第1020話 【バルリテロリ皇宮からお送りします・その20】「陛下。現世の喜三太ランドが全部落とされました。南極もです」「まだバルリテロリ宙域があるんや!」 ~まだ宙域があるんや!!~

 バルリテロリ皇宮、の前に。

 参謀本部・電脳ラボでは。


 みんなでハイチュウを食べながら雑談に興じていた。

 誰も職務放棄はせず、各所のモニタリングは継続中。


 士気は低いが忠誠心は一定値を保っており、喜三太陛下の治世がバルリテロリの民から支持されている証明であるかと思われた。


「なあ。おい。貴官」

「なんだよ。ハイチュウの青りんごはもうねぇぞ」


「令和が同期してさ、ドラえもんとかルパンとか急に声優さん変わっただろ。で、ドラえもんさ。意外と慣れたら良くね?」

「いやー。それはどうかな。オレらのぶ代ドラで育ってんだぜ? わさびドラの声が高くてしっくりこねーよ」


「うちの子供らはもう馴染んでるがな。貴官、そういうのを令和では老害と言うらしいぞ」

「マジで? たださ。大長編ドラえもんな。映画のヤツ。あのリメイクは良いよな。こう、時代性を取り入れながら良かったところは継承する的な? リスペクトを感じるね」


「バカか、貴官は。バルリテロリで時代性とか。我々が令和に触れたのついこの間だぞ? それまで商店街でずーっとミニモニテレフォン流れてたのに。今じゃアイドルだもん。間すっ飛ばしてんのに時代性とか! 片腹痛いわ!!」



「あ。十四男ランドの反応消えた」



「ふーん。そういえばさ。テレホマン様が戦争に勝ったらコンビニのコピー機で写真プリントできるようにするらしいぜ?」

「はははっ! そいつは拝めそうにねーな! ……おい、コンビニで写真の現像できるようになったら、写真屋どうなんの? うちの実家が写真屋なんだけど」



「十四男ランドの反応、完全に消滅。乗員の反応もゼロ」



「へー。いや、写真屋は写真屋でやれる事あんだろ? プロの技術的な? 現像するだけが仕事じゃねーんだから」

「貴官は何も分かってねぇ。うち、写ルンですの現像が収入の5割よ? どうすんだよ、スマホから写真をダイレクトでプリントアウトできるとか。……もしかして写ルンですの時代って終わる?」


「年寄りは使うんじゃね?」

「うちのばあさんスマホでゲーム始めてんだけど。あと、自分の顔撮って目ん玉デカくしたりしてる」


「……オレらってさ。令和の情報が同期されてからもずーっと電脳ラボに詰めてるよな」

「ヤメろ。貴官。言うな」


「時代に置いてかれてるの、オレら参謀本部の人員だけじゃね?」

「言うなよ! それ考えないようにしてんだからさ! みんな!! それを真剣に考え始めたら! 我々だけ何も知らんで死ぬのってすげぇ損してね? とか思うだろうが!!」


「す、すまん。皇国のために働いてる誇りを持つんだったな」

「コーラ持って来たけど飲むヤツいるー?」


「ばっか! 端末だらけの部屋に飲み物持ってくんなや!! ハメ外しすぎだぞ!」

「あ。こっちにくれよ。メントス食ってんだけど、コーラ飲んだらどうなんのか試したい。動画で見たんだわ」


 この後、1名ほど救護室へと搬送されて行った。


「あれ!? 十四男ランドが落ちたって言ったか!?」

「言ってないよ! 反応が消えたの!! 撃墜されたとかじゃなくて!! いきなりロスト!! 意味分かんねーよ!!」


 やっと通信士たちがモニターを注視して情報を集め始めたが、意味はない事を諸君はご存じだろう。

 グレートビッグボインバズーカ・抹消TKB砲弾によって存在そのものがパッと咲いて散った花火よりも儚く一瞬で消えたのである。


 この事象をすぐに理解できる者がいれば、バルリテロリはまだまだ戦える。


「とりあえずテレホマン様に同期しとくか」

「やべ。オレもう同期したわ」

「マジかよ。オレもちょうどしたとこなんだけど」

「……言い出しづらいやんけ。私も今やっちゃった」


 総参謀長に大量の情報が同時多発的に同期された。

 火災現場を見て通行人が一斉に119番をし始めるヤツである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「うううっ!!」

「えっ。テレホマン!? どうしたん!? やべぇ! 働かせすぎたんや!! 横になる!? ワシの膝枕使う!? テレホマンに過労死されたらワシ! 寂しくて死んじゃうかも! ウサギ系男子だし! なんつってーぶげぇぇぇぇ」


