第1011話 【ストウェアチームの集大成・その5】今度はいいヤツに生まれ変われよ ~さようなら、姫島幽星とダンク・ポートマン~

 まずは仁香さん隊の現状から。

 ほんの1分前の事だが、1分経てばアレがナニしているのがこの戦局。



「……ごめんなさい。あの、私。えっと。違うの! だって、光ったから! ここを押したら良いのかなって思って! ……リャン? 私を殺してもらう事ってできる?」


 仁香さんが何かをやらかしたご様子。



 十四男ランドの動力炉脇にあるコントロールパネルは実に単純。

 逆神十四男が構築したものであるからして高齢者に操作できなければ本末転倒も甚だしく、本来はバルリテロリ臣民たちのシェルターとして運用される予定だった浮島は構造そのものが極めてシンプルに造られている。


 そこに「せめて複雑にしてやる! コナンの『時計じかけの摩天楼』をこの前見たんだ! 赤と青のボタンを増やして混乱させてやるぞ! ひっひっひ!!」と東野カサゴが悪あがき。

 赤いボタンも青いボタンも押したところで特に何も起きず「なんやねんこれ!」と少しくらいイライラさせられたら良いなという、姑息な最後っ屁だったのだが。


「仁香先輩は悪くないです! 光ったら押します! 私だって!!」

「はっ。リャンさんの意見に賛同いたします。確かに、同時に光れば押すべきかと愚考いたしますれば」


「……ごめんなさい。力いっぱい押してしまいました」


 ピカピカ光っているのが気になっていた機械音痴3人衆。

 動力炉を停止させなければという焦りも少なからずあっただろう。


 仁香さんが隊を預かる者の責務を果たすべく「押しちゃおう!!」とボタンをポチッた。

 全力で。


 つい先ほど、仁香さんダークネス・ハーフでカサゴをボコボコに打ち倒した彼女。

 なんか余韻が残っていたらしい。


 コントロールパネルごと逝っちまった結果、操作するための端末が物理的消失するに至り、1分前から「エマージェンシー。エマージェンシー」と90年代の洋画のクライマックスみたいな赤色灯がチカチカしながら仁香さん隊の3名に「やっちまった」という後悔と自責の念を押し付けていた。


「仁香先輩! 私思ったんですけど、これって動力炉を停止させた事になりませんか?」


 リャンちゃんがぴょこんと元気よく挙手して希望を抱かせる事を言う。


「そ、そうかな!? なるかな!?」


 仁香さんはバルリテロリとの戦争でかなり心に負担を強いられている乙女。

 心が胸に宿るとすれば、おっぱいに負担がかかっている。

 これ以上彼女のおっぱいへの負担は忍びないので、こちらで結論だけそっと置いておこう。



 普通に降下プログラムの停止ができなくなっただけです。



「リャンさんの仰ることは一理あるかと。操作端末を破壊してしまえば以降のコントロールは受け付けなくなるわけですから。つまり……ん?」

「で、ですよね! ザールさんもそう思われますよね!! さすがリャンの選んだ人!! とっても知的!! うちの宿六とは大違い!!」


「……………………」

「ザールさん? どうされましたか? あ! 肘の傷が痛むんですか!? 待ってくださいね! チャイナ服で間に合わせます!!」


 ザールくんの沈黙にすぐ反応するリャンちゃん。

 チャイナ服のヒラヒラしたところがまた少しなくなった。


「あ、いえ。リャンさん。それ以上ちぎられるとよろしくないかと」

「私は気にしません! ザールさんのお怪我は私のせいですから!! 下にスパッツ穿いてますし!! ささ、ザールさん!!」


「あれ。リャン? いつの間にかスプリングさん呼びじゃなくなってる。……いいな」


 ザールくんだけは少し真実に肉薄していた。

 「仮に降下を阻止できていない場合。私たちは自ら退路を破壊したのでは? ……いや、未熟者の机上の空論など塵に同じ。そうでしょう? 我が師、バニング様?」と、現実から目を背けてリャンちゃんのチャイナ服のヒラヒラしたところを肘に巻き付けられている青年戦士。


 十四男ランドは堕ちます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 「エマージェンシー。エマージェンシー」という縁起の悪い機械音声は当然だが介護ルームにも響いていた。

 浮遊要塞の艦橋にエマージェンシーコールが届かなければそっちの方がよっぽどエマージェンシーである。


「あ゛あ゛! えまーじぇんすぃーは良くないィ! それはとても良くないからであるゥ!! シャモジィ! えまーじぇんすぃーをどうにかするのが良いのではないかァ!!」


 十四男は皇国の守護者として大変忠実で喜三太陛下を崇拝している。

 その点を除くとただの気のいいおじいちゃんなので、縁起の悪い音がしたらば原因を突き止めようとする。


「十四男様!! これは良いえまーじぇんすぃーです!! 皇国のためになります!!」

「そうなのかァ! ならば良いかァ!! だが、乗員に危険がある場合は良くない気もするがァ!? シャモジィ!! その辺りの説明を聞かせてふへふは」


 ガンコが床から生えている入れ歯をサッと収穫して十四男に届ける。

 ここに来て介護ルームがちゃんと介護ルームになって来た。


「一真ぁ! どうすんでい!?」

「ナディアさん! どうしたら良い!?」


「いや、一真よ? お姉ちゃんたち隠れてんだから。おめぇさんは謎の感知能力で場所が分かるかもしれねえけども。そっち向いて聞いちゃあいけねえだろうよ」

「くっ! しまった!! おっぱいが私を! 私を導いたのです! つぁぁ! 『乳液にゅうえき』!!」



「こりゃあ……ダメかもしれないねえ……」


 戦闘狂の辻堂甲陽にダメかもしれんと思わせた川端さん。

 おっぱい男爵はやはりモノが違う。



 呼ばれてしまったナディアさんが立ち上がる。

 隣でライラさんが「なんでぇ!?」とツッコミを入れる。


 この2人はずっと仲良くやっていけそう。


「川端さーん。ちょっと無理っぽいですよー? わたしたち、浮島の降下を防ぎに来たんですけどー。もう落ちるっぽいですー。方針転換してですねー。わたしたちは脱出して、浮島をどうにかする事を考えた方が良いかもですー。下にはストウェアありますしー。わたしたちの家ですよー」


