第1133話 【魔王城から「頑張れ芽衣ちゃま!」・その1】パブリックビューイングにてミンスティラリアの民が応援しております ~照り焼きはご自由にお取りください~

 芽衣ちゃま殿下が出征なされた後のミンスティラリア魔王城。

 出涸らしになったと言うなかれ。



 芽衣ちゃまが悲しみます。



 シミリート技師が謁見の間ではもうお馴染み、なんかデカいモニターをバッツくんに運んできてもらい、それをいくつか並べてタイミングを見定める。

 1つのモニターに表示されている波形がビクンビクンなった瞬間、静かに要請を出した。


「くくっ。仁香殿。今のなのだよ。どうやら芽衣殿が上手くやっているようだね」

「了! ……久しぶりに言ったな、これ。……潜伏機動隊、楽しかったな」


「仁香殿。タイミングがズレるとお二方が次元の狭間に消えるのだがね。それはそれでデータは取れるから良しと言えば良しなのだが。魔王様にお叱りを受けるのでね」

「あ゛。す、すみません! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 仁香さんが煌気オーラ爆発バーストした。


 シャモジ母さんとカサゴが帰って来るための道しるべ。

 灯台。篝火。松明。白ビキニ。お好きな呼び方をどうぞ。


 彼らが戻って来る暇を使って、仁香さんの煌気オーラ爆発バーストにも触れておこう。

 こちらの放っておけないお姉さんも格闘タイプなので、ぶわーってなるタイプの使い手。


 今は水着なのでぶわーってなってもまあ、胸が少しプルプルするくらい。

 しかしチャイナ服で煌気オーラ爆発バーストしていた時は、なかなかの絶景だったと穢れた魂が異空間で頷いている。


 仁香さんにチャイナ服を着せた時分、もっと言えばヤエノムテキちゃんの勝負服を勝手に装備申請した時分には煌気オーラ爆発バーストの区分など開示されていなかったはずなのだ。

 お排泄物童貞クソ野郎監察官は未来を視ていたのだろうか。


 仁香さんの捲れるヒラヒラを視ていたのだろうか。



「……不快なので煌気オーラ爆発バースト、もうヤメていいですか?」


 シャモジ母さんもカサゴも結構頑張ったので、もう少しだけ続けてあげて欲しい。



 シュッと控えめな音と共に、芽衣ちゃまのお召列車バルリテロリの捕虜が帰還。

 仁香さんに向かい膝をついて首を垂れる。


「え゛。な、なんでしょうか?」

「仁香摂政……! この度はわたくしたちのためにお力を賜り、まことにありがとうございました。芽衣殿下が不在を預けられた貴女をわたくしたちは崇め奉ります!!」


 仁香さんの肩書がまた増えた。


「ああ! お待ちを、アリナ様! 私がやりますので! どうぞ座っていてください! 照り焼きありますよ!!」

「いや、バッツ。妾は留守番という外れを引いたが、それで拗ねているほど幼くもない。この地の者は皆が高齢。しかしよく考えると妾は同世代の可能性もある。なれば、妾だけ楽をするのは良くないと思うただけのこと」


 バッツくんとアリナさんがモニターの配線をデカい箱に繋いだり、デカい箱から電源コードを引っ張ったりしている。

 ザールくんは魔王城の屋上に向かっており、垂れ幕のようなものを展開し終えていた。


「ふむ。アトミルカの皆様は適応力が実に高い。私は魔技師。魔力で動く装置に対する理解がこれほどとは。興味深いだよ」

「私たちも数はいましたが、結局シングルナンバーがバニング様の意向をさらに2桁、3桁の部下に伝言ゲームしていましたので。通信機器が扱えない間は3番様に居残り指導させられて。覚えるまで照り焼きも作るなと。スパルタでしたなぁ」


 バッツくんはどんどんボンバる事を忘れて、ただ照り焼きが作れるガチムチの知識人みたいになっていく。

 人は変わるし、何にだってなれる。


 そう。この瞬間にだって。


「ザール・スプリング、戻りました」

「リャン・リーピン! 戻りました!! ザールさんと屋上デート、楽しかったです!!」


 戦争をちょっとしたデートのスパイスにだってできる。

 ザールくんが身体強化をして速やかに後方司令官代理の元へ吶喊。頭を下げた。


「申し訳ございません!! リャンさんについてくるななどと……! 私にはとても申し上げられず!! 今後も恐らく申し上げられません!! 私の首でご容赦くださいませ! 仁香様!!」

「え゛。別に私は気にしてないと言うかですね。むしろ、リャンが楽しそうなのは嬉しいので。……あの。私ってそんなに余裕なさそうに見えます?」



「了! リャン・リーピン! 具申よろしいでしょうか!!」

「ヤメましょう! リャンさん!! 日本には親しき中にも時にはギルティということわざがあると聞きます!! 私たちも日本の風習を覚えましょう!!」


 楽しそうで何よりです。



 魔王城残留チームが何をしていたかと言えば、それはもう決まっている。

 ファニちゃん魔王様が宣言された。


『これは全土に届いておるのじゃ? ……うむ! こほん! これより、芽衣の奮戦を皆で応援するのじゃ! 魔族も人族も関係なく、シミリートの飛ばしたサーベイランス(ミンス仕様)で中継が見られるのじゃ!! 芽衣を応援するのじゃ! ミンスティラリアを挙げて!!』


