第1113話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その25】「生きとったんか! クイント! チンクエ!」「おめぇは誰だよ!! じじいはどうした!?」 ~陛下は17歳になったんや!~

 もはや接敵まで秒読み段階。

 そう言いながら秒がなかなか進まない。


 戦いの中において人は常に走馬灯を見ているような感覚に陥るのだ。

 決してこの世界が牛歩戦術している訳ではない。


「キサンター。ねー。いい加減に仕上がるかさー。あたしの短パン創るかしてよー」

「やってるでしょ! 六宇ちゃん!! なんでそれ穿かないの!!」


「いや。これ丈が短すぎじゃん。なにこれ。クラスの女子にラインしたらドン引きだったよ。お尻のシルエット剥き出し過ぎ。グラビアでしか見た事ないって」

「種類が多いんだよ、体操服の!! 今はどこ行ったのか分かんない兵伍が教えてくれたホームページを参考にしたらさ! すっごく種類あるの! 太もものとこがキュッとなってるヤツから、なんか隙間が広いヤツまで! 丈は短めが流行ってんじゃないの? あと、どの子もみんなピチッとしたヤツ穿いてるもん! もうそれでいいでしょ!! というか、ブルマもあるじゃん! 令和! 六宇ちゃんクラスの子にからかわれてんじゃないの!?」



「陛下。お許しを得て申し上げます。陛下は一体、ナニをご覧になっておられますか」

「ん? FANZAってヤツよ?」



 牛歩戦術はしていないバルリテロリ皇宮からお送りします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 偉大なるホームページがついに陛下の御目にかなった。

 ただ、偉大なる皇帝陛下は子孫を御作りになられる使命を背負っておいでなので、右手を恋人にする事にはご興味を持たれないご様子。


 生物として健全なのか不健全なのかは判断に迷うが、とりあえず子孫が爆増して収集つかなくなりかけた事実を忘れてはならない。

 後継者を減らすためにあえて戦争を起こしていたという事例が現世には割とよく散見される歴史の闇も忘れてはならない。


 減りましたね。御子孫。


「六宇様」

「え。やだよ、あたし!! ブルマ、サイズ合ってない短パン、ピチピチの短パンの三択じゃん!? 結局どれ穿いてもピチピチなんだけど!!」


「はい。六宇様。御忠言申し上げます。六宇様はパンツを御脱ぎになられて、直に短パンを御穿きあそばされるのですか?」

「え゛? そんな事しないけど……?」


「はい。六宇様。スカートを御脱ぎあそばされて、ピチピチ短パンで戦われるおつもりなのですか?」

「え゛? スカートの下に穿くけど? パンチラ防止に」


「はい。六宇様。では、ピチピチでよろしゅうございませんか? 見られるとしてもチラッでございます。そもそも、命を賭けた戦いでパンツ見たさに攻撃の手を止める愚か者がいるでしょうか」

「ゔ……。なんか、そんな気がしてきた……。あたしが間違ってたかも」


 奥座敷の空間が歪み、煌気オーラ力場が発生。

 続けて四角いフォルムが戦争の中でちょっとずつ削れてきた総参謀長が、リサイクルに成功した証明として戦利品を抱えて帰還した。


「テレホマン、戻りましてございます」

「やべぇぇ! 死ぬかと思ったわぁ! いや死んでたかもしれんけど! オタマぁ! 命より大事なストッキングなくなったんだが!! ちょっともう1つくれよ!」


 クールな皇宮秘書官が珍しく六宇から目を逸らした。

 喜三太陛下の思考を受け継いでいる言動が目立つひ孫むうも、やはり珍しく鋭い視線をオタマに向ける。



「オタマぁー? いるじゃん。命捨ててパンツとかストッキングを選ぶヤツ。死んでたのにストッキング欲しさに生き返ってるじゃん。ねー?」

「陛下。六宇様にジャストサイズの短パンを御創りください」


 オタマが六宇に論破された。

 どの辺りに論があったのかは分からない。



「……陛下?」

「仕方ないやん! テレホマン!! 六宇ちゃんが短パンにオッケーくれんのやもん!! ワシだってひ孫は元から数が少ないのに、残ったの六宇ちゃんだけやんか!! 大事にしたいんや! ひ孫から得られるじじい愛を!!」


 テレホマンの想定内であった。


「はっ。御随意に。クイント宮はチンクエ様が落としましてござますれば、時間的猶予が少しばかり増えましてございます」

「マジか! すごいな、チンクエ!! やるじゃん!!」


 クイント・チンクエ兄弟が未だに陛下に対して何も言葉を投げつけていない。

 特にクイントは性格を考えると、まず恨み言と文句を同時に怒鳴りつけるくらいはするはずなのに。


「……じじい、死んだのか? 誰だ! このガキ!!」

「そこから!? ワシだわ!!」


「知ってんぞ!! 広島とか言うことでは、なんかヤンチャしてる子が思春期くらいから自分の事をワシって言うらしいって!! このヤンチャガキ!!」



 クイント個人の見解ですが、全否定もできないとだけ付言しておきます。



「いや! クイント!」

「馴れ馴れしいな! じじいと同じ服着やがって! あ゛あ゛! おめぇぇぇ!! オレがいない間に皇位を継いでやがるのか!? よし、今すぐ殺したら3秒ルールでオレが皇帝だろ!!」


