第1123話 【現世チームVS皇宮・その4】電脳のテレホマンの『テレホタイム』 ~陛下の傍仕えしてなきゃ強いぞ、四角い男!!~

 皇帝陛下の御前に控えているテレホマンにNテェテェから最期の『インターネッツ』によるデータが送られて来た。

 四角い男、察する。



「……Nテェテェ。逝ったのか」


 逝ってないですね。



 Nテェテェが眼の『インターネッツ』も同期も閉じたため、これまでガンガン送られて来ていたデータがピタリと止まる。

 敵の戦力を考えると、これはもう殉職したものと捉えるのは自然で必然。


「すまない。私もすぐに逝くだろう」


 皇宮の内側の堀に転がっているので、すぐに逝こうと思えば行ける距離にはいる。

 テレホマンが玉座を見つめた。


「六宇ちゃん! これでいいでしょ!! ピンクのヤツ創ったから!!」

「いーやーだー!! そんなキツイピンク色とか、いっそパンツの方がマシまであるし!!」

「おいおいおい! ……じゃあ、もうパンツで良くねぇ? 六宇! おめぇ結構大人だったぜ!!」


 楽しそうだった。


 陛下は仕上がらない。

 六宇は短パンを穿かない。

 クイントは六宇で妥協しようとしている。


 テレホマンは考える。

 総参謀長ってもしかしてむちゃくちゃ孤独な役職なのではないのかと。


 相談はされるが、相談相手がいない。

 参謀本部の長たる職責を果たすためには誰かに相談する行為が機密漏洩に繋がりかねないので、最終決定権こそ皇帝陛下にあるが、立案した作戦がモニョると責任は全部ブーメランになって帰って来る。


 勝っても得るものと言えば、特にない。

 出世を望む訳でもなければ皇帝の座を狙う野心もなく、ただバルリテロリの平和を願うだけ。


「いや、違う」


 バルリテロリの平和が手に入るではないか。

 それこそが彼の目指している、何物にも勝る栄光の形。


「陛下。六宇様」

「オタマ! ちょっとパンツ見せてくれる!? 参考にさせて!! もうそれしかないと思うんだわ、ワシ!!」


「それありかも! オタマ、お願い!!」

「陛下。左の側頭部をお出しください。六宇様は次です」


「ごめんなさい」

「あたしもごめんなさい」


 オタマがスマホに表示させた画面を水戸黄門の印籠のように掲げた。

 なんだか輝いて見えたとクイントは思った。


「もうこちらになさってください」

「パンツじゃん!!」

「いや、六宇ちゃん。よく見てごらんよ。これ、スパッツの親戚みたい!!」


「ペチパンツ、スポーツショーツ、インナーパンツ、呼び方は多くございますが。いわゆる見せパンでございます」

「……それもうパンツやんけ」

「……キサンタと意見がぴったんこカンカンしたよ。パンツじゃん」



「でしたら、もうノーパンでよろしゅうございますね」

「えっ」

「えっ」

「おっしゃらぁぁぁぁい!! ひぃやっふぅぅぅぅぅぅ!!」


 六宇が「ごめんね。あたしワガママ言ってた。この見せパンでいいよ」と頷いて、喜三太陛下が「任せとけ!! すげぇ良いヤツ創ってやる!!」と煌気オーラを高め始めた。


 クイントはチンクエに肩を抱かれてむせび泣いた。



 ようやく、陛下が仕上がりに向けて再始動してくれそうな気配を見せ始める。

 ならば、総参謀長として今すべきことは作戦立案以外にもある。

 すべきことではなく、やるべきことが。


 命を賭したNテェテェに報いるためにも。


「オタマ様。少しばかり陛下のお傍をお任せしてもよろしいでしょうか」

「はい。テレホマン様。どうぞ、辣腕を振るわれてください」


 Nテェテェが最後に『インターネッツ』で送って来たのは、六駆くんがぶち込んで来た煌気槍ごんぶとぼうのデータ。

 スキルではないが、煌気オーラの情報をゲットしているテレホマン。


 両手を開く。

 そこには眼が2つ。


「はぁぁぁ!!」


「えっ!? テレホン、なんかするの!?」

「マジで? テレホマンがなんかするん!?」

「おいおいおい! お前、やれんのか!!」

「……良い」


 テレホマンがいなければ、とっくにバルリテロリは敗戦しているような気がする。

 が、テレホマンがいなければ、ここまで戦火も拡大しなかったような気はする。


 四角い男が戦う時は、今。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アタック・オン・みつ子の陰に隠れて、六駆くんがひどいダメージを受けていた。


「うわぁぁぁ!! 最悪だ! なんか臭い! これ、小鳩さんにやってもらっときゃ良かった!! サービスシーンみたいになったのに!! 僕だとこれ、中身アレだから最終的には臭いおじさん扱いだよ!!」

