼ばれて参りました!!」


 佳純さんがサーベイランスから送られてくるチンクエの攻撃に目を通しながら「監察官を私が死なせると思われるのは心外ですよ!」と微笑む。



 割と殺しかけていた事実について議論する時は今じゃないのだ。



「土門Aランクには戦術指南として解析に加わってもらいます」

「そんな事って私にできますか? と、何回も確認したんですけど」

「それなっすよ。土門さんも確かに強いっすよ? ただ、この次元になると正直なところ、有益な意見が出て来るとは思えないんすけど」


 佳純さんの視線が止まった。

 続けて、端的に把握した状況をオペレーター夫婦に伝える。


「この方、守る戦いに専念していますね。あ。すみません。言葉足らずで。門番なので守勢に回るのは当然なんですが、それにしては妙です。別に専守防衛を貫く必要性ってありませんよね? 芽衣ちゃんたちが攻めあぐねているのは見て分かるはずなので、防衛ではなく撃退を選ぶのがセオリーですよ」


 佳純さんが最後に締めくくった。



「つまりです。この敵は、攻撃するよりも皇宮の中にこれ以上の侵入をさせない事に全振りした戦い方をしています。……中に大事な人がいるんですね! 分かります!! 私もこの方と同じ立場だったらそうしますから!!」


 旦那(内定済み)のためにレースクイーン装備に変更した直線一気系乙女の言う事には説得力があった。



「ええと。要するにっすよ? こっちが思い切り攻めても?」

「全力の応戦はしないと思います。さっきから嫌がらせ程度に腕を伸ばしてトラさんを虐待してるだけですから。露骨に隊長と分かる芽衣ちゃんを避けている時点で、時間稼ぎ以外をする気がないのは明白です」


「なるほど。その旨、現場の芽衣さんにお伝えするっすね!」


 山根くんがカタカタターンと端末を操作して、サーベイランスを芽衣ちゃんの近くへと飛ばす。


「ところで佳純ちゃん?」

「はい! 春香さん! なんでしょうか?」


「装備どうしたの? なんでジャージに?」

「あ。気付いてしまわれましたか。和泉さんの体液でヌルヌルになっちゃったので、予備を出すのも手間でしたし、とりあえず部屋着で良いかなと!」


 体液というのは、血液のことです。


「お盛んなんだからー!!」

「そういう春香さんだって! 山根さんの腰の件、年末のグループラインで嬉しそうに語ってたじゃないですか!!」


 乙女の戦場は敵地だけとは限らない。

 ジャージになった佳純さんの有益な情報で芽衣ちゃん隊の危機的状況、打開なるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る