第1019話 【現場に来ましたみみみみ・その4】さらば、忌まわしき記憶 ~「自分たちにも帰れる場所があるんですよ。こんなに嬉しいことはない」~

 ここは十四男ランドの動力炉。

 核融合エンジンではないので中にぶち込まれて突き刺さっても煌気オーラで膜を展開すればスキル使いなら死にはしない。


 自力で脱出もできないが。


 ダンク・ポートマンは天に召す瞬間まで走馬灯でも見ていようと考えたが、そんなに内容が濃くなかったので自分で半生について振り返っていた。


「……NTRってジャンルを確立した日本が悪くない? FANZAの同人で普通にタグがあるんだもん。じゃあ公認されてんじゃないの? 国家的に。親日家として実践しただけじゃん? そんなに悪い事した?」


 レ・ミゼラブルに出て来るジャン・バルジャンはパンを盗んだだけで19年の獄中生活を強いられ社会への憎悪をつのらせ全てを呪ったが出獄後に司教と出会いなんやかんやあって更生し、不幸な人々のために自己犠牲の献身を与え続けた。


 失礼。



 罪を犯した者の更生について例を挙げようとしたものの、貧しさゆえにパンを盗んだジャン・バルジャンと性欲のために部下の恋人を盗んだダンク・ポートマンではちょっとアレがナニし過ぎて上手くいかなかったため、この話はヤメよう。



 そもそも、悪い事して反省はしない。より悪い事するためにピースへ与したダンク・ポートマン。

 ピースも反社会的勢力ではあったものの、創設者のラッキー・サービス氏は「真なる平等を己の力によって世界にもたらす」というエゴイスティック極まる方法をチョイスしてしまっただけで、一応は彼なりの理想と信念と「きっとこれで世界は良くなる。知らんけど」な考えに基づいた蜂起であった。


 階級にまで平等を用いてしまったせいで、ダンクくんみたいに「……サービスの寝首かいてピース乗っ取ったろ!!」とか考えるクソバカ野郎が暗躍する隙を作ってしまった点は大いに反省するべきである。

 アメリカ探索員協会で居心地が悪くなって国協へ転属し、理事になれそうなところでサービスさんが国協をぶっ壊し、じゃあピースで成り上がってやるよとさらに転属してみたは良かったが、最上位調律人バランサーたちが圧倒的過ぎたので割とすぐに「裏切ろう!!」と決断した経緯を振り返ってみたところ。



 なんか救われる必要がないくらい良いところがない男である事は判明した。



 そんなダンクくんの眼前が歪む。


「あーあーあー!! これ爆発するヤツだ、これぇ!! もう! 吾輩、ただ欲望の赴くままに動いただけなのに! それって生物の生存理由じゃねぇのかよ!!」


 歪んだ空間から、歪んだ心の持ち主が現れる。

 そして彼はダンクくんの肩を叩いた。


「いいえ。それは間違っていますよ」

「……誰!?」


「お忘れですか? ストウェアでは1度共闘したじゃないですか。自分は水戸信介監察官。ダンクさん。あなたを助けに来た」

「ああ。コピー戦士を奪おうって時の! ……なんで裸!?」



「そこに仁香さんのおっぱいがあったからです。太もももね!」

「お前からは川端みたいな高潔さを感じないな!!」


 お排泄物とお排泄物が消えゆく浮島で巡り合った。



「良いですか。ダンクさん。自分たちは1人の女性を愛するべきなんです。他人のものを奪っちゃいけない。巡り合ったおっぱいと太ももと、まだキャッチしてませんがお尻とか。そういうものを愛するために自分たちは生まれて来たんですよ」

「……そうだったのか。でも、吾輩はもう戻れない。FANZAが!! FANZAがあるんだ!! スマホがあればたくさんの女を愛でる事ができるんだよ!!」


「ふふふふっ。ははははっ!」

「なに笑ってんだよ!!」


「ダンクさん。あなた、童貞ですね?」

「違うけど? むちゃくちゃ抱いてる!!」


「……ちっ」


 水戸くん、舌打ちをする。

 だがマウントはまだ取れると彼は切り替えた。


「ダンクさん。誰かを愛しましょう。そうすれば、自分たちには帰れるところがまだあるんです。こんなに嬉しいことはない」

「……でも。吾輩! 人妻ものとか好きなんだ!! こんな吾輩でも帰って良いのか!? 水戸! お前が結婚したら新居に遊びに行っても良いのか!? 吾輩、人妻って肩書だけで興奮するんだぞ!!」


「そうでしたか。……ここでお別れです! 川端さん! この人はダメだ!! 自分だけ戻してください!! …………? 川端さん!? 川端さぁぁん!? あれ!? 仁香すわぁん!! ……おかしいな?」


 戦争は遊びじゃないんです。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ストウェアではグレートみみみバズーカにTKB型『絶花エンデ』砲弾が装填完了。


「よし! 照準を合わせるぞ!! ワチエくん!!」

「えー。川端さーん。ワチエくんならずっと死んでますよー?」


「なんてことだ……! 楠木さんとかトラくんとか、後はいなくなった水戸くんもだが。結構簡単に生き返るからワチエくんもそうかと!!」


 レオポルド・ワチエ氏はぶどう園の長男で一般人です。

 スキル使いの素養はあるものの、しっかりとした訓練は受けていないため煌気オーラ枯渇になれば1ヶ月くらい死んだままなのがこの世界のルール。


 死ぬような無茶をしてちゃんと死んだままになるというだけでもワチエくんの存在価値は大きく、無事に生き返ったらフランスでジョセフィーヌミノタウロス♀と所帯を持って可愛い仔ミノタウロスに囲まれて探索員として精進して欲しい。


