第1012話 【ストウェアチームの集大成・その6】十四男ランドの戦い、決着。そして、墜落。

 姫島幽星の特攻から続けざまに巻き起こったダンク・ポートマンの自分丸ごと極大転移。

 それだけならば回避可能だったが、後詰に空間を削り取ってギュっと圧縮する辻堂甲陽の極大スキル。


 初見で全てに対応して見せなはれと言うのは、さすがのシャモジ母さんでも厳しい。

 彼女は煌気オーラ総量の多さと持前の殺戮性をもって敵を屠るのが本来の戦闘スタイル。


 転移スキルや次元スキルのような搦め手とは相性が良くない。

 それでこれだけ戦ったのかと思えば恐ろしさも覚えるが、思い出して頂きたい。



 シャモジ母さんは喜三太陛下を弑逆しております。

 喜三太陛下が第三者にぬっ殺おあそばされた唯一のケースなのです。



 そのシャモジ母さんは十四男オリジナルに向かって「ご無礼をお許し下さい!!」と一礼したのち、胸ぐらを掴むと全力で投げ飛ばした。

 それを見届けたガンコは「イエス、マム」と静かに頷く。


「ガンコさん。わたくしと共に死ぬのは不本意でしょう。なにせ、冥府でもわたくしが傍にいるわけですから」

「とんでもありません。シャモジ様。最期までお傍に仕える事ができて、介護職としての本懐も遂げました。悔いはありません」


 ガンコは重力スキル『どうせ近いうちに増税するんやハイパーヘビーウェイトアタック』で姫島ミサイルを押し留めているが、そこに次元が裂けては打つ手がない。

 十四男を救う事に全てを賭けたシャモジ母さんとガンコ。


 命運が尽きる。


「では、参りましょう! おーっほっほっほ! わたくしたちは皇国の救世主として天界へ向かいますよ!!」

「あの。シャモジ様」


「なんですか? 最期です。思った事を言いなさい」

「イエス、マム」


 ガンコがにこりと微笑んだ。



「シャモジ様は皇帝陛下を1度やっておられますので。多分地獄へ直行かと。理由はともあれ皇国の帝を害しておられます訳ですから。冥府へ行くのは初めてですが、ここでお別れかと思います!」


 ガンコさん?



 既に座して死を待つ身の姫島・ダンクコンビ。

 お先に失礼とばかりに次元の裂け目に呑み込まれる。


 煌気オーラ抑制下でなければ、あるいはシャモジとガンコはまだ戦えたかもしれない。

 だが、勝負に、戦争にたらればは禁物。


 ガンコが先に落ちて、シャモジ母さんが最後に呑み込まれると辻堂さんが次元を閉じた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 開眼モード川端さんが「うむ」とひとつ大きく頷いた。


「私の想定と違うな! 敵の親玉と分身が残った!!」

「だったらどうしてしたり顔で頷いたんですか?」


「そうなったか。そうなんだ。そんな悲しい気持ちを込めた。あと、全裸の君に所作についてとやかく言われると冷静さを失って蹴り飛ばしそうだ」

「ふふふふふ! 川端さん! 焦る気持ちはわかりますけど! 大丈夫ですよ! おっぱい童貞だって!!」


 水戸くんは全裸でも童貞捨てた捨ててねぇクソ野郎ムーブを崩さない。

 スキルはメンタル勝負の原則から考えると、この精神力ならばなかなか死なないのも納得。


 そして男爵の名誉のために付言しておこう。

 川端さんは不器用な男だが、30代で一通りのやる事はやっており、致している。


 その上で「やはりおっぱいを尊び、愛でる。これくらいが私にはちょうどいい」という結論に至り、以降は崇高なるおっぱい求道者としての性を、失礼、生を歩んでいる。

 水戸くんは川端さんの事を40代童貞だと考えている。



 川端さんの一真は寡黙なだけで、仕事人としての作法は熟知しているのだ。

 水戸くんの信介は何も知らないわんぱくキッズ。



「かぁー。こいつぁ……参ったねえ! 俺がじい様と仕合うとするかい! ……おい、じい様よ?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛!! 腰がァ! 腰がァァ!! 皇国の一戦、ここにあったぞォ!! 無念であるゥ!!」


「じい様……。俺もあんたと同じくれぇの年齢のはずなんだがなぁ。若返りってありがたいもんだと痛感するねえ。するってえと? 分身の方か! 掛かって来るかい?」


 十四男オリジナル、シャモジ母さんによる乱暴な救助に際して腰を強打。

 老いた身では身体強化とスキル発現を同時にするのはなかなか難しく、それが咄嗟にぶん投げられたタイミングであれば言うに及ばず。


「ぬぅぅ……。無念、無念なり。現世の剣士よ。我はアバタリオン。オリジナルが目の前で死にそうなっておれば、無念よ。皇国とオリジナルを天秤にかけ、あまつさえオリジナルを選ぶのであるからして。この魂は偉大なる皇帝陛下によって裁かれるであろう。しかし、やはり我が身は可愛いもの。さらばだ。正面から相対すること叶わず。それだけが未練よ!!」


 十四男・剣は29歳の頃の逆神十四男が顕現した姿。

 情報は他のアバタリオンおよびオリジナルと共有しているが、思考は自律している。


 考えて欲しい。

 29歳の時分、年老いた70オーバーの自分が腰を押さえて「あ゛あ゛あ゛」とこの世の終わりみたすな声を上げている姿を見て、現場に立ち会って、「よっしゃ。それはそれとして使命を果たすか!!」と気持ちを切り替えられるだろうか。


