第1126話 【皇宮の門番・その1】「怪我人もいないし、このまま城門叩き壊しましょうか!!」 ~南雲さんとバニングさんの口数が減りました~

 バルリテロリ皇宮の構造についてのおさらい。


 こちら、喜三太陛下の望郷の念が強く反映される造りとなっており、宮と付いてはいるものの、その実態は完全に城。

 かなり細部までこだわった構造で御創りあそばされていた。


 当然、構築スキルによってである。


 現在はミニ皇宮として4か所、クイント宮として1か所がお空の彼方へと飛び去って、最終的に4つをNテェテェが撃墜し、クイント宮はクイントの弟者であるチンクエが叩き落とした。

 全部バルリテロリの身内が落としているものの、分離させた箇所は防衛面ではそこまで重要ではないのは当然。



 下知られたのが喜三太陛下ではなく、テレホマンの指示だったので。



 緻密に計算された分離機構により、必要な機能は全てちょっと小さくなった皇宮に残している。

 城と言えば、もちろん統治者が住まう場所として政務を行う施設。


 西洋の城、宮殿などは煌びやかで、あるいは荘厳な造りによって栄華を誇り、偉大な統治者としての権威の象徴的な側面も強い。

 時代にもよるが、日本の城と比較すればその差は大きい。


 日本は江戸幕府が平定を果たすまで隣の領地は味方のふりした敵であり、昨日のズッ友、今日の敵、兄弟も親子も伯父も叔父も甥も割と遠い親戚もちょっと目を離すと敵になってる群雄割拠、修羅の時代。

 そのため城はまず防衛拠点としての存在意義に重きを置く場合が多かった。


 突然攻め込まれた時に領地を統べる将が討ち取られれば終わりであるからして、統治者の住まいは堅牢であるべし。

 優れた家臣も一緒に守らなければ、有能な者からやられるか、内応キメられて最悪部下と情報持っていかれる。


 なにより防衛機能に優れた城をおっ建てるだけで全方位への牽制となり得るため、築城能力に長けたものはその一芸だけで一国一城の主にも成り上がれたほど。


 そこでバルリテロリ皇宮。


 これまで敵国から攻め込まれた事などなく、今回現世チームに侵略バージンを奪われた皇国ではあるが皇宮の守備は堅牢と評して過言ではない。

 皇帝陛下が住まう奥座敷までは基本的に一本道だが、道中に追手門がそびえ立つ。


 文字通り敵を追い詰める「追手」に由来される城門であり、ここで侵入者を食い止める。

 格式も兼ね備えられた追手門はその城のステータス。


 バルリテロリ皇宮にも立派なヤツが建っている。


 そして通常であればその裏口に「搦手門」と呼ばれる、有事の際に城主がバックレるための避難経路もあるのだが、厳密にはちょっと前まであったのだが、今はもうない。



 ミニ皇宮の1つとして飛んで行って、弾けて散った。

 緻密に計算された分離機構とは。



 結果的になんか知らんけど思わぬ形で背水の陣になったバルリテロリ皇宮。

 だが、皇帝は退かぬ、媚びぬ、省みぬ。

 偉大なるバルリテロリ皇帝に退路などいらぬのだ。


 再三申し上げているが、これを言った偉人は死にました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんなデカい門を目指して現世チームがカチコミを仕掛ける。


「いやー! 良かった!! ここまで怪我人も出さずに来られましたもんね!! 上々ですよ!! このままね! あそこにあるデカい門、叩き壊しましょう!! うふふふふふ!!」



「南雲殿。あなたはやはり私などでは及びもせぬ、偉大な男だ」

「バニングさん。私だって心はあるんですよ? その心がね、勝手に閉ざすようになったのはいつからかな? 逆神くんを相手に何か求めちゃダメなんです。進んじゃダメ、待つんです。嵐が去るのを」


 怪我人だったけど無理やり治された2名のおっさんがメンタル不調気味である。



「南雲さん! 僕、やって良いですか!?」

「……やはりあなたの様な男がいる日本本部に我らアトミルカが勝てるはずもなかった。六駆の要望を無言で肯定されるか」


「違います。答える前にだいたい終わってるんです。試しに応えてみますよ? 回答じゃなくて、応答です。逆神くん?」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 南雲さんが柔和な笑顔で「ねっ?」とバニングさんに告げた。

 険しい顔がデフォルトのバニングさんがちょっと寂し気に笑い返した。


 苦労人たちの表情差分が増えていくのも最終決戦の醍醐味。


「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」


「……少しばかり師範のチャージが長いように思いますが?」

「ライアンさん!? どこに行ったんですか!? あの! ライアンさん!? 私、結婚する前に妻と猫カフェに行ったことあるんですけど!! 今度、ご馳走しますから!! 補佐してくださいよ!! サーベイランスがどっか行ってるんですよ!! どこ行ったの、山根くん!!」


