第1004話 【南極の空に乳が凪ぐ・その3】人道的兵器『水戸ミサイル』再び ~仁香さんに迷いがなくなり始めている件~

 逆神十四男の在りし日の姿をした分身体。

 十四男・銃は久坂剣友とストウェアチーム、そしてダズモンガーくんの前に敗れ去ったが、十四男・剣と十四男・拳は健在。


 十四男・銃は65歳だったが、十四男・拳は39歳。

 十四男・剣に至っては29歳。


 若さが強さだとは言わないが、このアバタリオンは逆神十四男が各戦闘スタイルで最も輝いていた時の姿であるため、若い方が単純な身体能力は高く強くなりがち。


「我は艦内を回り不埒者らを討ち取ろうぞ」

「言うが易しぞ、拳。銃が既に死んだ。我らまで使命を全うできなければオリジナルに大変な負荷がかかる」


 『あの頃輝いていた自分トリプル・アバタリオン』は十四男から分離した瞬間にリンクは切れるので、仮に十四男アバタリオンが3人死んでも十四男が死ぬことはない。

 が、煌気オーラの供給などで支援に際して老骨に鞭打つことにはなるため、年老いたオリジナルが「あ゛あ゛あ゛」と悲痛な声を上げるのを聞くのは若い姿をしているもう1人の自分的にちょっと辛い。


「オリジナルは思い詰めておるからな」

「然りも然りよ。65の銃ですら結構な卑屈であった。我らはまだ若いゆえ、拳や剣を振るえば心も晴れるが、オリジナルは責任感で死にかねん」


「うむ。我ら、オリジナルが死んでも動き続けられるが。最終的には消える。オリジナルの死体を眺めて消えるのは」

「然り。後生が悪い。とても、すごく。嫌な気持ちで消える事になる」


 割とドライな分身たち。

 若い頃の自分を振り返って寝る前に「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」となる事は多々あれど、そんな時は若い頃の時分に立ち戻り現状を俯瞰すると良い。


 割とどうでも良くなる。

 そうなったら速やかに寝るべし。



 割とどうでも良くなった後にまた「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」となれば、朝日が昇り鳥さんたちがチュンチュン鳴く頃まで安眠は訪れないだろう。



「では、我は不埒者の殲滅を請け負う。剣はどうする」

「我はシャモジの援護をしよう」


「剣は楽をしようとしておらんか」

「なにを言うか。あそこにはオリジナルがおるのだぞ。むしろ激務よ」


「我が相手にする人数と剣の相手にする人数に開きがあるように感じるが」

「拳。貴官の年齢を現世ではアラフォーと呼ぶらしい。アラフォーは色々な事が気になり始める年頃と言う。あまり気に病むな」


「そうか。やはり若いと考えも思い切りが良いな。委細仕った。我は行く」


 十四男・拳が川端さんたちを追って介護ルーム付近から出陣したのは2分ほど前。

 先ほどから結構なスピードで追いかけてきているのは彼である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「仁香すわぁぁん!! あなたの水戸信介が戻って来ましt」

「はぁぁぁぁ!! 『音速四神拳おんそくししんけん』!!!」



「えぺぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ」


 仁香さんが極大スキルを放ちました。



 念のために川端さんが確認する。


「青山さん。これは水戸くんに見えるが。敵が化けたものだったりするのか?」

「え? いえ? 水戸さんですけど! 嫌だな、川端さんったら!!」


 ちょっとスッキリした顔の仁香さんを見て「ああ。そうか。よし分かった」と返事をする川端さん。

 おっぱい男爵は思った。


 「全てのおっぱいに背き、自分のおっぱい以外を貶すからそうなるのだよ。水戸くん」と。


「…………ザール・スプリングです。久坂剣友監察官の要請に従い馳せ参じました。これより指揮下に加わる事をお許しください」

「そうか。頼もしいな。助かるよ、スプリングくん」


「はっ。青山様。ご指示を賜りたく」

「えっ!? 私ですか!? あの、川端さんが指揮官ですけど」


「え゛。…………失礼しました。川端監察官」


 ザールくんが仁香さんの覇気に屈した。

 おっぱい男爵は寛容な男。


「仕方がない。私でも多分そうなる。気にしないでくれ。とにかく、部隊を分断している現状、君のような増員は願ってもない。1人また死んだしな」

「あ。問題ありません。水戸さんは30秒ほどで蘇生します。前より元気になって。そのために殴りましたから」



「リャンさん。潜伏機動隊では気付に殴るのか?」

「いえ! これは仁香先輩のやり方です! 私も勉強させてもらっています!! さすがです! 常識にとらわれない発想力!! 尊敬します!!」


 川端さんの中でフランスへの渇望がどんどん大きくなっていく。

 もう日本が嫌いになり始めているまである。


 甥っ子と姪っ子が監察官室の留守を預かっているのに。



「仁香すわぁん! ご無事でしたか!!」

「はい。ご無事です。水戸さんはまた服がなくなったんですね」


「どうしてだか、気付いたらこんな格好でして。前後の記憶があやふやなんです……。自分、どうして浮島の壁に刺さっていたんですか?」

「え゛っ。えーと。…………………」


 仁香さんにおっぱい太ももドーピングをキメさせてもらってから、ノリノリでグレートビッグボインバズーカに装填されてぶっ放されたからです。


 ドラッグはアッパー系とダウナー系の2種に大別されるが、水戸くんにとっておっぱいも太もももアッパー系の極み。

 激しい多幸感と高揚感で自我を失くして興奮状態になる。


 水戸くんは監察官。

 探索員は国の認可が必要な準公務員的な仕事のため、この戦争が終わって水戸くんが一級戦功を挙げていたりしたら報告書が提出されるわけで、なんやかんやあって最終的には遠くない将来おっぱいと太ももが日本の法律で禁止されるかもしれない。



