第1131話 【皇宮の門番・その3】芽衣ちゃま、乱入す ~するつもりはなかったです。みみっ……。~

 バルリテロリ皇宮の追手門。

 大爆発して炎上しているが、発動されている反射スキルによって被害はほとんど出ていない。


 爆発炎上がもう答えみたいなものだが、敢えて言及しないという斜に構えたことをすると何が何だか分からなくなる。

 何かが起きたら報告。連絡。

 相談はしてもらえない事も多い。



 『みつ子コンバット・愛殺あいさつ』によって追手門の防備がぶっ壊れた。



 それでも被害が最小限だったのは、門番が寡黙に仕事をしたからである。

 寡黙な仕事人の称号は返上して、今はおっぱい男爵の爵位に固執している川端一真監察官(FA)から、逆神チンクエ次郎にその二つ名が移動した。


「……良い。私の左手がほとんど吹き飛んだが、これもまた良い」


 『ダイヤルアップ』で思念体になっているテレホマンが適切なツッコミを繰り出す。


『よろしくありませんが!? チンクエ様!? 作戦続行が既に不可能な重傷では!?』

「テレホマンは人を慮り過ぎる。それは良くないかもしれないが、私は良いと思う。……さぁ!! 『兄者のとても良い腕リスペクト・アーム』!!」


 欠損した腕よりも太い腕を生やしたチンクエ。

 やはりこの次元の戦いになると腕や足をすっ飛ばしたくらいでは致命傷どころか深手にもならない。


 普通に考えればメラゾーマなのに、事ここに至ればメラミ寄りの米良。

 失礼。もののけ姫が出てしまいました。正しくはメラです。


『チンクエ様。その腕は』

「兄者の腕だ。とても良い……。ちなみにフォルムだけ似せている。普通に再生スキルで生やした」


 バルリテロリでは再生スキルが現世よりも発達している。

 逆神兵伍がメインの使い手だった上に彼はそれよりもFANZA属性使いだったので、観測者の記憶からはきっと消えているだろう。


「さて。まずはこれで良い。しかし、中に入られるのは良くない」

『チンクエ様が否定的な事を申されますと、本当に良くないと思わされますな』


 チンクエは動かない。

 何故か。


 何かよく分からんものが突然転移して来たからであった。

 『太った男の転移術ポートマンジャンプ』によって。


 このスキルはバルリテロリオリジナル。

 現世の者が使うメリットはない事くらい電脳ラボで周知徹底されている。

 とっくに『ゲート』の存在は露見しているので、危険な方法で転移をする意味がないのだ。


 よって、味方である可能性が極めて高いとチンクエは判断。

 乱入者の名乗りを待っていた。


 ただし、極めて高い可能性は極めて低い可能性と同居している事を彼は理解している。

 兄者に恋人ができる確率が極めて低い可能性の世界に住んでいるため、チンクエはそちらが1パーセントより低くとも、存在すれば無視しない。


 手のひらに煌気オーラを蓄えて、乱入者の確認作業へと移る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 乱入するつもりはなかったのに、乱入してしまったのはこちらのメンバー。


「みみっ。やってしまった感があるです。だってここ、お城の外です。みっ」

「ふん。……悪くない。芽衣ちゃまの居城にするか。トラ。壊すな」

「ぐーっははは。吾輩をこの次元の戦いに持ち出さないでくださりまするか! 石垣を壊すことすら厳しそうとハッキリ分かりまする!!」



 芽衣ちゃま親衛隊、予定がズレて陛下の御前ではなくチンクエの前に転移完了。



「おーほっほっほ!! わたくしの責任でございます!! 芽衣殿下!! 殺してくださいませ!!」

「みっ! 嫌です!!」


「そうですか! では、生きます!!」

「実際のところ、オレらがミスった訳じゃないみたいですよ。これ、陛下よりデカい煌気オーラに引っ張られたんじゃないかと思います」


 芽衣ちゃま殿下のお召列車として『太った男の転移術ポートマンジャンプ』を使ったシャモジ母さんと東野カサゴ。

 ちょっとしたアクシデントに巻き込まれるが、この局面ではちょっとしたものでも致命的。


「みみみみみみっ! なにか来るです!!」


 いつの間にか霧がかった追手門の前。

 不明瞭な視界の先から煌気オーラ砲が飛んできた。


「やはり低確率だろうとある時はあるから良い……。兄者、六宇の方がちょっと確率は高い……。頑張ってくれると良い……」


 味方の可能性が九分九厘あろうとも、一厘の確率を想定して準備する男。

 チンクエ。

 戦いにおいて非効率であり、特に現状の彼は単騎、敵は大勢と多対戦の様相を呈しているため些細な確率は無視するのが定石。


「ふん。……誰かは知らん。が。芽衣ちゃまに許可なく砲撃した罪の重さを知れ。トラ。思い知らせろ」

「吾輩が!?」


 サービスさんがきっちりと煌気オーラ砲を『サービス・ジャック』しており、ピタリと光球が宙で動きを止めていた。


 ところで最初から攻城戦に掛かっていた本隊はどう見ても味方、そもそも顔見知りなメンバーが救援に来たと言うのにどうして反応してあげないのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「バニングさぁぁぁぁん!! くそぅ!! 酷いことするなぁ! ひいじいちゃんめ!!」