 ブンッと音がして、ライアン・ゲイブラム氏が飛んできた。

 形容的な飛んできたではなく、ちゃんと飛んできた。



「南雲監察官。このライアン・ゲイブラム、しかと聞きましたぞ? 私は重要容疑者ですが? よろしいのですな? 猫カフェ」

「あ。はい。お約束します。もうその辺は有耶無耶にできる権力ゲットしたので。まったく望んでないですけど。……それより今、飛行スキル使ってませんでした?」


 ライアンさんは「気のせいでしょう」と返答した。



 後方では胸部を押さえてプルプルしている瑠香にゃんと、「仕方ないぞなー。あたしがちょっぴり不意打ちタッチさせただけだにゃー? 瑠香にゃんのおっぱいは純潔だぞなー。ヘーキヘーキだにゃー」と鳴いているどら猫探索員が見える。


 やりおったな。パイセン。


「いや、今はそんな事よりもですね! 逆神くんがフルチャージでキメようとしてるんですけど!! 私の感覚だと、敵の拠点の城門ですよ!? 普通に考えたら、スキルに対する備えの1つや2つありませんか!?」

「さすが、ご慧眼であられるな。南雲猫将軍」


「階級がどんどん変わっていく!! 私、生きて帰ったら何になってるんだろう!!」

「それはそれとして、南雲監察官。あの城門は分析した結果、露骨なほどのスキル反射仕様です」


「……まずくないですか?」

「ははははっ。師範にはお考えがあるのでしょう。圧倒的な煌気オーラで敵の下策など打ち破るおつもりかもしれません」


「ライアンさん。私ね、逆神くんの被害を喰らった回数だけは多分、誰にも負けないと思うんです。経験則でものを言うのは分析スキルのプロであるあなたに対して失礼だとは思いますが。その上で申し上げますね?」

「南雲監察官。貴官は勘違いしておられる。経験則も分析の一部。個人の感覚まで全てを総合的に踏まえて算出するのが分析です」


 南雲さんが頷いた。

 続けて叫んだ。



「じゃあね! 絶対に跳ね返されます!! 誰かー!! 逆神くんを止めてー!! なんで小坂くんいないの!? こういう時の彼女じゃない!! ちょっと、誰かー!! ……分かった、私が行くよ!! 逆神くぅん!! ちょっとそのスキル、待った!!」


 人は危機感を覚えた時、往々にして手遅れである事が多い。

 後年発刊される南雲修一上級監察官の著書『私の味わった地獄』の第2章「逆神流と言う名の地獄」の書き出しである。



「じいちゃんの想いを乗せてぇぇぇ!! 『雄鹿角大極突ディアルーン・ディバル』!!!」


 四郎じいちゃんが開発した鹿の角を模した突属性に秀でたスキル。

 門を破壊するために放出タイプの『大竜砲ドラグーン』を選ばなかったのは、六駆くんにも反射される可能性を危惧する考えがあったからに他ならない。


「あれ!? 意外とこれ、イケちゃうのかな!?」


 人は絶望の雲間から光が射しこんだ瞬間、それを希望と錯覚してしまう。

 後年発刊される南雲修一上級監察官の著書『なんでもない日々が愛おしい』の第4章「指揮官のいらない世界を望んで」の書き出しである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルリテロリ皇宮の追手門を守護する男はもう現着していた。


「テレホマンの用意した電脳メカはなかなか良い……。敵の攻撃を予測し切っているところも良い……」


 逆神チンクエ次郎である。


『恐縮です。電脳ラボの人員がまったく避難してくれませんでしたので、仕事を割り振ったら恐ろしい精度の結果を出しましてございます。今は亡きNテェテェがひ孫様の煌気オーラデータを補完してくれたのも大きかったですな。陛下と同じ逆神の煌気オーラ。対応する時間は充分にありました』


 テレホマンは眼の能力『ダイヤルアップ』でバルリテロリ皇宮のどこにでも出現するナビキャラへと進化。

 なお、逆神クイント太郎は不在。


『よろしいのですか。チンクエ様』

「兄者は良い……。私が本気を出すと兄者の心が曇る……。それも良いが……。やはり兄者は屈託なく笑っていて欲しい……。私の唯一の家族だ……」



『……念のために確認ですが。チンクエ様。今の、ぼくは父さんを超えてしまったんです的なご発言。私の『ダイヤルアップ』で拾ってしまっているので、奥座敷に響いておりますが。あの。配慮が足りませんでした。メンタルは大丈夫でございますか?』

「良い……。兄者の雲った顔、それはそれで味があって良い……。あと、ちょっと兄者からラブコメの気配を感じるのも良い……。こちらは片付けて、私も早く兄者の良いシーンをたくさん見たい」



 もう観測者はだいたい気付いている、チンクエの方がクイントよりずっと強いんじゃね感。

 その証明をするついでに、門番として立ちはだかる。


 挨拶代わりに六駆くんの突貫スキルを反射させた。


 放出タイプの煌気オーラ砲ではないので、反射された先で誰かしらが死にかけているような気がするのは何故か。


 ミンガイル氏はまだそこにいますか。

 我ら観測者はちょっとだけ現場から離れますので、死ぬにしても死ぬ瞬間まで耐えて頂きたい。

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