第1014話 【魔王城からみみみみ・その9】やっと来た出番を争うアリナ・クロイツェルさんとラッキー・サービス氏 ~「みみっ。仲良しです。みみみっ」~

 ミンスティラリア魔王城では。


 もうサービスさんが『テレホン・サービス・タイム』を使わなくても普通にスマホで通話をするようになった現状に及べば「だったら本部に電話すりゃええやんけ」と思わずにはいられないものの、「でも芽衣ちゃまだぞ」の一言で色々な議論もアレがナニしてなんやかんや済みそうな、モニョモニョとしたものを渾然一体と混ぜながらとにもかくにも芽衣ちゃまのスマホがまた震えたのであった。


『すまんのぉ。いやー。こがいな無理を芽衣ちゃんに言うのは……ほんっとうに! 心が痛むんじゃけどのぉ。一応言うちょかんといけん気がして仕方がないんよのぉ。ほいじゃから言うけども。……そっちにまさか、時間停めたりデカい物体消し去ったりできるスキル使いはおらんよのぉ? いやいや、そがいなピンポイントでピンチに参上してくれるような便利な者がミンスティラリアにおるっちゃあ思うちょらんけど! ただのぉ! なんかワンチャンある気もするんじゃよのぉ!!』



「み゛ーっ。いるです。あと、久坂さんがちょっといやらしい感じのおじいちゃんムーブしてくるです。これは知ってて言ってるヤツです。芽衣でも分かるです」


 久坂さんは知っているのかいないのか。

 それは誰にも分からないが、あちらのじい様も南極海で死にたくはないのは確かである。



 ついに出番がやって来たかつてのボス格たち。

 落下して来る十四男ランドを時間停止スキルで足止めし、その間に抹消スキルで綺麗サッパリ現世から存在ごと消してしまえばあら不思議。


 南極海は汚染されないし、ストウェアはノーダメージだし、ペンギンさんもアザラシさんも「なんやあれ。人間はさっきから何しとるんや?」と首をかしげる程度のちょっとしたエンターテインメントを静かな海に提供して全てが丸く収まる。


「くくっ。これはなかなかに興味深いのだよ。芽衣殿。どうするのかね?」

「みー。ダメダメな芽衣だって迷わず決断する事はあるです。ストウェアにはたくさん芽衣の仲間がいるです。お助けするです。みみみみみっ」


「ふむ。大変に素晴らしいご判断なのだよ。さすがは英雄殿の英才教育を受けた、次の英雄殿の呼び声高い芽衣殿なのだよ。ところで、アレをどうするのだね?」


 シミリート技師が見つめる先には。


「下がっておれ! サービス! そなたが出る必要はないと言っておろう!! 妾だけで事足りる! なにせこの戦争で妾は餅つき大会にちょっと顔を出しただけ!! それも4日前の話であれば! 体力も煌気オーラも気力も出番が欲しい気持ちも、そしてツッコミ役から解放されたい気持ちも溢れ出して震えておる!! 控えろ、サービス!!」

「ふん。アトミルカの首領よ。お前は何か勘違いしている。俺は腋の管でこの小物を2匹、それこそお前たちが餅をついていた時から捕獲している。その上で、ノアちゃんと芽衣ちゃまの使い走りを立派に務めていると知れ。高みに立つ俺と餅食って旦那と世間話をしていたお前を同列に語るな。立っている場所が違う。下がるのはお前だ。アリ……なんとか」


「き、貴様……!! 妾の名を! 記憶していないと申すつもりか!? ふざけるなよ、サービス! 妾はそなたをフルネームで何度か呼んでおるのに!! ええい、無礼な! そなた! 妾の名を呼んでみろ!!」

「ふん。ぎゃあぎゃあとよく鳴く。その行為が自ら高みを下げているとなぜ分からん。まったくお前と俺が同列で語られる事は不愉快極まりない。アリナ……チュッチュチュッチュチュッチュ」


「練乳で誤魔化すな! この不届き者が!! 『絶消アイギス』!!」

「ふん。所詮は消しゴムマジック。そのようなもの時間を制する俺に通じると思うか? ぬゅえゃもょあ!! 『ピンポイント・サービス・タイム』!!」



 出番を巡ってもうおっぱじめているアリナさんとサービスさんがいた。



 魔王城の中で「この世で消せぬ物は愛だけ。莉子に学んだ!!」と、だったらその辺のものは大半が消せる抹消スキルをぶっ放すアリナさん。

 それに対して「逆神は高みに立つ者だった。それ以外の者に俺が負けると思うか? 想像力も足りんな。俺とはステージが違う」と局所的に時間停止させてミンスティラリアの時間軸をおかしくしているサービスさん。


 戦う必要のない者たちが何故か戦っており、しかも双方が未だこの世界では最強格の座を譲らない猛者の上を往く。


「芽衣様!! 唐揚げを照り焼きにしたものにタルタルソースをかけましたが! 召し上がられますか!? シミリート様も!!」

「くくっ。これは興味深いのだよ。唐揚げの照り焼きの時点で味が濃いにも関わらず、さらに濃い味のソースをかける。一見不合理の塊のようにしか見えないのに、口に入れるとこれがなかなか。料理の分野にも食指を伸ばしてみるかね」


