第1124話 【現世チームVS皇宮・その5】みつ子コンバットVSテレホタイム ~「ばあちゃんさ? 僕が煌気貸付したら、肉弾戦でイケるんじゃない?」とか言い出した、年寄りを酷使する悪魔的孫~

 テレホマンのハイパーコンビネーション『テレホタイム』がアタック・オン・みつ子に襲い掛かる。


 『ダイヤルアップ』で思念体を飛ばし数秒で索敵。

 電脳の名は伊達じゃない。


「あれか……。ひ孫様だな。まさか子供に擬態しておられたとは。Nテェテェが知らせてくれなければ分からぬままだった。命を賭けてもたらしてくれたデータ、役立たせてもらうぞ!!」


 まずNテェテェは死んでいない。

 それは良いとして、である。



 ついに六駆くんが喜三太陛下のひ孫とバルリテロリに公式認定された。

 莉子ちゃんを六駆くんの擬態した子供の姿という公式認定もされたので、多分誰か死ぬ。



 『ダイヤルアップ』モードのテレホマンは煌気オーラも存在感も全て皆無、あるのは使命感と責任感だけというスキル使い殺しな形態。

 元から煌気オーラ感知がガバガバな六駆くんはステルスモードでも気付けなかったが、こうなると現世チームは初撃を喰らうまで誰も認識できない不可視のテレホマン。


「不敬は承知。ひ孫様を狙わせて頂く。どうやら味方の治療中と見受けた。……ご立派な方だ。……陛下のひ孫様。……いや、落ち着け私。陛下は偉大なる為政者。立派とかそういう批評をすること自体が不敬。……この戦いが終わったら、新鮮なフロッピーディスクを採りに山へでも行こう」


 テレホマンの好物はフロッピーディスク。

 МОまでは食べられるが、USBメモリになるとお腹を壊す。

 あと、ご飯もちゃんと食べられる。


 『超過料金オーバーペイ』の座標を指定。

 アタック・オン・みつ子の陰で『時間超越陣オクロック』を展開している逆神六駆の周囲。


 スキルが『超過料金オーバーペイ』の空間に触れるだけで時限装置は作動し、良い感じに天井値へと到達したらば周囲もろともぶっ飛ぶという爆弾テロ攻撃。


「……完了した。御許しを!!」


 六駆くんのスキルは基本的に省エネ、効率化を旨としているので、普段の彼ならば一気にテレホマンの設定した大爆発目標の天井値に到達する事はなかったはず。

 だが、『時間超越陣オクロック』となれば話は変わる。


 これは最強の男が「お金か仲間の命」がかかっている時にしか使わない、消耗は激しい燃費も悪い、因果律を無視する極大スキル。

 一瞬で必殺の陣『テレホタイム』の発動条件が揃った。


 後は放置しておけば周囲を巻き込んで大爆発を起こす。


「あ!」


 六駆くん、気付いたか。



「南雲さんが治りました!! 皆さん、お帰りなさいって言ってあげてください!!」

「記憶がまた曖昧なんだけど……。でもこれ、経験あるな。時間戻された? 私、また1機減ったね? ありがとう、逆神くん。……君が原因じゃないといいな」


 気付いていなかった。

 南雲さんが最悪のタイミングで生還をキメる。



 最悪でも何かが起きれば、戦局に変化も起きる。

 六駆くんの極大スキルの発現が終わって、南雲さんがまたしてもフルチャージ状態の復活。


 試しに煌気オーラを放出してから「よし。とりあえず体は万全だ。私も戦おう!!」と敵を探した瞬間、天井値に到達していた煌気オーラがちょっとだけ下がり、必殺の陣『テレホタイム』が発動する寸前だったのにちょっと引っ込んで、南雲さんの煌気オーラ放出でやっぱり出て来る。


 この間にほんの一瞬、殺気が放たれていた。


 殺気といえば、独立国家・呉の特産品。

 普段から取り扱っているこちらのお嬢様が気付かないはずもなし。



「南雲さん!! ごめんねぇ! こねぇせんと、みんなが怪我するけぇ!! 『みつ子コンバット・ばち』!!!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 みつ子ばあちゃん、動く。



 南雲さんが初めてコーヒーではなくなんかきたねぇものを噴き出してすっ飛んでいき、皇宮の壁に衝突。同時に爆発した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ええ……。ばあちゃん? 南雲さん殺しちゃダメだよ?」

「まぁ! うちの孫がたまに見せてくれるおとぼけ顔ったら、愛おしくてしょうがないねぇ!! ばあちゃんの知恵袋もまだ役に立つかね!! あたしらは攻撃されよるよ!!」



「えっ!?」


 ばあちゃんにとって18歳の孫なんてまだ毛も生えそろってないキッズ。

 中身が自分の愚息よりも年上と考える事はとっくにヤメた。



 空中を浮遊霊していたテレホマンが閉口する。

 確かにみつ子ばあちゃんのデータも電脳ラボには保持されていたが、精密な情報が確保できていたため「太子妃様はもはやスキルが使えないはずでは!?」と混乱する。


 実際にスキルを使っておらず、煌気オーラ反応も見られない。

 ならばなぜ、初撃は絶対にバレずに遂行できる必殺の陣『テレホタイム』が破られたのか。


「なにかを殺そうと思うた時にゃあね、相手にも気持ちは通じるもんなんよ。こりゃあ、恋と同じじゃねぇ。どこにおるんか知らんけど!! 出て来ぃさんや!!」

「うわぁ! ばあちゃんが何言ってんのか徹頭徹尾分かんないや!!」


 六駆くんの感情が、観測者とシンクロした瞬間である。



 多分、誰も分かってない。



「……とりあえず、わたくし南雲さんを回収して参りますわ」

「小鳩ちゃん! スキルは使うちゃいけんよ!! ばあちゃんが察するにね……。敵はこっちのスキルを種に爆発を起こすみたいじゃからねぇ!!」


「そ、そうなんですの!? でも、おばあ様がおっしゃるのならそうなんですわね! かしこまりましたわ! 小走りで行って参ります!! うちの猫たちも連れて行きますわ!!」