 オタマがシャモジで陛下をお諫めしたところで、バルリテロリ皇宮からお送りします。


「いえ……。すみません。問題ありません。部下たちから情報の同期が一斉に来まして」

「えー。大変そう。ワシ、眼の同期の感覚って知らんからさー。オタマ知ってる?」


「はい。陛下。僭越ながら、陛下が仮に眼をお持ちでも臣民は同期しないかと思われますので。私が感覚をお伝えしても無為かと存じます」

「あー! はいはい! みんな恐れ多いから!! もっとフランクに接してくれて良いのにね!」



「キサンタさー。友達いないじゃん? スマホ使ってみ? 多分ね、クラスのグルーブラインとかでもハブられると思う」

「六宇ちゃんは帰りなさいって言ってるでしょ!! ワシ、皇帝よ!? スタンプ送られまくって大変なことになるよ!! ……そういや、1度もライン使ったことないな」


 テレホマンが「しまった。今回も悲報をお伝えするタイミングを失した!」とこめかみを押さえて苦悶した。



 だが、戦争もいよいよ末期へと突入する時分。

 そんな悠長な事を言っていると本土決戦がいきなり始まってしまう。


「陛下」

「よし! 子作りするか!!」


「陛下。数分おきに発情なさるそのお姿。偉大なる為政者としてあるべき姿かと存じます。御子を残されるのも皇帝陛下の重要なお仕事です」

「オタマが来たぁー!! ちょっと子作りするから! 六宇ちゃんトイレ行ってて!!」


「陛下。無計画に御子を作られあそばされた結果、皇族の数が膨大になって制御できておられない現状を理解してのお言葉ですね? 流石でございます」

「……ごめんなさい」


 陛下に追い打ちが迫る。

 先ほど、バルリテロリ時空では10分と少し前。

 観測者時空では1ヶ月くらい前に陛下謹製ズダに搭乗して出撃して行った、バルリテロリ宙域にて孫六ランド迎撃任務にあたるクイントとチンクエ。


「おい! じじい!! じじいのメカが爆発したんだがぁ!?」

「兄者。恐らく兄者が自動操縦になっているのにコックピットでレバーをがしゃがしゃやったからだと思うが、そんなアグレッシブな兄者は良い。そのままでいて欲しい」



 制御できてないはぐれ皇族。クイントとチンクエが皇宮に戻って来た。



「何やってんだ、お前ら!! B地区に行ってよ!!」

「じじい! このじじい!! 耳が遠いのか、じじい!! だから! メガが爆発したんだって言ってんだろうが!! 無事に戻って来られた事を喜べや、じじい!!」


「ぷぷー!! 住所不定無職がろくに任務も果たせないで戻って来てやんのー!! ばーか! ばーか!!」

「うるせー! このガキ!! 高校生に何が分かる!!」


「小卒に分かる事は全部分かりますけどー」

「……………………くっ!!」


「簡単に論破されて崩れ落ちる兄者は良い。とても素直な感受性が良い。きっと兄者は伸びしろでいっぱいだ。成長を見守れるのが良い」


 テレホマンが「……もうご報告しなくても良いかな」と思い始めたところで、オタマが代弁した。


「陛下。十四男ランドが消失しました」

「撃墜じゃなくて消失!? いや、オタマが言うんだ!?」


「はい、陛下。電脳ラボの皆様から哀しみの声が大量に届きまして。私の眼にも届いたのでうるさくて困ります。テレホマン様はお気を遣われて言い出せないようでしたので」

「オタマ様……!!」


「テレホマン様。危急の知らせで遠慮なさるのは愚策です。以後、気を付けてくださいませ。私は皇宮秘書官です。陛下の副官など恐れ多くて吐き気がします」

「吐き気が!? それ、ちゃんと畏怖してる!? なんか嫌悪感的なヤツじゃない!?」


「陛下。ご慧眼に御見それしました」

「御見それされちゃったじゃん!! くそ! もう良い! B地区に配備してある戦艦とか、そっちの布陣はちゃんとできてる!?」


 テレホマンがテレホーダイ・グレートを起動させた。

 こちら、遠隔地の状況が喜三太陛下の監視スキルを可視化させることで誰の目にも視認できるようになるという優れもの。


 電脳ラボはこの分刻みの戦局でどんどん新しいテレホーダイを開発しており、実は結構すごい。


「おお! よし! それならワシがコントロールする!! ふーっははは!! ワシの操作スキルは一級品よ!! そしてワシの創った戦艦!! ならば皇宮の玉座に座ったままで事足りるわ!! ぶーっははははは!!」


 陛下が高笑いをされた。

 クイントが一言だけ物申す。



「じじい。……なんで我々兄弟をあんな爆発するメカに乗せてB地区に行かせた?」

「……えっ? いや、君らうるさいし。ちょっと役割与えたら静かになって良いなと思ってさ。ごめんて。拗ねんとって? 何かの間違いで本土決戦になったら出番あげるから!! まあそんな事はないがな!! ぶーっははははは!! 宙域があるのだよ! バルリテロリには!! 南極海なんか元からどうでも良かった!! ぶーっはははははぁぁぁげほげほっ!!」


 陛下はフラグをお創りになれるのも、お立てになられるのも大変にお得意であらせられます。



 「まだ宙域があるんや!!」というお言葉を聞いて、テレホマンがぼそりと呟いた。


「先ほどから小刻みに危機が近づいてきているような……。これはもしかすると、宙域を突破された後で……。まだ空域があるんや。空戦で迎撃や。そんな風に仰せになられるのでは。……こちらテレホマン。ラボに告ぐ。陛下の倉庫にあるモビルスーツを全て起動させておくように。責任は私が取る。あと、手の空いている者は家族と映像通信をしておけ。独り身の者は端末で叡智ステキな動画の鑑賞も許可する。支払いはラボのカードで済ませて構わない。貴官らの未来へ遺すべき子種にも仕事をさせてやってくれ。もう未来は来ないかもしれんからな」


 電脳のテレホマン、悲しい同期を完了させる。


 そんなに悲観することはないのだ。

 陛下が仰せである。


 まだ、宙域があるんや。

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