第1112話 【クイント宮がナニします・その5】テレホマン、動く ~戦力の回収と接収された拠点の破壊を完了、そして部下たちに呼び捨てされてる事を確認~

 ほんのちょっと前の電脳ラボでは。


「やべ。テレホマン帰って来るぞ」

「様を付けろや、一応。私たちの上官で、もう残ってる唯一の将校だぞ」


「将校っておかしくね? うちらの軍ってそもそも八鬼衆の下がガバガバじゃん」

「まあな。オレらのラボだってテレホマンの下はNテェテェさんで、役職はチーフだもんな。なんだよ、チーフって。一応軍隊だぞ」


「呼び捨てすんなって。Nテェテェさんにだけさん付けしたらNテェテェさんが気まずいぞ」

「そうは言うが、貴官だって学生の頃、先生がいないところでは呼び捨てしてた口だろうに」


「心外だ。私は結構そういうところを律儀に守る。私の担任はエネルゲン先生だったが、気さくな方だったので居ても居なくてもエネルゲンちゃんとお呼びしていた」

「マジかよ、いいな。オレの幼年学校時代の教師なんてスキル使いだったからさ。なんかどこで呼び捨てしても聞いてる陰湿なヤツだったわー」


 部下たちが悲観せずに働いてくれているのは大変喜ばしい事であり、現状を最も戦局を適切に把握している参謀本部が敗戦の気配を察してなお明るく軽口を叩く、それは実に優れた組織だと断言できる。

 とはいえ、上官としてこの空気の中に「やあ」と手を挙げて入っていくのもまた至難。



「……………………」


 テレホマンは1分前からもうラボに来ていた。



 最初に気付くのは、先ほど色々とやらかしたチーフ。Nテェテェ。

 バッと立ち上がり、ザッと敬礼して、周囲に聞こえるように大げさな声を出して挨拶をキメた。


「テレホマン様!! わざわざご足労頂かなくとも、私が参りましたものを!!!」


 ラボの職員たちが「あ゛」と声を出して、「あかん」と同期を済ませてから立ち上がり敬礼した。

 続けて「やっぱNテェテェさんってすげぇわ。この人、やらかしてない時は潤滑油マンだわ」とチーフの評価を上方修正してやっぱり同期した。


「いや、私もようやく解放され。失言だった。こちらに用があったのでな。貴官らは仕事を続けてくれ。……嫌味ではないからな」

「はっ! みんな! テレホマン様は寛大だ!! 1人に1つのみ、ベルギーワッフルの支給を許可する!!」


「……Nテェテェ? 精密機械を扱う職場で粉がこぼれるものを食べるのは少しばかり苦言を呈したいが」

「はっ! 既に我ら、コーラを解禁しておりますが!!」


 テレホマンは「じゃあもう良いか。報告してくれるだけありがたい」と頷いた。

 偉大なる為政者、喜三太陛下の御身によって相対的な評価が激甘になっている総参謀長である。


「速やかにクイント宮の索敵を開始しろ」

「……あれはもう敵に鹵獲接収されておりますが?」


「貴官らもスキル使いならばしっかりと感知するべきだ。どう見ても極大スキルが発現されている。その旨を知ってから、私は陛下の御前から逃……一時の暇を賜ったのだ。クイント宮の時間が進んでいる。意味は分からんが、事象は理解できる。Nテェテェ。貴官の判断が生きるぞ」

「はっ? ……はっ? はぁ」



「分からないなら無理して返事はせずとも結構。自信なさげに言うな。貴官、何年チーフをしている。ホウレンソウを管理職が怠るのは良くない」

「はっ!!」


 職場の銃滑油マンは万能戦士ではない。

 生返事も空返事も上の空も使い分けなければ、こんな職場のチーフなんて長年勤めていたら心が病む。



 テレホマンは電脳を冠す八鬼衆。

 名前からして解析や状況把握はお手の物感が強く、実際にその四角い頭には高速回転する頭脳が搭載されており、クイント宮の時間が加速している事とそれによる副次効果の発生も推測の域だが把握していた。


「Nテェテェが他のミニ皇宮を破壊したおかげで、クイント宮はパラドックスに陥り消滅すると思われていたが、敵もやはりそれは認識していた。さすがは陛下のひ孫様。が、少しばかり詰めが甘い」

「あ。すみませんでした」


「貴官に言ったのではない」

「あ。はい」


 Nテェテェが急に元気をなくしたので、職員たちが奮起する。

 助け合いの精神に溢れるステキな職場。電脳ラボ。


「テレホマン。様。クイント宮内にて、死んだはずの皇族お二方の煌気オーラ反応を確認」

「テレホマン。しかも、あ。様。しかも、煌気オーラ反応が登録されているデータよりもかなり強く観測されています」


「だろうな。要するに、喜三太陛下の再転生を偶然、他動的な形で受けられた訳だ。あの方たちは皇族逆神家。喜三太陛下の特性は受け継がずとも、それに近い現象に遭われればこうなるかもしれんと予測していた。……あと、貴官ら。もう別に呼び捨てでも構わんが」