「ふっ。六駆、気にせず先へ進め。私はどうせこの辺で死ぬ予定だったのだ」


「そんなことできませんよ!!」

「六駆……。お前……?」



「アトミルカってむちゃくちゃ巨大な組織だったじゃないですか!! 隠し財産とか絶対にあるでしょ!! 僕、落ち着いたらそっちにも手をつけようと思ってたのに!! こんなところで死なせやしませんからね!!」

「……そんなものはヴァルガラと一緒に国協が接収したはずだが。……とはいえ、ないと言っても聞く耳もたんか」


 バニングさんが運命に逆らえず死にそうになっていた。



 後方から急にとんでもない煌気オーラの塊が爆発しながら飛んできたのである。

 乙女たちを守るは男の務め。

 前時代的と言われようとも、そういう風にデキているのがおじさんたち。


 戦場にはおじさんかじじいしかいない。


 まずバニングさんが素早く動いてクララパイセン、小鳩さん、ノアちゃんを抱きかかえると壁際まで運ぶ。

 瑠香にゃんは自力で瑠香にゃんウイングを発動させて回避。


 南雲さんはライアンさんが飛行スキルで回収。

 六駆くんは「うわぁ!!」とリアクション。


 誰も援護してくれなかったので、乙女たちを救助したバニングさんが無防備に『みつ子コンバット・愛殺あいさつ』を背中から喰らったのである。


 あんなに一緒だったのに。

 どうして連携が取れないのか。


「六駆くん、六駆くん」

「はいはい。なんですか、クララ先輩?」


「気付いてないっぽいから報告しとくぞなー。芽衣ちゃんたち来てるにゃー」

「えっ!?」


 大人数の飲み会で途中参加の子がやって来た事を幹事に告げる人と、告げられた幹事がダメな感じで「そうなんだ!!」と反応した後は出迎えもせず、お店に「3人増えました」とも報告しない、そんな悲しい雰囲気が部隊のムードをさらに暗くした。


「ノアさん、ご無事ですわね?」

「ふんすです!! ボク、よく考えたら作戦で負傷した記憶がないです!!」


 とりあえずバニングさんが命を賭けて救った乙女たちは無事。

 これで氏も浮かばれるだろう。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『特大極注入メガイジェクロン』!!」

「あ゛あ゛!! お前!! 六駆!? 今のそれ煌気オーラではないだろう!?」


「あ。はい。瑠香にゃんの生体エネルギーを『吸収スポイル』で分けてもらって、バニングさんにぶち込みました。バニングさんくらいの達人なら勝手に回復しますよ」

「生体エネルギー!? 瑠香にゃんは無事なのか!?」



「バニング様のステータスをアップデート。『やっぱこの人、理想の上司』を獲得。おっぱいに格納します。瑠香にゃんは所詮兵器なので、エネルギーがなくなっても機能停止するだけです。お気になさらないでください。瑠香にゃん、最期の時には目からオイルを流すかもしれませんが。それは悲しくて流すわけではないで。お気になさらないでください」


 瑠香にゃんの動力炉から抽出したエネルギーなので放っておけばまた生成されるが、いきなり太ももにスポイトぶっ刺されたのでメカ猫も乙女としてちょっと意地悪を言ってみた。



 こんな惨状なので芽衣ちゃま隊に加勢できる状況ではなかった南雲隊。


「ああ……。また私の責任が増えてる。これって南雲隊なの? 違うよね? 逆神家愚連隊でしょ?」

「南雲猫将軍。猫カフェの約定はまだ生きていますな?」


 上空ではライアンさんの両腕でホールドされ遊覧飛行中の南雲さん。

 残念ながら、戦局が全て見渡せる位置に分析スキルのプロが運んでいた。


「……まあ、今更ね。責任の1つや2つ。どう見てもバルリテロリの人が芽衣くんと行動共にしてるけど。サービスさんもいるけど。私を抱えてるのライアンさんだし。はははっ。じゃあ誤差だ! 芽衣くん!! 全責任は私が取るから! 好きにやっていいよ!!」


 南雲さんが上空から上官の義務を果たし、部下に権利を渡し、もっと上空を見つめた。

 空は変な色だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「み゛っ。ここは芽衣に任せて先に行ってです! なヤツが完成してるです……!! やってやるです!! そのために来たです!! みぃぃぃ!!」


 芽衣ちゃま隊、急遽攻城戦を引き継ぐ。

 つまりチンクエの相手をして、本隊は皇宮の中へと突入させるのが彼女たちに課せられた任務。


「その心意気はとても良い……。隙があるのも良い……。シャモジ。皇敵は殺すのが良い……だったはず……。『兄者の伸びる強い腕リスペクトアーム・ストロング』!!」

「み゛っ!! みみみみみみみみみっ!! 『発破紅蓮拳ダイナマイトレッド』です!! みみみみみみっ!!」


 チンクエの拳がシャモジ母さんに伸びて、素早く動いた芽衣ちゃまが小さくて柔らかいおててをグーにするとダイナマイトな拳撃を繰り出した。

 生足魅惑のマーメイド仕様になったので威力と魅力が格段に向上。


「みっ!! 芽衣に優しくしてくれる人は芽衣がお守りするです!!」

「シャモジ!? おい!! 膝ついてる場合じゃねぇよ!! オレら帰るぞ!! 芽衣様の邪魔にしかなってないから!!」


 シャモジ母さんの拝謁が終わるまで、芽衣ちゃまがチンクエを食い止める。

 乱入するまでも、してからも。割と最悪であった。

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