「どんなルールじゃ!! チンクエ! 兄を止めろよ!」

「……この展開はしばらく見ていても良い」


「じじいはよぉ! 結構いいとこもあったんだわ!! くっそ!! 仇取るからなぁ! じじい! あの世で受け取れよぉ!! 『豪手乳もぎ取り拳ウルティマ・ゴッドハンド』!!」

「聞けよ! バカだな、本当にお前ばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 喜三太陛下がお吹き飛びあそばされた。

 テレホマンが「あ」とだけ呟いてから、御忠言申し上げる。


「陛下。クイント様とチンクエ様、復活に際して煌気オーラが非常に高まってございます。陛下の心強き矛と盾になられるかと……!! 実に頼もしいですな!!」


 吹き飛ばされて良い感じに玉座に着席された陛下が答える。


「確かに、仕上がってないとはいえワシを不意打ちでぶっ飛ばすとか、やるやん。あとスキルの名前もちょっとだけ知性が芽生えてんな。ラテン語と英語混じっとるけど。オタマ。ごめんけどさ。ストッキングあげて?」

「はい。陛下。ご命令とあらば、私は先ほど穿いたばかりのストッキングも脱ぎましょう。権力をもって秘書官にも辱めを強いる、まさに為政者の鑑であらせられます。クイント様。どうぞ」



「……じじい、なのか?」

「じじいだわ。オタマのストッキングきっかけでワシを認識するなよ」


 テレホマンがユニコーンっぽい角をNテェテェに用意させて、クイントの前頭部に突き刺したので事情は全て同期完了。

 チンクエは「私はいい」と初めて「肯定する」の良いではなく「遠慮する」という意味でいいを使った。



 クイント、もらったばかりのオタマストッキングを被って止血中。

 もうストッキングの出し惜しみはしない。

 1度取った不覚を繰り返すようでは二流。


 ストッキングはホカホカのうちに使いこなしてこそ一流。

 クンカクンカもするし、躊躇なく頭に装備する。


 煌気オーラ上昇中である。


「ほーん。で? オレらはどうすんだ? テレホマン」

「陛下を無視してまずテレホマンの意見を聞く兄者は良い……。不敬しながらも建設的で良い……」


「はっ。陛下……?」

「オッケー。聞かせてくれ。ワシ、今度こそ六宇ちゃんの短パン構築スキルで出すから!!」


「では、お許しを得て。ここは籠城策をご提案いたします」



「えっ」

「えっ」

「陛下。クイント様。具申のお許しをされたからには、せめて最後までお聞きくださいませ。私もそろそろ心が疲弊しております」



 テレホマンはプロの社畜にしてプロの総参謀長。

 戦争に最適解がない事は既に熟知しており、現状はとにかく喜三太陛下を仕上げる事に注力したい。

 そのためには、戦力の分散が最も愚策と判断した。


 戦争を評価するのはいつも後世の人間なのである。

 死にかけの現場はそれどころじゃねぇのである。


「お言葉ですが、クイント様。仮に落ちたばかりのクイント宮、あ。失礼しました。なんだかクイント様が堕ちたみたいな表現に。敵に接収された拠点の落下現場に奇襲を仕掛けたとして、です。何人かは討ち取れるやもしれませんが、クイント様。あなた様はご無事に戻って来られますか?」

「……テレホマン。オレがちょっと死んでる間に言うようになったなぁ!! おっぱいジェットストリームアタックをかけられたら、多分負ける!!」


 クイントは知らないが、先の戦いでは2つだったおっぱいが今は小鳩さんも参加しているので3つ、あるいは6房に増えており、バルリテロリの性癖を考えるとノアちゃんもカウントされる可能性すらある。

 ジェットストリームアタック+1を喰らえば、その隙に六駆くんが一撃で屠りに来ることは予想に難くない。


「陛下が仕上がるまで、我ら兄弟も皇宮の防衛に、か。……とても良い」

「チンクエ様? お亡くなりになってから、心変わりを? クイント様以外に良いを使われるとは、驚きです。そして恐縮です」



「いや。テレホマン。私は死んでない」

「えっ」

「えっ」

「えっ」


 兄者を曇らせるのも「良い……」と知ったチンクエ、仮死状態で覚醒をゲット。



 戦力的には五分五分と言えずも、先ほどよりはかなり盤石になった皇宮。


「できたぞ! 六宇ちゃん!!」

「ねー。なんでオレンジなん? こんな体操服見た事ないんだけど」


「えっ? いや、黒とか紺色じゃアレでしょ? 黒とか紺色のパンツと思われるじゃん?」

「じゃあこれはオレンジのパンツと思われるじゃん!!」


「ワシのひ孫! 賢い!!」


 ここに逆神兵伍さえいれば。

 彼が2つくらい長セリフを吐いて解決してくれたのに。


 日本本部で佳純さんの蛇たちに貫かれて、今はどうなっているのか不明です。

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