第1010話 【ストウェアチームの集大成・その4】身元保証人不在軍団ストウェアVS皇国に戻る方法がない十四男ランド ~みんな行き場がない。それって社会の縮図になりませんか。~

 その頃の仁香さん隊。


「せぇぇぇやっ! 『一陣の拳ブラストナックル』!!」

「続きます! 『迅速竜巻脚ソニックサイクル』!!」


 動力炉を探して十四男ランドを走っていたところ、ご丁寧に「早く降下させるんだよ! ババアがうるせぇんだから!!」と東野家おさかなネームド軍団にデカい声で指示を飛ばしている東野カサゴが「あ。絶対にあの人、敵だ」と仁香さんに見つかる。


 東野家おさかなネームド軍団に「相手はたった3人だ! まとめてやっちまえ!!」と命令するカサゴ。

 自軍もたった3人だった事に気付いたのは祭の後である。


「ひげぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「あかん。あかんかー」

「幻滅しました。東野家の親戚ヤメてこっちのチャイナ服女子のファンになります」


 ザールくんが「私は余力がありますので!」と先陣を務めると「では私はサポートします!」とリャンちゃんが続く。

 さっき会ったばかりのはずなのに相性ピッタリな2人。


 ササっとカサゴ以外のおさかなネームド軍団を壁に突き刺した。


「良いだろう! この東野カサゴ! バルリテロリ分家の男として! 子供部屋おじさんとして!! この綺麗な姉ちゃんに抱きついてなんやかんやしてやる!!」


 もうどれが誰がのなのか分からない東野家のメンバーが悲鳴1つでやられたので、カサゴが前に出る。

 仁香さんを相手に大将戦。


 ちなみに東野カサゴはそこそこ強いが十四男・拳と比較すると存在が消失するくらいの強さなので、先ほどダークネス化してその猛者を退けるどころかこの世から消した仁香さんと相対した時点で死神がにこりと微笑む。


「ふふふふふ! さてはお前! 痴女だな!! そんなえちちな恰好で戦うとは!! ふふふふふふ!! ……一緒にバルリテロリで暮らさないか? 金ならあるぞ! あと田んぼも!! 手の平に収まるサイズのおっぱいがまた良いじゃあないか!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 仁香さんがダークネス化せずに煌気オーラ爆発バースト

 ザールくんとリャンちゃんが嵐の気配を察知して壁際に避難する。


「リャンさん、私の後ろに。私も人の戦いにアドバイスできるほどの実力はありませんが、あなたは少しばかり防御が脆い。私が守らせて頂きます」

「わっ! ありがとうございます!! 頼りになる背中を見たら抱きつけと仁香先輩が言っておられたので! 失礼します!!」


 多分言ってません。


 ザールくんと密着するリャンちゃん。

 仁香先輩の煌気オーラがちょっとだけ黒くなった。


「……うちの宿六は! おっぱい見る時でも! 一言、おっぱいよろしいですか? って聞いてくれるんですよ!! 無許可で直視して、あまつさえ批評しないでくれます!? 触った事もないくせに!! うちの宿六は触診してから批評しますからね!! い、一応、褒めてくれますし!!」


 少しだけ症状が悪化した気配を見せる仁香さん。

 黒い煌気オーラを纏った拳が閃いた。


「あひっ!? ひゅべ」

「バルリテロリの人って速さが足りないと思います。うちの宿六の方が速いです。あの人、私が監察官室でちょっと胸元の汗を拭ったらすぐに飛んで来るんですからね!! ……『音速乳神拳おんそくNEWしんけん』です」


 東野カサゴが無数の黒い拳撃でズタズタにされた。

 おっぱいに関して感想を述べる余力もなかった様子。


「……ここが動力炉ですね。……リャン? 何してるのかな?」

「はい! 私のおっぱいは攻撃力が低いので! とりあえず押し付ける時間を長く取ろうかと思いました!!」


「青山様。全て私の不徳の致すところです。どうかリャンさんを処罰する前に、このザール・スプリングをお討ちください……」

「あ、いえいえ。全部うちの宿六がおっぱいについて間違った見識を流布したのが原因なので。ちょっと爽やかにイチャイチャしてるの羨ましいなとは思いましたけど。この戦局ではもう前後不覚に陥りません」


 と申されたか。


 仁香さん隊が十四男ランドの動力炉を確保。

 だが、カサゴも普通にぬっ殺されただけではない。


「ええと、私コンピューターに疎いんですけど。これって叩いたらいい感じですか?」

「了! 私が蹴ります!!」

「私もスマホを扱えるようになって時間が浅く。水をかけてみますか?」


 コントロールパネルに細工をしていた、とお伝えしたかったのだが。

 仁香さん隊が全員機械音痴という哀しい事実が判明した。


 十四男ランド、依然として降下中。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 介護ルームでは激戦が苛烈を極めていた。


