第1021話 【六駆と南雲のワクワク異空間飛行・その3】逆神六駆の「僕、お金と遭遇せり!!」 ~バルリテロリ宙域B地区に到着しました。ですがまだ到着していません。(難しい日本語)~

 暗闇の異空間を進む孫六ランド。

 サーベイランスのナビに加えて、乗船しているライアン・ゲイブラム氏の分析能力を合わせた結果、敵の拠点を接収して改修したのは1時間ほど前にも関わらず、結構普通に自軍の拠点として自在に航行していた。


 もちろん航路の変更はできないし、周囲は暗闇なので索敵も不可能。


「こちらライアン・ゲイブラム。山根オペレーター。端末から発せられている信号のパターンを解析した。我々が『煉煌気パーガトリー』によって推進力を向上させてから敵の動きも察知したが、先ほどの報告に付け加えさせてくれ。想定よりも明らかに速度が上がっていたが、2分前から再び低速状態に戻っている。察するに、敵の罠があるポイントが近いのではないかと考えるが。貴官のお考えを聞きたい」


 索敵できていた。


 ライアンさんは分析能力を独自に高め、そこに自身の経験則と膨大な知識を重ねた末に分析スキルという新しい属性の領域へと到達。

 彼に情報を与えると時間が少し経過するだけで新しい発見をしてしまう。


「ライアンさんは頑張り屋さんじゃねぇ! 節子さんがね、猫ちゃんたちにご飯あげよるパウロちゃんとサンタナちゃんの動画送ってくれたんじゃけど! 見るかね?」



「山根オペレーター。申し訳ないが重大なインシデントが発生した。こちらから送る事のできる情報は以上だ。本職のオペレーターである貴官に以後は任せはぁはぁはぁはぁ!! これは!! 自分の尻尾にじゃれついているではありませんか!! みつ子元帥閣下!! こ、この子の名はありますか!?」

「その子はシャーロットちゃんじゃねぇ!」


「なんと……! 日本猫であるにも関わらずイギリス系の名とは!! ……気品がありますな。ご慧眼に私は立ち眩みがいたします。ああ。少し横になります。動画を私のスマホに送って頂けることは可能でしょうか? はっ! ご厚意に感謝いたします! みつ子閣下!!」


 ライアンさんがにゃんこの沼に沈んだ。

 頑張った子にはご褒美をあげる。

 独立国家・呉の憲法に明記されている作法であるからして、これは致し方ない。


 なお、ライアンさんはみつ子ばあちゃんを元帥として崇める事にしたので、逆神六駆の門弟にして逆神みつ子旗下の将官という肩書になる。



 戦争が終わっても2度と収監されなさそうな後ろ盾が2枚になった。



『こちら山根っすよー。ナグモさん意識取り戻したっすかー?』

「こちらはバニング・ミンガイル。ナグモ殿は少しばかり夢を見ておられる。悪い夢をな。僭越ながら私で良ければ聞こう」


 南雲さんは現世に戻ったら色々な責任が待ち受けているという現実に耐えかねてちょっぴりブレーカーが落ちておられます。

 今はそっとしておいてあげて欲しい。


『バニングさんは頼りになるっすねー。まずご報告っす。アリナ・クロイツェルさんが抹消スキルで十四男ランドを消したので、こちらの責任は南雲さんに全部ドーンするんすけど。伝言頼めるっすか?』

「申し訳ないが、山根殿。私の妻の事で南雲殿にドーンするのは大恩ある彼に対してあまりにも礼を失する。聞かなかった体で頼めるだろうか。この通りだ」


『うっす。了解っす。ちなみにアリナ・クロイツェルさんは無事にミンスティラリアへ帰還されてるんで、ご安心くださいっす』

「ご配慮に感謝する。南雲殿は良き副官をお持ちになられた」


 それは本心なのか。

 世辞なのか。


 せめてもの慈悲なのか。


『続いてなんすけど。敵さんの煌気オーラ反応の識別が完了したっす。ルベルバックに著作権ギリギリな機動戦士が出てたって情報が先ほどキャンポム少佐より送られてきまして。データも届いたんすけど、同種のものっすね』

「そうか。具体的な兵装などは分かるだろうか」


『形が違うんすよ。恐らくそっちのは船っぽいシルエットなんで、なんか宇宙戦艦的なヤツだと思うんすけど。同じような主砲が搭載されてると仮定するとっすね。今乗ってる浮島が一撃で消し飛ぶ威力の煌気オーラがエネルギー源と推測されるビームが飛んで来るっす』

「そうか」


 バニングさんが静かに頷いてから、短く答えた。



「これから南雲殿の顔にコーヒーをぶっかけて起きて頂く。私は聞かなかった体で頼めるだろうか。この通りだ」

『うっす。了解っす。接触まであと6分ないんで急ぎでお願いします』


 バニングさんの手に余ったご様子。



 指揮官としての能力は南雲さんに匹敵するどころか、率いて来た兵の数が桁違いなのに加えて年月も相当な差があるので、単純な計算であればバニングさんの方が秀でている可能性が高い。

 が、氏は「そんな事はない」と首を横に振るだろう。


 力強く。ものっすごい勢いで。


 そしてこう言う。


「南雲殿は率いている部隊がアレ過ぎる。アトミルカと同列に語るのはナンセンスだ。うちの兵はちゃんと言う事を聞いた」


 確かにそうかもしれん。

 では、南雲さんの率いる兵たちの様子を見てみよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「モグモグモグモグ……。モグモグ。あむっ。モグモグモグモグ……。はむっ」



