第1015話 【割とすぐ帰って来た皇国の守護者たち】????「ペンギンさんが!? それはいけません! 皇国の恥、汚点となります!」

 今わの際のストウェア。

 久坂さん必死の呼びかけがアリナさんとサービスさんの出番争奪および芽衣ちゃま友愛ランキング戦によってかき消された結果、とりあえずの防衛措置でみつコップBBAにより停止していた島の動力を再起動させた。


 ハイテクノロジーなマスィーンは再起動させるとメイン機能が勝手に動作を始めるのが世の常。

 パソコンを起動させた瞬間にソフトウェアの更新が始まって3時間くらい何もできずに絶望。


 Windowsの数字はどんどん増えるのに、ソフトウェアの更新の時間が一向に短くならないのは何故か。


 有識者のマジレスは求めていないのである。

 聞いても分からない事を聞いたとて、確かにそうかもしれんとしか言えない。



 何でもいいからホントマジでホント、そのタイミングだけはヤメて、ちょっとだけ作業したらその後で、それなら良いから、ねぇなんで無視するのってタイミングを狙い打ち抜くが如く動かなくなるパソコンの悲劇を我々はあと何度繰り返せば良いのか。



 ストウェアの動力が復旧したのと同時に、防衛システムも起動。

 移動要塞の側面も持つ人工島・ストウェア。

 交戦中に動力が断たれた場合に備えて、再起動時は真っ先に防衛システムが立ち上がるのは仕様である。


 が、誰かがスイッチをポチッたのではなく、みつコップBBAのスイッチを切ったら連動してストウェアの動力が復旧したので、これはもう「勝手なことはヤメろや!!」と語気を強めても許される状況であった。



 だってこのままだとみんな死ぬから。



「もしもーし!! ストウェアが邪魔してこっちに来れん!? ほうじゃったか! よっしゃ! 誰ぞ、ストウェア破壊してくれ!」


 久坂さんも本末転倒な事を言い出すのは致し方ない。

 だが、じい様の隣には長きに渡り背中を預け続けた盟友がいた。


「剣友よ! ちょいと俺に考えがあるんだが! 乗ってみないかい?」

「ハゲ! お主、それ言うの何回目じゃ!! 若い頃から聞き飽きちょるんじゃ! このハゲ!! ええ事考えた言うて次の瞬間には敵陣に特攻キメて、若い衆に! ありゃあ違うんじゃ。やっちゃあいけん例を実践したんじゃ。あれも上級監察官じゃからの。とか言うて!! ワシが最悪な空気で指揮執らされたの10や20じゃきかんで!? ハゲ!!」


 くそ苦労してきた久坂剣友監察官。

 窮地に陥った状態での辻堂甲陽が出して来る提案は却下したい。


「まあ聞きねえ! 俺ぁよ、ついさっき活きの良い連中を次元の裂け目に落としてんだがな? そいつらを解放するってえのはどうでい? 浮島の中に出て来るから、奴さんたちも生きるために遮二無二頑張ると思うんだがね? 俺らは上手く行きゃあ良し。失敗してもまあ? 名前も知らねえ敵が死ぬだけなら? マイナスにはならねえんじゃねえかって思うわけよ!」


 久坂さんが「ハゲぇ!」と一喝した。

 続けて言った。



「甲陽。お主は昔から、いよいよとなりゃあ頼りになるヤツじゃったわい。すぐやってくれぇ。責任はワシが取る体でいく。アレがナニして責任は楠木のか水戸のに取らせる。ワシは死にかけちょった事にするけぇ。甲陽。お主も一緒に死にかけちょったヤツで行こう!!」

「えっ」

「えっ」


 辻堂甲陽のランクが久坂さんの中で水戸くんは当然だが、楠木さんも超えていった瞬間であった。



 辻堂さんが「あいよ!!」と白い歯を見せる。

 「意外とええ男じゃのぉ。ハゲちょらんハゲも」とか思ってしまった久坂さん。


 じい様とハゲの吊り橋効果はこちらです。


「そんじゃあ行くかい!! 俺も煌気オーラが空っぽだからねえ! これが最後のスキルだ!! ぬんっ!! 『絶賛大解放カミングスーン』!!」


 エマージェンシーコールの鳴り響く十四男ランドで空間が口を開けると、まず焼けた杓文字が飛び出して来た。


「おーっほっほっほ!! 事情は十四男様の念によって聞き及んでおります!! 皇国のための一戦! それがまかり間違い皇国の汚点となるのであれば!! 参りましょう!! 皆! ペンギンさんを守るのです!!」


 シャモジ母さん、割と元気に復活。

 続けてピンク色の恐竜とエラとかヒレとかが付いている男たちが出て来る。


「イエス、マム!! 私が十四男ランドの動力を少しでも抑えます!! 『年金受給開始七十五とかになると私死んでるウルトラハイパーメガヘビーウェイトアタック』!!」


 ガンコが重力スキルで十四男ランドの動力炉の出力を押さえつける。

 既に動力を停止させても手遅れな高度まで降下しているが、それでもプログラムを機能不全に陥らせれば時間は稼げる。


「カサゴさん! あと魚たち!! 太ったおデブさんを持って動力炉へ! おデブさんは息さえあれば転移スキルの基点にできます!! 動力炉に放り込みなさい!! そうすれば! わたくしが『太った男の転移術ポートマンジャンプ』でバルリテロリ宙域へと飛ばします!!」

「イエス、マ……マジで!? それまずくね!? 陛下がなんか迎撃の準備してんだろ!? あんた、今まさに皇国に弓引いてね!?」


 カサゴが初めて建設的な事を口にした。


「おーっほっほっほ! 黙りなさい!! 罪なきペンギンさんに皇国が害成す事を考えれば!! 皇帝陛下が処理なさいます!! 良いですか! わたくしたちの敵は現世の民!! 皇敵ですよ! ペンギンさんは!? バルリテロリの敵ですか!? あなたも皇族の分家ならば答えなさい、カサゴ様!! 敵ですか!?」

