第996話 【五の付く親族は嫌いだな・その4】逆神大吾VS逆神五十鈴 ~大吾の名前が左側にいる奇跡~

 逆神大吾。

 逆神家の五代目であり、今となってはちゃんと異世界転生周回者リピーターをやっていたのか怪しくなり始めている男。


 だが、ちゃんとやっていたのである。


 彼は生来のお排泄物気質であるが、若い頃は実力が伴ったお排泄物であった。

 飲む打つ買うの三拍子は10代で揃えており、遊ぶ金欲しさにスキル使いとしての研鑽に励み、「帰って来たら好きにやって良いから」と育成失敗した四郎じいちゃんに言われて周回リピートをキメている。


 道中で何人か被害者も出した。


 五楼姓だった頃の京華さんは大吾に師事してしまうという拭いきれない汚点を残し、何なら来世まで持ち越すかもしれないトラウマも抱えていたが、南雲修一というデキる男と夫婦になって心の平穏を得るに至った。


 逆神アナスタシア、旧姓はアナスタシア・ピュグリバー。

 彼女に関しては当人が好んで抱かれて、好んで結婚したので被害者ではないが、当時の女王を持っていかれたピュグリバーはそれからしばらくの間定期的に生まれ変わるモンスターに悩まされ続けた。


 雨宮順平おじさんが流浪ついでにモンスター討伐と病に伏せる摂政バーバラおばあ様の治療、10代にして国を背負うエヴァンジェリン姫の負担を肩代わりするなど、イケおじムーブをキメまくった事でピュグリバーは救われた。



 そんな雨宮さんは今まさに死にそうなので、彼もまた大吾の被害者と言えるかもしれない。



 功罪を紅白で色分けしたら真っ白になりそうではあるし、バランスを数字で表すなら最小単位を1にした時点で画面がバグる。

 しかし、便利なチート転移スキル『ゲート』を発案したのも、六駆くんをはじめ京華さんも使っている、莉子ちゃんもムチムチする前は使っていた逆神流剣術の始祖も、悲しいけど逆神大吾なのである。


 なにより彼がアナスタシア母ちゃんと致さなければ六駆くんが生まれていない。

 そろそろ崩壊しそうな現世の危機に立つ救世主の子種を発射した。


 それだけでとりあえず見えないとこでなら生きていてギリギリ良いかな、くらいの権利はゲット。

 なお、「そもそも六駆くん生まれる前に大吾がどうにかしてたらバルリテロリとの戦争は起きてないんじゃないか」という有識者の提言もあるが、綺麗な大吾がいる世界線だと恐らくピュグリバーを救った後にアナスタシア王女がどんなに魅力的でも「ははっ。こんなに綺麗な人は私と釣り合いませんよ。私の手は血で汚れすぎている」とか言って立ち去っているはずなので、逆神家が五代目で終わる。


 バルリテロリに赴いて「おじい様。お迎えに上がりました」とかやるかもしれないが、その場合はアトミルカが世界を支配しているか、ピースが世界を支配しているか、双方が激突して世界が滅んでいるか、どこかしらの悲劇的な終末へとたどり着くかと思われた。


 鶏が先か、卵が先か。

 因果律のジレンマみたいに感じられるが、よく考えて欲しい。



 綺麗でも逆神大吾は逆神大吾なので、荒ぶる時代のバニングさんやサービスさんに勝てるはずがないのだ。

 つまり、鶏も卵も美味しく料理されて世界は滅ぶ。



 では、今、我々が観測している世界線のきたねぇ鶏、もとい、きたねぇブルドッグを見てみよう。


「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! なんじゃい、この姉ちゃん!! すっげぇ殴ってくんだけどぉぉぉ!? ステゴロでいきなりオレが殴られる理由を知りたいんだけどぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! その耳障りな鳴き声を今すぐ止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああん!!! だってあんたが殴るからぁぁぁぁ!! 痛いと人って声が出るの!! 知らねぇの!? 初めての時に経験したろ!? 姉ちゃんも!!」

「ウチはまだ開通してねぇんだわ!!」



「あ。ブスだもんね。ごめん」

「ぶち殺すぞ!! この中年太りのクソ野郎が!!」


 因果律を飛び越えて、お排泄物が役に立っていた。



 大吾は死なない。

 死ぬのかもしれないが、まだ死んでいない。

 どうやったら死ぬのかも分からない。死んだと思ったら生き返る。


 今回は五十鈴の猛攻を10割どころか煌気オーラの跳弾も加えたら15割くらい、防ぐこともできず全身を殴打されながらなお、絶叫して会話をする余裕がある。

 何故か。


 大吾はこれまで敵組織のボス格とマッチアップさせられて来た。


 監獄ダンジョン・カルケルにおける最初のバニング・ミンガイル戦に始まり、アトミルカのシングルナンバー複数人、ピースとの戦いではあろうことかラッキー・サービスに対する一番槍として出撃させられ、最後は人体兵器に転用されるも普通に生き残り、今は呉でばあちゃんズの暇つぶしと言う名の再教育を毎日受けている。


