第1118話 【アタック・オン・みつ子、爆走す・その2】進路は直進のみ。障害物は捕食する。 ~孫の嫁とすれ違い通信もあるよ!~

 かつて六駆くんが生みだしたアタック・オン・リコ。

 ルベルバック戦争やアトミルカ軍地基地・デスター攻略作戦では大活躍を見せ、莉子の名を異世界に轟かせた記憶はこの世界に深く刻まれている。


 最終的にミンスティラリアへと寄贈されてピースによる脳筋ゴリラα型の空襲によって大破したが、多分もう修復されているのではないかと思われる。

 今の仕事はサツマイモを収穫して運搬するのがメインで、たまに魔王軍が移動手段として用いたりもする。


 アタック・オン・リコは移動要塞としての側面が強く、主砲、副砲も強力なものを搭載しているが、セールスポイントは30人以上の搭乗が可能かつ、バストイレ完備、ドリンクバーまでついている快適な生活環境。

 対して、四郎じいちゃんが創り出したアタック・オン・みつ子。


 突貫工事だった事もあり、要塞としての能力は必要最低限。

 サイズは巨大で外壁の強度は目を見張るものがある。


 四郎じいちゃんの目的は「六駆の元にこれを届けて、戦いの拠点とするのですじゃわい」であるからして、主砲などの攻撃用のギミックは未搭載。

 それを付けている暇があれば、一刻も早く戦地へ赴くべきという老獪な判断。


「さて。参りますかの。みつ子や。シートベルトを」

「お父さんとドライブデートがまたできるとは思わんかったねぇ! 若い頃思い出していけんよ! ドキドキするねぇ!!」


 アタック・オン・みつ子、発進。


 アタック・オン・リコは煌気オーラを噴出することでホバークラフトのように少しだけ地面から浮いて高速で進む仕様だったが、そんな凝った造りを目指していては1分に満たない時間で構築はできない。

 よって、アタック・オン・みつ子はキャタピラーが回転する、戦車タイプ。


「ほっほっほ。道路があるのはありがたいですの」


 ガガガガガガガガと轟音を響かせ、アタック・オン・みつ子の走った後の道路は粉々に粉砕されている。

 移動に使うキャタピラーが破壊されては動けない。それは困る。

 キャタピラーは特に頑丈に造られており、あとなんかトゲトゲがついているので、アスファルト舗装の道路を走ろうものなら基本的に砕ける。


「ありゃ! お父さん、信号があるよ! バルリテロリもしっかりしちょるねぇ!」

「黄色は止まれ……いや、注意して走り抜けるでしたかの?」


「黄色と赤を撃ち抜いたら青になるんじゃないかねぇ?」


 違います。


「そうでしたわい。余裕をもって停車。これが1番!」


 四郎じいちゃん、道路交通法を思い出す。

 が、今回は黄色信号無視の方がバルリテロリのインフラ的には良かったかもしれない。


 キャタピラーは停車していても回転し続けており、ゴリゴリと地面を削っていく。

 信号が青になった頃には、ちょっとしたクレーターが発生していた。


「また信号があるねぇ」

「ほっほっほ。田舎の道路にありがちですの。信号と歩道橋と誰が通るのか分からん綺麗な裏道は名物じゃて。さて、停まりますかの」


 予算を使い切らないと次年度の予算が減るのである。

 これはバルリテロリの事情です。


 聡明な探索員諸君は、コンドゥーしないよう願います。

 きな臭い妙なところを探索しても出て来るものはろくなもんじゃねぇのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 ほとんど同じタイミングではじめての構築スキルを使った莉子ちゃんも皇宮を目指して驀進中であった。


「ふぃぃ……。はふぅ……。もぉぉぉ! なんで自転車ってペダル漕がないといけないの!? 自動で走るヤツがあっても良いと思う!! 煌気オーラ使うから1漕ぎがすっごく大変だし!! 自転車とかもうやだ!! わたし、帰ったら免許取る!!」


 リコバイクに文句を言いながら、頑張ってペダル漕いでる莉子ちゃん。

 名前はリコバイクだが、自転車。

 莉子ちゃんが欲しているのはバイク。


 上手く行かないのが世の中の常。

 需要と供給が合致するのは奇跡と知るべし。


「ふぇぇ。お尻痛い……。太もも痛い……」


 自転車のサドルは日々進化しており、長時間のサイクリングでもお尻にかかる負担は少ない。

 が、莉子ちゃんの構築したリコバイクは自転車みたいな形をした莉子ちゃんオリジナルのプライベートブランド。


 サドルはカッチカチである。


 表面積が同じであれば、そこに乗っかる尻の質量やら面積やらがナニして、尻がアレして痛くなるのも分からなくもないが。

 リコバイクのサドルちゃんも「ぴぎぃぃぃ」と悲鳴を上げている。


 痛みに耐えているのは果たしてどちらか。


「もぉぉぉぉぉ!! ジュース飲むっ!!」



 まあ、この話は良いか。



「結構走ったよね? 誰も声かけてくれなくなったし……。さみしい……。ほえ?」


 お気づきだろうか。

 莉子ちゃんが走っているのは国道。

 アタック・オン・みつ子が走り始めたのも国道。


 リコバイクとアタック・オン・みつ子は今、同じ道路を走っている。

 そして、リコバイクの速度を1とした場合のアタック・オン・みつ子の速度は80くらい。


「おっきい車……! あ! 良い事思い付いた!!」


 莉子ちゃん、アタック・オン・みつ子を確認。

 すぐに親指を立てて手を振った。


 ヒッチハイクである。


 車に乗せてもらえれば、もうペダルを踏む必要もなく、お尻のコンディションに苛まれることもなく、ショートパンツちゃんのライフゲージが真っ赤になっている現実にだって気付かずに済む。