「うにゃー」

「にゃーです」


 クララパイセンと瑠香にゃんが小鳩さんのオトモアイルーみたいになって来た。


「みつ子閣下。よろしいでしょうか」

「どねぇしたんかね? ライアンさん?」


「はっ。恐れながら、閣下は現在、煌気オーラをまったく使うこと叶わぬ御体。……いかがして敵の細かい情報まで察知しておられるのかと。後学のためにも是非伺いたく」

「そねぇな事かね! 簡単じゃあね! 悪い思うちょる事ぁ、耳すませりゃあ聞こえるもんなんよ! ……殺意っちゅうもんは特にねぇ!」


「はっ。ご教示、感謝いたします」

「ライアンさんは分かるんかね! 偉いねぇ!!」


 みつ子旗下のライアン提督は「はっ」と短く答えて心の中では「何を仰っておられるのか、一理も分からなかった……。これがサービス殿の言っておられた高みに立つ者の見る景色か。なるほど。私如きではとても届かん……」と畏敬の念を抱く。


 六駆くんが纏めた。


「要するに、見えない敵さんがいて? それが僕たちには感知できないけどばあちゃんには感じる事ができるんだ? その殺意とか言うヤツで!! 僕、殺意って知らないからさ! 腹立つなぁ! って事はあるけど、人殺したいって思った事はないし! 仕事とかお金がかかるなら、うん、まあ普通に殺すけど、別に好んで殺す訳じゃないし! あ! うちの親父くらいだね! 好きにして良いよって言われて、じゃあ殺したいですってなるの! うふふふふふふ!!」


 二言目までで完結している情報に、数倍の量の自分の気持ちを付与し、それを説明と称し全体共有を強いる。

 おっさんの使う108ある必殺技のうちの1つである。



「じゃあ! 僕がばあちゃんに煌気オーラ貸付するよ! 多分ね、煌気オーラそのものを体内に入れようとすると弾かれると思うんだけどさ! 外殻スキルの感じで、身体に纏わせる形だったらイケるんじゃないかな? ちょっとやってみるね! ダメそうだったら言ってね!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『殺戮外殻デス・ミガリア』!!!」


 自分のばあちゃんに対しても許可を取らずに「最悪体パーンってなるかもだけど、言ってね! 治すから!!」と勝手に強化する、これが逆神六駆のやり方。



 みつ子ばあちゃんの身体が鮮血色に輝き始めた。

 これは成功したのか、それとも出血しているのか。

 全身から血が噴き出しているとかだったら、大問題である。


「あらぁ! こりゃあええねぇ!! まーったく何も感じんけど、ハイカラじゃあね!! お父さん、どねぇかね? 紅いドレスみたいじゃねぇ! 結婚写真を思い出すねぇ!!」

「ほっほっほ。写真館の前で強盗に襲われて、みつ子がコンバットしてお仕置き済ませてからそのまま撮ったんでしたの。あの時にはもうお腹に大吾がおったと言うのに、無茶するから焦ったもんじゃて」


 逆神大吾がダメになった理由、その可能性の1つが今、明らかになった。

 妊娠中のみつ子コンバットは胎児に良いか悪いか分からないが、絶対に何かしらの影響を与えている過激な胎教かと思われる。


「こりゃあイケるねぇ!! 最後にもう一仕事! お父さんも頑張っちょってじゃからねぇ! 妻が見ちょるだけじゃあいけもんねぇ!!」


 逆神みつ子・殺戮外殻デス・ミガリアモード、起動。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 テレホマンが敗北を悟った。

 この四角い男は電脳を冠す八鬼衆にして、バルリテロリの総参謀長。


「太子妃様は一体……。失礼ながら、人なのか?」


 呉の人です。


「これはまずもって勝ち目がなくなった。しかし、私の『ダイヤルアップ』は実体のない形態。……敗走する前に少しでも敵戦力を減らせれば!! 太子妃様は無視する!! まずは……! 吹き飛ばされた者の救助に向かった者たちを! 卑怯と罵られよう。冥府にて、甘んじてお受けする。私は戦士ではなく、皇国の守護者!!」


 テレホマンが『超過料金オーバーペイ』を発動させ、小鳩さん、パイセン、瑠香にゃんの3人がその空間に収まった。

 スキルを使おうものならば、爆発する。


 3人を1度に落とせば以降の戦いが優勢になるのは明白。

 だが、電脳のテレホマンは少しだけ計算を仕損じていた。


 思念体である自身の眼前には、先ほどまで見つめていた「なにあれ、怖い」と恐怖する対象。

 気付けばみつ子ばあちゃんの笑顔があった。



「あんたぁ? 見えんけどねぇ。……そこにおるねぇ? 殺意がお漏らししちょったよ? 悪い事しなれちょらんじゃろうがね? いけんねぇ。そねぇな子が、無理して悪ぶるのは」

「…………これは悪夢か?」



 見えざるものを捉えるばあちゃん。


 逆神みつ子にできない事は、息子の更生だけである。

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