第1008話 【ストウェアチームの集大成・その2】今、おっぱいの揺れる気配を感じた。 ~またおっぱいの話してる~

 十四男・拳との戦いを終えた川端隊。

 強敵を相手にした割にはメンバーがみんなそこそこ元気であった。


「すみませんでした。本当に……。私、なんだか色々な事が頭の中でわーってなっちゃって……。まさか作戦行動中に前後不覚に陥るなんて。自身の未熟さを思い知りました。あの……リャン? 私を殺してもらう事って可能かな?」

「仁香先輩はストイックでとても憧れます!! まだまだ学びたい事はたくさんありますので! どうかご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします!!」


 しょんぼりして反省しきりな仁香さん。

 そんな先輩を素直に称えるリャンちゃん。


 形はナニがアレしてちょっとモニョっていたものの結果的に仁香さんの大覚醒によって十四男・拳を退けてなお、部隊に余力が残っているという幸運。

 十四男・銃をストウェア残留チームの全員とワチエくんとダズモンガーくんの犠牲で倒した事を考えると、仁香さんの心は曇ったもののこの上ないと評価しても良い戦闘だったはずである。



 はずである。



「リャン……! あの! ごめんね! リャンに急なラブコメが来たから……私……。それも絵に描いたような理想の男性だったから。ちょっとだけ、私、あなたに嫉妬して」

「私も実は普段から仁香先輩を独り占めしている水戸さんに嫉妬しています! では、これでおあいこですね! そしてお揃いです!! とても光栄です!!」


 仁香さんが涙目になりながらリャンちゃんを抱きしめた。


「水戸くん」

「あ、はい。なんですか? 川端さん」


「君がどうしてこんな短時間で普通に復活しているのか。どうして君みたいなのが青山さんに良くしてもらえるのか。公然と戦闘中にセクハラしているのが自分と同格の監察官なのは哀しいとか。まあ、色々と言いたいことはある」

「はははっ。川端さん。いい年なんですからそんな些細な事に引っ掛からなくても!」


「君もいい年だろうに」

「いやー。しかし、自分が壁に刺さっている間にザールくんがちょっと良い感じになっているとは! 人生の先達として誇らしいですよ! まずはおっぱいの拝み方を教えてあげないと! ふふふふ!」


 繰り返しお伝えしております。

 ザール・スプリングくんはアトミルカ在籍時に女子から大変モテておりました。


 閉鎖的なテロ組織のアトミルカですが、どんなに閉鎖しても人の性というものは密閉できないため、戦時下だろうが世界を相手に喧嘩していようがヤる時はヤるのです。


 ザールくんはもう結構な数を致しております。

 リャンちゃんに対する紳士的な余裕のある対応もその経験ゆえなのかもしれません。



 童貞クソ野郎のマウント取りについては温かい目で見守ってあげてください。

 男子高校生から男子大学生の時分にはたまにこんな子が出現するものなのです。


 こいつ34ですが。



「青山様。こちらをお使いください」


 紳士でイケメンなザールくん。

 持参した【黄箱きばこ】を取り出した。


「あ。これって逆神くんのおじい様が造っておられるヤツですか?」

「ご存じでしたか。最後の1つですが、どうぞ。青山様は私よりもはるかにスキル使いとして長けておられる。まだ戦いは続きます。私が周囲を警戒しておりますので、回復なさってください。1分とかからずに済むはずです」


 仁香さんが頷いて【黄箱きばこ】から湧き出る煌気オーラによる回復を開始。

 リャンちゃんに微笑んだ。


「いい人と出会えてよかったね、リャン! 私ね、本当に嬉しい! ただね。本当にって繰り返して申し訳ないんだけど。本当に羨ましいの! ……時々、ザールさんのダメなところの話を聞かせてね? 私も宿六のダメなところは両手じゃ抱えきれないほどあるから」


 隣の芝生は青く見える。

 ただ、この場合は本当に隣の芝生が青々としており、自分の芝生は枯れた茶色にしか見えないので、今後のリャンちゃんによる先輩のメンタルケアに期待をかけるしかない。


「むっ!!」

「どうしたんですか、川端さん。そんな急に力んで。お腹痛いんですか?」


「君は本当にダメになったな。分からないのか!?」

「……あ! なんか高出力の煌気オーラが結構な数いますね!!」



「違う!! おっぱいの波動を感じないのか! ダメなヤツだな、水戸くん!! これは……!! ナディアさんのおっぱいの揺れだ!! 彼女が浮島に上陸している……!!」

「自分、川端さんの一貫した態度はやっぱり少しだけ尊敬してます」


 日本の監察官は早く世代交代を進めるべきかと思われた。


 川端さんはFAだし、水戸くんに関しては世代的に若いが更迭されそうなので放っておいていい気もするが。



 川端さんがナディアさんのおっぱいの揺れを感知。

 煌気オーラ感知よりもずっと高度な技術だが、不思議と習得したいとは思わない第六感。


「……やむを得ないか。青山さん。回復具合はどうだ?」

「はい。8割程度は煌気オーラも戻りました。水戸さんが服を着てくれたら10割を超えそうなくらいにはコンディションも良いです」


「そうか。では、これより部隊を分ける」


 ザールくんが少しだけ差し出口を挟む事にした。


「あの。既に部隊を分断されているとお聞きしましたが。これ以上の個別行動は各個撃破されるリスクも大きいように感じます。敵の拠点ですし、残存兵力も不明瞭ですので」

「スプリングくん。君の言う事はとてもよく分かる。だが、これから私の言う事もきっと君にはとてもよく響くはずだ。……私の母になるおっぱいがピンチなのだ。分かるな?」


 ザールくんは少しだけ考えた。

 少しが1秒に満たない時間だったのは、青年戦士も自分でちょっと驚いた。

 「おや。私は感覚で返事をしようとしている。我が師、バニング様。あなたの進まれた道が僅かですが垣間見えた気がします」と師であり親であるバニングさんに念を送ってから答える。



