第1108話 【クイント宮がナニします・その1】????「気合入れて時間逆行させたので、飛行機能とか付与される前まで戻ってるっぽいですね! うふふふふ!」 ~賢くなってもやらかさないとは言ってない~

 莉子ちゃんが独り旅をしている一方で、クイント宮はバルリテロリ皇宮を肉眼で確認できる場所まで航行しており、いよいよ接敵の時が迫っていた。

 どう攻めようかと選択権が現世サイドにあるパターンは久しぶりの事であり、敵の拠点を鹵獲接収したのも孫六ランドに続きクイント宮が2つ目。


 風が吹いている。


 制空権を確保できたのならば空襲がベターか。

 しかし探索員憲章には「異世界の住人をむやみに傷つけるべからず」という条項がある。

 戦争状態なんだからそんなもん知ったこっちゃねぇ、やるぜ俺は。と、闘争心に駆り立てられる気持ちも分かるが、対立する陣営双方がルール無用の残虐ファイトを始めてしまうといよいよもって泥沼化が極まり、勝とうが負けようがそこには大きな被害と哀しみが残る。


 正義と公正を旨とする南雲修一監察官がそんな決断をするとも思えないため、順当にいけば敵の防衛システムを無力化したのち皇宮に突入し制圧する形が採択されるだろう。


 戦争に効率を求めてはならぬ。

 優勢の時こそ人道的であれ。

 ついでに慎重であれ。


 これは「パチンコってある意味オレらの最も身近な戦争だぜ?」でお馴染み、逆神大吾氏の提唱する「トータルでは勝ってる」理論でも語られており、「勝ってる時は引き上げを早く、負けてる時は全ツッパよ!!」という爛れた理屈をひとたび耳にしたらば理性とか捨て去ってクイント宮ごとバルリテロリ皇宮に叩き落としたら良いんじゃないかとすら思えてきてしまう、悪魔の論文。

 誰も相手にしないのが救いである。


 それはそうとして。



「南雲殿!! クイント宮の出力が全てレッドゾーンに落ちました! 猫動画を見てもよろしいですか?」

「よろしくないですよ!? ライアンさん!! 逆神くぅん!! ちょっとぉー!! 説明してよ! 君、全部知っててどっかに行ったでしょ!?」



 クイント宮が特に何の企みもなく、皇宮を目前にして墜落しようとしていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんは責任から逃れるためにバックレた訳ではなく、クイント宮の真下へと移動して『竜翼ドラグライダー』を発現し、飛びながら両手で物理的に落下を防ぐスーパーマンスタイルでお仕事中。


「……うふふふ! 怒られるところだった!!」


 責任からも逃れていた。


 これがルベルバック戦争の時分ならば、ほとぼりが冷めるまでサボタージュとスーパーマンを同時にこなしていれば済んでいただろう。

 しかし門弟にも随分と面倒なスキル使いが増えている事をこの師匠はよく忘れる。


 六駆くんの眼前が歪んだ。


『ふんすっ!!』

「あ゛」


 空間が歪むと穴が空く。

 もはや常識である。


 ノアちゃんは六駆くんガチ勢。

 ガチ勢にも種類はある。

 推しを全肯定して、明らかに白いものを「推しが言うならショッキングピンクです!!」と妄信するタイプもいれば、「正しい道に引き戻すのも激推ししているボクの役目です。ふんす……」と心を泣いた赤鬼スタイルにして挑むタイプも。


 ノアちゃんは「新しい逆神先輩の表情差分とイベントスチルは是非ともゲットします!! ふんすっ!!」という愉快犯的な思考なので、苦しむ顔も窮地に陥るシチュエーションも余すことなく美味しく頂くのだ。


『逆神くん?』

「違うんですよ、南雲さん!! 聞いてください!! あのですね! さっき、クイント宮が壊れた時にですよ! 僕、『時間超越陣オクロック』使ったでしょ? あれってそもそも『二重ダブル』で発現する意味ないんですよ! 時間巻き戻すことが大変なのに、高速巻き戻しなんてないですから!! でも、やったらデキたんです! うふふ、不思議!! それで、ですよ! さっき気付いたんですけど、このお城のパーツ、元の大きなお城だった頃まで時間が戻っちゃってるんですよね!! だから、飛行機能とかそういうヤツがまるっとなくなってるみたいで!」


『逆神くん』

「僕がですね、さっきまで『ダイナマイトジェット』でエンジンしてたじゃないですか! だから気付くのが遅れたんですよー! おかしいと思いませんでした? 元は独立した飛行要塞だったのに、全然操作を受け付けないって! 敵さんが操作を遮断してるなら、まず落としますよね? 地面に! 僕ならそうするなぁ! 全滅は無理でも負傷者出せば足が止まりますもん! それしてこなかった時点でですよ! 敵さんもコントロール不能になってたんですね!」


『逆神くん』

「それが、僕の『ダイナマイトジェット』で移動してるもんだから、気付けなかったと! 元から勝手に浮く素材でできてたか、あるいは飛行機能が付与された直前のタイミングに戻ったんでしょうね! それで! ついさっきそれが完全になくなったと!! ね!!」


