第1122話 【現世チームVS皇宮・その3】Nテェテェ、戦火に消ゆ
Nテェテェ。
特に皇族と繋がりがある訳でもなければ、スキル使いとして秀でた男でもない。
八鬼衆は定期的に代替わりする。
テレホマンが八鬼衆に就任した際に「……うちの国。司令部がない」と気付いたのが全ての始まり。
当時は八鬼衆の中で軍事部門担当、兵器開発や拠点建造を担っていた四角い男は陛下の宸襟を騒がせ奉ることもなく粛々とバルリテロリの軍備を整えており、その過程でも「……うちの国。機能していないな」と何度も悩んだテレホマン。
そこで新設されたのが電脳ラボ。
当時のバルリテロリは昭和の終わり頃の技術と文化だったため、通信は同期を使うか黒電話。
スキル使いは育っていたため、構築スキルに秀でた者を集めれば軍事拠点の建造は捗ったが、なにせ連絡がつかない。
ポケベルが普及するのはそれから3年後の事である。
現場で問題が発生しても軍事機密なので同期は使えず、担当している者がテレホマンに連絡するため近くのお店の軒先にある公衆電話へと走る。
お店の人に百円玉を両替してもらってから、ようやく通信が始まる。
急ぎの用事でなければそれでも良いが、例えば現場で事故が起きたなどの緊急性の高い連絡でもこのやり方が蔓延していたので、ごく稀によく手遅れになる事が散見されて多発した。
百円玉を十円玉に両替するなという命令が出てから少しだけ通信速度は上がったが、今度は通信頻度が減る。
百円玉を公衆電話に入れて、通信が20秒とかで終わるとすごく損した気分になるのである。
話は戻って、電脳ラボ。
今ではバルリテロリのうっすい未来を背負う希望の参謀本部だが、創設当初は通信に特化した組織だった。
同期はできない。
でも公衆電話じゃ連絡がおぼつかない。
テレホマンが毎回現場に飛んでいっていたため、当時の彼は四角い体がほとんど削れて使い込んだ消しゴムみたいなフォルムになっていたという。
Nテェテェが採用試験を受けたのはその時分であった。
以下、当時の記録の再現である。
「どうぞ。ご着席ください。私は八鬼衆、テレホマンです」
「はい。失礼します」
「ええと。Nテェテェくん。君はスキル使いですね?」
「はい。スキル使いです」
「どちらの学校を卒業しておられますか?」
「はい。喜三太陛下記念小学校、喜三太陛下記念中学校を卒業して、以降は実家の漬物屋を継いでおります」
「なるほど。得意なスキルはなんですか?」
「発酵促進させる『ぬかドン』というスキルが使えます」
「そのスキルは時間に干渉できるものですか?」
「いえ。ぬか床に干渉できます」
「ぬか床に……? それを電脳ラボでどのように活かせるとお考えですか?」
「お漬け物を提供できます」
「……眼はお持ちですか?」
「はい。たまたま持って生まれました」
「能力はなんですか?」
「『インターネッツ』と言います。目で見たものをデータ化して、任意の相手に通信できます」
「ちょっと待て」
「えっ。すみません」
「いや、失敬。私の方こそ、申し訳ない。君のその眼の力、例えば遠隔地で作業をしている者に指示を飛ばす事は可能か?」
「は、はい。できますが」
「えっ。……例えば、ここにある図面を君が見て、それを現場の作業員と共有する事は可能か? 同期では精密なものは情報量が多すぎて、受け取る者によると脳がパーンとなる」
「か、可能ですが」
「え゛っ。……Nテェテェくん」
「は、はい。帰っても良いですか? なんか怖い」
「Nテェテェ。貴官は今日から電脳ラボのチーフだ。階級は私の次席。実家のお漬物屋さんには私が個人的に支援しよう。その能力、皇国のために役立ててくれ!!」
「私が!? はっ!! 微力を尽くします!!」
こうして、Nテェテェがテレホマンの部下になった。
バルリテロリに訪れた初のIT革命であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
それから20年近くの時が流れる。
まさか、本土が戦場になるとはNテェテェも、テレホマンですら思いもよらず。
だが、守らねば。
皇国には慣れ親しんだ土地が、友誼を結んだ者が、使い込んで良い感じになったぬか床があるのだ。
今では多くの部下を従えている。
Nテェテェは自分を奮い立たせた。
「……気付かれるまでは時間の問題か」
彼はステルス性の装備を身に付けており、皇宮の周りを囲む外壁の上に身を屈めていた。
近くには喜三太陛下の銅像が煌びやかな装飾とともに飾られている。
「……まさか、皇帝陛下の銅像の隣に潜むなどという不敬を犯しているとは敵も思うまい!!」
皇帝陛下を敬愛していない敵は銅像そのものを認識していない。
ただ、デカい喜三太陛下像は良い感じのカムフラージュにはなっていた。