 川端さんが膝から崩れ落ちた。

 己の無力さを呪ったのか。


 否。


「くそぉぉぉぉ!! ナディアさんがぁ!! パーカーを羽織っているぅぅ!! これがぁ! これが貴様らのやり方かぁ! バルリテロリぃぃ!!」


 自分を導いてくれるおっぱいがデバフ喰らっていた結果、それを確認して秒に満たない速度で自身もデバフを喰らったおっぱい男爵。

 ナディアさんが「もー」とため息をついて、パーカーを脱ぎ捨てる。


「ひー。寒いー。ほらほらー。川端さーん。帰ったらタッチしても良いですよー」

「ナディアってすごいわ。あたし、中身はあんたの2倍近い年だけどさ。心の底から尊敬する。自分が楽するためならおっぱいとか躊躇なく出すもんね!!」


 瞬間、川端さんの乳脳細胞ニューロンが活性化した。

 駆け巡るは選ばれし者だけが生成できる脳内物質・おっぱニウム。


 川端一真監察官、開眼。


「ふっ。バルリテロリの侵略者たち。諸君の相手をするのは後だ。我々は一旦退かせてもらうとしよう」

「おーっほっほっほ!! 戯言も聞き飽きましたが、面白い事も言えるのですね! 皇敵!! それをさせると思いますか!?」


 シャモジ母さんが喋っている間に川端さんは『蹴気弾しゅうきだん』で天井を撃つ。


「ぎゃああああああ!! なんで吾輩!?」

「くくっ。某もか!!」


 役立たずコンビが落ちて来た。


「ダンクくん。姫島。君たちをフランスに連れて行っても良いと考えている」

「え!? そうなのか!? 川端!! さすが侍は懐が深いぜ!!」

「くくっ。もう下着泥棒からは足を洗おう」


「条件がある」

「何でも聞くぜ! 吾輩!!」

「くくっ。良かろう。サドル泥棒からも足を洗おう」


「姫島。お前は敵に向かって派手にスキルを使いながら突っ込め。ダンクくん。君はその間隙をついて極大転移スキルだ」


「えっ」

「えっ」


「ダンクくんのスキルの特性は理解している。準備に時間がかかるな? だが、君自身を転移スキルの中心にしてしまえば話は別だ。転移先は異空間。つまり、同じ場所で転移を繰り返す。君が基点となり、終点にもなるから煌気オーラが尽きるまでループする。そうだな? 辻堂さん。ダンクくんが転移スキルを発現した瞬間にその煌気オーラ力場ごと異空間へ叩き落としてください。そうすれば仮にダンクくんが死んでも時間は稼げる」

「ほおおー! 思い切った事を! ここで一皮剥けたかい! 任せな! 一真!!」


「えっ」

「えっ」


「選択肢はない。シンキングタイムもない。やるかやらないかもない。やるんだ」


 おっぱい征夷大将軍が覚醒すると、甘さがなくなる。

 続けて川端さんが言う。


「君たちを背中から蹴りたくないが。あと30秒で行動に出ない場合は私が極大スキルで君たちごと蹴り飛ばす」

「えっ」

「くくっ。某たちを蹴り飛ばす意味を聞きたい」



「君たちが急に飛んで来たら絶対に隙ができる。私なら隙だらけになる」


 確かにそうかもしれん。



 是非に及ばずとはかくあるべしか。

 ダンクくんが涙を流しながら自身を煌気オーラ力場の中心に固定する。


 姫島さんが「くくっ。異空間に下着かサドルはあるか?」と聞くが、川端さんは「ある訳ないだろうが。この変態野郎」と突き放す。


「くくくっ! さらば今生!! 『無刀手刀高血圧二百二十セルフハイプレッシャー・エンド』!!!」

「ばぁぁぁ!? 姫島ぁ!? 吾輩のタイミングがあるのにぃ!! なんで吾輩を掴んで特攻すんの!?」


「くくっ。ひとりぼっちは寂しいものよ」

「ふたりぼっちも寂しいわ!!」


 血圧スキルで推進力を確保した姫島ミサイルがダンクくんを握りしめて敵陣に突撃する。

 十四男の介護のためガンコは傍に控えており、その十四男が標的になった事でシャモジ母さんは護衛のために馳せ参じる。


 川端さんの掌の上でみんながダンスしていた。


「今度生まれてくる時は、高潔な生き物になるんだぞ。その時は私のポイントカードをあげよう。もう必要ない」


 川端さんが胸ポケットから『OPPAI』のスタンプマックスポイントカードを3枚取り出して、握りつぶした。


「悪いな! 幽星! ダンク!! どうにか死ぬなよ!! 『甚大断絶ヘル・ブレイク』!!」


 辻堂さんの極大スキルが光った。


 その輝きは私がおっぱいへと向かう道しるべであった。(出典『あの日見たおっぱいの名前を私は全て記憶している』第2章『OPPAIとの決別』より 川端一真著 フランス探索員協会出版)

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