『逆神くぅん!!』



「これって僕が悪いんですか? 『時間超越陣オクロック』使わなかったら全滅してましたよ? 異空間の中で」

『その前に君のいつもの『大竜砲ドラグーン』シリーズの頭おかしいヤツでクイント宮を壊さなかったら、別の方法が取れたとは思わないかな?』


 六駆くんは少しだけ黙って、「うふふふふふ」と笑った。



 困るとすぐ黙るのが喜三太陛下と大吾の逆神家奇数代目の特徴。

 偶数代はひょっとすると笑って誤魔化すのかもしれないが、四郎じいちゃんも昔はそうだったのだろうか。


 そういえば「ほっほっほ」と笑ってから喋り始める傾向がある。


 逆神家の奇遇判定考察をしている間に、瑠香にゃんが瑠香にゃんウイングを展開して六駆くんの隣へと飛んできた。

 当然だが背中には道連れを乗っけている。


「グランドマスター。呼ばれる気がしたので瑠香にゃんは先に来ました。瑠香にゃん1人だとひどい目に遭った時に悲しいので、ぽこも連れて来ました。これで瑠香にゃんのひどい目は5分の2です」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛……。なんであたしの比率がちょっと高いんだぞなぁ……」


 猫たちは持ちつ持たれつ。

 ついでにどっちの猫もクイント宮がぶっ飛んだ時に居合わせており、何ならその前にクララパイセンと瑠香にゃんのおっぱいドッキング合体スキルでクイント宮を落とし損なっているというやらかしが存在しているため、責任追及される前に飛んできた。


「瑠香にゃん、瑠香にゃん。南雲さんが黒ナグモさんになったのも割と大きなやらかしじゃないかにゃー?」

「ぽこ? ステータス『人の心とかないんか?』を確認。あれはナグモ上級ブラック監察官がやむにやまれぬ状況でチャオった結果です。当人はアレで形勢を好転させるつもりでした。結果は最悪でしたが、あの状況ではやむを得ないと判断。責任追及するのは酷です。ステータス『ひでぇ有様だぜ』も獲得済みです。瑠香にゃんなら競泳水着がショックでパーンってなるレベルです。南雲上級監察官はご立派です」


 なお、穴は空いたままである。

 穴の向こうでは崩れ落ちた南雲さんが小鳩さんとノアちゃんに介抱されていた。


「私が1番悪かったんだよね……!! 逆神くんはお金回収に来ただけで、現場を預かってたの私だもんね!! もうごめんなさいするのも私だよ! 責任取ってここから身投げするから、あとはバニングさんにお任せするよ、私!!」

「小鳩! ノア!! 南雲殿を絶対に離すな!! 南雲殿は煌気オーラがフルパワーまで回復しておられる事を忘れる私ではない!! 大恩あるあなたにこのような邪推をしたくはないが!! ……チャオって逃げられては敵わん!!」


 どんなに立派な男でもストレスがピークに達するとご乱心してしまうのが人間という種族。

 豊臣秀吉の晩年などは諸説あるがかなりのご乱行が目立っており、短期間に子や弟、母親などの親族を亡くした結果、メンタルに不調をきたしてしまったという説も未だ根強い。


 太閤まで上り詰めた男でもそうなる可能性があるのならば、南雲さんが一思いにチャオってしまう可能性がないとどうして言えようか。


「南雲監察官兼総司令官兼現場指揮官。落ち込んでおられるところに追い打ちをかけるような事を私は貴官に強いたくはないのですが。……黙っておくというオプションもご用意しました。どうされますか?」


 小鳩さんに肩を借りてヨロヨロと立ち上がった南雲さんが答える。


「もうその前置きの時点で! 私が聞いても聞かなくても回避不可能な事態が起きてますね!?」

「やはり貴官は得難き男だ。貴官のような男がいれば、探索員協会の未来も明るかっただろうに……。残念です」


 ずっと我慢していたが、小鳩さんがついに口を挟む。



「この方たち、過去形でおっしゃっておられますわよ!? ノアさん! 穴を出してくださいまし! あーな!! 脱出用のヤツですわ!! お急ぎになられるんですわよ!!」

「ふんしゅです。ボクの気まぐれ『ホール』ちゃんは『ゲート』と同じ構成術式なので、『基点マーキング』がないと異空間に落ちるだけですけど。それも興奮しますか!?」


 小鳩さんが南雲さんに肩を貸したまま崩れ落ちて、「お排泄物ですわ」と呟いた。



 分析スキルの匠であるライアンさんに状況を伝えてもらい、我々は喪に服そう。


「逆神師範の『時間超越陣オクロック』によって、クイント宮が元の形に戻ろうとしております。元というのは、恐らく巨大な皇宮の一部だった状態です。が、物理的に不可能かと。分析したところ、他の皇宮のパーツが見当たりません。つまり、不可能な状態に戻ろうとしているという事は……」

「ふんすっ!! 爆発しますか!?」


「さすがはノアちゃん。慧眼だ」


 お忘れかもしれませんが、バルリテロリとの戦争では爆発しがち。

 このままだと落下しつつ爆発四散するらしいクイント宮。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る