 逆神家の周回すると強くなるシステム。

 これは代々純血の逆神家の男児が受け継ぐ異能だが、そもそも子だくさんな代が現世の逆神家にはいないので、ベビーラッシュキメてる喜三太陛下の子孫、つまり皇族にその一端が内包されている事は六駆くんでも知るに至らず、何なら喜三太陛下もさっきお気付きになられた。


 もうほとんど出涸らしのバルリテロリの戦力。

 リサイクルできるなら、是が非でも。



 どうせまた死ぬにしても、盾にだって鉄砲玉にだって使い道はあるくらいには強いのである。



「先ほどの陛下謹製モビルスーツに残存機があればと思ったが、さすがにそこまで都合良くはいかないか」

「あの。ボールならありますけど」


「……あれで生き残った者がいるのか?」

「あ。はい。私が。なんか小さすぎて敵の的にならなかったみたいです」


 「いや。ありえん動きしてたよ」と同期する職員たちだが、テレホマンの意を汲み取って仕事を開始。


「ボールを変異させます。人型でよろしいですか」

「こちらは煌気オーラを付与を担当します。陛下のものをお借りいたします。よろしいですか」

「貴官らの理解の早さに感謝する。全て、私が責任を取る」



「陛下に向かって3分の膝をついての拝謁はどうしましょうか」

「いらん!! それやってたらもう皇宮が爆発するかもしれん!! 私が後で貴官ら全員分を纏めて拝謁しておく!!」


 不敬は犯さない。

 ただし緊急時には敬愛もいらない。



 電脳ラボはリアリストな組織。

 本来の参謀本部ってそういうものだろとか言ってはいけない。


 ここはバルリテロリですぞ。


「Nテェテェ」

「はっ」


「囮の操作を頼む。私は直接、クイント宮に転移する。意外そうな顔をするな。私とて一応八鬼衆。『太った男の転移術ポートマンジャンプ』は使える」

「はっ。なるべく微力を尽くしながら死力も尽くしますが、ご期待には沿えないかもしれません!!」


 陛下謹製モビルスーツは喜三太陛下の構築スキルで創られており、つまり素材は煌気オーラ

 紙粘土みたいに霧吹きで湿らせてこねくり回せば違う形に作り替えられる。


 しかも元が陛下の煌気オーラなので、敵の陽動としてはこの上なくズバピタ、人型のシルエットにして高速接近させるだけで嫌な気分にさせられるという省エネかつ便利な紙粘土。

 それを発射させたのち、テレホマンが転移する。


 完璧な作戦がすぐに遂行された。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほんのちょっと時間が進んで、クイント宮の真ん中の辺り。


「という次第でございます。お二方、私の肩に手を」

「テレホマン。お前、転移スキル使えたのか!? くそが!!」

「兄者。テレホマンの肩はどこなのかと考える前に、自分よりも優れているところを見つけて嫉妬する。それはとても良い。成長の糧になる。良いものだから大事にして欲しい」


 既にクイント宮の上の方では六駆くんが「あ! やられた!!」とやられた事を把握済み。

 いつ天井を突き破って降臨するか分からないので、事態は緊迫している。


「テレホマン。とても良い事をしても良いだろうか」

「はっ? ……はっ。チンクエ様がご提案とは珍しく。是非、お聞かせください」



「私のスキルで兄者クイント宮を破壊し、地上に撃ち落とす。これはとても良い。時間が稼げる。その間に私たちは皇宮で体制を立て直すと良い」

「えっ」

「えっ」


 隠していた爪を突然ニュッと出されたので、面食らう兄者と四角い参謀長。



「チンクエ? お前、そんな余力あったのか? オレより先に死んでたけど……」

「……兄者の奮戦が私の魂を奮い立たせたのだと思う。それはとても良い。慌てたので奮が被ったものの、それもまた良い」


「あ、あー!! そっちかぁ!! なるへそ!!」

「クイント様。もう大半の者が同期できずとも令和にコミットしておりますので、なるへそなどと申されますと、戻り次第オタマ様にいじられるかと」


「最高じゃねぇか!! オレ、ファーストおっぱいがバニングに奪われたんだわ!!」

「はっ? ……よろしゅうございましたな」


「良くねぇよ!! カッチカチだったんだぞ!! 乳首の感触だけはまあまあだった!!」

「……はっ。クイント様。皇宮に戻り次第、アポロチョコレートを用意させます」



「その手があったかぁぁぁぁ!!!」

「兄者の笑顔はとても良い。『兄者満面の笑顔光線バニッシュメント・デスビーム』!!」


 クイントとチンクエが復活して、ついでにクイント宮に甚大な被害を与えた。



「では、転移します」

「これ轢き逃げみたいでなんかきたねぇな」

「心が綺麗な兄者は良い。そして多分、当て逃げだと思うがそれもまた良い」


 テレホマンが仕事をして、戦力の回収と敵に奪われた拠点の破壊に成功。

 クイント宮は炎に包まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る