「分かりかねますが、分かりました」

「そうか。君もこれで立派なおっぱい貴族だ。生きて帰ったら爵位を与えよう」


 日本本部と共闘する事の意味を学ぶザール・スプリングくん。



「私はこれから水戸くんを連れてこの浮島の艦橋へと戻る。青山さんにはリャンさんとスプリングくんを連れて、動力炉の破壊を任せたい。先ほどの戦闘で確信した。戦力について私を1とした場合、君は8くらいある。頼めるか?」

「了! ご迷惑をおかけした分、青山仁香! 拝命します!!」


 仁香さんが元気に敬礼した。


 自分がこの局面でなお監察官に指揮権を委任される誉れに。

 あとはもっと大事。


 水戸くんと離れられる僥倖に。

 「ちょっと冷静になりたいな」と考えていたので、描いた設計図がそのまま形になった事を世界に感謝した仁香さん。


「川端さん。見損ないましたよ」

「私はとっくに君の事を見損なっているが。それでも君は戦力としてまだ数えられる。いいか、水戸くん。愛するおっぱいの前で奮闘するだけが男じゃない。おっぱいは離れている時でも我々を見守ってくれている。その意味が分かるか?」


「はっ!? 離れた時間がおっぱいとの絆をより固くするということですか!? 自分の信介も固くなると! そうおっしゃるのですか!?」

「君の信介はあまり元気ではなさそうだが、まあだいたいそうだ」


「いえ? 信介は元気ですよ?」

「ああ。そうか」


 水戸くんが再びおっぱい教にちょっとだけ足を踏み入れ、ちょっとだけ川端さんの教えに感銘を受けた。

 これは腐った性根の是正が始まるのか。



「川端さんってステキな上官だね! リャン!!」

「はい! 私に体術を教えてくださった、頼れる監察官です!!」


 仁香さんの中では川端さんの評価が爆上がりした。



 こうして川端隊がさらに分かれる。

 十四男ランドの動力炉破壊を旨とした仁香さん隊。


 火中の栗を拾いながらおっぱいのガードをするために格上しかいない戦場へ舞い戻る、おっぱい監察官コンビ。

 方針が決まればすぐに動く。


 1分刻みの戦局なのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 川端さんと水戸くん(全裸)が介護ルームかんきょう目指して移動を開始。

 2分もあれば到着するだろう。


 だが、それよりも早く介護ルームに来訪者。


「シャモジよ。我は助太刀に参った。拳が呆気なく死んだゆえ、これはオリジナルの守護をすべきかと思うてな」


 十四男・剣が先に現着。


「おーっほっほ! さすがは十四男様のアバタリオン様! 素晴らしいご慧眼です! わたくしたちは南極大陸を占拠し、現世の戦力をこの僻地に集結させる事が目的!! ならばここで時間稼ぎのような戦いをするのもまた正答! たっぷりと実力者を削ったのち、堂々たる現世への上陸を果たしましょう! 皇国ここにありと現世の民に知らしめるのです!!」


 介護ルームの戦局が一気に悪化。


「かっかっか! こいつぁ……ちょいと参ったねえ! 俺もここまでかい? 負け戦ってのも嫌いじゃねえが! 散るなら散るで、派手に逝きたいもんだねえ!! さあて、何人斬れるか!!」


 孤軍奮闘の辻堂甲陽。

 シャモジ母さんとガンコのコンビプレーで劣勢を強いられていたところに、十四男アバタリオンの最後の1人が加わった。


 ここまでの疲労を考えるとそれだけでも敗戦の色が見え始めるが、辻堂さんは基本的に刀一本で戦う剣士特化の使い手。

 多対戦にそもそも向いていない。


「仕合うかい!! まとめて掛かって来ねい!!」


 厳密にいえば1人ではないのだが。



「おいおいおいおい。侍が死んだわ。姫島。お前は同じ侍として助太刀とかしないの? 今なら汚名挽回のチャンスってヤツだろ?」

「くくっ。誤用ではなく汚名挽回してしまいそうではある。まだ預ける!!」


 連れて来たヤツらが本当に役に立たない。



 天井で磔にされている戦力外ストウェアコンビ。

 川端さんと水戸くんの到着を早く望みたいが、それで戦局は好転するのだろうか。


 やってみる前から可能性を語るのは無粋である。

 分かり切った事に「まだ分からんやんけ!!」と現実逃避をキメるのもまた、無粋である。


 なお、頼りになりそうな水着乙女コンビは辻堂さんの意を汲んでひっそりと次の作戦を進めていた。

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