 しかし、現実というのは非情。

 アタック・オン・みつ子のキャタピラーはガガガガガと常に爆音を轟かせており、運転席にいる逆神老夫婦に外のちっこい女児の声や仕草など聞こえない。


 交通事故が起きるパターンだが、ここがバルリテロリで良かった。


「ふぇ!? あ、あれ!? あ、あのー!! ふわぁぁぁ!?」


 アタック・オン・みつ子が通過していきました。


 すっ飛ばされた莉子ちゃん。

 彼女のカロリーに満たされた脳が高速リコリコ回転を始めて、すぐに答えを弾き出した。


「あれ、敵だ!! だって、わたしにひどい事したもん! たぁぁぁぁ! 『太刀風たちかぜ』!!」


 莉子ちゃん、義理の祖父母に撥ねられそうになったので、相手を確認せずにスキル攻撃へと打って出た。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 アタック・オン・みつ子の運転席ではみつ子ばあちゃんがモニターに気付く。


「お父さん、お父さん。ここ、こねぇに光りよったかいねぇ?」

「ほう? それはアレじゃて。煌気オーラ反応じゃの。どこかから攻撃されようとしておるようですじゃわい」


「そりゃあいけんねぇ。どねぇするんかいね?」

「ほっほっほ。兵装は付ける暇がなかったけれども、最低限の防衛システムは乗っけとりますじゃて。ボタンひとつで起動するから、見とるとええぞい」


 四郎じいちゃんが運転席脇のボタンをポチると、戦車後部の排気口から煌気オーラが射出され、飛んできている『太刀風たちかぜ』に向かって襲い掛かる。

 風の刃を呑み込むと、反転して刃を放出。


 どこかで見覚えがあると思った探索員の方は昇進査定が3月にあるので、そろそろ備えた方が良いかと思われる。

 ランクアップの兆しあり。しかも人員不足中。


「ありゃあ、斥力スキルかねぇ?」

「似たようなもんじゃて。ワシの持って来た【黄箱きばこ】を混ぜて構築しとりますからの。名前は『みつ子リベンジャー』ですじゃ。ある程度のスキルならば受け止め、反射させる簡単な仕組みじゃわい。まあ、けん制にはなるはずですの」


「お父さん! すぐにあたしの名前付けてから!」

「ほっほっほ。これは避けられませんの」


 ガッと音がして蛇行し始めたアタック・オン・みつ子が電柱に衝突。

 電柱を車体に取り込んだかと思った次の瞬間には何事もなかったかのように走り始めていた。

 これもやっぱり四郎じいちゃんの持参した【黄箱きばこ】に入っていたスキル『暴食モグモグ』による効果。


 六駆くんに「莉子を見てて思い付いたんだけどさ!」と提案された「対象の煌気オーラを捕食する事で自身の煌気オーラに上乗せする」スキルを四郎じいちゃんが仕上げたが、どこかでなにか、悲しい行き違いがあったらしく、数日後にボロボロになった六駆くんが「じいちゃんにあげるね……。そのスキル……」と所有権を放棄した。

 結果、四郎じいちゃんが習得を試みたが凶悪なスキルだったために煌気オーラ消費量が凄まじく、「こりゃあ使えませんの」と判断される。


 【黄箱きばこ】に封じて一撃のみの攻撃用として持参していたが、そもそも使いどころが限られ過ぎていたのでこれまでもこれからも機会はないと考えた末、とりあえずアタック・オン・みつ子に放り込んだ。


「これは『みつ子グラトニー』ですじゃ。みつ子の作るご飯は絶品じゃて」

「お父さん!! あたしゃ、この年で妊娠させられるんかいね!! んもぅ!!」


 ゴギャッと音がして、アタック・オン・みつ子が道路から外れ鉄塔に衝突。

 やっぱり何事もなかったかのように、道路へ復帰してピンチの孫の元へと急ぐのであった。


 アタック・オン・みつ子のサイズは既に孫六ランドと同等まで肥大化している。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぇぇ……。なんかスキルが跳ね返って来たよぉ」


 ひっそりと行われた、現世の逆神家による小競り合い。

 莉子ちゃんが久しぶりに敗北を喫していた。


 彼女に被害はない。

 カロリー莉子ちゃんモードは裏拳で『太刀風たちかぜ』を弾き飛ばす程度は造作もない。


 ちょっとだけ、近くにあった貯水タンクがスパッと割れた。


 この祖父母と嫁による被害は、もしかすると六駆くんの報酬に関係するかもしれないが、関係しないかもしれない。

 戦争が終わるまで分からないシュレディンガーの逆神家。


 どっちも爆走中。


 それパンドラの箱やんけと言われることなかれ。

 中に希望は入っておりません。

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