 切り替えられる人もいるかもしれない。


 だが、十四男・剣には無理だった。

 ちょっと分かる。


 十四男・剣が自身を煌気オーラに分解したのち、十四男オリジナルの体へと舞い戻る。

 逆神十四男の体が眩しく輝いた。


「一真! どうするんだい!?」

「辻堂さん。先ほどの極大スキルをもう一度お願いできませんか?」


「おめぇさん……。先ほどのって言うがね? 1分前にぶちかましたもんをすぐにやれってのは、ちょいと図々しくないかい?」


 1話前ではありません。

 1分前です。


「川端さんはダメですね! ははは! この老人ほどの使い手なら、次元に落としても出て来ちゃいますよ!」

「君はどうして知った風な口を利くんだ。水戸くん。全裸で」


「あ。自分、ここに来る前に辻堂さんから次元の狭間に落とされてるんで! 意識は混濁してましたけど! なんとなく感覚は覚えてます!」


 水戸くんは津軽ダンジョンでなんか爆発しそうになったところを辻堂さんに次元の狭間で処理されております。

 仁香さんの曇った顔とセットで堪能できますので、気になった探索員の方は記憶の回廊へとお進みください。


 川端さんが煌気オーラを高める。

 辻堂さんは消耗が激しい。

 ナディアさんとライラさんを戦わせる訳にはいかない。



 水戸くんに頼るくらいなら自爆した方が良い。



「下がっていろ。水戸くん」

「ははは! 川端さん! 自分がステージを追い越しちゃったからって! そんな功を焦らなくても! ははははは!!」


 「やっぱり水戸くんを抱きつかせてサイバイマンみたいに自爆させようか」と川端さんの意志が揺らぐ。

 役に立たないどころが戦意喪失という邪魔まで始めた水戸くん。


 彼が前線サブタイへ出るだけでこの世界の衰退ぴーぶいがへる事に繋がるので、いっそやっちまえば良いのに。


「はっ!! 待ってください!! この気配は!!」


 水戸くんが体は前を向いたまま、ぐりんと首だけ200度くらい捻じって振り向いた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 神妙な面持ちで立っている仁香さんがそこにはいた。


「仁香すわぁん! ちょっとおっぱいよろしいですか!!」

「……あ。はい」


 そして覇気がない。

 水戸くんに対しての嫌悪感まで失くしている。


 ここに来る道中で仁香さんはザールくんとリャンちゃん、3人で話し合っていた。

 結論もとっくに出ていた。



 「私がやりました。浮島の動力炉を停止させるどころか! コントロール不能に!! 目を逸らしてましたけど! もう私も水戸さんと同じカテゴリーです!! 今後はお排泄乳とか呼んでください!!」と、自分のやらかしを理解して、自己嫌悪に陥っていた。



 それを察したナディアさんが立ち上がる。


「えっ? あんた、このタイミングで!?」

「わー。仁香さーん。自分を責めちゃダメですよー。わたしなんてですねー。フランス時代にうっかり機密データの入った端末の上にカップラーメンを置いちゃいましてー。ばしゃってなってー。おばあちゃんが泣いてましたー。たはー」


「あんた、自分の失敗談であの子を慰めてるつもりなんだね? それ、意味ないよ? 何ならおばあちゃんが泣いた件とか、追撃だよ?」

「えー? そうなんですかー? むー。じゃあ、おじいさんを味方にしましょー」


 未だに腰を押さえてビクビクしている十四男。

 アバタリオンを3体出す前からこの老人は「あ゛あ゛あ゛」と叫んでいた事を諸君は覚えているだろうか。


 万全の状態でも満身創痍。

 ならば3分割した内の1体の煌気オーラが戻ったところで、腰は痛い。


 十四男の鼻先の空間が歪むと、氷に覆われた大地とそこを滑るペンギンさんが映し出された。


「とおー。即興スキルー。『上から見た世界ライラライラライラ』ー!!」

「おおおい! なんであたしの名前付けんの!? 適当にもほどがある!! これ記録に残るんじゃないの!?」


「ライラさんはどうせ名前変わるじゃないですかー」

「あ! ホントだ!!」


 ナディアさんはやらないだけで、やったらデキる乙女。

 浮島ごと落ちて死ぬのも、ストウェアがなくなるのも困る。


 ならば敵の総大将を懐柔するのである。


 彼女は御年79歳のミリエネ・クレルドー上級監察官を懐柔してフランスに復籍を果たした乙女。



 年寄りを口車でコロコロするなら任せとけ。



「おじいさーん。これ見てくれますかー? ペンギンさんですよー。この子たちー。どう思いますー?」

「あ゛あ゛!! すごくゥ……可愛いィ……!!」


「この可愛い子たちのいるところにですねー。今からー。わたしたちが墜落しますよー。あー。アザラシもいましたねー。可愛いですよねー」


 十四男が目を閉じた。

 巡り巡る皇国、バルリテロリでの思い出。


 続けて目を見開いた。


 トコトコ走るペンギンさん。

 まったりしているつぶらな瞳のアザラシさん。


「陛下ァァァ!! この十四男をお許しくだされェ!! このように愛らしい生き物をォ! バルリテロリが原因で死なせるなどとォ! これは陛下の御本意ではなきはずゥ!! これより我はァ! 十四男ランドを放棄しますぞォ!!」


 お年寄りには動物さん。

 ライアン・ゲイブラム氏で既に正答を得ていた事実。


 やる気を出したナディアさんには簡単すぎる問題だった。

 じゃあ最初からさっさとやれと申されるか。


 ナディアさんがやる気出したの、さっきなので。

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