 さらには最強の息子から日常的に殺されかけてもう1年半になろうかという期間を生き延びている。


 そう。


 逆神五十鈴は強いが、これまで大吾が相手をさせられて来た猛者たちに比べると弱い。

 今の彼女は極限の防御力バフがかかっている。


 おわかりいただけただろうか。


 大吾を相手にして防御力を上げるとか、何の意味もねぇのである。

 五十鈴が全リソースを攻撃力にぶっこんでも六駆くんには遠く及ばない。


 先ほどまでは時間泥棒な中ボスと化していた五十鈴。

 今は違う。



 時間泥棒のきたねぇサンドバッグが殴っても殴っても離れない。

 そんな呪いが宿っていた。



「おぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁい!! くそっ!! こうなったら攻撃だ!! いくぜ!! 『銀玉爆裂大連荘ジャンバリアターック』!!」


 殴られっぱなしならまだ良かった。

 このお排泄物はどんな猛攻に晒されても生きることを諦めないので、気まぐれに反撃して来る。


「うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! なんだ、これぇぇぇぇぇ!! 攻撃されてんのか嫌がらせされてんのかも分かんない!! お前は何なのさ!?」

「げっへへへへ!! オレぁ逆神大吾!! この世界を正しい方角へ導く男! いや! 導き終わった男の名前よ! 惚れるなよ! ブスは嫌いだぜ!!」


「…………これも親戚じゃん」

「えっ!? あんた親戚なの!? でも遠縁だろ? ブスだもん!!」


 大吾は勝てない。

 だが、今回は負けそうにもなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな親父の活躍を見つめる六駆くん。


「ちっ。死にませんね」

「おめぇ……。時間がねぇって言ってんのによぉ。親父がボコられてんの1分眺め続けるとか、正気かぁ? ……あぁ。俺も疲れてんなぁ。逆神に正気かどうか聞いちまったぃ……」


 苦虫を嚙み潰したような顔で「まだ死なない!!」と、当初の「親父もろとも粉々に爆発させる」目的を逸脱して叫ぶ。「死ぬところが見たかったのに!!」と。


「エヴァちゃん、こっちにもう少しプルプルくれるかなー」

「はい! プルプル入ります!!」


「あー。良い感じだねー。エヴァちゃん。本当に血筋に恵まれてるんだねー。でもそれだけじゃないゾ! 頑張り屋さんなエヴァちゃんだからこその成長速度だねー!!」

「急に褒められると嬉しくなってしまいます!! 順平様!!」


 六駆くんが作戦を立案するだけして放棄したので、首が涼しくて仕方がない雨宮さんがおじさんバトンリレーを受けていた。

 弟子でフィアンセで胸部が大変プルプルしているエヴァンジェリン姫と一緒に大吾と五十鈴の醜い争いのリングをプルプルした壁で少しずつ囲っている。


「トラボルタくんだっけー? あのお姉さん、皇族なんだよねー?」

「はい。左様です。総司令官」

「あなたは総司令官の自覚がおありでしたか。雨宮順平上級監察官」


「じゃあ爆発させないで捕縛した方が良いよねー? 皇帝さんと交渉材料になるかもだしねー?」

「いえ。その可能性は薄いかと愚考いたします。五十鈴様は確かに皇帝陛下の直系ですが、バルリテロリには直系の方々が結構な数おられますので。一考の余地ありと御心を動かされるかもしれませんが、最終的には臣民を優先なされるかと」


「大変ご立派なお考えですね。さすがは一国の帝。お聞きになられましたか。雨宮順平上級監察官」

「福田くんヤメてよー。トラボルタくんと一緒に喋らないでよー。私がちゃんとやるからさー。一応ね、何か聞き出せるかもだし? 煌気オーラのサンプル採れたらそこから何かできるかもだし。ねっ!! おじさん、頑張るから!!」


 中身おっさんの18歳が純正おっさんの親父を生贄にしたところ、窮地のおじさんが再び綺麗になって生き残りを賭けた蜘蛛の糸を握りしめようとしている。


「……ふっ。……順ちゃん。……こりゃあ、アレじゃね? ……あたしゃ、上から究極スキル使うてええ流れじゃね?」

「違いますよー!! よし恵さん、それは今じゃないと思うんです、私!! 究極スキルって逆神くんと彼のおばあ様の特別仕様じゃないんですねー!! あー! そうなんだ! よし恵さんも使えるんだ! ヤメてください! 私が死んじゃう!! 社会的に!!」


「順平様! 私がいます!! ピュグリバーは国王をお迎えしたら鎖国します!!」

「……呉も鎖国しようかねぇ」



「私は今の生活も結構気に入ってるんですよー!! どうして私、現世から追放されそうになってるんだろう!! 逆神くんはお父さん見てずーっとイライラしてるし!! 私がやるしかない!!」


 順ちゃんの尻に火が付いた。



 拳を握ると煌気オーラを集約させる国王。


「日本はもう王制なんてないんですぅー!! みんな平等! それがいい!!」


「さすがです! 順平様! 平等に国民の視野を持つ王が順平様の目指される理想なのですね!!」

「……ふっ。……エモいねぇ」


 順平国王は追い詰められていた。

 恐らく、今のメンタルであれば彼も究極スキルの領域まで到達できただろう。


 だが、あの男が本来の目的を思い出した。


「あ! 時間がないんだった!!」


 様々な消滅へのカウントダウンが10から一気に1まで進んだ瞬間であった。

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