 ダズモンガーくんの不在を「私が料理で埋めます!!」と張り切るバッツくん。

 彼は「私は絶対に出番がありませんから! 上位互換の木原様もおられますし! お会いした事はカルケルから脱獄して以来ありませんが!!」と脳筋タイプにあるまじきクレバーな思考で一足先にクランクアップをキメる。


「みみっ! みんな仲良しです!! 芽衣はこんな毎日がずっと続けば良いと思うです! 冬休みって楽しいから好きです! みみみみみみっ!!」


 この年のカレンダーは良い感じの配置になっており、本日10日が最初の平日。

 現在戦争中につき、冬休みが延長されている。


 探索員の業務は基本的に公欠扱いされるので、芽衣ちゃまは今日も冬休み。

 もう1週間くらい戦争してても芽衣ちゃまにとって貴重なお休みが続くのであれば、それはそれで良いのではないか。


『もしもーし! 久坂じゃけどのぉー!! ちぃと急いでくれんかいのぉ!? 割と浮島がクライマックスなんじゃがー!! あれ、煌気オーラ構築物じゃけぇ! ストウェアが影響受けよるんじゃがー!! 具体的にはのぉ! 煌気オーラ力場同士が喧嘩して、先にストウェアがバラバラになるで!! 芽衣ちゃん!? 聞こえちょるかー!? しつこく電話したのが気に入らんかったかのぉ!? さっきのウザい爺ムーブがいけんかったか!? バニングのの嫁さんかサービスの! どっちかでええから! 早う寄越してくれんかぁ!?』


 そうも言っていられなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 芽衣ちゃま、ついに玉座から腰を上げる。

 お気づきだろうか。


 この戦争で玉座に腰を下ろしているのは現状、芽衣ちゃまと喜三太陛下だけ。

 失礼。オタマと六宇も座ってました。


 とはいえ、である。

 戦争が講和の段階に移行し、最終的な決裁をキメるのは同じ階級の者というパターンが過去の歴史を紐解くと散見される。


 芽衣ちゃま皇帝説が浮上。


「みみみっ! 2人とも、めっ! です!! ストウェアの皆さんが死んじゃうです!! そんなの芽衣は悲しいです! 嫌です! だから力を貸して欲しいです!! 芽衣はダメダメだから、誰かに助けてって言わないと何もできないです! だから恥ずかしがらずに助けてって言えるようにしてるです! 助けて欲しいです! アリナさん! サービスさん! みみみっ!!」


 戦いが終わった。

 アリナさんもサービスさんも煌気オーラを完全に消失させて、とりあえず跪いた。


 そうしないといけないような気がしたらしい。


「ふ、ふふふっ。聞いたか? サービス。妾の名が先に呼ばれたが!!」

「ふん。些末な事を宣う、アトミルカの首領よ。単純にお前の名前が俺よりも短かっただけだろう」


「ふっ! ふふふふっ!! 1文字だけだがな? そして気付いてるだろう? まさかそなた程の男が知りませんでしたなどとは言うまいな? 妾は……ファーストネームで呼ばれておるが!!」

「ふん。……お前は今、俺を怒らせた!!」



 戦いが終わったって言ったので、もう戦いはヤメてください。



 芽衣ちゃまがトコトコとサービスさんの近くへ歩み寄る。

 ビンタするのだろうか。


 それでもサービスさんは喜びそうである。

 というか、サービスさん以外にも多幸感に包まれてアッパーキメる大きなお友達がたくさんいるような気がしてならない。


 別の時空でモニター越しに観測者をしている者の中にも。

 きっと、恐らく、いやさ絶対。


「みーっ!! ラッキーさん! そろそろ行くです!! お仕事手伝ってくれたら時々お名前で呼ぶです! ……芽衣、大人をお名前で呼ぶと緊張しちゃうです。アリナさんはクララ先輩と見た目の年齢が同じだからイケちゃうだけです。みっ」


 サービスさんがニィィィィと顔を歪めた。

 強者と戦う時にのみ愉悦を覚えて見る者を恐怖させるほどに表情を崩していたラッキー・サービス氏。


 過去1番のニィィィィを見せる。


「くぅぅ! クララと同い年……!! そうであった……!! 妾は女子大生とやらのカテゴリーであったか……!! 若さを保てるのは子を孕むに良いと思っていたが!! ……事ここに及べば! 一気にババアになりたいと思う! それはエゴか!?」


 本当にエゴだよ。それは。


「みみみっ! シミリートさん! 行ってくるです!! みっ!」


 敬礼する芽衣ちゃま。

 その後ろでピシッと敬礼をキメるアリナさんとサービスさん。


 両人共に部下たちから敬礼をされるのは慣れている。

 敬礼をしたのは今この時が初めてだった。


「くくっ。待たれよ、芽衣殿」

「みー?」



「わちゃわちゃしている間にストウェアが煌気オーラ防壁を展開した。これではあちらに生えている門とのリンクが不安定になるのだよ。なにせ、今は『ゲート』の使い手が不在。ただ解放されているだけであるからね。芽衣殿を異空間の狭間に落としでもしたら世界が壊れる。少しばかり待つのだよ」

「み゛っ!? 待ってる間にストウェアが消えちゃうって事はないです!?」


 魔王城が静かになるまで2秒かかりませんでした。



 それでは、ストウェアにお返しします。

 芽衣ちゃまが親衛隊を伴って少ししたら行くので、死なないでください。

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