第1114話 【魔王城からみみみみ・その13】現世を立つ芽衣ちゃまは跡を濁したくない ~「みっ。頼りになる人連れて来るです」~

 芽衣ちゃま、ついに立つ。


「みっ……」


 視線の先には転がっているゴリ門クソさん。


「うぉぉぉぉぉん! オレ様がなんで留守番なんだよぉぉひっふぅぅぅんぐひぃぃはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! うぅぅぅ! いぎだい!! ナ゛!!」


 ゴリ門クソさんは木原久光監察官と雷門善吉監察官と氷鬼のガリガリクソが合体したキメラ。

 その実態は、肉体のベースが木原さん、人格のベースも木原さん。


 純正品のゴリラやんけと言われることなかれ。


 スキルが凶悪に進化している。

 『ダイナマイト』一筋でここまで最強格を維持して来たこのゴリラ、構築スキルで土塊と氷塊を創り出す事も可能なはずであるし、凍結属性を発現する事も可能であるはず。

 合体しているんだからそりゃ可能だろと思われることなかれ。



 ベースは木原さんである。



 初期はドーナツで福田オペレーターにコントロールされていたり、芽衣ちゃまから引き離すために「任務です」とシベリアへ体一つで飛んでいかされたりしていた。

 果たして煌気オーラ放出という単純なスキル、厳密にはスキルですらないナニか。

 彼がそれ以外の構成術式を用いたスキルが使えるだろうか。


 だが、可能性として存在する以上、無視するのは危険が危ない。

 芽衣ちゃまが懸念している点はそれよりももっと危険が危ない。


「オレ様はぁぁぁ! 芽衣ちゃ、芽衣ちゃまとぉぉ! ひっ、ひぃぃひっふぅ! 一緒に、一緒にいだい゛!! それだけでぇぇぇ! ただそれだけでな゛あ゛んんんっふぅぅぅ!!」


 今やゴリとクソに挟まれて門だけになった雷門さんだが、気合なのか執念なのか哀しきディスティニー、号泣という個性だけが綺麗に融合済み。

 もうしっかりと産声ごうきゅうを上げていた。


「……みみっ」


 ジト目の芽衣ちゃまの視線に気付いたのは、惜しくもオーディションに落選したアリナ・クロイツェルさん。

 みみみと憂いている彼女に優しく声をかけた。


「芽衣。妾が察するに、この場をあの者に任せて出て行って良いのか。それがそなたの胸を痛めておるのだな? ……とてもよく分かる」

「みみっ。後方司令官が後方から味方を全滅させちゃいそうな人を置いて行くのはダメダメだって、子供の芽衣でも分かるです」


「つまり、常識的で頼りになる者を連れてくれば良いのか」

「みー。でも、本部は大変です。ここで本部に助けてですって言ったら、芽衣が後方司令官してた意味がなくなるです。芽衣、ダメな子に拍車がかかっちゃうです」


 バルリテロリ捕虜チームは「……敬服しなさい。殺しますよ」と、芽衣ちゃんの慎ましくも無限に広がりを見せる御心むねを前にしてただ黙す。

 静かというだけでもう評価が上がる、相対的な世界。


「くくっ。お困りかね。芽衣殿」

「みー。すごくお困りです。シミリートさん。名案あるです?」


「封印した『ゲート』だがね、これはまだ動かせるのだよ。そして、あちらにもまだ生えている。使うかね?」

「みっ!! そうだったです!! 頼りになる人、いっぱいいたです!!」


 実は芽衣ちゃま、装備の調子にも首を可愛く傾げていたのだが、自分の事は後回し。

 まず組織はため。


 これが有名私立お嬢様学校で、親戚にゴリラがいる芽衣ちゃんが下は12歳から上は18歳まで全ての女子に慕われている所以である。


「妾も参ろう」


 年齢不詳、見た目は女子大生にも慕われている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 静謐な南極海を漂う、人工島ストウェア。

 光を失っていた門が再び輝く。


「おうおう! なんでえ!? まだやんのかい!?」

「ワシらはもうええじゃろ。しっかし釣れんのぉ。トラノスケに深海魚全部やるんじゃなかったわい」


 ダズモンガーくんです。


 伝説の探索員コンビはやる気もなければ煌気オーラもないので、釣り糸垂らしてペンギンさんを眺めている。

 とりあえず危険はない旨すぐに察知したので、動かない。


「なんであの人っておっぱいおっぱい言うんですかねぇー。ナディアさん大きいですから、小さい頃から苦労しませんでしたー? 私なんて、平均なのに。宿六ときたらですよぉ? もー。息するくらいならおっぱいって連呼してますから。嫌になっちゃいますよー」