 パブリックビューイングが設置完了。

 すぐに稼働開始。


 殿下を送りだしたら終わりではない。

 殿下のご帰還までがご出征。


 臣民は皆で芽衣ちゃまの活躍を拝見し、みみみと響く鳴き声を拝聴し、その一挙手一投足を網膜と記憶中枢に刻み込むのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 シミリート印のモニターに芽衣ちゃんが映し出された。

 ちょうど煌気オーラ爆発バーストをしているところであり、緑色のスカートがぶわーってなる瞬間であった。


「あ゛あ゛! ちょっと、今はダメです! 止めてください!!」

「仁香摂政がお怒りですよ! わたくしたちがやれば角が立ちません! 皆さん! モニターを殺すのですよ!!」


「え゛。いや! それも困るでヤメてください!!」

「はっ! ではヤメましょう! 皆さん、モニターに触れると殺しますよ!!」


 仁香さんが「芽衣ちゃんってすごいな。私、この人たちとついさっきまで殺し合いしてたのに。なんでこんなに崇められてるんだろ……」と、十四男ランドでの戦いを思い返していた。


 カサゴをはじめとする東野家おさかなネームド軍団は仁香さんが単騎で半殺しにしているのだ。

 まあそれは良いかと思い直した仁香さんが指示を迅速に飛ばす。

 潜伏機動隊の元副隊長は速さにかけてまだまだ遅れを取らない。


「これ、カメラはどうなってますか!? 私、スーパーコンピューター? ハイパーメカ? ちょっとよく分からないですけど!! 叩いたらどうにかなります!?」

「くくっ。仁香殿。ヤメて頂けると嬉しいのだがね。これは現地のサーベイランスとリンクした映像なのだよ。つまり、日本本部のオペレーターが操作している」


「山根さんだ……。失望しました……」


 山根くんは普通に戦闘データを記録しているだけなのに、芽衣ちゃんが煌気オーラ爆発バーストした、それで何故か仁香さんに嫌われた。

 後方司令官代理の動きは止まらない。


『こちら、青山仁香ミンスティラリア駐在後方司令官代理です。山根さん。よく聞いてください。芽衣ちゃんを映すのは構いません。と言うか、私たちも見たいのでしっかりと撮ってください。ただ! スカートが捲れる時はフレームアウト? よく分からないですけど、宿六が言ってました! カメラよそにやるヤツですよね? それやってください!! お願いしますね!!』


 アリナさんからスマホを借りて日本本部に電話をかけて「芽衣ちゃんのサービスシーンは撮るな。ただ活躍シーンは絶対に逃すな」と注文を付けた。

 「こっちは受信料払ってんだぞ! おおん!? 紅白に変なヤツ出すな!! 知らんヤツばっかでつまらんのじゃ!!」とか言って未だに電話で某放送局が製作する番組の文句をカスタマーサービスのお姉さんに怒鳴りつけるじいさんみたいなムーブだが、ミンスティラリアの臣民たちは「おおおおおお!!」と全土で沸き上がったという。


「ええ……。シャモジ、泣いてんのか?」

「はい。わたくしは涙を流しております。芽衣殿下がいれば世界は明るいと信じておりましたし、今もその気持ちは変わりません。ですが、殿下をお支えする仁香摂政の有り様をご覧なさい!! ……もう、なんでしょうね! カサゴ様、殺しますよ!!」


「白きィ! 衣にィ! 身を纏いしィ! 高潔なるゥ! 皇国の道しるべよォ!! ワシの老骨でお役に立てる事がァァ!! ほひゃふへはひゃれふぁ!!」

「十四男様。もう入れ歯のストックがありません」


 バルリテロリ捕虜チームの信仰はかなりガバガバである事実が少しずつ明らかになって来たが、これは道理である。

 彼らにとって崇める皇帝は生まれた時からついさっきまでただ1人。


 皇帝の指示で敵国に侵攻へやって来たら敗北して、殺されても文句は言えないのに今はフカフカの絨毯の上で芽衣ちゃまの活躍を観戦しながら仁香さんの有能さを見せつけられる。



 じゃあ、仰ぐ旗も変わる。



「あ! 仁香先輩! ダズモンガーさんが吹き飛びました!! 致命傷に見えるのですが、どうしてすぐに戦線復帰できるのかご教授ください!!」

「リャン、ごめんね。私もあなたの質問にはどんな事でも答えてあげたいし、期待にも応えたいと思ってるよ? でも、ダズモンガーさんは分からないの。南極海でも思ったけど、普通なら死んでるダメージ受けてちょっと目を離したらもうお元気なんだもん。シミリートさん? ご親友ですよね? 解説頂いてもよろしいですか?」


 モニターではダズモンガーくんが縦横無尽に吹っ飛び散らかしている。

 「ぐあああああああ!」という悲鳴と共に。


 シミリート技師が厳かに頷いてから「ふむ」と続けた。



「ダズは料理が上手いのだよ。三食、栄養にも気を遣って、素材を厳選してクッキング。それを食している。私のところにも頼んでいないのに持って来るのだよ。なかなかにクオリティが高い。お分かりになられたかね?」

「あ。はい」


 人と魔族の種族格差なのかなと自己補完した仁香さんである。



 我々は再び現場で芽衣ちゃま親衛隊の奮戦を見届けよう。


 祈り、願う、勝利を。


 トラさんがったその先に見据える、芽衣ちゃまの覇道を。

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