降り注ぐ太陽は全て
肉眼で確認されなければ良いという、斥候兵としてはこの上ない戦局。
だったのだが、彼の頭上に穴が口をあけた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
通信士対決なら任せとけ。
こちらはノアちゃん。
彼女のパパラッチスキルには定評がある。
なにせ、主だった乙女たちは全員盗撮済みであり、特筆すべきは芽衣ちゃんのスカートの真下に穴を空けてナニを拝謁した事もあるという、タイミングが最近だったら死んでいたかもしれない危険なプレーを遂行し、完遂している。
「ややっ! なんだか膨らみを発見しました!! 小鳩先輩! もっこりしてます!!」
「どうしてわたくしに報告するんですの……。六駆さんのご指示でしょう?」
「逆神先輩が、あとは小鳩さんに任せて大丈夫だよ! 小鳩さん頼りになるから!! って言ってました!!」
「も、もう! そんな風に言われたって、まったく嬉しくないですけれど!? わたくし、殿方はあっくんさんだけと決めておりますもの! じゃあ六駆さんの期待にも応えて見せますわ!!」
ちょっと初期ロットのツンデレお姉さんを取り戻した小鳩さん。
ついでに初期ロットの単騎で何でもこなせる万能お姉さんポジションも取り戻す。
「ノアさん! もっこりに向け穴をおっぴろげ、それを固定ですわ!!」
「うあー!! すごく興奮する言葉が飛び交ってます!! ボクのスマホちゃんのレコーダーが起動してます!! 小鳩先輩のASMRがデキちゃいそうでとってもふんすです!!」
関係ない事を言いながらも仕事はこなす、六駆くんの弟子なノアちゃん。
むしろ逆神流は関係ないことを喋り始めた方が強いまである。
「とおー!! 『
「棒ですわよ!! 瑠香にゃんさん! ふっといヤツくださいまし!!」
小鳩さんの奮戦を見守る猫たちがちょっとだけ鳴き合った。
「ぽこ。瑠香にゃんが最終的にふっとい棒を差し出す流れはなんだか嫌です」
「にゃー。怒られる前に出しといた方がいいぞなー」
猫は本来とても賢い。
瑠香にゃんが瑠香にゃんランス・ごんぶとを太ももから取り出して小鳩さんに手渡す。
「六駆さん!! 敵の斥候と思しき方を発見! 攻撃準備整っておりますわ!!」
「うわぁ! すごい!! じゃあ、僕が交代しますよ!!」
「ええ……。どうしてですの?」
「長年の経験と勘ですかね。大したことない相手の方がよっぽど大したことあるんですよ。特に追い詰めちゃうと。身近な例だとですね。うーん。ああ、そうだ! 窮鼠の
莉子ちゃんの進軍速度がまた上昇した。
「どっちかって言うとわたしが噛む方だもんっ!!」と言う声と共に。
2人は清い関係を続けております。
これはスキル修業の時のお話です。
六駆くんが『
「ちょっと拝見!! あ゛! ほらぁ!! 小鳩さん! 槍貸してください!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」
六駆くんが
◆◇◆◇◆◇◆◇
同時刻。
Nテェテェが死期を悟った。
彼は電脳ラボのチーフ。
こちらも長年の経験と勘という、分析官にとってはあまり縁のない感覚で敵から攻撃される未来を予見。
予想した結果を覆せる者は世界でも限られている。
自分は一握りの者ではないと、Nテェテェは弁えていた。
「敵のスキル攻撃を確認。視認……!! テレホマン様!! こちら、ご査収のほど!! よろしくお願いいたします!! 私は先に逝きます……!!」
六駆くんの
「……ぐげぁ! ……あれ。意外と致命傷にならないかもしれない。というか、私これ、助かるかも。……追撃される!! はぁぁぁ! 『ぬかドン』!!」
Nテェテェのスキルがさく裂した。
『ぬかドン』はぬか床に干渉できるスキル。
六駆くんはぬか床ではない。
穴の向こうで「うわぁぁぁ!! ヌルヌルするぅぅぅ!!」と悲鳴が聞こえた。
ヌルヌルおさらいの時間。
六駆くんには割としょうもないスキルの方が効果的。
よく分からないまま一矢報いたNテェテェ。
既に視覚情報としてアタック・オン・みつ子の周囲のデータは電脳ラボとテレホマンに送信済み。
もはや自身に価値はないと判断。
「さらば!! バルリテロリ!! 万歳!!」
持参した手榴弾を抱えて、Nテェテェが爆発する。
また1人、忠臣が戦火に消えた。
「…………あれ。まずい。私、思ったより頑丈だな」
戦禍は多くの者を呑み込む。
「…………内側に落ちるか。皇宮の。『インターネッツ』、遮断!!」
まるで渦が如く。
人の一生を、呆気なく。
「死んだふりしとこう。私の
死と言う名の惜別で。
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