第1117話 【アタック・オン・みつ子、爆走す・その1】コンピューター四郎じいちゃん、孫のためにもうひと頑張り ~愛する者の名を兵器に付けるのは逆神の伝統~

 ちょっと前のクイント宮。


 基本的に分刻みどころか秒刻みで進行している戦争なので、過去の事象のために「〇秒前」や「〇分前」を繰り返し過ぎたらば、東京駅で時刻表見てると眩暈と吐き気に襲われる田舎者デバフが発生しかねない。

 つまり、ちょっと前の出来事はちょっと前なのである。


 時間はとても難しい。


「いやー! どうしましょうかね!! 普通に落ちましたね!! とりあえず、点呼しましょうか! みんな無事ですか?」


 爆炎と熱風を巻き起こしている元クイント宮。現在は火災現場。

 チンクエの放ったスキルによって、割と簡単に撃墜されていた。


 なにせ、元から六駆くんがスーパーマンスタイルで支えていなければ墜落始める5秒前だった訳であるからして、その六駆くんが上の方へ行った隙に下の方に向けて煌気オーラ光線をぶっ放されたらば、教室で椅子に座ろうとした瞬間に悪ガキがそれを超スピードで後ろへと引いて尻から後頭部を強打する感じに無防備。

 あれは痛ましい事故も起きているので、本当にやってはいけない。


 無防備の状態で煌気オーラ光線を浴びれば、ナメック星編のベジータさんもかくや、クリリンの一撃でほとんど致命傷になるのも道理。

 助けてくれたデンデを蹴るのはいけない。

 結果、爆破炎上から普通に墜落した。


 六駆くんは仲間の救助を優先したため、クイント宮は放棄。

 人として正しい判断で賞賛されるべきであり、もう悪魔くんとは呼ばれなくても済むくらいに綺麗な行動をキメたが、代償として失ったものも大きかった。


「六駆さん。全員無事ですわ。怪我人はバニングさんだけですわね」

「ふっ。小鳩。報告は正確に行うべきだ。私は利き手が既に逝っていたが、六駆に手を差し伸べられた直後、バニングさんくらいの使い手なら大丈夫ですよね! うふふふ!! とか言われてその手を引っ込められたからな。身一つで地面に落ちた。今は両足の感覚がない。私の足はまだくっ付いているか?」


 バニングさんが重傷だが、元から重傷だった上に氏はよく死にかけるのでとても重傷はまだ重傷の範疇だった。

 つまり、クイント宮を失っただけで、人員はほぼ無傷。


「私の両足」


 ほとんど無傷で大惨事を回避したが、目と鼻の先にはバルリテロリ皇宮。

 ついさっきまで上空から「どうしてやろうかな!!」と攻撃方法を考えていたのに、気付けば敵国の大本営の前で塹壕すらなく、次の瞬間には一斉砲撃されかねない危険が危ない状況に。


「師範。『時間超越陣オクロック』の構えは解かれるが良いかと。あ、いえ。差し出口でしたな。渋いナグモ殿とバニング殿を治療するのでしたか」

「えっ!?」


「ライアンさん。六駆さんの、えっ!? が出た時点で、基本的にその分析は合ってますわ。自信をお持ちになってくださいまし」

「小鳩夫人は実に肝が据わった、良い妻になられるだろう」


「も、もう、もうですわよ! 困りますわ!! ライアンさんの好感度が上がっちゃいますわよ!! わたくしの鎧の肩のパーツ、差し上げますわ!!」


 ライアンさんが「余計な事を言ったせいで、守備力が唯一高そうな小鳩夫人から肩パーツを奪ってしまった」と悔いた。

 乙女心の分析は専門外なライアンさんが貰った肩パーツをシャツにくっ付けながら、意見具申を試みる。


「師範。クイント宮を復元しても敵の制御下からは逃れられない可能性が高く、師範の両手が塞がった時点で我々の防衛力が紙になります。現状、守勢を担えるのは小鳩夫人とノアちゃん……は、いつの間にかいませんな。では、あとは椎名Aランクと瑠香にゃん特務探索員。そして師範です。防御スキルに秀でている者は瑠香にゃん特務探索員だけです」

「えっ!?」


 少し考えた六駆くん。

 両手の向きを変えた。


「もう煌気オーラ練っちゃったんで! 仕方ないからバニングさん! 萎れてるナグモさん拾ってこっち来てください! 煌気オーラ力場ものすごく狭くして発現します!」

「私は両足が……。いや、左手がまだあったか。ぬぅん! 『一陣の拳ブラストナックル』!! ……存外やれるものだ」


 バニングさんが左手だけでナグモさんのところへジャンプ。

 ジャンプの定義がおかしくなりそう。


 結局、六駆くんの両手は塞がったので大ピンチが継続中。


「うちの子たちに頑張ってもらいますわね」

「にゃー」

「にゃーです」



「瑠香にゃんさんがクララさんのモノマネをしてやり過ごす姑息な事を覚えましたわ。やっぱりうちの子たちは隔離してお世話するべきかもしれませんわね」

「瑠香にゃんはミスをしたようです。端的モード。ぽこにすがるんじゃなかった。ご主人マスターが怖いので、瑠香にゃんは瑠香にゃんバリアを張ります。もうぽこに兵装の名前変え散らかされたので全部バカみたいな名前です。悲しいです」