「ぬうう! 現世の剣士!! お主、なんともなんと! 奇妙な剣技を扱う!! 有事でなければじっくりと見に回りたかったが!!」

「おめぇさんは正統派だねい! ここまで実直な剣筋、剣捌き! さぞかし修業したんだろうな! 俺もおめぇさんとはじっくり仕合いたかったね!!」


 辻堂さんは十四男・剣と刃を交える。

 煌気オーラ抑制下の戦局において、十四男・剣だけは既に独立したアバタリオンとして動いているため戦闘力が下がっていない。


 雷門クソさんが煌気オーラを抑制されて雷門クソザコさんになっても、雷門クソさんが出した土器の強度は下がらないのと同じ理屈である。

 雷門クソさんは煌気オーラに関する説明の例としてこの上なく優秀。


 話を戻して、傑出した剣士がいれば同じ剣士として辻堂甲陽が打って出ない理由がない。


「ぬうううう!! 剛剣にて奇剣は払う!! 『皇国万歳斬バルリテロリぎり』!!」

「言うだけの威力があるじゃあねえの!! すまんが、俺ぁ搦め手も使うぜ? 今は頼れる仲間ってのがいるんでな!! 『大断絶だいブレイク』!!」


 真っすぐに皇敵を斬る十四男・剣。

 それを空間ごと裂いて呑み込む辻堂さん。


 十四男・剣は十四男オリジナルからの煌気オーラ供給が途絶えているため、スキルの連打は存在そのものを揺るがすリスクを抱える。

 対して辻堂さんも煌気オーラの残量は心許ないため敢えて一撃必殺の構えを捨てて、ひとまず相手のスキルをいなしつつ出方を考える。


 時間勝負の戦局で膠着状態。

 背中を任せる仲間がいる辻堂さんの方がやや有利か。


「つぁぁ! 『乳液にゅうえき』!!」

「川端さん! 自分にもお願いします!!」


 背中を任せたくはない感じのメンツだった。


「水戸くん。君は充分に潤っているから安心して戦うと良い」

「そういえばそうですね! なんですかね、このヌルヌル!! ちょっと気持ちいいですけど!!」


 保湿に余念のない川端さんとなんかヌルヌルしている水戸くん。

 シャモジ母さんの繰り出したスキルを喰らっているのが水戸くん。


「おーっほほほ! まずは1匹!! 『脂塗れシタゴシラエ』を喰らった以上! 終わりですよ!! 『杓文字極獄炎払いシャモジアチアチスラッシュ』!!」


 可燃性の液体を浴びた水戸くんに炎熱の杓文字が迫る。


 杓文字とは。



「ヴィィィィィィィィィィィィィィィィィ!! こんな事もあろうかと!! 仁香さんのおっぱいを凝視して! 瞼に焼き付けて来たんですよ!! 効かないぞ!!」

「おーっほっほっほ!! ……どうしてそれで炎を防げるのですか?」


 分かりません。



 水戸くんはお排泄物属性。

 諸君もご存じの通り、この世界では正統派な戦い方をする一部の猛者に対してお排泄物が特効的な作用をする事がある。


 シャモジ母さんは過激極まるが、根底は「皇国のため」という高潔な思想。

 対して水戸くんは「さっきはおっぱい見るついでに匂いも嗅げた! ふふふふふ!!」と高潔の真逆を行く、下劣な思想。


 戦いの最中におっぱいの思い出を反芻させている。


「わー。大変ですねー。あそこには加わりたくないなー」

「あたしら隠れてていいの? 1人さ、あそこのピンクの恐竜みたいなヤツが溢れてるけど? まずいんじゃない?」


「えー。でもですよー? わたしがスキル使ったらー」

「まーたバレて戦うの面倒とか言うんだろ。あんた、良くないよ? そういうの」



「ライラさんが標的になって死んじゃうかなーって」

「あたしの心配してくれてた!! でもナディアのシミュレーションで助けてはもらえてない!! 優しさが中途半端なんだよ!! もういい! じゃあ、あたしがやる!! 『隠密お草ヒソヒソおハーブ』!!」


 こっそり水着乙女たちも参戦中。



 ガンコに伸びる草とツル。

 だが、ピンク色の彼女はそれに気付いているにも関わらず対応せず、十四男に向かってスキルを発現中。


「十四男様! 御身を煩わせて申し訳ありませんが! 私の精一杯です! 『とりま所得税減額やフライングウェイトアタック』!!」


 ガンコは重力スキル使い。

 対象を重くする事もできるが、軽くする事もできる。


 十四男は寄る年波によって、体が常に重い。

 この重いは重力的なヤツではないが、メンタル勝負がスキル使いの鉄則。


 信じれば思いは伝わる。


「あ゛あ゛あ゛!! 体がァ! なんかちょっと軽いィ!! これならばァ! ワシも動けるぞォ! 皇国の危機にこの老体がァ!! お役に立つ時ィ! ほれはひはぁ!!」

「十四男様! 入れ歯が外れております! スペアを! 生えているものから拾われてください!!」


 逆神十四男・オリジナルが起動。


 辻堂さんがすぐに対応を試みた。


「なんでい? あのじい様を落としちまえば! 悪いがサクッと行かせてもらうぜ! 空間彎曲!! 『常闇斬とこやみぎり』!!」


 次元を削って距離を無視した辻堂さんの斬撃が十四男を捉える。


「ぬぅぅぅァ!! 『爺衝撃ジーショック』!!」

「かぁー!! もしかしたらと思っちゃあいたが! あのじい様も正統派かい! ただの煌気オーラを溜めた掌底で俺の斬撃打ち消しやがった!!」


 十四男・オリジナルはアバタリオンたちが輝いていた時期を全て経験している。

 老いによってパフォーマンスが低下し稼働時間も短くなっているだけで、短期戦であれば充分に強い。


「あーあー。ライラさんがピンクの恐竜さんをちゃんと仕留めないからですよー」

「え゛。あたしのせい?」


「どうするんですかー。負けたらー。運よく捕虜になってもですよー? わたしたち、身元不明なんですからねー? 誰も引き取ってくれませんよー?」

「え゛っ?」


 深刻な事を急に申告されたライラさん。

 ちょっと絶句する。


 ここにいる人たちは敵も味方もほとんど全員が「どこの誰だかよく分からんヤツら」に分類されるのであった。

 ついでに南極もどこの誰のものだかよく分からん土地である。


 恐らく、ペンギンさんが生殺与奪を握っている。たくさんいるから。

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