第1016話 【現場に来ましたみみみみ・その1】アリナさんとサービスさんが知り合いの人たちと挨拶してるからちょっと待つです! ~分刻みの戦局ですが、ちょっと待ちます~

 芽衣ちゃまが地上に舞い降りられた。

 これで勝つる。


「みみみみっ! 久坂さん! ご指示をお願いします! 芽衣子供だから分からないです!! みっ!!」


 初手で「みっ。間違っても責任者にはならないです」とスマートに攻める芽衣ちゃん。

 チーム莉子の常識人として長らく活躍し、逆神六駆の弟子としては莉子ちゃんに続いて2人目という速さで門弟に加わり、どんどん増える濃厚な豚骨を煮詰めて煮詰めて汁がなくなるくらいまで濃度をアップさせた連中相手に頑張ってきた彼女は元から非凡だった危機回避能力が極まっている。


 六駆くんの弟子になったのは芽衣ちゃんで3人目やろがいと憤慨なされた探索員の方は先ほどったダズモンガーくんが三途の川で喜んでおります。

 逆神六駆の一番弟子が作った深海魚の唐揚げをご査収ください。


「背に腹は代えられんのぉ。さらばじゃ、好感度!! ……おー? なんぞ、よぉ聞こえんかった! ちぃと疲れちょるからかのぉ! こりゃあいけん! 指揮なんぞ執れん! 耳がよぉ聞こえんもんでのぉ!!」


 久坂剣友監察官。

 ついに老兵の最奥に位置するスキルが1つ『ボケたふり』を発現させる。


 これは使いどころを誤ると若い子からは「めんどくさっ」と疎遠になられ、自分の子供世代からは「……来たか」と覚悟をキメられ、同世代からは「こいつボケのエアプだわ。下手くそだねー」とバカにされる。

 さらに行使した相手が芽衣ちゃま。



 これはいけない。

 彼女はもはやこの世界で相対して勝てる人間がいるのかも怪しい上位存在である。



「み゛っ。……みーみーみーみー。みっ! だったら芽衣が頑張るです! 久坂さんはいつもお菓子くれるです! 遊びに行ったらゲームも一緒にやってくれるです!! 芽衣は恩返しするです!! みみっ!!」


 ただ芽衣ちゃんはこの穢れた世界のクソ長い歴史でほんの一握りの清らかな魂を保持してここまでやって来た乙女、いやさ、聖乙女。

 「みー。久坂さんもきっと大変です。津軽ダンジョン攻略から南極までぶっ飛びカードです。それに比べて芽衣は魔王城で唐揚げ食べてたです。恥ずかしいです」と久坂剣友監察官のボケたふりを甘受。


 16歳の包容力がまたしても天元突破。

 久坂さんが「おぐぅ……。普通に胸が痛いんじゃが……!!」とうずくまる。

 あまりの罪悪感に心臓の鼓動がデスメタル。


 血圧が上がったせいで胸を押さえてうずくまった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「みっ! 頼りになる人たちを連れて来たです!!」


 此度の芽衣ちゃまは実働部隊ではなく、あくまでも監督。

 あるいは引率の先生。


「ふふふふふっ! やっと、やっと閉塞されたツッコミ不在の空間から出られた! 妾はアリナ・クロイツェル! ここまで名乗って気付いたが、日本本部の庇護下で身分を隠してもらっておったのを失念していた!! では、マスクド・タイガーレディーである! マスクはない!!」


 アリナさんがうっかり「アトミルカのナンバー1で今も世界的には最重要指名手配犯」という設定を忘れて、ミンスティラリアから出る喜びにたわわな胸を震わせたところ少しお漏らし。

 どうにかなかった事にしようと試みる。


「みっ! アリナさんはコードネームです! タイガー夫人です! みみみっ!」

「め、芽衣……!! これが母の温もりか! タイガーです。よしなに」


 強引にタイガー夫人へと転身して事なきを得る。

 事なきは得たのだ。


「ふん。口上にどれだけ時間をかける。緊急で呼ばれたのだろうが。俺はチュッチュチュッチュビス。記憶に新しいだろう。お前たち高みに立てぬ者を正しくチュッチュしてチュッチュチュッチュチュッチュ」

「みみっ! サービスさんはちゃんと素性が隠せて偉いです!! みみっ!! こちらはサービスさんです! シャバ? に出るのは初めてなので、仲良くしてあげて欲しいです!」



「ふん。芽衣ちゃまには練乳カムフラージュも通じんか。ラッキー・サービスだ。仲良くしろ」


 ニィィィィィィと表情を歪めたサービスさん。

 よく考えたら戦争が終わり次第収監される事は決定事項だったと思い出す。


 どうでも良くなって素直に名乗った。



 久坂さんはこの2人が来ることを想定していたが、それ以外のメンバーは想定外も甚だしく、何なら元ピースの上位調律人バランサーたちは久しぶりに創設者とご対面をキメる訳で、ついでにストウェア組はピースの侵攻の前に離反しているため色々と気まずい。