 『粘着糸ネット』と『風神防壁エアラシルド』と『吸収スポイル』の3つの特性を同時に広域発現したものが瑠香にゃんバリア。

 かなり高性能だが、クララパイセンが瑠香にゃんの動力炉おっぱいから煌気オーラ持って行ったせいで持続時間は頑張っても3分、すごく頑張っても4分。


 喜三太陛下が仕上がっているしれない。


 ノアちゃんは盛り上がりそうなシーンを無視して、穴を空けていた。


「こちらボクです! ノアちゃん通信士として足跡を残すのです!! ボク、煌気オーラ総量はザーコザーコなので、小出しにしておかないと大一番ではリアクションふんすになっちゃいますからね!! ふんす!!」


 通信先は同じバルリテロリの大地。

 莉子ちゃんではない事だけは分かる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 本土決戦跡地では、孫六ランドの外壁を引っぺがして椅子にするDIYをこなした四郎じいちゃんがみつ子ばあちゃんを労っていた。


「ほっほっほ。みつ子や。やはり【黄箱きばこ】でも煌気オーラは回復せんようですのぉ」

「そねぇ言うたのに、お父さんは! 貴重なものを無駄にしてから!」


「妻の身を案じる事を無駄と宣うほどワシはまだ堕ちとりゃあしませんわい。ワシの最底辺は初登場時であれとずっと思うとるじゃて」

「お父さん! またそねぇして、あたしゃ……! あ! いけんいけん!! みつ子コンバット出すところじゃったね!!」


 みつ子コンバットとは、呉の公民館でラジオ体操第2の代わりに導入された健康維持が目的の格闘技。

 主に対人を想定し、相手への肉体的な危害や殺傷を意図したもので、武器を用いる場合と徒手格闘のいずれも一括りにされる、継続してこなす事でアンチエイジングに効果的。


 照れ隠しに使われると、健康な20代男性の首が8割ほどの確率でモキョる。


 そんな逆神老夫婦の前に穴が空いた。


「あらぁ! ノアちゃんかねぇ! お腹空いたんじゃったら、あなご飯あるけぇ! 持って行きぃさん! カキフライも揚げてないのががあるけぇ! 揚げようかねぇ!!」

『ややっ! さすがみつ子先輩です! でも、今は四郎先輩にSОSノアちゃんです! ふんすのふんすすすなんですが!!』


 かくかくしかじか(説明の省略形)がカクカクシカジカ(ダイハツの鹿のマスコット)にグーグル検索順位を乗っ取られたのは2008年。

 ノアちゃんはバルリテロリにも適応したため、かくかくしかじか全盛期をも使いこなせる。


 トリックスターは高い順応性も魅力の1つ。


「ほう。そりゃあいけませんな。分かりましたぞい。孫六ランドはもう放棄してもええ訳ですな?」

『ボクはちょっと分からないですけど、四郎先輩はギリギリ一般人枠に入る気がするので、責任追及されたら日本本部の顧問辞めたらセーフです! ふんすです!!』


 お年寄りの話し相手もお年寄りに悪知恵授けるのも余裕綽々。

 ノアちゃんの会話術は既に多くの猛者たちを懐柔し、先輩にせしめて来た実績がある。


「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「あらぁ! お父さん、張り切っちょってじゃあね! 得意の構築スキルの出番じゃもんねぇ!! 頑張りぃさんよ!! カッコええねぇ!!」


 みつ子ばあちゃんと寄り添っていた四郎じいちゃん。

 【黄箱きばこ】から放出された煌気オーラは不本意ながら四郎じいちゃん単体を回復させていたため、煌気オーラはフルチャージ済み。


 構築スキルをはじめとしてものづくりでは六駆くんをはるかに凌駕する最強の男の祖父が1分にも満たない時間で仕事を終えた。


「ほっほっほ。ディテールに凝りたかったですがの。そうも言ってられんようじゃて」

「お父さん! あたしの名前をなんで刺青いれるんかね!! 恥ずかしいじゃあね!!」


「ほっほっほ」


 それはみつ子ばあちゃんの名前が喜三太陛下に伝わっているため、「みつ子!!」とフロントに印字するだけで半端ない抑止力になるからである。

 ちょっと前に殺された相手の名前を見たら、皇帝だって縮み上がる。

 とは、言わない四郎じいちゃん。


「愛の形は何よりも強いと莉子ちゃんが言っておったじゃて。みつ子の名前を付け……ほぉぉぉぉ! 『閃動せんどう』!!」

「あたしら何歳になった思うちょるんよぉ! 嫌じゃねぇ、お父さん!!」


 グオッと風を切る音が聞こえた瞬間に四郎じいちゃんが超高速で移動。

 照れ隠しみつ子コンバットを回避。


 みつ子コンバットはスキルではなく物理なので、煌気オーラを用いたガードの効果が薄くなるのが良くない。

 物理的にモキョるとすごく良くない。


「六駆に習って……アタック・オン・みつ子と名付けようかの。さて。みつ子や。先に乗り込んでおくれ。ワシが運転を担当するぞい」

「……お父さん? 運転免許、返納しちょらんかったかいね?」


「ここは異世界じゃて。まあ、私有地みたいなものですわい」

「そねぇかね!! じゃあ、良かろうね!!」


 「無免許で原付バイクはダメだよ!!」と言っていた莉子ちゃんの方がリテラシーはまだあった。

 四郎じいちゃんの駆るアタック・オン・みつ子が、バルリテロリの大地を爆走する。


 無事故無違反で孫の元へとたどり着けるのか。

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