 誰かは分からないが、バニングさんが「なっ?」と彼らしくない同意の求め方をしそうな感じの乙女が1人。



「いやー!! 戦争っていいね! お金がどんどん増えるもん!! だって、最終的に僕が悪い人を叩き潰せば解決するわけでしょ? じゃあ、それまでは悪い人たちにたくさん悪い事してもらっといた方がね! 僕が叩き潰す時の価値が上がるって事でしょ?」


 バニングさんが「……なっ!」と言いそうな男もこちらでニコニコしていた。

 あろうことか、戦争ビジネスの旨味に気付いてしまった六駆くん。


 主人公です。


「にゃはー。大変な事になっとるぞなー。莉子ちゃんはおまんじゅう食べ尽くしてまーたカキフライ食べとるにゃー。六駆くんは触れたら火傷する独り言のボリュームデカ盛りだぞなー!!」

「ぽこ。どうして楽しそうなのですか。瑠香にゃんには理解しかねます」


「簡単な事だぞなー。莉子ちゃんは1時間くらいで簡単にムチれる才能の持ち主なんだにゃー。ムチった莉子ちゃんは取り扱い注意だけど強いにゃー。六駆くんに関してはお金がキマって頭は良くなってるぞなー。負けるはずがないんだにゃー。つまり! あたしはリアクション要員!! チアコスでにゃーにゃー鳴いてたら色々終わるぞなー!! にゃはー!!」


 どら猫が待機時間中にクレバーし過ぎたせいでちゃんとどら猫に戻る。

 隣でそんなどら猫を見つめるロボ猫、瑠香にゃん。


「ステータス『オイオイオイこいつ死んだわ』を獲得。さらにステータス『これ瑠香にゃんも巻き込まれるヤツ』も獲得。ぽこ。ワタシが壊れたら、海に捨ててください」

「冗談じゃないぞなー!! 瑠香にゃんは何度でも蘇るんだにゃー!! あたしが全力で回収して! すぐにミンスティラリアへ連れて行くぞなー!!」


「ステータス『そこは死なないって言えや』を獲得。瑠香にゃんにまで死亡フラグが波及しました。どうして瑠香にゃんはぽこますたぁの指揮下なのですか。神は存在しないと断定。宗教の全てを否定します。あんなもん飾りです。寄る辺のない瑠香にゃんは縋りません」


 瑠香にゃんがやさぐれる。


「……あんまりですわよ。わたくし、さっきまで本部でラブラブスキル使ってましたのよ!? これ以上の伸びしろなんてないですわよ!! 知ってますのよ!! ノアさん! 何か仰ってくださいまし!!」

「お任せください! 小鳩先輩! 2つのパターンが考えられます! 1つは誰か面倒な人と組まされた結果のツッコミ隊員! もう1つは装備が壊されておっぱいがぽろりして莉子先輩が暴走するためのブースター隊員!! ふんすすすー!!」


「聞くんじゃありませんでしたわ……。ノアさん、いい加減になさってくださいまし。あなた、アホの子装ってるだけでこの場の誰よりも頭がよろしいでしょう!!」

「ややっ! 小鳩先輩の中でボクの評価が爆上がりです! 興奮して来ました!!」


 絶対に日本本部の戦いでお役御免だと思ってたら六駆くんに拉致られて来た小鳩さんは既にメンタル不全気味。

 ノアちゃんはふんすっ。


「元気でええねぇ!」

「そうですの。この子たちにはワシらの一族の問題に関わらせたくないもんじゃわい。若者が年寄りの尻拭いなぞ、する必要はな」


「お父さん! ヤメぇさんよ!! あたしゃ、胸がドキドキするけぇ!!」


 ビュゴォと風が裂かれて、四郎じいちゃんの左腕が変な方向に曲がった。

 平常運転で決戦に備える逆神老夫婦。



 いつも通りである。



「……ん!? みんな! 気を付けて!!」


 六駆くんが立ち上がって、真剣な顔で暗闇の先を見据える。


「どうした。六駆。ちょっと待て。南雲殿にコーヒーぶっかけるから。今お前が重要な事を言うと私に指揮権が降りて来る。ライアン殿も横になっているからな」

「お金の気配がします! これは……!! 少なく見積もっても数千万!! いや、億に届くかも!! ちょっと僕、先に行っても良いですか!?」


「よし。分かった。待ってくれ。私に許可を求めるな。南雲殿、失礼」


 熱々のコーヒーが南雲さんの顔に注がれた。

 古龍の戦士は特殊な訓練を積んでいるので熱々のコーヒーくらいでは火傷をしません。


「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「良かった。南雲殿」


 これは良かったのか。


「ちょっとね! 行って来ますよ、僕!!」

「……はっ!? ダメだ!! 逆神くん!! 行かせるか!! 『古龍化ドラグニティ』!!」


 南雲さんがまだ戦端開かれてないのに古龍の戦士・ナグモに変身。

 そのまま六駆くんを羽交い絞めにした。


「何するんですか、南雲さん!!」

「待ちなさいよ、君ぃ!! 良かった! 理性ガチャを克服できてて! これで理性なくしてたらチャオ! とか言って行かせてた!! いいかい? 私の指示がないと報酬の見積もりが出せないからね! 見積もりなしで行くと、最低賃金になるよ!!! ええと、だいたい1004円!!」



「えっ!?」

「うん!!」


 ナグモさん、早々に大金星を挙げる。



 待ち受けるは喜三太陛下が操る構築スキルで生み出されたメカたち。

 バルリテロリ宙域に逆神六駆がいよいよ突入しようとしていた。




 ————14章、完。

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