第15章

第1023話 【無理やりにでもやる日常回・その1】逆神六駆の戦(ブライダル)支度! ~よく考えたら戦いの日々が日常だった最強の男~

 【ご注意ください】


 相変わらずの戦時下ですが、日常回は普通にぶっこみます。

 もう七面倒な事は申しません。

 アレがナニしてナニですので、アレでしたら少しばかり時空を飛ばして頂けますでしょうか。


 時空が歪んだりパラレル時空に行ったり、メタ世界でなんやかんやしても、ベテラン探索員の皆様ならば適応してくださると信じております。

 ご迷惑をおかけしますが、ご了承ください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 孫六ランドでバルリテロリに突撃して、ひい爺さんの首を取って大金ゲットして隠居をキメるべく総大将はやりたくないけど一番槍はやりたい男。

 逆神六駆。


 現在、接収した敵の拠点の中で戦支度を整えていた。

 彼にとっては戦いも日常。


 つまり、六駆くんの日常は戦いの中にこそあるのではないだろうか。

 そんな可能性を見出した我々観測者にもはや死角はないと思われた。


「南雲さん。少し良いですか?」

「ええ……。私が呼ばれちゃったよ……。何の話? 君、中身は私と同世代だけど生きてた時代は違うからサブカルの話題がずれてるんだよね。何ガンダムの話する?」



「敵の罠を僕が引き受けるので、孫六ランドは先にバルリテロリに強襲して着陸。そこで陣を張って敵の対応よりも先に拠点の確立をするのが良いと思うんですよ!」

「えっ!? やだ、この子!! まさかの裏切り行為してくる!! 私、てっきりだらっと話して終わる感じかと思ったのに!! なに!? 戦略の相談だったの!? 私の評価が落とされたね、今!! でも悪いのは私な気がする! ごめん!!」


 不意打ちは戦略の中でも敵に限らず味方の背中まで撃てる汎用性が魅力。



 先ほどから六駆くんは指先に煌気オーラを放出して力加減の調節をしたり、装備に煌気オーラを纏わせて耐久性の確認をしたり、背中に「莉子! 愛してるよ!!」と書かれたマントを構築スキルで新調したりと完全にヤル気であった。


 この戦争で獲得した報酬は億を余裕で突破しており、そこにさらなる上積みが見込める。

 手を抜く理由を知りたいと最強の男は語る。


 そんな彼の横顔を見て「私! 恥ずかしい!!」と指揮官としての態度を恥じた南雲さん。

 六駆くんにコーヒーを差し出し、自分のコーヒーも淹れたらばテーブルにつく。


 軍議を始めるのだ。


「そうだね。バルリテロリにどれだけ早く到達できるか。それが敵国に突入する我々のアドバンテージに変換される。君が先手を打ってくれれば、私たちだけでも拠点を作る事は可能だと思うよ。なにせ、逆神くんを想定した厚い軍備が敷かれているはずだから。それを逆神くん単騎に対応される。敵も想定外にはしていないだろうけど。想定しているパターンの中では薄いところを突けるはずだ」

「南雲さん!」


「よし! 何でも聞いてくれ!!」

「結婚式ってあげた方が良いんですか!?」



「君ぃ!! 真剣な顔で戦略を語った私がバカじゃないか!! なんで話が前後するの!? 分かる! おじさんになると出ちゃうよね、それ! 私も妻に言われるもん! 修一、その話は今じゃない。って!!」


 六駆くんの戦いの歴史の中ではむしろそっちの方が大一番であった。



 最強の男が神妙な顔をする。

 続いて短く呟いた。


「僕の魔王城の部屋にですね。ゼクシィが置いてあるんです」

「あっ」


「法律変わって、結婚の年齢もなんやかんやしたんでしょ? 南雲さん。高校生って結婚式できませんよね!?」

「……ホントの事を言った方がいい?」


「えっ!? 困ったなぁ!」

「君、元々の知能が高いよね。現世に戻って1年くらい経った頃から思ってたけど。今じゃ私より賢いよ。会話の先の先まで読むじゃない」


「……結婚式ってお金かかるじゃないですか」

「そうだね。私の時は余裕で8桁だったよ。日本本部がかなり出してくれたのに」


「たった1日で!? 1日って言うか! 数時間で!?」

「よし、逆神くん! 落ち着こう!」


「高い車が何台か買えるお金を!? それって南雲さん!!」

「待って、お願い! 私の回じゃないのに私が被害受ける感じになるから!! ちょっとだけ待って! 言葉を呑み込んで!!」



「むちゃくちゃ無駄じゃないですか!? たかが記念と思い出のために!? そのお金で1年くらい家族で豪華な晩ごはん食べた方が良くないですか!?」

「……はははっ。コーヒーが美味しい」



 六駆くんが「男子ってそーゆうとこあるー」な事を言い出した。

 敵が待ち構える宙域へ到達する数分前の事である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、ちょっと離れた場所では。


「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー!! 莉子ちゃん!! 落ち着いていだっ! 落ち着いだっ! 莉子ちゃ、おっぱいはサンドバッグじゃないぞなぁー!!」

「だって! クララ先輩!! 六駆くんがぁ!! 結婚って無意味だよって話してる!!」


「そこまで言っとらんぞなぁー!! 実際に意味があるのかはあたしも疑問だけど! に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー!!」