「ええ……。侵攻の邪魔なら敵なんじゃ?」



「殺しますよ?」

「敵じゃない!! ペンギンさんがバルリテロリに来てくれたら、国が豊かになる!!」


 シャモジ母さんは皇敵の存在を許さない。

 皇国に益をもたらす存在には最上の厚遇で応える。


 一時代が割とすぐ去っていった高級食パンくらいぶ厚い待遇。



 あとは異空間の中で籠城をキメているダンク・ポートマンを引きずり出すだけである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ダンクくんは生きていた。

 転移スキルの基点になるという事は、彼が死んだ瞬間に転移スキルが作用しなくなるという事。


 これまでシャモジ母さんたちが自力で異空間から出てこなかった事実は、ダンクくん生存を裏付けていた。

 水戸くんが言っていた事を覚えているだろうか。


 あんな童貞クソ野郎の言う事を覚えているくらいなら、東ティモールの首都の名前とかを覚えた方がよほど有益であるからして、覚えていない方が正しい。

 東ティモールの首都はディリ。


 こちら本日の豆でございます。


 「シャモジ母さんや十四男ほどの使い手ならば、異空間に落ちても勝手に出て来る」と彼は言った。

 異空間に全裸で落とされてゲルググの親戚であるギャンと一緒になんか爆発した経験者が語るのだから、信憑性はそれなりにある。


 おっぱいに触っただけで脱童貞と嘯いている事を加味すると信憑性とか一瞬で消え失せるので加味しないでください。

 10代後半ではよくある事です。


 ヤツは34歳ですが。


 お排泄物のせいで話が脱線して大変に遺憾。

 何だろうと利用しなければ、ストウェアと南極大陸のピンチである。


「くくっ。ダンク。貴殿、死んだふりするのも限度があるゆえ。腹を括れ」

「冗談じゃないっつーの!! 吾輩、ここから出たら再度捨て駒じゃねぇか! だって、もう死んだ者カウントされてんだろ!? だったらさ! 仮に生きてても再利用してまた死んで? まあプラマイゼロやん? とかいう、非人道的な理屈に巻き込まれるだろ!! 死んだふりしとくんだ! 吾輩はそうやって生きて来た!!」


 にゅっと手が伸びて来て、ダンクくんのスキンヘッドを掴んだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

「太ったおデブさん。お喋りの時間は終わりですよ。さあ! 貴方も守るべき国のために命を燃やしなさい!!」


「嫌だぁぁぁぁ! 吾輩、別に愛国心とかねーし!! つーか、アメリカに戻れないし!! 昔ね、部下の恋人をNTRしたから!! 国籍なけりゃ愛国心とか生まれないし!!」


 必要のないお排泄物要素を口にした瞬間、この世界は残酷な表情になる。


「おーっほほほ!! 皇帝陛下の側頭部を打ち抜いたこの杓文字が!! 今はペンギンさんの未来を切り開くのです!! そこの剣士! 手伝いなさい!! 杓文字におデブを括りつけるのですよ!!」

「くくくっ。……ダンク。この勝負、預ける!!」


 姫島さんがダンクくんをシャモジ母さんの杓文字の先端にもやい結びで固定した。

 仕上げに惜別。



「貴殿がひとりぼっちでも某は寂しくなかった!!」

「ふざけんなぁぁ! お前ぇぇ! 侍魂どこにやっあ゛————ひゅ」


 シャモジ母さんが杓文字をぶん投げた。



 動力炉付近では東野家が整列済み。

 彼らも本意で侵攻部隊に加わった訳ではないが、腐ってもバルリテロリの分家。


 皇帝陛下に対する敬愛の念は持っており、今はシャモジ母さんがその代弁者。

 どうせ消えゆく命ならば、ペンギンさんを守るのも最期としては悪くない。


 なお、陛下は何も仰っておられません。

 下手すると「ペンギンなんて後で増やせばいいから、やっちまえよー」とか仰せになるかもしれません。


 あの御方は逆神家です。


「ひゅぅぅぅぅぅ」


 ダンクくんが飛んできた。

 それをおさかなネームド軍団がレシーブして、順番に両腕を粉砕骨折していく。


 シャモジ母さんの投擲スキルをレシーブしたら腕くらいもげる。


「おっしゃあ!! 太ったデブ! 愛らしい生き物のために死ねるって、結構悪くないと思うぜ? あばよ!!」

「ひゅっ」


 カサゴによって動力炉にダンクくんがダンクされた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほんの数秒前に時間は遡る。


 ストウェアの甲板に生えていた門が光を放った。

 すぐに居合わせた一同が「あ。これ最悪なタイミングで間に合っちゃったヤツ」と察する。


「みみみみっ! 木原芽衣Bランク探索員! お待たせしましたです! 現着したです!! みっ!!」


 敬礼をしたみみみと鳴く可愛い生き物。

 久坂さんが辻堂さんと目配せして「のぉ」「あいよ」と頷き合った。


「バルリテロリのじい様! 念飛ばせるんだったな? シャモジのおばちゃんに伝えてくれ! 作戦変更だってよ!」

「あ゛あ゛! 良しィ! 仕ったァ!! シャモジィ! 状況が変わったァ! 全員でこちらに脱出せよォ!! ペンギンさんとォ! アザラシさんをォ! 守るのであるゥゥゥ!!」


 ダンクくんがダンクされた件は生存も含めて審議ランプが点灯しております。

 お手持ちの投票券は確定まで大切に保管ください

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