「よおよお! ラッキー!! 相変わらずハエも逃げそうなくれえに甘いもん吸ってんねえ! 元気そうじゃあねえか!!」

「ふん。辻堂か。高みに立つ者としての使命を果たしているようでチュッチュ」


「まーだそんな七面倒くせえこと言ってんかい?」

「ふん。言い切るか。悪くない。これを取っておけ」


 練乳を管で掴んでパスするサービスさん。

 「かっかっか! いらねえ!!」とそれを拒否した辻堂さん。


「わー。どうしますー? サービスさん来ちゃいましたけどー? 気まずいですよねー?」

「うぇーい。お久しゅうございます。その節は大変なご苦労だったとお聞きしており、身を案じておりました。拾ってくださったご恩は忘れておりません」


「えー。バンバンくんが裏切ったー。なんですかー。そのパリピから好青年に変わるヤツー。わたし好きだなー。サービスさんは相変わらず髪がながーい。清潔感ないですねー」

「なななななな、ナディア、ナディアしゃん!! あたし、若返り止められたらまたババア!! ヤメて! 刺激しないで!! お願いだから!!」


 川端さんがライラさんの前に出た。


「下がっているんだ、ライラさん」

「川端ぁ!! あんたに抱かれてもいい、あたし!!」


「あなたがサービス氏か。噂は聞いている。よくも若返りなどと言う生命の禁忌を犯してくれたな。おかげで私はえらい目に遭った」

「ふん。この目……。高みに立つ者か。悪くない」


 川端さんはストウェアがピースに奪取されなければ今のこの状況とはまったく違った人生を歩んでいたので、サービスさんには文句を言う権利が山ほどある。

 カッと目を見開いて川端一真が一喝。



「よくも……!! ナディアさんをストウェアに送り込んでくれた!! あなたのおかげで私は人生のベストおっぱいと巡り合えた。やった事は許されないが、個人的には感謝しかない。練乳が好きと聞いているが。乳液もお好きかな?」

「ふん。……なんだこいつは。底が知れん」


 練乳に乳が付いているから仲間だと認識されたサービスさん。

 おっぱい男爵、日本での階位はおっぱい征夷大将軍のおっぱい圧に慄く。



「アリナさん、こんにちはー」

「ほう。仁香か。元旦以来であるな。そなたの寄越した松前漬け、実に美味であった。礼を言う」


 仁香さんはミンスティラリアに修業へ行ったり、ご挨拶に行ったり、監察官室から逃げるため出張と言って遊びに行ったりしているので元アトミルカ組とは顔見知り。

 御年始の挨拶もしっかりとこなしている、デキるお姉さん。


「いえいえ、大した物をご用意できずに。この子、私の後輩でリャンって言うんです。ほら、ご挨拶して? アトミルカの偉い人だから」

「了! リャン・リーピンBランク探索員です! ザール・スプリングさんと交際を始めてもよろしいでしょうか!?」


 ザールくんが固まった。

 アリナさんの旦那よりも先に出征して行ったのに、旦那よりも安全な戦場でフィーリングカップルまでキメており、しかもこの時間軸では「行って参ります」と敬礼したのがつい1時間と少し前。


 これは気まずい。


「アリナ様……。如何様なお裁きも甘んじて受けますれば、お許しは乞いません」


 アリナさんが「ふふっ。良い」と朗らかに笑った。

 ハナミズキの館に囚われていた頃の彼女からは想像もできないほど柔らかい表情にザールくんの心が雪解ける。


「ザール。これからは対等な関係である。どちらが先に子を作るか。勝負といこうではないか!!」

「……は? ……はっ! ……ははっ!! ……バニング様!! 早く戻ってきてください!!」


 雪が解けたら凍り付いたザールくんの心。

 とりあえず組織の1番偉い人に交際の許可をもらいました。


「皆さん! 何してるんですか!! 浮島がそこまで落ちてるんですよ!! まったく、信じられないな! こんな状況で同窓会始めるなんて! ねぇ、仁香すわぁん! どうします!? このバカな人たち! ねぇ! 仁香すわぁん!! おっぱい良いですか!?」


 アリナさんが仁香さんにそっと聞いた。


「仁香。良いか?」

「あ。はい。あの、私に許可を求めないでください……。いえ、宿六が悪いんですけど。はい……」


 アリナさんが掌から白く小さな煌気オーラの花を飛ばす。



「どうしてそなたは戦場で全裸なのだ! そして粗末!! いっそ気の毒! ここには芽衣がいるのだぞ!! 不敬極まる!! 『絶花エンデ』!!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 アリナさんの全てを壊すスキルが水戸くんを襲った。



「みっ! 何か来るです!!」

「なに!? しまった!! あまりにもアレだったゆえ、妾とした事が!!」

「ふん。俺は捕虜を置いてくるのを忘れた。これはどうしたら良い?」


 最強格の2人がまったり1分半ほど時間をかけてストウェアに馴染んでいる間に、十四男ランドがいよいよ降下の勢い激しく海面に波を立て始めるところまで迫っていた。

 そして何か来た。


「おーっほっほっほ! 十四男様!! 家臣一同、脱出いたしました!!」

「あ゛あ゛! そうかァ! 死んだ者は仕方がないがァ! 生きておる者が死ぬ事もないィ! 皆が無事で何よりィ!! それでは十四男ランドは無人になったァァあ゛! のであるかァ!?」


「………………」


 シャモジさん?


「ええ、ええ! もちろんでございます!! 敵の剣士も不承不承ですが回収して参りました!! もうあそこには何もおりません!! おーっほほほ!!」


 シャモジ母さんは皇国の守護者。

 逆神十四男のメンタルのためならば、嘘だってつく。


 それが罪で裁かれようとも。


 スキンヘッドNTRメタボ野郎が動力炉に刺さってますが、それ以外の人員はシャモジ母さんの『太った男の転移術ポートマンジャンプ』によって脱出完了してございます。

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