「まずいぞ。ワチエくんがメカに強いからと言っていつも頼って来たのがここに来て!! 誰か!! 大砲の操作ができる人はいませんか!!」


 お客様の中にお医者様はおられませんかと言ってお医者様が名乗り出るケースはあるのだろうか。

 あるのだろう。しかしストウェアのお客様は少ない。


「ぐーっははは!! 吾輩! ミンスティラリア魔王軍では元遊撃隊長! 友のシミは魔技師!! シミの遊びに付き合って既に300と余年!! 大砲の照準合わせくらいならばできまする!!」


 お医者様、いた。


「そうか! 助かる!! ……君はついさっきサービス氏にとんでもないスキルを喰らわされていたはずだが? どうしてもう元気なんだ?」


「吾輩! スキルを喰らわされるのは日常! かつては六駆殿に暇つぶしと称して3年間ほどスキルで撃たれ続けた事もございまする!」


 ダズモンガーくん、何度目かの復活。

 お排泄物カテゴリーに属していないのに不死性を獲得している稀有なトラさんはここぞで輝く。


「こっちの一人称吾輩は頼りになる!! では任せるぞ! トラくん!! ちなみに制御関係は軒並み壊れているから手動で頼む! 普通の人間なら衝撃でバラバラになるが! 君はトラだからイケそうだな!!」

「えっ!?」


 十四男・銃の襲撃で制御室の周りは大破しており、ダズモンガーくんが弩級砲を体で支えて十四男ランドに向ける。

 戸惑うけれど嫌とは言わない、忠臣の鑑なトラさん。


 先に言っておこう。

 ると思うが、多分死なない。


「サービス氏! 十四男ランドを停めて頂けますか!」

「ふん。底知れぬ者よ。お前を認めるが、俺は誰の指図も受けん」


 彼女の出番である。



「みっ! ラッキーさん! お願いするです! 魔王城に帰ったら芽衣がファンタグレープ飲ませてあげるです!! みみみっ!」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィ。



 サービスさんが『アルティメット・サービス・タイム』と叫ぶ。

 どう考えても今付けた名前であり、発現したのは『ピンポイント・サービス・タイム』だったが無粋な事を言うものではない。


 十四男ランドの時だけが凍り付く。

 南極には流氷も永久凍土もあるが、時間を氷漬けにできるのはサービスさんだけ。


 これにはギャラリーのペンギンさんとアザラシさんも「あの白髪がくっそ長いヤツ、やるやんけ」と手をペチペチ叩く。

 大変可愛い。


「さらばだ。水戸くん。ダンクくん。……こう言っとけばそのうちひょっこり生き返って来るだろう。私だって学習する」


 敬礼した川端さんの腕にそっと寄り添うナディアさん。


「ストウェア最後のお仕事ですねー。わたしもお傍で見学しますよー。川端さん、号令お願いしますー。違いましたねー。川端提督ー」


 川端さんの腕にナディアさんのおっぱいが濃厚接触。

 ストウェアの空調システムが復旧したので、当然だが水着越しである。


 カッと目を見開いた川端一真おっぱい提督が叫んだ。



「グレートビッグボインバズーカぁぁ!! 発射ぁぁぁぁ!!」


 結局そっちの名前の方がしっくり来たらしい。



 ダズモンガーくんが「ぐあああああああああああ!!」と叫ぶ。

 轟音をかき消す絶叫と共に、TKB型の抹消砲弾が射出。

 十四男ランドの側壁に着弾すると同時に『絶花エンデ』が発現された。


 普段は小さな白い花の形をしているアリナさんの抹消スキル。

 だが、チャージを重ねた『絶花エンデ』は南極海の空いっぱいに広がって大輪の花を咲かせた。


 爆発音もなければ断末魔も聞こえない。

 音もなく、白い花に包まれて十四男ランドは消え去った。


「十四男様。これにてわたくしたちは皇帝陛下の意向に反した事になりました。全てこのわたくし、シャモジの独断でございます。どうか十四男様はわたくしを捕らえて本国へお戻りくださいませ。そこで皇国の守護者として正当性を主張なさり、陛下の御許しを」

「シャモジィィィ!! ワシを見くびってくれるなァァ!! 陛下に対する忠義は一族でも1番を自称するゥ! 我なればァ! 陛下の御前にてェ! 申し上げるゥ! 陛下ァ! ペンギンさんを守りましたァ! 戦争はよくありませぬゥ! そうもうひはへふはぁほひはひふぅははへほ!!」


 もう無数に生えていた入れ歯のスペアも存在しない。


 十四男ランドは逝ったのだ。

 忌まわしい記憶と共に。


「みっ! 任務完了です!! みみみみみみみっ!!」


 芽衣ちゃまが散っていったお排泄物たちに向けて敬礼した。

 その場に居合わせた全員がそれに続く。


 みみみと鳴く可愛い天使に見送られる。

 これだけで行き先が地獄でもいい気分で永遠の苦しみを享受できそうであった。


 南極海の戦い、決着。


 ペンギンさんを死守、静かな海を奪還せり。

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