「六駆さん? 莉子さんに言いつけますわよ?」


「小鳩さんが守れて良かったぁ!! 女子を守るとか、おじさんの本懐ですよ!! うふふふふふふふふ!!」


 六駆くん、ぬかを喰らって臭くなる。

 なんじゃいそんなもんと侮ることなかれ。


 おじさんの言われて傷つく言葉ランキングのトップ3には絶対に入着している「臭い」がデバフとして付与されてしまったのだ。

 これでは臭いとぬめりを解消するまで六駆くんが戦えない。


 いや戦えよと言われることなかれ。



 発酵の進み過ぎたぬか床は人によって激臭である。



 現状、ナグモさんがちょっと若くなったけどまだ復帰できておらず、一体古龍の戦士状態でどれだけ年取らされたのか心配になる感じに。

 ライアンさんは煌気オーラ枯渇寸前なので、指揮官でも参謀でも軍師でもなく、気付いた事をアドバイスする相談役ポジションを堅守。


 バニングさんは斧を投げ続けており、ひっそりと飛んで来る太陽を単騎で迎撃中。

 猫たちは「ぽこ。矢を射ろ」「うにゃー。タイミングがあるぞなー」とにゃんにゃんしている。


 ノアちゃんは穴の回収作業をしているので、やっぱり動けるのは小鳩さんだけといういつもの通りな現世チーム。


「ほっほっほ。ワシが出ましょうかの」

「お父さんは戦車創って疲れちょろうがね。年寄りの冷や水はいけんよ」


 逆神老夫婦は待機。


「ややっ! 各先輩方!! なんか空間がアレしてます!! ボクとスキル被りです!! 気を付けてください!!」

「六駆さん!?」



「えっ!? 僕、そんなに臭いですか!?」

「ぐぬぬぬですわよ!! これでお排泄物ですわって言ったらこの方、結構ガチでおへこみあそばされてしばらくいなくなられますもの!! じゃあ臭くないですわ!!」


 小鳩さんがチーム莉子のお姉さん兼任母ちゃんだという事がここに来てよく分かる。



 代わりにライアンさんが分析。

 すぐに終わるのが分析スキル専任になって身軽な氏の良いところ。

 ライアンさんも「これほど責任のない戦場はいつぶりだろうか」と、自分よりも責任を背負い込む者が多くいるので伸び伸びと分析できている。


 極大スキルを使っておいて良かったと心で叫ぶ、わんにゃん帝国の祖。


「確認しました。小鳩夫人」

「やっぱりわたくしに報告なさるのですわね……」


「それはもう致し方ありますまい。この場で最も良妻賢母の似合う貴女に告げずして、どなたを選べと?」

「も、もう! もうですわよ、ライアンさん! シャツだけでは心もとないですわね! 鎧の腰の部分にある出っ張りパーツも差し上げますわ! うふふ!!」


 ライアンさんが「また小鳩夫人の防御力を削ってしまった。報告の仕方を考えねばならんか」と反省点を鑑みながら、鎧の中でも1番防御力に関係なさそうな腰と太ももの連結部分の出っ張りを受け取って、スラックスに取り付けた。

 ちなみにライアンさんとサービスさんは収監されていた時の恰好のままずっと戦場に出ているので、スーツからジャケットをはぎ取られたクールビズな装備。


 戦争を舐めているのかな。


「空間の一部にスキルではない、何かが展開されていますな。確定ではありませんが、範囲指定の能力かと。各々方、スキルの発現にはご注意ください。この手の能力は反転攻撃タイプの場合が多い。下手にスキルを放つと敵に武器を与える事に」

「……ライアン殿。私は『魔斧ベルテ』を投げん方が良いのだろうか? これを止めると太陽が降って来るが」



「敵も存外、やりますな」

「ふっ。いやはや、どこにも猛者はいるものだ」



 かつての敵だった猛者たちが「じゃあ無理ですな」「うむ。これは攻撃される流れ」と頷き合った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 テレホマンの眼の能力は『ダイヤルアップ』である。

 眼の同期能力を増幅させニュータイプの感応的な思念体を飛ばす通信が可能。


 ただ、左手の眼はここでお披露目。

 『超過料金オーバーペイ』という。

 効果範囲指定の能力であり、一定値まで耐えうるバリアを保持した空間を作成し、その中で煌気オーラは増殖、上限値を超えると爆ぜる。


 要するに他力本願な溜め攻撃である。


 『ダイヤルアップ』と同時に発動させることで、遠隔地にいながら戦場を支配する事も可能。


 身も蓋もない表現をすると、幽体離脱して戦場を漂いながら本体は安全地帯で攻撃に専念できる。


 自在な空間指定でスキルが交差している場所を『超過時間オーバーペイ』で覆えば、勝手に爆発する。

 ボンバーマンで早く死んだヤツが外から残ったプレイヤーの邪魔をするアレを想定して頂きたい。


 白兵戦に不向きなテレホマンにもたらされた、天からの贈り物である。

 眼の固有能力なので煌気オーラを使う事もなく、活躍シーンがニッチ過ぎる以外は無双できる可能性を秘めている、これまで頑張って来た四角い男にのみ許された無敵時間。


 この2段構えの戦型をテレホタイムと呼ぶ。


「電脳のテレホマン。これより敵を殲滅いたします」


 プー……。ピポパポピポパポ……。

 ピピービォー…………。ポービーブー………。ザー……。


 これがテレホマンの戦いのドラム。

 皇宮の外で早速いくつかの爆音が響いた。


 『ダイヤルアップ』の超過、それは少し遅れて甚大なダメージをもたらす。

 すげぇ通信料の請求でまず視覚を奪い、次に心をへし折る。


 よほどの胆力がなければ太刀打ちできない強敵である。


 ダイヤルQ2の話はまあ良いか。

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