第1013話 【最悪じゃ。マジで落ちて来よるんか。】ペンギンさんを守る戦い

 十四男ランドでは戦闘が終わった。

 しかし「エマージェンシー。エマージェンシー」とけたたましい警告音を友として目に優しくない赤色灯がパーリーをしており、戦っていた時にはそれほど気にならなかったのに「あ。これ本当に墜落するんだ」と残った戦士たちの心を陰らせていた。


「かっかっか! まさかほとんど同級生を背負う日が来るたあ! 若返ってみるもんだねえ! そいで? じい様! どうすんでい?」

「すまぬゥ! 現世のォ……あのォ……何と言うかァ……! あ゛あ゛!!」


「かぁー! 分かる! 口から出してえ言葉と頭ん中の言葉がリンクしねえんだよなあ! 俺も昔はあったあった! 脳も若返ったおかげで今は絶好調よ!! おめぇさんも若返るかい?」

「気遣いはァ嬉しいがァ! 我は陛下より賜りしこの身をォォ! この年になっていじるつもりはなあ゛あ゛あ゛! 腰がァ! あ゛あ゛あ゛!!」


 辻堂さんが十四男を背負って、脱出準備へと全員が動き始めていた。


「何と言う事だ。ナディアさん……。あなたは転移スキルまで使えるのか。いや、私の心にもいつの間にか転移していた事を考えれば……道理だったか」

「わー。川端さんって無自覚なのか狙ってるのか分かんないですけどー。急にそーゆうこと言いますよねー。わたし好きだなー」


 ライラさんが「あ。ワチエが言ってたヤツだ。確かにナディア、口開けたらとりあえず好きって言うね。この子、天然ものだわ。天然ものの、サボり魔!! 怖い!!」と身を震わせた。

 すぐに川端さんがコートを脱いでライラさんに羽織らせる。


「これで間に合わせてくれ、ライラさん」

「川端ぁ! やっぱあんたは紳士だ! おっぱい紳士!!」


「えー? ライラさーん。わたしはパーカー脱ぎ捨てる必要に迫られたんですよー? つまりー。ライラさんのおっぱい格付けが川端さんのなかで一流から二流に落ちたと言う事ではー? 見た目22歳おっぱいはわたしより干支が1周するくらい若いのにー」

「もうやだ、この子!! あたしには厳しい!! その親玉じいちゃんの部下を拾えばいいんだね? 索敵は任せといて! 後は知らない!! 『道しるべの草ダウジングおハーブ』!!」


 煌気オーラを養分にする特性を利用して、多分まだ生きてる仁香さん隊にボコられた東野家のメンバー目掛けて草が伸びていく。

 草にガッツリ残存煌気オーラを吸い取るので早いところ回収しないとトドメに変わるリスキーな救助作戦。


「あ。私が行きますね。この中では1番足が速いですから。本当にごめんなさい」

「仁香すわぁん! 自分もお供します!! はぁはぁはぁはぁ!!」


「あ。はい」

「私も行きます! 仁香先輩!」


「まだ先輩って呼んでくれるんだね、リャン! ありがとう……!」


 意気消沈しても好きな後輩と宿六の間で温度差はちゃんとある仁香先輩。


「では私も隊にお加えください。まだまだ動けます」



「わっ! ザールさん、私にお付き合いくださるんですか!? 嬉しいです!!」

「リャンさん。私もあなたのお気持ちは大変嬉しいのですが、その、毎回くっ付かれますと。青山様から発せられる煌気オーラの質が。……バニング様。ザール・スプリング、あなたのご苦労が分かり始めました。もうあなたが締められた鶏のような声で鳴いても、私は笑顔でお救いします!!」


 この世界には1度入ると出られないラブコメ結界というものが存在します。

 ご存じでしたか。これは失礼。



 仁香さんが全裸の宿六を連れて瞳からハイライトを消失させ、リャンちゃんとザールくんは示し合わせたかのように身体強化の上昇率が同じというおしどりっぷりを見せつける。

 恐らく仁香さんと水戸くんカップルに回収される者は5割くらいの確率でうっかり力加減を間違えられる。


「本当に不快です」


 申し訳ございませんでした。

 黒い煌気オーラをしまってください。


 十四男ランドが空中で爆発飛散するとペンギンさんもアザラシさんも甚大な被害を受ける事になります。


「さてさてー。どうしましょー。ダンクくんいなくなっちゃいましたからー。ストウェアの誰かを目印にしないとですけどー。ワチエくんはまだ死んでるっぽいですしー。久坂さんは消耗していらしたしー。わたしの転移スキルってモノマネなのでー。基点にした人に負担がかかるんですよねー。んんー。仕方ないですねー。見た目が丈夫なあの人? 人ですかねー。うん、あの人にしましょー」


 脱出のためにナディアさんが煌気オーラを高め始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のストウェア。


「おーおー。本当に落ちて来よるのぉ。最悪じゃわい。どがいするんじゃ、これ。ワシは知らんとか言うちょれんで。あの質量のもんが落ちてきたらストウェアごと南極海に沈むのぉ。正月の深夜にやりよったタイタニック見るんじゃなかったわ。のぉ。バンバンの。聞いちょるか? うちの息子がディカプリオに似ちょるんよ。写真見るか? これなんじゃけど。似ちょるじゃろ? 嫁さんは外国の人がええかいのぉ? けど、日本が好き言うてくれちょるんじゃ。どねえ思う? バンバンの。のぉ?」