「この戦いが終わったら故郷に帰って結婚するんだって言われるんだと思ったのに、わたしぃ!! ねー!! クララ先輩! 言われますよね!! ねーっ!!」


 あなたの順番は次なので、もう少しクララパイセンに絡んでいてください。

 大丈夫。


 面倒な女子も需要あります。

 あと今のところモグモグしてないし。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんサイドに視点を戻したところ。


「私はアリナ様に求められはしなかったがな。特には」

「師範のお心ひとつだと思いますが。正直、形骸化が進んでいるとは感じます」


 なんか増えていた。


「いや! 良いものですよ!? みんなの真心が伝わって来るって言うか!! お二人とも、嫌だなぁ! ははははっ!」

「えっ!? 南雲さん、真心って現在の日本の貨幣価値に置き換えるとどのくらいですか?」


「この子、やっぱり汚くなってる!! 真心を換金しようって発想がもうダメだよ!!」

「えっ!? でも、お金って物事の価値を測る上で1番分かりやすい物差しじゃないですか? その真心とやらは可視化できます? 会計基準の国際化と真心の可視化、どっちを先にした方が良いですか?」


「やだぁ!! なんか理詰めで汚いこと言ってくる!! これ、逆神くんの回だよね!?」


 バニングさんがまず「南雲殿。ここは私が」と救いの手を差し伸べた。


「六駆。真心は恐らく、相手を想う強さに比例する。察するに……1真心が120万くらいではないか?」

「なるほど!! それってアトミルカの換金率ですか?」


「そうだな。私は1日にだいたい8真心くらい消費している。日本ではコスパと言うのだったか? 費用対効果はかなり良いと思うぞ」

「そうか……! じゃあ、真心を込めて好きだよって10回言えば、莉子も結婚式しなくて良いよって言ってくれますかね?」


 倫理観の欠如した戦闘マシーン同士がダメな同調を始める。


「お待ちを。逆神師範。そのお考えはよくありません。性別、立場、育ってきた環境が違うから。好き嫌いは否めません。お相手に寄り添って思案すべきかと。感性が違うにも関わらず、一括りにこれはこういうものと決めつけるのは愚の骨頂です」


 ライアン・ゲイブラム氏。

 常識と良識を友としてピースを率いた男であり、首領の方が先にやられるというあってはならない事態にも対応して最後の一兵になって戦った男でもある。



「えっ!? じゃあ、ライアンさん! ゼクシィで『今の結婚トレンド』とか紹介されてるのおかしくないですか!? 価値観をぐいぐい押し付けられてますよね!?」

「……さすがです、師範。私が間違っていました。ゼクシィはオマケのポーチとかをゲットしたら捨てましょう」


 これは六駆くんとライアンさんの個人的な見解です。

 世の中の正常な結婚を考える男女諸君はゼクシィをたくさん買ってください。



 結婚はしたいけど、結婚式はしたくない。

 昨今、「若者の〇〇離れ」というワードで語られるものの中に燦然と輝く結婚式離れ。


 若者いっつも何かから離れてんな、とか思ってはいけない。

 実際にデータが証明している。

 データが証明してんなら減ってるのが今のトレンドやんけとか思ってはいけない。


 それではモテない。


「じゃあ折衷案ですねー。うちの実家の近所にね、神社があるんですよ。そこでなんか白いふぁさふぁさが付いた魔法のステッキ持ってるじゃないですか。お坊さんが。あのはたきでふぁさってやってもらったら、結婚式って事になりませんかね? なるんじゃないかな。僕、七五三やってないし。その分、なんか神通力みたいなの貯金してると思うし」


 バニングさんとライアンさんが頷き合った。


「日本ではそうなのか」

「私は親日家を気取っていましたが、存じ上げませんでしたな」


 六駆くんのセリフの中でいくつ間違いがあるか探してみよう。

 全部見つかった人は官製はがきに住所氏名電話番号と莉子ちゃんをお諫めするセリフを書いて、みみみお客様センターまでお送りください。


 抽選でシミリート技師が3分で作った、お腹を押すと「ぐああああああ!」と鳴くダズモンガーくんのぬいぐるみをプレゼントいたします。


「多分ね! 莉子も分かってくれると思うんです! だって! ウェディングドレスって着るのキツいんでしょ? しかも採寸って結構前にするから、当日までラグがあるとか聞きましたよ! じゃあ、ほら! 莉子が太っただけで着られないリスクまである! こんなの戦いの基本ですよ! リスキーな戦法は最初から用いない!! ねっ!!」


 南雲さんがコーヒーを啜った。

 彼は途中から「私は黙っていよう。どうせ私の回で酷い目に遭うんだ。よく考えたら、この閉鎖空間にチーム莉子のメンバーが集まり過ぎてるもの。私の回、パラレルが良いな」と色々悟って、窓の外の暗闇を見つめながら自慢のブレンドを味わっている。


「あ゛。……ほら。大きい声でそんな話するから。知らないよ、私」


 氏が迫る小柄な影に気付いた。

 誰が迫って来たのかは分からない。


 とりあえずコーヒーセットを片付けて避難させた。

 罪なきコーヒーちゃんが自分のスプラッシュ以外で飛散するのは忍びない。


 引き続き、ほのぼの日常回をお送りします。

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