「わー。仁香さんがすっかり酔っちゃいましたねー。楽しそうな仁香さん、わたし、好きだなー」


 川端提督特製カクテル・おっぱいフィーバーで絡み酒中の仁香お姉さん。

 門が光ったことにも気付かないほど油断している彼女はなかなかに稀有なお姿。


「みっ! 木原芽衣Bランク探索員です! お邪魔するです!! みみっ!!」


「……モルスァ」

「わー! 仁香さーん!! 口からおっぱいフィーバーこぼれてますよー!!」


 よもや芽衣ちゃまが再臨するとは。

 仁香さんのお姿を今一度ご確認いただきたい。


 白いビキニである。

 ビーチチェアーに寝そべって、おっぱいフィーバーでフィーバーしている。


 そして仁香さんは芽衣ちゃまガチ勢の中でも会員番号がかなり若く、芽衣ちゃまにも慕われている相思相愛なお姉さん。


「みっ? 仁香さん? 水着です?」


 仁香お姉さんに戦慄走る。

 芽衣ちゃまは日常回時空の恋愛クソ乙女座談会にも最近は呼ばれていないので本当に、潜在的にもご存じないのだ。



「え゛。あの、これはね? 違うの。芽衣ちゃん? あの、ええと。そう! トレーニング!! トレーニングをね!! ちょっと私、泳いできますね!!」

「わ゛ー!! 仁香さーん!? ダメですよー? あー。仁香さーん……」


 仁香さんがビキニで南極海にダイブした。

 飲酒までキメてる。



 先輩のピンチに駆けつけるのは後輩。

 リャンちゃんがやって来た。


「了! 仁香先輩に続いて、私も寒中水泳で身を引き締めます!!」

「お待ちください、リャンさん! お風邪を引かれる……というよりも、心臓が止まりかねません!! せめて煌気オーラで体を覆ってから」


 芽衣ちゃんの後ろには偉大な胸部装甲を携えた、偉大な師の伴侶にして偉大な組織のナンバー1もいらっしゃった。


「ほう。ザール。なかなかお楽しみのようであるな。結構!」

「……アリナ様? これは誤解です。……失礼します」



 ザールくんも南極海にダイブした。



「み゛っ!?」

「おうおう。仕方がねえやな、若いのは! 元気があり過ぎるってのもいけねえ! 煌気オーラは空っぽだぜ、俺ぁ! 『断絶吸着手刀ブレイキングゲット』!!」


 辻堂さんが次元を削って海に潜む仁香さんとザールくんを無理やりストウェアの甲板まで引っ張り上げて「かっかっか」と去って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 事情を聴いた仁香さんは力強く胸を叩いた。

 平均的なおっぱいが胸ドンにはちょうど良いとは、今は亡き、いつかまた生き返るであろう水戸くんの遺言。


「うん。任せて。芽衣ちゃんが戦いに行くのについて行ってあげられないのは残念だけど。定員制じゃ仕方ないもんね。ううん? 違うよ? 本当について行きたいんだよ? ねっ? ……リャン? 助けてもらっていい?」

「了! 川端さん!! ナディアさんがぷるんぷるんです!!」


 しゅたっと音がしたと思ったら、男・川端一真が立っていた。


「おー。リャンさんもやりますねー。フランスに来ますー?」

「いえ! 私はザールさんと一緒にミンスティラリアに移住します!!」


「ほう? ザール。上手くやっておるようで妾も嬉しいぞ」

「……海水を飲んで来ます。バニング様が死線を駆けておられるというのに、私は!!」


 混線しているが、強すぎる責任感のせいで曇っているのがザールくん。

 ちょっと曇ったけど芽衣ちゃんで中和したのが仁香さん。

 元気なのがリャンちゃんとアリナさんと芽衣ちゃん。


 とても元気で希望おっぱいに満ち溢れているのが川端さん。


「あの! 川端さん!! 装備って乾きましたよね!? 返してください! ミンスティラリアで後方を預かるので!!」

「下着は乾いたと思うが」


「……その澄んだ目で普通に私の下着を洗って乾かしてるのがすごく嫌ですけど、悪意がないのって本当に困る。……って言いました!? 下着!? 装備はどうなったんです!?」

「はっはっは。青山さんが身に付けているじゃないか」


「これ水着ですよ!」

「言わなかったか? 私の構築スキルは水着専門。いや、おっぱい専門。つまり、ナディアさん以外の者におっぱい装備を与えるためには元となる素材が必要。青山さんとリャンさんの水着の色が元のチャイナ服と同じ事に気付かないとは! 存外、君も未熟だな!」


「……え゛。チャイナ服、このビキニになったんですか? 戻してください!!」

「はっはっは! 私の構築スキルはおっぱい専門! どすけべ仕様の水着になら再構築できるが、元に戻す術は知らないな!」



 川端さんが仁香さんの極大スキルでぶっ飛ばされました。



「仁香先輩! 私もお供します! ミンスティラリアでご挨拶を済ませたいですし! ね、ザールさん!」

「はっ。……はっ!? そのご恰好でミンスティラリアへ!?」


「芽衣さんは急ぎのご様子ですし! 仁香先輩だってそうされますから!!」

「え゛。…………え゛っ!? ナディアさん! コート貸してください!!」


「あー。あれ、浮島に行く時に失くしちゃいましたー。川端さんを覚醒させなくちゃでしたからー」

「うぅ……。そんな……」


 時間がないのである。

 仁香さんは潜伏機動隊の副隊長も務めた乙女。

 作戦において時間のロスは死活問題と心得ていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔王城の門が光ると、芽衣ちゃんが後方司令官代理を連れて来た。


 白いビキニ姿の。

 多分彼女は「うちの宿六がいれば、階級的のあの人がやってくれたのに……」と考えている。


 それは置いておくとして、芽衣ちゃまが呟いた。


「みみっ。あの、えと、です。実はです。芽衣、装備がちょっと窮屈になって……です。太っちゃったかもです。みぃ……」


 みみみ回はこのまま続く。

 彼女が出征したら、芽衣ちゃま過激派はこぞって魔王城回なんて見向きもしなくなるだろうから。

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