「うぇーい。久坂さん、現実をご覧ください。異世界人の私だって貴方のお名前は存じています。その伝説が捨て鉢になられると私もさすがにうえーいとか言っていられません。あと、シャモジ消えましたからその物騒な人型機動兵器みつコップBBAはスイッチ切ってくださいうぇーい」


 もうダメだ。おしまいだ。

 そんなストウェア。



 ワチエくんは未だに瀕死。

 バンバンくんは率先してサポートや迎撃、防御を担って来たため疲労困憊。

 久坂さんも既に煌気オーラが枯渇寸前。


「久坂さんらしくもありませんね。こんな時こそ冷静に皆を鼓舞するのがあなたではありませんか。私はずっとそんな背中を拝見して育って来ました」

「おお。嬉しい事を言うてくれるのぉ。ただのぉ。このタイミングで意識取り戻しても特に役に立たん言うのはちぃと腹立つんじゃわ。楠木の」


 楠木さんはやっとアルコールが抜けたご様子。

 この世界では数時間ぶりだが、観測者時空では数カ月ぶりに言葉を発する。


「サーベイランスは来ていないのですか?」

「お主は情報が津軽で止まっちょるんじゃもんのぉ。……面倒くさいのぉ。死んだら時間できるじゃろうから、三途の川の順番待ちの時に説明するわい」



「久坂さん? 我々は死ぬのですか? であれば、最後にですね」

「楠木の。この期に及んで酒飲む気じゃあなかろうの? 正月休みに我が家を襲撃されたワシは禁酒を誓ったのにじゃで? 職務中にアルコールをキメたお主がどがいして懲りんのじゃ。ヤメてくれぇ。監察官がどんどんおかしなるの。ワシ、もう退役したいんじゃ」


 死んだら二階級特進して除隊されるのではないかと思われた。



「ぐーっははは! 皆さま! 深海魚をサッとフライにしてみましたぞ! こちらの魚、どことなくグアルボンに似ておるゆえ! 親近感をもってお料理できましてございまする!! ささ、ご賞味くだされ!!」

「トラの。お主はどがいして手の込んだご飯作るんじゃ。いや、生魚は食えん言う話は聞いたで? ほんなら焼くだけで良かろうが。サックサクに揚げる時間でなんぞできたんと違うか? ……美味いのぉ。うちの息子とええ勝負する腕前じゃわい。もう1つくれぇ」


 もうダメだ。おしまいだ。

 そんな空気しか漂っていないストウェアの甲板。


 瞬間、ダズモンガーくんに電流走る。


「ぐっ!? ぐああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ええ声で鳴くのぉ。トラの。雷門のより品があるわい。木原のよりも景気がええしのぉ。スマホで録音して息子に送るかいのぉ」


 続けて十四男ランドから大量の人員が転移して来た。


「久坂さん。戻りました」

「おお。川端の。ナディアちゃんの転移スキルじゃったんか。……トラのが動かんようになったで?」


 ナディアさんはダンクくんの転移スキルを雑に模倣しているため、ブラッシュアップが足りていない。

 1人転移する度に基点になっている煌気オーラの主には凄まじい負担がかかる。


 そして10人くらいの団体さんが次々に転移して来た。

 1度に転移できる定員は2名まで。

 5回で済むのに、きっちり10回使ったためダズモンガーくんがった。


「ほぉ。そっちのじいさんは見覚えあると思うたが。さっき来た分身の元か。どがいしてハゲが背負うちょるんじゃ。利敵行為じゃぞ。ハゲ」

「かぁー。こまけぇ事を言うんじゃねえよ、剣友! おめぇさんの責任だぜ!!」


 辻堂さんがウインクをする。

 久坂さんは生まれて初めて「唾を地面に吐き捨てたい言う感覚が分かったで」と思ったが、老紳士らしく堪えた。


「すみません、久坂さん。ストウェアの指揮権をお渡しした状態でこのような事に!!」

「……川端の? お主、迷いがのぉなっちょるが。嫌な感じに吹っ切れちょるの。今、ワシに全権があるみたいな事を言うたか? あぁ。ダメじゃ、こやつ。目がマジじゃもん。仕方がないのぉ。これやるとのぉ、ワシの好感度下がるんじゃが。命は惜しいしのぉ」


 久坂さんがスマホを取り出してブラインドフリック。

 この短期間で鬼電キメているため、着信履歴はこちらの乙女ばかりが並んでいる。


「もしもーし。ワシじゃ、久坂じゃけどのぉ。いやー。ワシも本当にこがいな事するのは本意じゃないんじゃけど。なんぞのぉ。ストウェアにのぉ、敵の浮島墜落が決定したらしいんよのぉ。そこでじゃ。ちぃと増援頼めるかいのぉ? この戦争終わったら可愛い服ようけ買うてあげるけぇ。ホント、すまんと思うちょる」


 電話の相手は一体誰なのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある異世界のとあるお城では。


「み゛っ。とんでもない電話を受けてしまったです。久坂さんから責任がこっちに来たです。お正月にクララ先輩とノアさんと六駆師匠で桃鉄やった時に貧乏神を押し付けてばっかりだった悪い子だから罰が当たったです? でもちゃんとクララ先輩ばっかり狙ったです! みっ!!」


 じゃあ罰は当たりません。


 ですが、出番です。


 おっぱいまみれだったストウェア回で穢れた世界を浄化してください。

 仁香さんもリャンちゃんもナディアさんもライラさんも全乙女がおっぱい連呼するんです。


 助けてください。

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