 少子化に拍車がかかりそう。



 仁香さんが「どうやって誤魔化そう。さすがにおっぱいを自分から見せるのは……。でも、焚きつけたの私な気もするし。仕方のない人を仕方のない状態にしたのも私な気がしてきた。あれ。もしかして責任取っておっぱいを差し上げないとダメかな」と、放っておけないモードの入口に立ったタイミングでリャンちゃんが叫ぶ。


「後方! 敵です! 接触まで……10秒!」


 十四男・拳が追い付いた。


 責任の所在について考えると、必要のないサプライズを催した水戸くん。必要のない極限スキルで迎えた仁香さん。

 おっぱい監察官室コンビを指さしても良い気がする。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「なんと僥倖。1か所に固まっておったか。本来ならば名乗り、名乗られ、雌雄を決すが慣わしぞ。しかし今は緊急時。礼を失すること、許せよ! 皇敵!! 『鬼動きどう』!!」


 逆神流ではお馴染みの脚力強化で加速する『瞬動しゅんどう』は四郎じいちゃんの代で形を成したスキル。

 喜三太陛下時代から基礎となるスキルは存在しており、名前は『どう』だった。


 それをバルリテロリで発展させたのが『鬼動きどう』であり、『瞬動しゅんどう』の親戚みたいなものなので効果もほとんど同じ。

 つまり、使用者の力量で速度が変わる。


「捉えたぞ。まずは1人!!」

「速い……!! まずい、私が最初に落とされるのはまずい!! フランスへのチケットが!!」


 多対戦では動きの鈍い者から叩くのがセオリー。

 悲しいことに川端さんの機動力はストウェアでの漂流生活によって、水戸くんよりも劣っていた。


「失礼! 『ウォルタラ・スピア』!!」

「むっ!? これは絶妙!! やりおる!!」


 川端さんがおっぱい走馬灯を流しそうになったところで水の槍を構築して横槍を入れたのはザールくん。

 彼は多対戦にものすごく慣れている。


 アトミルカは戦闘員だけでナンバーは1000を超えるほど存在していた。

 彼の最終ナンバーは11。

 指揮を執る回数も多く、戦局を見極める目はバニングさん仕込み。


「追撃します! 『蹴気弾しゅうきだん』!!」

「ほうっ! 奇襲に対して見事な対応!! ぬかったわ!!」


 同じくチームでの戦闘がメインの潜伏機動隊からやって来ているリャンちゃん。

 ザールくんの動きを見てすぐに呼応。


「助かりました。あなたは」

「リャン・リーピンBランク探索員です! スプリングさん!!」


「お若いのに連携攻撃に慣れておられる。力を貸して頂けますか?」

「了! ご指示をください!!」


 ザールくんとリャンちゃんがタッグを組んで十四男・拳を牽制。

 両名とも中距離に対応できる使い手なので相性も良く、素直で相手を尊ぶリャンちゃんと立場にこだわらないザールくんは性格もマッチしていた。


 そんな2人を後方でちょっと曇った瞳に映しているのがこちらの乙女。


「あれ。リャン? なんか急に……。この感じ、知ってるな。佳純ちゃんが津軽で私に喰らわせて来た究極スキルだ」



 あれはスキルじゃありません。



 仁香さんは恋を知らない乙女から、きたねぇ恋を1打数1安打でキメる乙女になったため、ピュアな恋の波動には大変に敏感。

 何かを感じ取る。


「良いんですか! 仁香すわぁん!! おっぱい揉んでも!!」

「いいわけないでしょう!? 服の上から見るだけですよ!! ……おかしいな。なにしてるんだろう、私」


 瞳からハイライトを消しながらもちゃんと戦う仁香さん。

 水戸くんをチャージする。


 これまで煌気オーラをチャージするという表現は多く続けてきたが、ここに来て「水戸くん童貞クソ野郎をチャージ」とかいう謎の技法を使わされるこちらもかなり辛い。


「みなぎって来ましたぁぁぁぁぁ! 今なら自分、飛べる!!」

「じゃあ飛んでください。はぁぁぁぁぁ!!」


「あ! 自分たちもラブラブコンビネーションプレイですか!! いやぁ! 仁香さんも積極的になってきて! 自分嬉しいです! 子供、最初は女の子が良いですね!! 仁香すわぁ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『音速汚八神拳おんそく・お・はっしんけん』!!!」



「ゔぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 人道的兵器。水戸ミサイルが放たれた。



 なんだか迷いがなくなってきた仁香さん。

 勝つためならおっぱいを見せるくらいの身は削る。


 これをする事で水戸くんは強化され、仁香さんは罪悪感をおっぱいで先に相殺するのだ。

 後腐れのない水戸監察官室の必殺技である。


 やったか。


「愉快、愉快! 現世の戦い、実に面白き!! しかし関心せぬ! 女子が軽々に男へ身を差し出すなど!! 自分を大切にせよ!! そしてこの男はなにゆえ戦いの場に裸一貫で駆けつけておる!? まったく愉快!! 理解ができぬ!!」


 やってなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る